古里おさむの軌跡 ウミネコサウンズインタビュー

先日、iTunes Storeのフリー・ダウンロードに選ばれたウミネコサウンズの“夕焼け”。じんわりと染みるミドル・テンポの楽曲に、一体どれだけの人がまったりと癒されたんだろうか。その才能に我らがCINRA RECORDSが惚れ込み、リリースを買って出た。 ウミネコサウンズの中心ソングライター=古里おさむにとって5年ぶりの作品となるミニ・アルバム『夕焼け』は快作である。ソロアルバム『ロードショー』は宅録によって1人で仕上げてしまった彼だが、『夕焼け』では信頼できる仲間と共に肉厚なサウンドを提示している。もともと定評のあった古里の作曲力がぐんと上がり、バンドで楽曲に取り組んだことで、躍動感に満ちた珠玉の短編集となった。何度聴いても飽きが来ない。ここでは興味深い前歴からようやく獲得したバンドの一体感まで、たっぷりと聞いてみる。

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ハード・ロックを聴かされてですね…

―音楽を始める前はずっと剣道をやってたそうですけど、中高生の頃って音楽は聴いてたんですか?

古里:カラオケに入ってたから、Jポップを聴いてた感じですかね(笑)。カラオケ歌うためにユニコーンやブルーハーツを覚えたりとか。

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―剣道をやりながらも、その時から歌うことは好きだったと。

古里:ってよりも声を出すのが好きだったのかな、剣道で出してたから。学校卒業しても、警備会社に勤めて大会に出てました。そしたら、あんまり「メン、メン」って足を突いてるうちに腸が垂れてきて、腰が悪くなったんですよね。一時期、起きあがれないぐらいずっと寝たきりになっちゃって、それで「ああ、だめだ」と思って剣道はやめて。

―そりゃシビアですね。それがどういうきっかけで音楽に目覚めたんですか。

古里:昔、ハード・ロックに浜田マリっていたじゃないですか? 同じ会社で働いてた人がそのバックでギターを弾いてた人なんですけど、その人にハード・ロックを聴かされてですね。

―今の音楽性にはカケラもないですが(笑)。

古里:そうっすよね(笑)。俺は速弾きみたいな音楽は嫌いだったんですけど、その人に「お前のために良い席取ったから」って盛岡までヴァン・ヘイレンのライヴに連れて行かれて。周りのみんなは手を挙げてるんだけど、俺は聴いたこともないから、「どうしたらいいのかなあ……」って(笑)。

―あの超有名な“ジャンプ”さえも知らなかった?

古里:何にも知らない(笑)。

―その状態から今の音楽への飛躍がぜひ知りたいですね。

古里:実家で観てたスペースシャワーTVとかでベックの“ルーザー”を知ったんです。そこからルー・バーロウとかイールズとか、いろいろと入っていった感じですね。

一番大事なモノは自分なんだと気づきました。

―なるほど。さて、新作『夕焼け』は古里さんにとっては5年ぶりの作品となりましたが、宅録で作った前作『ロードショー』(2004年)とは打って変わって、きっちりとバンドで作った成果が出ています。

古里:前作からの間で、宅録を抜け出すためにギター1本で歌おうという試みがありまして。別に骨格だけでいいんじゃないかと。

―へえ、そう思うようになったきっかけは何でしょう?

古里:以前はライヴも発表会としか考えてないところがあったんですよ。こう叩いてくれとか、こう弾いてくれとか……全部が俺の指示だったんです。で、イールズ唯一の単独来日(注:2003年)を観に行って、みんながE(もともとソロ活動を行っていたEことマーク・オリヴァー・エヴェレット)自身を感じてるってことにすごく感動したんですよね。あと、自分たちが上野の野外のイベントに出た時に、曽我部(恵一)さんを観てその時も同じことを感じて。ギター1本でやってるのに、全然、バンドでやってた時と変わらなくて。そこで、一番大事なモノは自分なんだと気づきました。

―いったんギター1本でやってみて、改めてバンドを編成したきっかけは何だったんですか。

古里:それはコテイスイ(ドラムの佐藤康一:髭のメンバー)との出会いですね。『ロードショー』のミックスを手伝ってくれた人が「すごく古里くんに合うかもしれないドラムがいるから、とにかく観て欲しい」って言ってて。そしたらすごく粘った感じのドラムで「あ、やばい、これに俺、呼吸合わせて歌いたい」って思って……俺にとっては運命の出会いですよ。向こうはどうか分かんないけど(笑)。

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―ハハハ(笑)。

古里:もうね、今回のジャケットに描かれてるような、ウミネコがガーッと飛んでる混沌とした感じのドラムだったんです。だからコテイスイには、今回の曲は弾き語りしか渡してないんですね。彼は今回、不器用なんだけど、音楽的に味があるっていうか、粘った感じのドラムを体で出してくれた。彼の体に染みついている何かだと思うんですけど、とにかく、すごく(彼とは)気が合うんですよね。

―他者が入ったことで、レコーディングで発見したことはありました?

