ホテルニュートーキョー インタビュー

今谷忠弘を中心とするユニット、ホテルニュートーキョーが新作『トーキョー アブストラクト スケーター ep』を発表した。EPとはいえ、エリオット・スミスのカヴァーをはじめ、リミックスやライブテイク、もちろん新曲も含めた8曲を収録した本作は、ジャズ、ファンク、ブレイクビーツ、ロックなどを横断する、メロウでラグジュアリーなホテニューの魅力を余すことなく捉えた快作に仕上がっている。また、今谷はバックグラウンドの共有を目的に前作より作品ごとにキーワードを設定していて、本作では「井上雄彦」「スケートカルチャー」「オルタナティブ」「ガス・ヴァン・サント」の四つが挙げられている。これらのキーワードを紐解きつつ、本作の背景と、今谷の考えを探ってみた。

(インタビュー・テキスト:金子厚武)

僕らの時代は目の前にあるものがすべてだった。先輩とか、この人たちに嫌われたらマジでやばいとかね。

―『トーキョー アブストラクト スケーター ep』を制作するきっかけは、井上雄彦さんのドキュメンタリーだったそうですね?

今谷:NHKの『プロフェッショナル 仕事の流儀』っていうドキュメンタリーで、井上雄彦さんが話してた内容が、勝手に自分と被ったんです。結局自分の中にあるものを描かないと、リアリティは生まれない、でもその掘り下げていった先には普遍的なものがあって、そういう普遍的なものは若いとか年を取ってるとか、国とか関係なく伝わるんじゃないかってことを言ってて。

―なるほど。

今谷:あと最近、10年前くらいの雑誌を読み漁ってるんですよ。当時の『relax』とか『STUDIO VOICE』とかを読んでると、その当時はわからなかったけど、「こういう文化だったんだ」「こういうことを自分は浴びてたんだ」っていうのがわかるんですよ。

ホテルニュートーキョー インタビュー
今谷忠弘

―ではその今谷さんのルーツのひとつである「スケートカルチャー」についてですが、いつ頃に、どうはまったんですか?

今谷:王子に3Dってクラブがあったんですけど、そこでスケボーを楽しんでる人たちが、急にステージに上がってライブをするっていうのがすごい衝撃だったんです。高校生だったから多分行っちゃいけなかったんですけど、いけない感じがまたすごく良くて。ちょっと前まで中学生ですからね、やばかったです。その当時はまだ自分の世界が狭くて、その衝撃を世の中のすべてだと思っちゃう。あの吸収力は今もうないですね。もしかしたら今の若い人たちは情報がいっぱいあるから、そういうのがないのかもしれないけど。

―変わってきてるでしょうね。

今谷:僕らの時代はそんなに情報がないから、目の前にあるものがすべてだった。先輩とか、この人たちに嫌われたらマジでやばいとかね。先輩とは月1でイベントをやっていてDJみたいな事をやっていたんですが、その選曲はひどかったですね。パンテラの後にG-FUNKとか、クリス・クロスの後にペニーワイズとかかけたりして、でも盛り上がってました。

―(笑)。日本のバンドだと、どんな人を聴いてましたか?

今谷:スナッフィースマイル、バッジ714から、ジャパコアもちょっと聴いてましたね。S.O.B、リップクリームとか。

―その辺ってエアジャム前夜ぐらいですか?

今谷:もうちょい前ですね。エアジャムって結構盛り上がって盛り上がってのドーン! って感じだったから。その前から先輩とそういうところ(クラブ)に見に行ってました。エアジャム周辺の人たちが、CDを出し始めたぐらいじゃないですかね?

―2000年のエアジャムは音楽を中心に様々なクリエイターが集まって、一つのカルチャーを形成する、その象徴的なイベントでしたよね。やっぱりいろんなカルチャーが交錯していることっていうのが、今谷さんの表現の重要なポイントなのでしょうか?

今谷:そこなんですよね、やっぱり。自分のルーツっていうか、そういうのが好きなんです。映画見たり、他の文化に触れることの方が、自分の好き嫌いが定まっていくんですよ。音楽聴いちゃうと「これもかっこいい、これもかっこいい」ってなっちゃって、「こういうのもやりたい」ってなっちゃうんで。自分の価値観を形成してるのは、音楽以外の部分がほとんどを占めてますね。



後先考えず「YOU、行っちゃいなよ」って言いますね(笑)。

―今谷さんにとっての3Dのような、ちょっと背伸びした場所に遊びに行こうかどうか迷っている高校生がいたとしたら、どんなアドバイスをしますか?

