意外と身近にある みんなのメディア芸術 Vol.3 ゲームとコントは物理を超える 藤木淳×やついいちろう対談

PlayStation®3用のゲームソフトが、第14回文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門優秀賞を受賞した。タイトルは『無限回廊 光と影の箱』。藤木淳氏の監修による、斬新なプレースタイルの作品だ。藤木氏は過去に文化庁メディア芸術祭のアート部門でも受賞している経歴の持ち主。「実世界ではあり得ないことが、人間の内面ではあり得る表現」というテーマを表現しようとする、独自の感性をもったクリエイターだ。そして今回、ゲームや音楽に造詣が深いことでも知られるお笑いコンビ・エレキコミックのやついいちろう氏との対談が実現。『無限回廊 光と影の箱』とは一体どんなゲームなのか。実際にゲームをプレーし、「想像の中にしかないような空間」を冒険した感想とは? ゲームも、そしてコントも物理法則を超えた表現こそが面白い、というお2人の対談をお届けする。

「光を使って影を作る」、ヨーロッパ感あふれるゲーム

―対談前に、やついさんに『無限回廊 光と影の箱』をプレーしていただきましたが、まずはゲームの感想をお聞かせください。

やつい:「光を使って影を作る」っていう、発想の転換が面白かったですね。たとえば花火やライトアップのような、一般的に光を使って見せるものって、結局「光の鮮やかさ」を見せるものじゃないですか。でも、このゲームは光を使っているのに、プレイヤーに見せるのは「影」なんです。そこにとても不思議な感覚を覚えて、遊んでいてとてもワクワクしました。

藤木:ありがとうございます。

やつい:プレーしていて思ったんですけど、ブロックや背景だったり、ゲーム全体の雰囲気がレゴっぽいですよね?

『無限回廊 光と影の箱』プレイ画面
『無限回廊 光と影の箱』プレイ画面

藤木:そうなんですよ。影って暗いイメージがありますが、親しみや温かさを感じてほしくて、ヨーロッパの玩具をイメージしてゲームを作りました。ステージ選択の画面は、玩具のカタログをイメージしています。

やつい:たしかに、ゲームで流れている音楽にもヨーロッパ的な雰囲気がありますよね。なんというか、「紅茶」っていう雰囲気がして(笑)。

藤木:ありがとうございます(笑)。実はこのゲーム、一曲しか音楽が入っていないんですよ。しかも、それが74分もある。「世界一長いゲーム音楽」と認められて、ギネスブックに掲載されているんです。

やつい:えー! そんなに長いんですか。すげー(笑)。

やついいちろう
やついいちろう

無限の世界を意識した『無限回廊 光と影の箱』

やつい:『無限回廊 光と影の箱』って、よく考えると結構コワいタイトルですよね。ホラーっぽいっていうか?

藤木:そうかもしれません。エッシャーという画家の描いた、実際には建てることが不可能な建造物の絵ってご存知ですか?

やつい:階段を無限に上がり続けたりする、あの絵ですよね。あれ、面白いですよね!

藤木:そういったエッシャー作品のように、「永遠にぐるぐる回り続ける」というコンセプトから「無限回廊」と名付けたんですよ。

藤木淳
藤木淳

―『無限回廊 光と影の箱』の監修者である藤木さんご自身は、もともとゲームがお好きだったんですか?

藤木:そうですね。今では時間がかかるゲームにはなかなか手を伸ばせないのですが、ゲームは大好きです。

やつい:あるインタビューで読んだんですが、藤木さん、ゲームブックがお好きなんですよね? 僕、中学校のとき自分でゲームブックを作ってたんですよ。卓球部に入ってたんですけど、楽な部活だったので、部活の時間はずっと作っていました。ドラゴンのイラストなんかも一生懸命描いたりして。

藤木:僕もゲームブックを作っていましたね。ゲームブックって、モニターみたいな電気製品がなくてもインタラクティブにプレーできるゲームじゃないですか。簡単にできるのに、本当に面白くて。やっぱり、ゲームブックはゲームの原点だな、と。

やつい:おもしろいんですよね〜。ところで藤木さんのゲームブック、クラスで評判になりました?

