「キス」がテーマの短篇映画企画『桃まつり』座談会

女性映画監督9名が「キス」をテーマに短篇映画をつくったと聞けば、「甘いのかな?」「切ないのかな?」と妄想はふくらむばかり。しかしこの『桃まつり』という自主上映企画、純愛映画で癒されに、なんて思っていたら、痛い目に遭います。渋谷・ユーロスペースでの上映を直前に迫った監督たちに、キスについて、オトコについて、作品について、存分に語っていただいた。

「キスとかセックスの結びつきが一番強いだなんて思わないでよ」

―今回の桃まつりは、女性の若手映画監督9人が「キス」をテーマに送る短篇映画イベントですが、どうして「キス」になったんですか?

篠原:主催者から「今年はテーマを設けたい」という話があって、今年のメンバーが集合し、何にするかとあれこれ話し合いました。それで去年の7月くらいに『キス』でいこう、って。

粟津:他にも「秘密」とか「楽器」とか「食べる」とか、色々出ましたね。

―「キス」というテーマで、すっかり甘酸っぱい恋愛ものを想定していたんですが・・・。

長島:純粋な恋愛ものの素敵なキスは、きっと誰かがやってくれると思ってたんですよ。そうしたら、実はみんな同じように考えていたみたいで、意外と普通の恋愛ものがなかった(笑)。

―長島監督の『それを何と呼ぶ?』で、「キスとかセックスの結びつきが一番強いだなんて思わないでよ」という印象的なセリフがありましたが、男性ってかなりそういうものを強く思いがちじゃないですか(笑)。

桃まつりインタビュー

長島:ですよねぇ(しみじみと)。「それだけじゃなくて他にもあるよね」というのをやろうと思いましたね。マスメディアの影響とかいろいろあると思いますが、男性に限らず、今はそういう統一された価値観みたいなものがある気がしたんです。そこには異議を唱えたかったんですね。

粟津:私も、「可愛いもの期待してるのかな? そんなの出さないわよ」みたいなところはありました(笑)。

山崎:男女の間での「キス」の感じ方の違いはすごく感じましたね。製作中にキス会議をしたんです。スタッフを集めて、「どんなキスしたことある?」とか話し合って。私は今回、女同士のキスを撮りたくて…。でも、そこにイヤらしい意味はあまり込めてなくて、友情だったり、愛情だったり、母性だったり。そういうキスを男性のスタッフに伝えようとすると、「え、そっち系なの? そっち系じゃないの?」みたいなことになるんです。

桃まつりインタビュー

―そういう違いはたしかにあるかも。

山崎:それで、自分の感覚がおかしいのかなって思って、周りの女性に聞いたら、女の人はイヤらしいって言う人はいなかったんです。

―なぜ女性同士のキスにしたんですか?

山崎:男と女のキスはいっぱい描かれているし、言葉にしようとしたら言葉にできそうだけど、女性同士とか母の子に対するキスはなんとも言えない感情があるのかなって。そういう、微妙に揺れ動く気持ちのようなものを表現したかったんです。

―(粟津監督作の)『収穫』の「嘘をつくのは美人の特権よ」というセリフも印象的でした。

桃まつりインタビュー

粟津:その頃、美人にだまされて、傷ついていたんですよ。

全員:粟津さんがだまされたの?

粟津:そうね。現実世界で・・・。

全員:え、なんで??

別府:アハハ。でも、だまされて「嘘は美人の特権なんだ」って思うその発想が面白い(笑)。

粟津:キスって突発的な事故みたいなかんじで、それで人間関係がグンと近づきますよね。特に若い子同士が近づいたら、もう自然としちゃうものだと思うんです(笑)。そういう、自分の意思と関係ない、引力みたいなものとして描きました。

男の人の方が、キスしたいっていう願望があるんじゃないですか?

―別府監督の『クシコスポスト』では、少女の成長も描かれていますね。

桃まつりインタビュー

別府:この主人公の少女のように、シンプルな行動原理で行動していく人物の話をやりたいと思っていたんです。ただただお母さんが欲しいというだけで、前に突き進む。濃厚な色気のあるキスを描くことに今回はあまり興味が向かなくて、アメリカ映画に出てくるような、西海岸的なチュっていうかんじのキスを撮ってみたいと思いました。

―一方、矢部監督の『月夜のバニー』のキスは、特殊な状況下にある家族のものでしたが。

桃まつりインタビュー

矢部:家族同士のキスって日本人にとってなじみのないものだと思うんですよね。外国で考えてみると、もちろん家族にもするだろうし、キスをする箇所によって意味が違うものなんだと思うんです。だから、日本では普通男女がするキスという行為を別の人とすることで意味を変えてみるっていう試みをしました。

―篠原監督の『マコの敵』のキスも、一筋縄ではいかない解釈です。

篠原:もともと2009年は、闘っている女の人の話をやりたいなってなんとなく思っていたんです。男の人をぶちのめしていく凄く強い女、みたいな(笑)。そのときに、すでにキスというのはぶちのめしていくための戦力みたいに考えていたんですね。そんな頃、何故か昔喧嘩した女の子とキスをしている夢を見たんです。その時「あ、これで行こう」と。

―ケンカしつつもキスっていうのは、演出が難しかったんじゃないでしょうか?