今谷:『試みの地平線』(北方謙三が『ホットドッグ・プレス』に連載していた人生相談)世代の僕としては、後先考えず「YOU、行っちゃいなよ」って言いますね(笑)。今自分を振り返っても、高校生の頃ってまだ世界観が狭いから逆に余計な邪念もなく色んな事を単純に楽しめる時期だと思うんですよね。その時期にしか感じられない事ってあると思うし、ボーっとしてるとあっさり終わっちゃうんです。スーパーマリオでいうボーナス・ステージなんで、コインを取りまくってほしいっすね(笑)。

―(笑)。では、もう一つのルーツ、「90年代オルタナティブ」ですが、一言で「オルタナ」と言っても様々だと思いますが、今谷さんの中での「オルタナ」とは?

今谷:ヘルメットのスネアの音と、US3の“Cantaloop”のスネアの音なんじゃないかと思って、最近(笑)。ヘルメットは『ジャッジメント・ナイト』っていう最高のサントラがあって、それに入ってる曲のスネアの音(笑)。

―めっちゃピンポイントですね(笑)。

今谷:この間PVを同世代の友人と撮ってたんですけど、その時にオルタナの話になって、iPodで懐かしいヒップホップを聴きまくったんですね。ノーティ・バイ・ネイチャーとかクリス・クロスとか、その辺を聴いてた時に、ヘルメットのその曲と“Cantaloop”を聴いて、そのスネアをずっとリピートしながら「これだよね」って確認して(笑)。

―新作の曲で言うと、前作に収録されていた“a man & rooster”のリミックスが“a man & rooster 90’s”として収録されていますよね。これは文字通り90年代を意識したということでしょうか?

今谷:後付けですけどね。自分の好きな感じで作ってれば、そういう風になってるんじゃないかって。

―意識して作るわけじゃなくて、それを通過してきた今の自分が自然に鳴らしたものであれば、当然それが反映されるということ?

今谷:具体的にはわかんないですけど、もうちょっと抽象的な部分で、「何か足りない」「これでできたな」って思う部分がオルタナ感っていうか、そういう匂いのする、あの頃かっこいいなって思ってた感覚だと思うんですね。

ホテルニュートーキョー インタビュー

―その感覚を具体的なパートで挙げることはできませんか?

今谷:漠然としてるんで難しいんですが…“トーキョー アブストラクト スケーター #2”は、ミックスする3日前に「何か足りないんだよなぁ」って思って、ゴセッキー(後関好宏/sax)に電話をして、自宅で録音してもらったサックスのソロを送ってもらったんです。それを一度CD-Rに焼いて、CDJで適当にスクラッチしてみたら何か良かったんです。スクラッチだけ聴くとただの素人なのでかなり酷いんですが、曲としてはまとまったんですよ。一曲の中にちょっとした違和感のある音みたいなのが入ってる事が、オルタナ感を感じる要素の一つかもしれません。

―なるほど。

今谷:でも普通、自分のソロ・パートをはちゃめちゃにスクラッチとかされるのは嫌だと思うんですよ。今では、それを快く快諾してくれたゴセッキーに一番オルタナ感を感じます。

これが嫌いだったら他のも好きじゃないと思う。っていうか、僕のこと好きじゃないと思うんで(笑)。

―(笑)。それでまさにその二つ、「スケートカルチャー」と「90年オルタナティブ」が同居してるのが、ガス・ヴァン・サント監督の『パラノイド・パーク』ですよね。

今谷:ガス・ヴァン・サントは前から何本か見てたんですけど、『パラノイド・パーク』が一番好きですね。映画とオルタナ感とスケートカルチャーがうまい感じに、どれが強調されるでもなく、ただ混在してる感じがなんか好きなんです。

―ガス・ヴァン・サントの映画は『パラノイド・パーク』にしろ『エレファント』にしろ、監督じゃないけど『キッズ』(製作総指揮)にしろ、少年性が一つの魅力ですよね。“フォーエバー・ヤング”は、少年らしいドリーミーな感じと、その一方での倦怠感みたいなものがすごくよく表れてる曲だと思うんです。

今谷:すごい…いいこと言いますね。

―(笑)。

今谷:でも、そんなに意識するタイプではなくて、単純に自分のイメージがパズルみたいにあって、それをはめていってるだけなんです。音もそうだし、曲名とかもあとから。もっと感覚的でいいっていうか、別に伝えたいこともないし、音楽はもちろん聴いてほしいんですけど、もっと大きい感じで。若者の何かを代弁する気も、そんな力もないですし(笑)。

―その漠然としたイメージをキーワードとして挙げてるわけですね。

今谷:そういう風にした方が自分の中で面白いんですよ。そうしないと「何とかインスト・バンド」みたいな感じで終わっちゃうっていうか、「そういう感じでやってるんじゃないんだよな」って思ったりもするんで。

―では出来上がった作品自体にはどんな印象をお持ちですか?