藤木:自分で言うのもなんですが、結構人気があったんじゃないでしょうか。いろんなクラスメイトに回って、結局手元に帰って来なかったりして。

やつい:相当な人気じゃないですか! その頃から、すでにゲーム制作の才能を発揮されていたというわけですね。俺のは、やるのは俺だけだったもんな(笑)。

パソコンの画面を全部「ブタ」にして遊んでました(やつい)

―また、お2人とも『ウィザードリィ』(コンピューターRPGの原点ともいわれる3Dダンジョンゲーム)をよくプレーされていたそうですね。

やつい:『ウィザードリィ』は本当に好きでしたね。あれ、登場する人間のキャラクターがめっちゃ弱くて、それがまたいいんです。

藤木:そういった点でも『ウィザードリィ』は恐怖や喜びを感じるゲームでした。画面上の表示は数字や文字だけなんですが、とても感情移入しやすいゲームでしたね。僕はゲームをしながら迷路の地図を自分で描き、マッピングするのが好きでした。

やつい:僕も同じことをしていました! 昔やっていたゲームは一緒なのに、今では全然違う仕事をしていますね(笑)。

藤木:『ウィザードリィ』がきっかけで、中学生の頃にプログラムを始めたんです。親からもらったパソコンにBASIC(1970年代以降のパソコンで広く使われた初心者向けコンピューター言語)が入っていたんですが、『ウィザードリィ』がBASICで作られていると知って「このパソコンで『ウィザードリィ』みたいなゲームが作れるのか」と思い、夏休みには自分でゲームを作っていました。

やつい:中学生で!? スゴいなあ。そういえば当時、僕も堀井雄二先生が出されていたBASIC入門の本(『コンピュータ・クエスト』)を買ったんですよ。それを読んで、BASICのプログラムを覚えて何をやったかと言えば、画面の表示を全部「ブタ」にしてみたり(笑)。画面にはブタブタブタ…ってブタしか表示されないんです。それを見て「本当はパソコンって馬鹿なんだよ」とか言って(笑)。唯一、そのプログラミングをしたことだけは覚えてますね。そこから藤木さんのような方向には行かなかったなあ(笑)。

『無限回廊 光と影の箱』をプレイするやついいちろう
対談前にやついさんには『無限回廊 光と影の箱』をプレイしてもらいました

ゲームもコントも、「想像にしかない世界」を表現する

―藤木さんは、日常のどんなシーンで「実世界ではあり得ないこと」について考えているのでしょう?

藤木:とくに決まったシーンはないんですよね。お風呂に入っているときや、移動中にポッと浮かぶだけです。ただ、いったん頭に引っかかったことはトコトン考える方ですので、思い浮かんだあとは1日中それについて考えています。

―では「無限回廊」シリーズの大きな特徴である「三次元的にはつながっていなくても、外見上つながっていれば移動できる」というシステムは、どのようにして作られたのでしょう?

藤木淳とやついいちろう

藤木:システムの仕組みとしては、キャラクターがいる周辺部分の状況を解釈して、空間を再構成してるんです。こう言うとわかりにくいかもしれませんが、たとえば子どもの描く絵って、部分部分で見ると正しいけれど、全体で見ると空間としておかしいものだったりしますよね。そんなふうに、周辺部分の空間をつなぎ合わせた結果、間違った空間になったとしても、このゲームの世界内では「移動できる空間」として成立させているんです。

やつい:なるほど。そういう感覚って、日常生活でもありますよね? たとえば走っている電車の上でジャンプしたとしたら、自分が電車に置いていかれて落っこちてしまうんじゃないか、とか。当然、電車の上でジャンプしてもそうはならないですけど、そんなふうに想像してしまう。

藤木:その話、すごく分かります。物理法則と、想像の世界には齟齬があるんですね。僕はそうした、人間の内面にしかない、想像の世界が成立する空間をゲームの中に作りたいんですよ。

やつい:実はコントを作るときにも、そういうことって考えるんですよ。「空から落ちる」という設定にしても、実際は一瞬で落ちてしまうんでしょうけど、コントでは空中で1回止まったりするほうが面白い。というか、1回止まらないとお客さんが分かりにくいし、画も撮れないだろうっていう。「コケる」にしても、一旦止まってからコケてみるとかね。

藤木:レースゲームなんかでも、臨場感を出すためにわざと誇張表現をしたりしているんですよ。むしろそのほうが、より現実を緻密に再現したレースに見える。脳って、極端さをかえってリアルだと感じるものなんです。「現実と違うほうが現実的である」と実感する人間の脳って、面白いものですよね。

長時間プレイしても怒られないゲーム?

―やついさんがコントを作るとき、「現実とは異なる世界を作る」工夫として、どんなことをされていますか?

