秘密ロッカーのヒミツ大捜索

秘密ロッカーのヒミツ大捜索 第2話:大学教授に、秘密ロッカーのヒミツを暴いてもらおう

秘密ロッカーのヒミツ大捜索

秘密捜索メモ#09 音楽っていうのは「時間変化」を聞いている!(らしい)
タナカ

―こういう音響学を極めれば、音で人をパニックにさせることもできたりするんですか?

川上

川上:そういう発想もできますよね。いま、音の兵器もあるんですよ。音を1点に集中させることで、50km先の人にも音のビームを当てられるんです。実際、フーリガン対策に使われてたりするんですけど、ロンドンオリンピックでは海上防衛隊が使うそうです。

タナカ

―防衛に音が使われているんですね。

川上

川上:音響学のルーツをたどると軍隊に行くんですよね。潜水艦が敵を見つけるために使ったのが音波ソナーですから。

タナカ

―いやぁ、勉強になります! 例えば現代音楽家のスティーブ・ライヒなんかは音響学的な捉え方をされると思うんですけど、ああいうのはどう解釈されるんですか?

川上

川上:ライヒはミニマルミュージックなので、同じ音の繰り返しですよね。大きく考えると、音楽っていうのは「時間変化」を聞いているわけですが、同じ音や言葉を何回も聞いていると、心理的にいらついてくるんです。だけれども、それが延々続くと今度はどこかで「解放されたい」という心理が働き始めて、人間自体が聴き方を変えるんです。だからライヒの“It's Gonna Rain”を延々と聴いてると、だんだん聞こえない音が聞こえるようになるんですよ。

タナカ

―本来は鳴っていない音が聞こえてくるということですか?

川上

川上:そう。音の聞き方っていうのは、振動を言語的な情報に頭ですり替えているので、例えば歌のない曲でも女の子の声が聞こえてきたりすることがある。ループ系のものはだいたいそういう理屈なんですけど、そこが面白さのひとつですよね。シンプルな時間構造のなかで、音の部分だけを与えておいて、それを頭のなかでどう構成するかはあなた次第ですよっていうこと。ライヒの曲はシンプルだから、聴いてる人はそれぞれ頭のなかのイメージが違うと思うんです。ベートーベンとかマーラーとかはガッチリとハーモニーがあるから、音楽自体が情感を持っていて、みんな共通のイメージを持つけど、ライヒの場合は違いますよね。

タナカ

―なるほど! シンプルだからこそ、聞く人によって感じ方が違うんですね。

川上

川上:ノイズミュージックなんかもそうですよね。大友良英さんとか。あとは池田亮司さんみたいな実験音楽も。音が全くない状態で時間構造だけを与えられて、ある程度楽しめっていうパターンか、とりあえず全部ザーッと流すから、そこから好きなものを選択して聴いてくれってパターン。池田亮司さんのパルス系の作品なんかは、フランスですっごく人気があるんです。なぜかというと、フランス人は豪華なフルコースみたいな音楽に慣れてるので、シンプルなお寿司的な音楽に対して不思議な感覚を持つ。そのなかでちゃんと時間構造は与えてるから、音楽構成はお前ら好きに聴いてくれよとなると、その人の経験値で音楽を楽しめるっていう。

大友良英!? 秘密ロッカーとは完全に関係ない質問をしたつもりだったけど、そういえば前回取材したレコーディングエンジニアの巨勢さんは、昔から大友良英さんのレコーディングもしていたんじゃなかったっけ。もしかしたら秘密ロッカーのサウンドにも、ノイズミュージック的な要素が盛り込まれているのかもしれない。先生、なんか関連がありそうですか?

秘密捜索メモ#10 秘密ロッカーは、街なかで聴くのがいい!(らしい)
川上

川上:秘密ロッカーのバックトラックは非常にノイズ的ですよね。部屋でラジカセで録ってるようなテイストというか。こういうバラバラな感じでザクッと音楽をぶつけられたら、歌詞が好きな人は歌詞を、リズム好きな人はリズムを、好きなものをつまんで聴くことができますよね。それはノイズミュージックの聴き方と非常に似てますよね。もしかしたらエンジニアさんは意識していたのかもしれないですね。

タナカ

―やっぱり! 音響学的には、秘密ロッカーはどういう聴き方をするとより楽しめますか?

川上

川上:ヘッドフォンとかよりも、スピーカーで聴いたほうが面白いんじゃないでしょうか。ヘッドフォンだとボーカルのバランスで聴いちゃうから、歌ばかりに耳がいって低音はほとんど聴こえなくなりますよね。あと、街のなかでラジカセで聴いてみるのも面白いと思います。街のノイズに混じっちゃうから。そうすると誰かが詩を朗読してるような感じになって、面白いんじゃないかと思います。

音だけでここまでいろんなことが分かるなんて、音響学恐るべし! 目からウロコの情報が出るわ出るわ。混沌としたサウンド、ギリギリの危うさを持ったバランス感、強烈に響く言葉の強さ…、こうした秘密ロッカーの持つ音楽的特徴は、すべて音響学的に理にかなったものだったのである。さすがは音のプロである川上先生。CD1枚でここまで調査が進むとは。秘密ロッカーのヤツらがこれを見たら、さぞかし驚くに違いないだろうなぁ、ふふふ…。さぁ、次はどんなことを調べあげてやろうか。さっさと秘密ロッカーのヒミツを丸裸にして、本人たちを引きずり出してやるぞ!

第3回に続く!
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