2017年年間ランキング発表 読者が選んだ各ジャンルのベスト10は?

波乱続きの社会情勢だった2017年も、もう間もなく終わろうとしています。CINRA.NETでは昨年から引き続き、読者のみなさんのお力をお借りして、音楽、映画、アート、ステージ、書籍の5ジャンルの年間ランキングを発表します。気になる結果は、巷の売上ランキングでも、専門メディアのランキングとも違う、CINRA.NETならではのものになりました。是非このランキングを見ながら、みなさんの2017年を振返っていただけたら幸いです。

2017年ランキング 音楽 / 映画 / アート / 演劇 / 書籍

【音楽編】時流をねじ伏せるほどの完成度、強固な作品性を有する作品がランクイン

文:山元翔一、川浦慧

10位 Bjork『Utopia』

Bjork『Utopia』ジャケット
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11月にリリースされたばかりのBjorkの新作が10位にランクイン。BjorkとArcaという美しくも狂気的な2つの才能が、新たな傑作を生み出しました。Bjorkの先鋭性や芸術性が、2017年においても有効であることを軽やかに証明した一枚と言えるのではないでしょうか。なお強烈なインパクトを放つジャケットは、ジェシー・カンダ、マスクをデザインしたジェームス・メリー、ベルリンを拠点に活動するHungryとBjork自身によるもの。

9位 Cornelius『Mellow Wave』

Cornelius『Mellow Wave』ジャケット
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Cornelius名義としては実に11年ぶりとなる新作。坂本慎太郎を作詞に迎えた“あなたがいるなら”をはじめとした、揺らぎのある音像が支配する楽曲、夢と現実を行き来するような世界観によって、2017年という時代の空気を見事に捉えた一枚です。また、『FUJI ROCK FESTIVAL '17』でかつての相棒である小沢健二と、同日・同時間帯に出演したことでも大きな話題を呼びました。

特集:Corneliusが11年ぶりのアルバムを語る。この11年何があった?

8位 椎名林檎『逆輸入~航空局~』

椎名林檎『逆輸入~航空局~』ジャケット
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2018年はデビュー20周年イヤー、2020年の東京オリンピック閉会式プランニングチームにも選出された、椎名林檎のセルフカバーアルバム。テレビドラマ『カルテット』(TBS)のエンディング曲でも話題を呼んだ“おとなの掟”をはじめ、SMAPや高畑充希などへの提供曲を収録。アレンジや歌詞にも変化があり、ただのセルフカバー集にとどまらない、ゾクゾク感たっぷりの椎名林檎の世界を堪能できます。

7位 Beck『Colours』

Beck『Colours』ジャケット
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オルタナティブミュージックの貴公子・Beckの3年半ぶりのアルバム。2015年に突如発表された“Dreams”や『FUJI ROCK FESTIVAL '16』での来日直前にドロップされた“Wow”をはじめとする、珠玉のポップナンバーを11曲収録した本作。落ち着いたトーンの前作から一転、痛快なほどにポップな作風で多くの音楽ファンの心を掴みました。また、『バズリズム02』(日本テレビ)への出演やDAOKOとのコラボレーションなど、意外性のある活動も話題に。

6位 tofubeats『FANTASY CLUB』

tofubeats『FANTASY CLUB』ジャケット
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数々の大物アーティストとのコラボを果たす、平成生まれ世代のトラックメイカーtofubeatsがランクイン。名盤『POSITIVE』(2015年発売の2ndアルバム)以来約2年ぶりにリリースされた本作では、2017年という時代を反映する「ポストトゥルース」をテーマに「曖昧さ」や「わからなさ」がポップに歌われています。tofubeatsが一貫して作り続ける「ポップミュージック」の魅力に改めて気付かされる一枚です。

5位 DÉ DÉ MOUSE『dream you up』

DÉ DÉ MOUSE『dream you up』ジャケット
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今年で活動10周年を迎えたDÉ DÉ MOUSEの6作目が5位にランクイン。「架空SFアニメの若いパイロット達の間で話題のヒットミュージック」という秀逸なテーマのもと生み出された、フューチャリスティックなサウンドが炸裂する快作です。ハウス~テクノ、エレクトロニカやEDM、ロックを飲み込んだDÉ DÉ MOUSEの新たな代表作が誕生しました。

