「ビートルズやヴェルヴェッツと肩を並べたい」。アシッドフォークの雄・京都在住のシンガーソングライター、林拓。

街でたまに見かける、国籍・年齢・職業不詳に見える人。京都在住の音楽家・林拓も、もしかしたらすれ違った人たちからその様に映っているかもしれない。時代も年齢も超越してしまったかのようなその風貌からは、一体どういう音楽が出てくるのか容易に想像し難い。これまでに、ブリジット・セント・ジョン、デヴェンドラ・バンハート、アンディ・キャビックら世界のアーティストたちと共演してきたことがわずかな手がかりではある。林拓の音楽は、アシッドフォーク、シャンソン、中近東音楽、ロックなど、まさに多国籍な様相だ。聴衆を独特のメロディ、アレンジ、歌唱法で戸惑わせながら、その世界に引き込んでいく。2015年11月に新作『オーレリア』を発売した彼の正体と、そのコピー不能な特異な音楽性、いや、人間性に迫る。

本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。

父は教師で、母はフェミニズム運動系のライターでした

―林さんの最初の音楽体験は?

林:加藤登紀子です。家でよく流れてました。

―面白い家庭環境だったんですか?

林:いえ、いたって普通です。父は教師で、母はフェミニズム運動系のライターでした。

―十分普通じゃないような(笑)。いわゆるその時代のヒット曲のようなものは聴かなかった?

林:ラジオから流れていましたが、中1のときにビートルズ・アンソロジーが発売されて、その輸入盤を買ったことが思い出深いですね。その頃から、クラシックギターを習いに行ってました。

―本格的に音楽活動を始めたのは?

林:19才のときくらいかな。京都大学の吉田寮という学生寮に出入りしている人たちとバンドを始めました。全員が作詞・作曲、ボーカルが出来るバンドだったんですが、その分、エゴのぶつかりあいが多くて、最終的に解散に至りました。

―林さんは最近まで、「アナップル」というロックバンドも組んでいましたね。

林:ありがとうございます。だけど、あのバンドもやはり人間関係で解散しました。ライブ盤とスタジオ盤を残して。

―なるほど……。

世の中の音楽があまりにひどいので、聞きたいものをつくるしかない

―林さんの歌は、歌詞を見なかったら日本語に聞こえない曲が多いですよね。歌詞カードを見るまではどこかの外国語かと思ってました。英語にも聞こえないし。歌詞の内容もいわゆる日本語フォークな感じではなく、フランスの散文詩のような印象でした。

林:歌詞にはメッセージも魂も込めたくない。曲の全体像よりもパッとメロディが出て、それをしばらく置いて少しづつそういう破片を繋げていくことが多いです。歌を作ることについて、これは自分が創造するのではなく、あくまで僕は触媒のような立場なのかなと考えています。歌を作るのは先人のアーティスト達と共に作っていると言ったほうがよいですね。曲作りとは、決して独りではないのです。

—先人の音楽から受けたインスピレーションと共に曲を作っていると。

林:そうです。僕の音楽はナルシスティックにとられがちですが、部屋で独りでシコシコしてるような輩とは違うのです。いや、こんな発言をしてる時点でナルシスティックなのかもしれませんが、みんなで外でシコシコしてるのと、部屋で独りでやるのとは違うんですよ。僕は決して四畳半には居たくない。世界は広いわけですから、外に出ないわけにはいかないでしょう。

―その先人のアーティストとは?

林:それはマーク・ボランやジョン・レノン、シド・バレット、ドノヴァン達なわけです。あ、ドノヴァンはまだ生きてますね。そんな先人の音楽を聞いて、気分がいいときに曲ができるんです。落ち込んでいるときには曲はできない。

―そもそも林さんが歌を作るのはなぜでしょうか?

林:世の中が平和で、素晴らしい音楽、ビートルズのような音楽ばかりで溢れていたら、僕は音楽はやっていなかったでしょうね。だけど、世の中の音楽があまりにひどいのでD.I.Yで聞きたいものをつくるしかないってのが、音楽をつくる最初の動機かもしれません。あとは、オスの生殖として本能的な子孫繁栄の為のメスをおびき寄せる術としてとか。サラリーマンにはなれない駄目な自分が、どうすればフェロモンを出して異性を誘き寄せられるか。でもその目的は達成できたのでもう煩わされず、D.I.Yに没頭できます。結婚っていいですね(笑)。

―「平和」という言葉がありましたが、曲が生まれる背景には社会的な状況も関わっていると。

林:曲をつくるうえでのエネルギーの一つに人間の“悪”があります。世の中はやっぱりちょっと不幸せです。戦争や利権争い、原発、金儲け、自然や動物を人間の都合で殺すことがまかり通る世の中はクレイジーです。でももちろん、僕の中にも“悪”は有ります。格好良ければ毛皮や革ジャンとか動物を殺して作ればいい。うちの猫が咥えてきたねずみがかわいそうだから、口元からはずしてあげようとしてねずみに指をかじられて、「ちくしょうめ!」って、ねずみを放り投げてやったりとかね。悪ですね。危険な言い方をすれば、そういった悪を肯定したうえで、悪のエネルギーを吸い取って美しい花を咲かせましょうということです。

途中何度か心底、これはクソだ、本当にどうしようもないものをつくっているなあと思っていました。

―では、今の日本の音楽シーンについては何か思いはありますか?