古里:リズム隊の2人がああしようこうしようって言ってくれたのは面白かったですね。「曲をガラリと変えよう、そんな考えは取っ払おう」っていう。「どんな感じ?」って聞くと「こんな感じ」ってアイディアを出してきたり、それに俺が乗ってったり、そういうやり取りをしながら作っていったんです。そのやり取りで最初から結構変わったのが“海岸線グルーヴィー”。リズム・マシーンでやろうってところから膨らんで、パターンを俺が家で作業して「こんな風になったけどどう?」って戻しながら作っていきました。

―一気にバンドの楽しさに開眼した感じですね。

古里:そう、だから今は簡単な指示出ししかしてない。歌にぶつかってきちゃった時に「この言葉を聞かせたいから」とか、そんなことを言うぐらいなもので。まあ、逆にある程度のこだわりを通さないと絶対に駄目なんですけどね。本当に理想のバンドってのは、絶対そうあるべきだと思う。曲を良くするために、ちゃんとイメージをみんなに伝えるっていう―要は、細かい指示じゃなくてヴィジョンをみんなで共有していくってことです。それだけをちゃんと通していけば、何とかなるのかな。

混沌としてて、生きるために必死なウミネコの感じがやりたいなって。

―“鳥のうた”という曲がありますが、鳥って古里さんにとって一つのモチーフじゃないですか? ウミネコサウンズって名前にしてもそうだし。何かから解き放たれていたいっていう気持ちがいつも根底にあるんですか。

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古里:根本がもう、自分があんまり好きじゃないんでしょうね(笑)。外に出て行きたいけど出て行けない、カゴの中にいるけど外を飛び回りたいって感じ。ちっちゃい頃からずっと飛びたいなと思ってましたから。

俺は子供の頃に、何も考えないでよくウミネコを見てたんです。ずーっとそうやって見てると、いろんな行動をするんですよ。近づいていくと自分の場所を守るために「グアーッ」と威嚇してきたり……がっついてる感じが、ロックなんじゃないかって思ったんです。いろんなジャンルがある中で自分なりに表現できるとしたら、混沌としてて、生きるために必死なウミネコの感じがやりたいなって。

―バンド名の裏にはそうした理由があったんですね。“あたらしい時間”は、はずんだリズムで曲調としては最も明るいのに、歌詞は一番ヘヴィな感じがしましたね。

古里:明るいメロディで明るい歌詞を書くってことも好きなんですけどね(笑)。あの曲は、ちっちゃい頃から日曜日の朝に観てたキリスト教の番組があって、その番組って「不平不満を言うよりも、進んで明かりをつけましょう」っていうフレーズでいっつも始まるんです(笑)。まあ、いわゆる説教番組ですよね。だから自分に対して説教しようかと。

本当の意味で音楽をやって歌おうって思った。

―(笑)。ところでさきほどイールズが好きだっておっしゃってましたけど、どのアルバムが一番好きなんですか?

古里:イールズの『Daisies Of The Galaxy』。あのアルバムには相当救われました。あの当時、前のバンドがちょうど解散して、何をやろうかなって思ってた時だったんで……かなり影響を受けたんです。

―前のバンドが解散した理由は?

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古里:そのバンドが初めて組んだバンドで、俺はギターを弾いて、録音もやって、歌詞も書くといった感じでした。それでソニーのデモ・テープ・オーディションみたいなのに送ったら受かっちゃって、東京にライヴをしに来たんですよね。

その後にインディで一枚出そうとか話がごちゃごちゃしてた時に、うちのヴォーカルが精神的に弱くて失踪しちゃったんですよ。しょうがないから残った3人でやってたんですけど、あとの2人がちょうど同じタイミングで結婚することになって、みんなで買った機材を俺に全部くれることになってですね。彼らが「お前は続けろ」って言ってくれたから、自分一人でいろいろとやって『ロードショー』を作って上京したんですよ。

―上京したのが26歳でした。不安はなかった?

古里:25過ぎた時点で、もう東京には来ないと思ってましたけどね。でも「一回やってみよう」って思ったんですよ。じゃなきゃ、25歳までやってきたことが無駄になってしまうじゃないですか? 幸運にもやってたらすぐに、くるりが「出さないか?」って言ってくれたんですよね。

―歴史を辿ると、古里さんって人に恵まれてますよね。

古里:そう、人に恵まれてきたんですよ、俺は。

―今振り返ると、前作からの5年間は長かったですか?

古里:いや、短かったですよ、いろいろとあったんで(笑)。「出さないんですか?」っていろんなところから言われたけど、やりきっちゃってたから出す気になんなくて、いろいろとライヴしながら考えてたんです。だからようやく、本当の意味で音楽をやって歌おうって思ったっていうか。ずいぶん長いけど(笑)、ある意味で勉強の時間でしたね。

―最後にあえてお聞きしますけど、ウミネコサウンズっていうのは、固定したバンドなんですか、それとも変化の余地があるプロジェクトなんですか?

古里:アルバムの中で自分で一番表現したいのはバンド・サウンドです。自分が叩いて弾いてるわけじゃなくて、ちゃんとドラムもいて、ベースもいるサウンド。だから現時点ですごいやりたいことっていうのは、バンドなんでしょうね。でも、時には一人でやるかもしれないし、いろいろと今後も変わっていくと思いますよ。

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リリース情報
ウミネコサウンズ
『夕焼け』

2009年5月13日発売
価格:1,500円(税込)
CINRA RECORDS DQC-238

1. 夕焼け
2. あたらしい時間
3. 鳥のうた
4. 春がくるまで
5. 海岸線グルーヴィー

イベント情報
『タワーレコード新宿店インストアライブ』

2009年6月6日(土)START 14:00
会場:タワーレコード新宿店7Fイベントスペース

内容:ミニライブとサイン会(※内容は変更になる場合もございます)
出演:ウミネコサウンズ

料金:無料

プロフィール
ウミネコサウンズ

くるりが主催するNOISE McCARTNEY RECORDSより04年3月にソロアルバムをリリースしている古里おさむが新たに始動したソロ・ユニット。06~08年はウミネコサンライズ名義で活動を行い、公式リリース前にも関わらずロックフェス『ロックの学園』に出演(校長に忌野清志郎、共演にGOING UNDER GROUND、斉藤和義など)。心ゆさぶるメロディーと歌声、サイケやUSインディーを通過したロックサウンドは高く評価されている。2009年5月13日に、CINRA RECORDSよりデビューミニアルバム『夕焼け』をリリース。

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