篠原:そうなんですよ。なので、撮影の時に自分でスタンドイン(撮影前の準備・リハーサル)をやったんですね。「こういう風に動いて」みたいな指示をしたりして。それでまぁ、最終的にキスをする形になるわけですが、基本的にスタッフはほとんど男性なので、一瞬「誰とやろうかな」って迷いました(笑)。で、なんとなく一番無難な照明さんに・・・。

全員:なにそれ!(笑)

篠原:ケンカするシーンだから、転んだり殴ったりしてたらもう疲れちゃって。最終的にキスはしなかったんですけど、みんな大爆笑してましたね(笑)。キスシーンのスタンドインは、もう嫌です。

桃まつりインタビュー

―撮影現場も楽しそうですね(笑)。そう言えば、今気づいたんですけど、男性同士のキスを描いた作品はありませんでしたね。

別府:あ、そっちの方がいいですね。女性同士だとちょっと恥ずかしいんだけど、男性同士であれば、良いスタンスでいられる気がします。

―ボーイズラブじゃなくても?

別府:そうですね。

粟津:おじさんとか?

別府:汚いのは嫌ですけど(笑)。でも、男性は「同性間のキス」特に男同士のキスに抵抗がある人が多い気がします。

篠原:それ、分かる!女性は男同士でも女同士でも、割合OKな気が。そういう意味では、相対的に男性はキスへの思い入れが強いというか・・・男の人の方がキスしたいっていう願望があるんじゃないですか?

桃まつりインタビュー

―それはあるかもしれませんよね。男同士でしたいかどうかはわかりませんが(笑)。

別府:一方で女性は、願望というか、あこがれはあこがれとして取っておきたい、もてあそんでおきたい・・・っていうの、ありません?

山崎:きれいな女の人がいたらきれいだなって思うけど、キスはあえてしたくない、みたいな?(笑)

粟津:素敵なキスはあこがれのままとっておきたい、みたいなね(笑)。

この企画自体が、私たちのプレゼンテーションの場なんです。

―今回の桃まつり、どんな方に観に来ていただきたいですか?

篠原:そもそもこの「キス」っていうテーマを選んだのも、女性がキスを描くっていうことで、女の人に観てもらいたいっていう意図がありますね。文化系女子をどうやったら呼べるかと。

山崎:キスをテーマに9人の監督が作品を撮っているっていうと、「観てみたい」っていう反応も結構ありましたね。

―じゃあ女の人に見てもらいたい?

全員:両方ですね。去年プラス、さらに女子。

桃まつりインタビュー

―やっぱりスタッフさんだけじゃなく、お客さんも男性が多いんですね。そういう意味では、男性には描けない部分を意識したりするんですか?

山田:男性監督でも女性監督でも、作るものは色々あるので、女性だからこう、っていうものが確実にあるとは思っていないですね。作る側としては、撮っていく上でスタッフが男性ばかりだったり、観客の目線として男性の目線が強かったりすることに触れていくことは大事だと思っています。作っていくうえで、そういうものを一つひとつ乗り越えて作っていくことが、この企画に参加した意義でもありますね。

桃まつりインタビュー

―桃まつりは今年で3回目になるんですよね?

竹本:もともとの始まりは、映画美学校というスクールの修了生の集まりだったんです。映画を学んだわけだから、自分たちで作って、それを色んな人たちに見てもらおう、というのがきっかけでした。それで、色んな方々から感想や意見をいただいたりして、やっぱり自分たち自身でやっていくことの大事さを感じました。それで、今後どうしようかなって思っていた時に、ユーロスペースで上映してみないかというお話をいただいて、去年上映させてもらったんです。

桃まつりインタビュー

―地方にも巡回されていたりしますけれども。

竹本:映画って本当にたくさんの作品があるじゃないですか。その中で、私たちは無名の個人だと思うんですけど、撮ったからには色んな人たちに見てもらいたいという想いが当然あります。ただそうやって考えているだけじゃなくて、自分たちで働きかけていくのが重要だと思っていて、それで地方にも巡回しようということになりました。

―宣伝もご自分たちでしていらっしゃいますよね。

竹本:映画というのは、映画を作ることだけが大事なんじゃなくて、企画して作って、かつ上映してお客さんに届けて初めて映画というものが完成すると思うんですよね。そういう一連の流れに携われるって、プロになってからだとなかなか難しいと思うので、大事にしています。この企画自体が、私たちのプレゼンテーションの場なんです。

イベント情報
『桃まつりpresents kiss!』

2009年3月14日(土)~3月27日(金)ユーロスペースにてレイトショー上映
(連日21:00~)

壱のkiss! 3月14日(土)~3月18日(水)
上映作品:
『たまゆら』
『収穫』
『タッチ ミー』

3月14日(土)上映開始前 監督舞台挨拶 山崎都世子・粟津慶子・山田咲監督
3月17日(火)上映終了後 プロデューサー松田広子さん×3監督トークショー

弐のkiss! 3月19日(木)~3月22日(日)
上映作品:
『マコの敵』
『月夜のバニー』
『あとのまつり』

3月19日(木)上映開始前 監督舞台挨拶 篠原悦子・矢部真弓・瀬田なつき監督
3月20日(金・祝)上映終了後 ベリーダンスショー+撮影監督 芦澤明子さん×3監督トークショー

参のkiss! 3月23日(月)~3月27日(金)
上映作品:
『地蔵ノ辻』
『それを何と呼ぶ?』
『クシコスポスト』
3月23日(月)上映開始前 初日舞台挨拶 竹本直美・長島良江・別府裕美子監督
3月24日(火)上映終了後 プロデューサー天野眞弓さん×3監督トークショー

※5月23日(土)~6月5日(金)大阪・Planet + 1での上映も決定



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