AOKI takamasa インタビュー

レディオヘッドのトム・ヨークもお気に入りに挙げるなど、日本を代表する電子音楽家となったAOKI takamasaが、HASYMOやSKETCH SHOWらのリミックスと、自身の曲のセルフ・リミックスで構成された初のリミックス集『FRACTALIZED』を、坂本龍一が主宰するcommmonsから発表した。フランスの数学者、ブノワ・マンデルブロが提唱した幾何学概念フラクタルを基に「FRACTALIZED」と定義されたリミックス作品は、「自分はミュージシャンではない」「自分が作っているのは現象」とするAOKI独自の哲学に貫かれ、ミニマルかつグルーヴィーな、唯一無二の仕上がりとなっている。大阪出身で、パリ、ベルリンと移り住み、写真家としても活動する、その自由な発想と行動力に裏打ちされた言葉の数々は、今という時代を生きるためのヒントである。

(インタビュー・テキスト:金子厚武 写真:柏井万作)

ずっとループし続けるようなリズムを僕は求めていて、そういう音楽って生きてるんですよね。

―リミックス・アルバムをリリースすることになった経緯から教えてください。

AOKI:これまでいっぱいリミックスをさせてもらってて、どのリミックスもすごく気に入っていたので、リミックス集を出したいなっていうのはずっと前からあったんですけど、出してもらえるレーベルがなかったんです。そうしたら、commmonsさんから「リミックス集どうですか?」って、ホントにパーフェクトなタイミングでお話をいただいて(笑)。

―過去のリミックスに加えて、自身の曲のセルフ・リミックスを収録したのはなぜですか?

AOKI takamasa インタビュー

AOKI:元々ライブ用として、ダンサブルなバージョンをいっぱい作ってたんですね。そうやって自分で自分の曲をリアレンジすることで、別の曲の発想が生まれたりとかもあったんで、結構エクササイズみたいな感じでやってて。その中の特に気に入ってるものを入れたって感じですね。

―曲の年代は結構バラバラですが、作品としての統一感はすごくありますね。

AOKI:昔からやりたいことは変わってなかったんだなって。ただ技術や知恵、いろんな人に教えてもらったノウハウが肉付けされて、もうちょっと音の輪郭がきれいになったり、整理整頓されてるとか、そういうレベルの差なんだと思います。

―選曲の基準は?

AOKI:より洗練されているというか、無駄がなくなっているもの。リミックスってどうしてもオリジナルに依存するので、オリジナルをどうより良く生かすかなんです。スペースシャトルにつけるブースターみたいな感じで、より高く飛ばす。オリジナルの曲のよさを利用させてもらって、洗練させるっていうか。

―その考え方が、「FRACTALIZED」?

AOKI:僕の中ではリミックスっていうより「FRACTALIZED」なんです。元々の曲はもちろん素晴らしいんですけど、それは自分のバイオリズムとは少し違う。例えば、坂本(龍一)さんの曲だったら、一音たりとも坂本さんの嫌いな音が入ってないわけじゃないですか? それは坂本さんそのもので、僕とはバイオリズムが違う。結局、しっくり来る音楽っていうのは、その人のバイオリズムに沿ったリズムを持ったものだと思うんですね。そのバイオリズムを音に落とし込むのが「FRACTALIZED」。人の音楽を勝手に自分のバイオリズムに変えるっていう、言い方によっては乱暴なことなんですけど、それが自分のやってることかなって。そもそも、フラクタルっていうのは、ズームインしてもズームアウトしても同じ模様が見えるっていう…

―海岸線とかですよね。

AOKI:そうです、そうです。そういうズームインしてもズームアウトしてもずっと続くリズムというか、そういうのに落とし込む作業ということで「FRACTALIZED」。宇宙物理学がすごく好きな韓国人の友達がベルリンにいて、彼と宇宙の話とかめっちゃするんですけど、彼に自分のリズムの概念を伝えたら、それはフラクタルの概念とすごく近いって教えてくれて。そこからそういうタイトルもいいなって。字面もいいし(笑)。

―AOKIさんってスティーヴ・ライヒお好きですよね? ライヒの音楽はフラクタルとの関連で語られることがありますが、そういった影響もあるといえますか?