今谷:サンプル盤っていうか、ホテルニュートーキョーを最初に聴くには一番わかりやすいなって。自分の好きな感じが凝縮されてるんですよ。ファーストの感じとセカンドの感じと、今までにない感じと。それで1500円ですよね。

―お買い得だと(笑)。

今谷:これが嫌いだったら他のも好きじゃないと思う。っていうか、僕のこと好きじゃないと思うんで(笑)。

―(笑)。

今谷:これが好きだって言ってくれたらすごく嬉しいです、逆に(笑)。

―(笑)。ではタイトルの『トーキョー アブストラクト スケーター ep』ですが、東京育ちの今谷さんの中での「アブストラクトなトーキョー」というのは、どんなイメージなんでしょう?

今谷:いろんなことが同時多発的に起きつつ、どれも中心ではなくて、でもどれもが中心っていう感じですね。

―本作はROSE RECORDSからのリリースですが、(主宰者の)曽我部恵一さんも「東京」に対する思いを音楽にし続けている人ですよね。それぞれの東京感みたいなものって感じますか?

ホテルニュートーキョー インタビュー

今谷:地方から出てきた人と、東京にずっと住んでる人の東京感は違いますよね。半分醒めてるんですよ、東京にいると。憧れなんてないじゃないですか? そこにいるんで。曽我部さんは地方から出てきた憧れと、住んでみてのリアルな感じを素直に表現してると思うんですけど…でも結局は何が違うのかっていうのは多分なくて。僕が感じる東京も東京だし、曽我部さんが感じる東京も東京で、みんなが感じる東京も東京なんじゃないかな。

―最後に、今月末の『exPoP!!!』に出演されるということで、今後のライブについて教えてください。

今谷:この日はナオ(NAOITO)を呼んで何曲か一緒にやろうと思ってます。あと11月にツアーをやります。なかなか行けないんですよ、人数多いし、メンバー忙しいし。なので、これが最後かもしれないんで(笑)、みんな来てほしいですね。

―最近のライブは特にここがいい! とかってありますか?

今谷:いつもいいですけどね(笑)。メンバーがいいんで、そりゃあいいでしょうっていう。音源に関しても、ドラムの柏倉(隆史 / toe)くんしかり、エンジニアの池内(亮)さんしかり、全信頼を置いてます。でも最終的なジャッジは僕に任せてくれてるんで、すごいいいミュージシャンが周りにいてくれて、ラッキーです。その人たちは同じ時代を過ごしてきたのがわかってるんで、いろんなことを言わなくても、それ以上のことを返してくれるんですよね。この間もライブやってて、ライブの途中で「最高だなあ」って俺一人で言いましたからね(笑)。そんなことないですよね、普通。

イベント情報
viBirth × CINRA presents 『exPoP!!!!! volume40』

2010年7月29日(木)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:渋谷O-nest
料金:入場無料(2ドリンク別)
出演:ホテルニュートーキョー、COMA*、Clean Of Core、The New House

料金:無料 (2ドリンク別)
※ご予約の無い方は入場できない場合があります。ご了承下さい。
チケット予約(PC)
チケット予約(モバイル)

各出演者の詳細・試聴は『exPoP!!!!!』ウェブサイトからチェックしてください。

リリース情報
ホテルニュートーキョー
『トーキョー アブストラクト スケーター ep』

2010年6月21日発売
価格:1,500円(税込)
ROSE RECORDS ROSE 106

1. トーキョー アブストラクト スケーター #1
2. The white lady loves you more
3. A man & rooster 90's
4. フォーエバー・ヤング
5. Dawn
6. Let me turn you on(electric city ver.)
7. トーキョー アブストラクト スケーター #2

プロフィール
ホテルニュートーキョー

2003年、今谷忠弘のソロユニットとして始動。2006年、ファースト・アルバム『ガウディの憂鬱』をリリース後、本格的にバンド編成での活動を展開。2009年、バンドスタイルで構築されたセカンド・アルバム『2009 spring/summer』をリリースし、音楽界のみならず多方面の分野でも話題となる。2010年、最新作『トーキョー アブストラクト スケーター ep』をリリース。



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