4位 The xx『I See You』

The xx『I See You』ジャケット
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世界が待ち望んだThe xxの3作目。憂いを帯びたバンドサウンド、カラフルな電子音にオリヴァーとロミーの歌声が絡み合うことで生まれる、親密さと愛念に溢れた音楽に世界中が虜に。年明け早々にリリースされたこともあって、冒頭の“Dangerous”は新たな時代の幕開けを祝福するような響きすら放っていました。全英1位、全米2位を記録した傑作です。

特集:The xxへ念願インタビュー 超待望の新作からBrexitまでを訊く

3位 PUNPEE『MODERN TIMES』

PUNPEE『MODERN TIMES』ジャケット
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どれだけ多くの人が待ちわびたことか。板橋育ちのラッパー初のソロアルバムが3位にランクイン。2057年のPUNPEEが未来からの眼差しで、40年前の1stアルバムを回想する、まるでタイムトラベル映画のような作品です。『FUJI ROCK FESTIVAL '17』では、雨の中での見事なステージで多くの音楽ファンを惹きつけ、リリースツアーでは赤坂BLITZを即完。こんな一般人いません。

2位 CHAI『PINK』

CHAI『PINK』ジャケット
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ミュージシャンをはじめ、多方面から絶賛の嵐だった、CHAIの1stアルバム。今年のCHAIの勢いはすごかった。“sayonara complex”や “ボーイズ・セコ・メン”のMVなども大きな話題を呼び、SNSでもバズりまくっていました。さらに『SXSW』『FUJI ROCK FESTIVAL '17』に出演し、初のワンマンライブをソールドアウトさせるなど、2017年でもっとも勢いのあるガールズバンドだったと言えるでしょう。

特集:CHAI×POLYSICS この2組、やっぱり似てた!相思相愛の音楽対談

1位 Suchmos『THE KIDS』

Suchmos『THE KIDS』ジャケット
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2017年もSuchmosの破竹の勢いは止まらない。収録曲“STAY TUNE”はテレビCMに起用され話題を呼び、同作は『日本レコード大賞 最優秀アルバム賞』を受賞。お茶の間にまでトップアーティストとしての名を知らしめた、文句なしの2017年ベスト1でしょう。彼らの特徴とも言える説得力のあるグルーヴ感はパワーアップし、多方面から演奏技術の高さや楽曲のクオリティーへの賞賛を集めました。不特定多数のリスナーに届く、完成度の高いSuchmosの真骨頂と言える1枚です。

特集:Suchmosが夢見る成功は、まだ先にある。次世代への意識を語る

音楽編総括
2017年の音楽シーンを振り返るにあたり、SpotifyやApple Musicといったサブスクリプションサービスを通じて音楽に接することが当たり前になってきたということは、大前提として言及しておく必要があるでしょう。Drakeが自身の新作『More Life』を「アルバム」ではなく「プレイリスト」であると表現したことが象徴するように、もはや「アルバム」という作品単位がかつてほどの強度を持たなくなり、楽曲単位で音楽を享受することに多くのリスナーが楽しみを見出すようになった。2017年は、その傾向がよりブーストされた1年だったと振り返ることができるかと思います。

そういった視点を踏まえてこのランキングを俯瞰すると、単なる「楽曲の詰め合わせ」にとどまらない意味や作品性を有した「アルバム」としての魅力に溢れた作品が数多くランクインしていることがわかります。PUNPEE『MODERN TIMES』のように明確かつ強固なコンセプトのもとに描かれたもの、Beck、Cornelius、Bjorkといった才気みなぎるベテラン勢による快作。そして、SuchmosとThe xxの新作は時流をねじ伏せるほどの完成度を持ち、さらに2017年という時代の空気を描いてみせた傑作でした。またランキングとしては、CHAIが満を持して発表した『PINK』が第2位と大健闘したことも見逃すわけにはいきません。