やつい:僕は「違和感」に目を向けています。「どうしてこの人は、この状況でこんなことを言うんだろう」だとか、「どうしてこの人は、泣ける場面なのに笑っているんだろう」とか。そうした違和感が笑いになるんだと思っていますね。さらに、その人が笑っていた理由をコントの中で見せれば、よりコントとして深いものになる、と。

―コントを着想する際に、ゲームやアートなどが手助けになることはありますか?

やつい:『三國志』や『信長の野望』がとても好きなんですけど、長時間やっちゃったときなんかに、何かしらネタにしとかないと元が取れないな、と思うことはあります(笑)。「このネタを思いついたんだから、ゲームをやった時間の意味はあったじゃん」って、言い訳なんですけど(笑)。その点、『無限回廊』は頭がよくなりそうなゲームなので、言い訳もしやすいと思いますよ(笑)。アートも好きなんですが、僕のやるお笑いって、あんまりカッコいいものになってもいけないと思っているんです。もっと下世話なものが好き、というか得意だと思っているので。

文化庁メディア芸術祭は、メディアに「とらわれない」展示

―ところで文化庁メディア芸術祭で賞を受賞されてから、藤木さんの活動に変化はありましたか?

藤木:やっぱり、一番大きいのはつながりが出来たことです。僕が『無限回廊』に携わったのも、『OLE Coordinate System』(藤木作の『無限回廊』とも共通するコンセプトを持つ「だまし絵」のような体験ができるPC用ソフト)という作品が文化庁メディア芸術祭で展示されていたのを、ソニー・コンピュータエンタテインメントの方が見たことがきっかけですから。

藤木淳

やつい:そもそも、藤木さんの専門はどういう研究なんですか?

藤木:いつもその質問をされると困るんです(笑)。アートのつもりでやっているわけでもなく、エンターテインメントのつもりでやってるわけでもない。自分でも専門がよく分からないんですよね。

―では最後に、文化庁メディア芸術祭を楽しく見るためのアドバイスをお願いします。

藤木:文化庁メディア芸術祭って、名前こそ「メディア」とついていますけれど、それってむしろ「メディアにとらわれない」という意味なのかなって思うんですよ。なので、各作品のメディアにとらわれず、自由な表現で伝えようとしている部分を意識して見れば楽しめると思いますね。

やつい:最近、現代アートの展示を見に行ったんですが、完全に観客を笑わせに来てる、と感じたんですよね。結構、アートってお笑いと似てるかも知れないということを発見したので、そういった発想の面白い作品を探しに出かけたいと思っています。

イベント情報
『第15回文化庁メディア芸術祭』受賞作品展

2012年2月22日(水)〜3月4日(日)
会場:東京都 国立新美術館

プロフィール
藤木淳

1978年生まれ。国際メディア研究財団研究員。科学技術振興機構さきがけ研究員を兼任。人間の心を豊かにするインタフェース・インタラクションとして「実世界ではあり得ないことが、人間の内面ではあり得る表現」をテーマとする。博士(芸術工学)。

やついいちろう

1974年生まれ。お笑いコンビ、エレキコミックを1997年に結成。DJとしても活動しており、3枚目のMIXCD「ゴールデン・ヒッツ」が発売中。TBSラジオ「エレ片のコント太郎」(土曜25:00-27:00)Eテレ「シャキーン」(月曜〜金曜7:00-7:15)、スペースシャワーTV「爆裂★エレキングダム!!」(金曜19:00-19:45)東京ウォーカーで「エレキコミックやついいちろうの(勝手に)東京湯シュラン」を連載。12月3日より「エレキコミックショー〜バカフィルムギグ〜」全国ツアーを開催。トゥインクル・コーポレーション所属。

『無限回廊 光と影の箱』

2010年に発売された、PlayStation®3/PlayStation®Move専用ソフトウェア。プレイヤーに課せられたミッションは、影を操って、主人公を無事ゴールまで導くこと。PlayStation®Moveモーションコントローラをライトに見立て、ステージ上に並べられたブロックを照らして影をつくり、その影を操作して道をつくるというゲームだ。また、シャドウアートが隠されているステージがあったり、思いもよらない攻略ルートを見つけだしたりと、さまざまな楽しみ方ができることも特徴となっている。
※『無限回廊 光と影の箱』をプレイするにはPS3®本体と、PS Moveモーションコントローラ、PS3®用専用カメラ「PS Eye」が必要となります。

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