AOKI:まさに、そうですね。最初と終わりがないというか、永久機関のようなリズムを作りたいんです。一度”完成”っていうスイッチが押されたとたん、ずっとループし続けるようなリズムを僕は求めていて、そういう音楽って生きてるんですよね。

恥ずかしかったことを受け入れたことで、より自分らしいものが作っていけるんちゃうかと思って。

―個人的にはラスト3曲の流れが特に好きなんですが、1曲の中にもバイオリズムがあって、アルバム1枚通してもバイオリズムがありますよね。

AOKI:それはホント一番最初からあった自分の概念で、フラクタルっていう言葉を教えてもらったことで合致しましたね。最初と最後で曲の雰囲気が全然違ってるけど、いつ変わったかわからない、スムーズなバイオリズムっていうのを、やっと自分の中でも自然に表現できるようになってきて、それがアルバムを通じてリスナーの人にも感じてもらえたっていうのは、大成功(笑)。

―前々作『PARABOLICA』でテクノを通過して、前作『Private Party』でブラック・ミュージックを通過したことは、本作にどんな影響を与えているといえますか?

AOKI:2作ともわざと避けて通ってきたとこやったんですよ。四つ打ち作ってる人いっぱいいてたから、そこで生き残っていくのめっちゃ大変と思って、だったら自分にしかできない何かを作ることで何とか生き残って、いつか(四つ打ちを)作りたいなっていうのがずっとあったんですね。R&Bも大好きやったんやけど、露骨に見せるのは恥ずかしいって勝手に思ってて、その二つをやっと解消できたんです。恥ずかしかったことを受け入れたことで、より自分らしいものが今後作っていけるんちゃうかと思って、その一番最初がこの『FRACTALIZED』と、raster-notonから出させてもらったアナログ。テクノ、R&B、ファンク、あとツジコノリコとやってポップスも消化して、やっと全部の分野を対等に扱って、自分だけの何かにまとめる準備ができたなって。だから次のアルバムが自分でも楽しみ。

できる限りピュアな音で、人が踊っちゃうような現象を作る、それが自分のやりたいことなんです。

―AOKIさんは写真家としての活動もされていますが、音楽活動との違いはありますか?

AOKI:全く同じですね。さっき言ったように、自分の音楽には自分の嫌な音が一音も入っていない、それは僕自身なんです。そして、その音を作るためには、今までの全ての経験が必要になってくるんですよ。ここで麦茶飲んだ、今日インタビューした、commmonsと契約した、何でもいいんですけど、全ての経験があるから、その音を入れるか入れないかが決まるんです。写真も同じで、なぜそこできれいと思って撮ったかっていうのは、同じ経験があるからこそ撮ったんです。だから僕の中では同じもの。まあ、写真ってイレギュラーに色んなものが入ってくるから、もうちょっといただいた感があるけど(笑)。

AOKI takamasa インタビュー

―そういう意味では、「FRACTALIZED」に近いかもしれませんね。元となる自然物に対して、自分なりの角度や色彩感のバランスで、自分のバイオリズムに合うようにするという。

AOKI:そのバランスって、結局リズムやから。キック、ハット、スネアのバランスと変わらない。キックに相当する、重心となる何かが、写真の中にも必ずあるわけ。人間って物理法則にかなった世界からは絶対に出れないから、物理法則として安定しているものがしっくり来るの、それはもうしょうがない。それは常に意識してて、リズムにしても、打ち込むというよりは、物理法則に叶った上下運動を起こさせる現象をどう作るか(笑)。

―音楽じゃなくて、現象(笑)。

AOKI:できる限りピュアな音、電圧にできる限り近い音で、人が踊っちゃうような現象を作る、それが自分のやりたいことなんです。色んなミュージシャンと生活させてもらって、やっと自分がミュージシャンでないことに気づいたんです。現代のテクノロジーのおかげで、ミュージシャンじゃなくても音楽って言われるものに近いものを作れるようになっただけ。僕の音って昔は放送事故になるからかけられへんって言われましたしね(笑)。