アメリカでは、ケンドリック・ラマー、Migos、Futureをはじめとするヒップホップアクトがチャートを席巻し、実質的な売り上げにおいても頂点に君臨しました。ヒップホップの盛り上がりは今年に限った話ではないですが、その熱狂が「シーン」という局地的なものではなくなったのが2017年。つまり、ヒップホップがポップミュージックの中心になった年であるとこの1年を捉えることができるかと思います。

その大きな波は日本の音楽シーンやリスナーの気分にどのような影響を与えるのか。2018年も刺激的な1年になることを願って。

【映画編】昨年からガラッと様変わり。圧倒的な洋画人気

文:久野剛士

10位 『ドリーム』(監督:セオドア・メルフィ)

『ドリーム』 ©2016Twentieth Century Fox
『ドリーム』 ©2016Twentieth Century Fox(オフィシャルサイトを見る

本作の音楽を担当したファレル・ウィリアムスが、テーマ曲として作った楽曲タイトルは、“Runnin'”。まさに、「走る映画」の本作にピッタリです。NASAで働くキャサリン(タラジ・P・ヘンソン)が、黒人専用のトイレへ駆け込む前半と、その才能が認められ、上長(ケビン・コスナー)のもとに同じ道を走る後半。その対比に胸が熱くなります。

9位 『美女と野獣』(監督:ビル・コンドン)

『美女と野獣』 ©2017 Disney
『美女と野獣』 ©2017 Disney(オフィシャルサイトを見る

通常、プリンセスのドレスといえば、純白かピンクのはず。しかし、『美女と野獣』はアニメから一貫して黄色です。そしてそれを着こなすエマ・ワトソンの気高い美しさに惚れ惚れします。皿が舞い、グラスがきらめくファンタジックな「ひとりぼっちの晩餐会」シーンは、2017年屈指の多幸感に満ちていました。

8位 『メッセージ』(監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ)

『メッセージ』
『メッセージ』(オフィシャルサイトを見る

宇宙人とのコミュニケーション、他者への理解がテーマとなった現代版『未知との遭遇』。そのコミュニケーションが、会話ではなく視覚的な文字を通じて行われる点が、映像へのこだわりが強いドゥニ・ヴィルヌーヴ監督らしいです。本作のために作ったという、宇宙人の文字の造形美にも注目。

7位 『T2 トレインスポッティング』(監督:ダニー・ボイル)

『T2 トレインスポッティング』
『T2 トレインスポッティング』(オフィシャルサイトを見る

Underworldの“Born Slippy Nuxx”といえば、『トレインスポッティング』。その続編が、前作と変わらず多くの支持を集めて7位にランクインしました。ユアン・マクレガーなどの主要キャストも、ドライブ感溢れる展開も前作そのままです。暴れん坊ベグビーと、彼の息子とのやりとりにホロリとさせられる瞬間も。

6位 『たかが世界の終わり』(監督:グザヴィエ・ドラン)

『たかが世界の終わり』 ©Shayne Laverdiere, Sons of Manua
『たかが世界の終わり』 ©Shayne Laverdiere, Sons of Manua(オフィシャルサイトを見る

俊英グザヴィエ・ドラン監督の最新作。バストショットで切り取られた圧迫感のある映像が、久しぶりに家族のもとを訪れた余命わずかな作家の重々しい心情を見事に表現した秀作でした。特に、主人公ルイ(ギャスパー・ウリエル)と、兄アントワーヌ(ヴァンサン・カッセル)が車内で会話の緊迫感を高めていくシーンは白眉です。

5位 『20センチュリー・ウーマン』(監督:マイク・ミルズ)

『20センチュリー・ウーマン』 ©2016 MODERN PEOPLE, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
『20センチュリー・ウーマン』 ©2016 MODERN PEOPLE, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.(オフィシャルサイトを見る

本作のほか、『パーティで女の子に話しかけるには』『アバウト・レイ 16歳の決断』と、2017年はエル・ファニング出演作の当たり年。少年ジェイミー(ルーカス・ジェイド・ズマン)を、母親とともに育てる三人の女性たちが全員魅力的。特に毎晩ジェイミーの部屋に忍び込むエル・ファニングにときめきます。これは……恋?