林:今の日本の音楽について、大まかに興味はありませんね。学校に例えれば、だいたいが優等生くらいな感じで、面白みがないのです。僕が興味があるのはテストで120点を取る奴か0〜5点しか取れない奴のどちらかなんです。優等生って容姿美でモテるかもしれませんが、つまらないですよね。……あれ、なんの話でしたっけ。

―(笑)。今、注目してるミュージシャンは?

林:江沢野々海と中村紘子。彼らは本当に声と曲がいいです。なかなか表立って評価されることが少ないのですが、日本でも有数のシンガーソングライターだと思います。大好きですね。ほかには「渚のベートーベンズ」。これは、マジカルミステリー・ツアーのビートルズのような京都の四人組でそれぞれが曲を作ってきてそれぞれが歌うというスタイルのバンドです。ポップだなあ、と感じます。あとは、京都のバンド「本日休演」はワールドミュージック、それもサブライム・フリークエンシーズ(シアトルにあるレーベル、世界中の秘境音楽を採集リリースしている)等を経て、ポップのなかに毒を紛れ込ませるのが上手な犯罪者たちですよね(笑)。これは京都独特なものなのか、「村八分」「裸のラリーズ」(どちらも1960年代に京都で結成されたロックバンド)の精子が散らばっているかんじが面白いですね。

―京都はたしかに独特な色がありますね。林さん自身は、京都に対する思い入れはありますか?

林:いや、実は京都ってそんなに好きじゃないんですけどね。住みやすくってつい住んじゃってる感じです。見たら解りますが、京都の中心地というのは、山という檻に囲まれているわけです。この山を越える間に文化の情報が捻じ曲がり、京都人のひねくれ根性が生まれてるように思います。お上に対して批判精神を持っている思想家みたいな人や、どうやって生きているんだろうという怪しい人も多いですし。そのせいか、京都のライヴ会場の観客とかクールですもん。クールすぎて楽しんでいるのか、どうなのか反応がわからないくらい。

―そうなんですね(笑)。では、11月に発売された新作「オーレリア」について聞かせてください。

林:これはもちろんいいものが出来ると確信してつくり始めたわけですけど、途中何度か心底、これはクソだ、本当にどうしようもないものをつくっているなあ、と考えたことがあります。夜も眠れなくなって、こんなくだらないものをつくる為に僕は家族を犠牲にして、本当に最悪な父親であると、息子には本当に申し訳ないと思いました。 社会不適応者同然の父親を持って、息子が小学校へ通い出したら不憫な思いをするのではないだろうかと自分を責めましたが、このネガティブ思考、多分風邪引いてたからなんですね。風邪が治ったら俄然やる気が出てきました。

―(笑)。

林:内容は今までの作品に比べて、聞きやすいものになったと思います。意識したわけではありませんが、これまで以上に聞き手に対してサービス旺盛になってると思います。これでみんな聞いてくれなかったら、世の中がおかしいんだと思います。こういうところがナルシスティックですかね?

―そうかも(笑)。

林:今回のアルバムに取り掛かる前に頭にあったのがポップだったんです。ポップなものをつくりたいと。でも僕にとってのポップって「ヴェルヴェット・アンダーグラウンド」や「民族音楽」、「ビートルズ」とかです。これらと肩を並べたいと本気で願っているのです。

―それくらいの意識で作られたアルバムなんだと。

林:そうです。ダイナミックにレンジのある作品になったと思います。でもある種のトーンは全体にかぶさっているかと。イギリスの霧のようなものでしょうか。まあ、それもいいんじゃない? って感じの作品です。もう僕には、次のアルバムの構想もあるんですよ。今度は二枚組で、ものすごく破天荒な曲や、すごくつまらない、でもなんかいいって曲やビートルズの「レボリューション9」みたいな曲の歌が入ったものになるでしょうね。それとルーツが全く無い曲。なんじゃこりゃ?! って感じで。

プロフィール
林拓
林拓 (はやし たく)

京都に一応在住。音楽誌『ULYSSES』のディスクレビューによってその特異な才能を見出される。海外のミュージシャン達からリスペクトされ、Bridget St John、Devendra Banhart、Andy Cabic(vetiver)、Josephine Foster & Victor Herrero、Paz Lenchantin(The Entrance Band)、Flo Morrissey等の来日公演前座を務める。Linda Perhacsにも賞賛された土着的でエレガントな歌で国境を越えて人々を魅了中。2012年6月、1st album『オデュッセイア』発表。2015年11月21日、2nd album『オーレリア』発表。



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