それによって利益を得る人たちがいるからっていうしょうもない理由で狭い発想におかれてる人間が、すごく悲しく、同時に興味深く思える。

―AOKIさんの音は一般的に「エレクトロニカ」と呼ばれていますが、放送事故とまで言われた音が、今はポップ・ミュージックとして扱われるようになったのって、YMOのお三方の影響が大きいと思うのですが。

AOKI:うん、ホントそう思います。若いときは自分はもっとアホやったから、幼稚な競争主義の発想を元に、有名人が来たらそのシーンが荒らされるってイメージだったんですね。流行ってるからって、いきなり有名人が大資本で来て「バーン!」ってやって、「飽きた!」ってなったら、それでシーンが終わると思い込んでたもん。だから「やばい!」と思ってたら、みなさん僕の音楽を聴いててくれて、優しく受け止めてくれて(笑)。誰も理解してくれないすごく狭いシーンだったのが、かなりの枚数行くぐらいのシーンになったのは、大御所の人たちが注目して、参入してくれたおかげで、今の自分があるのもそのおかげ。そのことは心から感謝してますね。

―「エレクトロニカ」という括り自体はどのように捉えていますか?

AOKI:基本的にジャンルはよくわからないから、なんて呼んでもいいけど、「僕はこのジャンルの音楽作ってます」っていう人は、もっと自由になったらいいやんって思う(笑)。車みたいなもんで、ワゴンとか軽(自動車)とかスポーツカーとかいっぱいあって、トラックばっかりずっと運転してるんやなくて、トラック好きやけど車高を低くしてみようとか、シートをカーボンにしてみようとか、そういうノリ。トラックなんかレーシングカーなんかわからへん、そうなったら分類っていう概念自体アホらしくなってくると思う。

AOKI takamasa インタビュー
AOKI takamasa photo by Yuna Yagi

―確かにそうですね。

AOKI:例えば、白人と黒人など、人種が混血すればスマートな子供が生まれる、それは進化なんです。混じるのが当たり前。でも混じって頭良くなったら困る人たちがいるってこと。一般的にはパワフルな人たちがメディアを牛耳るから、人間を狭い範囲の発想にとどめておこうとするわけ。どんどん個別化して、分裂させて、コントロールする。情報の行き来をしにくくして、お互いの悪口を中で流したら、余裕で喧嘩するでしょ? それによって利益を得る人たちがいるからっていうしょうもない理由で狭い発想におかれてる人間が、すごく悲しく、同時に興味深く思える。

みんなが今の地球の文明としては幼稚な金融システムとか、戦争ビジネスなんかに疑問を持てるような時代になったらいいなと思う。

―拠点を海外に移されたのも、今言ったような広い発想を持つことの重要性が根本にあると言えますか?

AOKI:僕はラッキーなことに、ちっちゃい頃から、うちのおかんが外国の映画を見せてくれたり、音楽を聴かせてくれたりしたんですよ。でもおじいちゃんは三味線やってて、おとんは詩吟やってたから、そういうのも教えてもらってて、着物も好きやし、スケボーも好きっていう(笑)。大正時代にすごく憧れがあって、帽子被って、着物着て、キセル持って、車乗るっていう、あれってすごくハイブリッドでかっこいいなと思う。でも、ヨーロッパの人は、ヨーロッパの文化が今この地球を覆っている事もあって一番やと思ってる人が多いわけ。元々着物着てた人たちが、自分らの服着て、自分らと同じような建物建ててるんやもん。例えば、ヨーロッパの人たちがいきなりお箸使い始めて、着物着始めたら日本人ちょっとスノッビーになると思えへん?

―ああ、それはなるでしょうねえ。

AOKI:そうでない人もいるけど、それが一般的な白人の視点やってことをわかったの。でもよう考えたら、江戸時代の方が進歩してる部分もあるわけ。ゴミ出さない、100%リサイクル社会、300年間おっきな戦争がない、これ全文明の中でも日本だけ。人を殺す必要がないから、殺しの技術が芸術にまでいっちゃった。居合い切り、抜刀術…すごい文化やで。それを痛感して、自分がちょっと日本嫌いとか大阪嫌いとか思ってたのが、めちゃめちゃ恥ずかしくなって。

―音楽制作の環境という意味での日本と海外の差はどうですか?

AOKI:意識しないと理解できない言語が周りに溢れてるから、意識せえへんかったら、どんな街中でも一人になれる。自分をむき出しにして、自分と向き合える。日本ではある程度は全部理解できるから、逆に意識的にカットしないとしんどくなるというか、それでホントに必要な部分までカットしちゃうっていうのも感じて。それで、英語はわかっちゃうし、アメリカは現段階では戦争屋さんやから行きたくないと思って、ヨーロッパは、地球を運営してる人たちの本拠地だから、人間がどう統治されてるかを肌で感じたいっていうのもあって。

―今年(2009年)は日本でライブをする機会も多かったと思いますが、日本に戻って来ようとは思いませんか?

AOKI:その気持ちはすごくあるんだけど、その気持ちをグッと押さえて、地球で生きようと思って。音楽を通じて、気がついたら世界中に何ぼでも泊まれよって人がいっぱいいるんですよ。それでええやと思って、自分がいたいところで生きようと。

―では最後に、AOKIさんの表現活動の根本となるモチベーションを教えてください。

AOKI:デビューさせてもらってわかったのは、求められてるのは、いかにユニークであるか、他の人が踏めない一歩が踏めるかってことなんやけど、最近みんな同じものに「あっ!」ってなりつつあるような気がします。それってホント面白くないし、自由じゃない。今まではそういう発想を歌詞に込めて、直接過ぎて撃たれちゃったりした人もいたけど、もっと自由になったらいいっていう発想を持って、歌詞のない音楽を作ったり、写真を撮ったりすれば、それに共感した人にスイッチが入んねん。これは絶対そうやねん。人間はその人が変わらない限り、絶対変われへんから、その人をコントロールしようとする何かにNOと言えるスイッチが入るような活動をしたい。もちろん、僕のバイオリズムに全く合わない人もいると思うけど、それはそれでいい、それは個性やし。僕はできる限り自分の周波数を幅広くして、みんなが今の地球の未熟な金融システムとか、戦争ビジネスなんかに疑問を持てるような時代になったらいいなと思う。

リリース情報
AOKI takamasa
『FRACTALIZED』

2010年1月27日発売
価格:2,800円(税込)
RZCM-46434

1. RESCUE - AOKI takamasa remix / HASYMO
2. ASCARI_dry_condition - self remix / AOKI takamasa
3. MARS - AOKI takamasa remix / SKETCH SHOW
4. FRACTALIZED / AOKI takamasa
5. War&Peace - AOKI takamasa remix / Ryuichi Sakamoto
6. LOVE BITES - self remix / AOKI takamasa
7. Music for Sweet Room on the Orbit of the Earth - self remix / AOKI takamasa
8. composition 0919 - AOKI takamasa remix / Ryuichi Sakamoto
9. re-platform - AOKI takamasa remix / Yoshihiro HANNO

プロフィール
AOKI takamasa

976年大阪府出身、現在はドイツ・ベルリン在住。2001年初頭に自身にとってのファースト・アルバム『SILICOM』をリリースして以来、コンピューター/ソフトウェア・ベースの創作活動を中心としながら自らの方法論を常に冷静に見つめ続け、独自の音楽表現の領域を力強く押し拡げる気鋭のアーティスト。2008年、その才能を坂本龍一に認められ7作目となるアルバム『Private Party』を坂本龍一主宰のcommmons より発売。2010年1月、坂本龍一やSKETCH SHOW、HASYMO、半野喜弘の楽曲のリミックスと自身の楽曲のセルフ・リミックスを纏めたアルバム『FRACTALIZED』を発表。



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