4位 『パターソン』(監督:ジム・ジャームッシュ)

『パターソン』 ©2016 Inkjet Inc. All Rights Reserved.
『パターソン』 ©2016 Inkjet Inc. All Rights Reserved.(オフィシャルサイトを見る

なんでもない日常に、愛おしさが増す。劇場の外へ出ると、それまでと街の景色が違って見える。魔法のような映画体験を生むジム・ジャームッシュ監督の人間ドラマです。バス運転手パターソン(アダム・ドライバー)が、自分と同じ名前の街で送る1週間。永瀬正敏やウータン・クランのMethod Manの出演場面も見逃せません。

3位 『ラ・ラ・ランド』(監督:デイミアン・チャゼル)

『ラ・ラ・ランド』 ©2017 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved. Photo credit: EW0001: Sebastian (Ryan Gosling) and Mia (Emma Stone) in LA LA LAND. Photo courtesy of Lionsgate.
『ラ・ラ・ランド』 ©2017 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved. Photo credit: EW0001: Sebastian (Ryan Gosling) and Mia (Emma Stone) in LA LA LAND. Photo courtesy of Lionsgate.(オフィシャルサイトを見る

『雨に唄えば』『シェルブールの雨傘』など、名作へのオマージュが詰まったミュージカルがベスト3入り。売れない女優(エマ・ストーン)とジャズマン(ライアン・ゴズリング)の夢を追う姿とロマンスが、世界を虜にしました。冒頭のハイウェイ上で行われた、ワンカット長回しのミュージカルシーンには、度肝を抜かれます。

2位 『ブレードランナー 2049』(監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ)

『ブレードランナー 2049』
『ブレードランナー 2049』(オフィシャルサイトを見る

ドゥニ・ヴィルヌーヴ、強し! 1982年公開のSF映画の金字塔『ブレードランナー』が復活。前作から30年後の世界を舞台にした続編です。多くのクリエイターに影響を与えた世界観はそのまま、前作よりもキャッチーな物語を展開。75歳を迎えたハリソン・フォードの身体が見せるアクションに、胸打たれます。

1位 『ベイビー・ドライバー』(監督:エドガー・ライト)

『ベイビー・ドライバー』
『ベイビー・ドライバー』(オフィシャルサイトを見る

見事第1位に輝いたのは、エドガー・ライトの音楽愛が詰まったクライムアクション。イヤフォンで音楽を聴きながら犯罪者を手助けする凄腕ドライバーのベイビー(アンセル・エルゴート)は、仕事も恋もアクセル全開。ひと仕事終えたベイビーが音楽に乗ってコーヒーを買いに行く姿は、思い返してもテンションが上がります。

映画編総括
『シン・ゴジラ』『この世界の片隅に』『君の名は。』と、日本の特撮やアニメーションが台頭していた2016年と打って変わり、2017年は洋画ばかりがランクインする結果となりました。確かに、アカデミー賞を受賞した『ムーンライト』(バリー・ジェンキンス)から、『ダンケルク』(クリストファー・ノーラン)、『ワンダーウーマン』(パティ・ジェンキンス)まで、ランク外でも世間の話題に上った作品は洋画が多かった印象があります。

ただし、11位以下には『散歩する侵略者』(黒沢清)や『夜空はいつでも最高密度の青色だ』(石井裕也)『アウトレイジ 最終章』(北野武)『あゝ、荒野』(岸善幸)など、惜しいところまで食い込んだ作品も多いので、2018年は日本映画がより盛り上がることを期待したいと思います。

また、2017年の大きなトピックといえば「続編もの」。『ブレードランナー 2049』や『T2 トレインスポッティング』がランクインし、現在は『スター・ウォーズ 最後のジェダイ』(ライアン・ジョンソン)が人気を博しているのも、ファンからの期待が大きい中、そのプレッシャーを跳ね返す、見事な続編に仕上げたからといえるでしょう。

さらに、『ドリーム』のランクインも見逃せない。このほか『ムーンライト』や『ゲット・アウト』(ジョーダン・ピール)といった黒人を主人公に据えた映画も多く、話題となりました。日本でも、今後ますますブラックムービーは人気を得ていくかもしれません。

【アート編】国立新美術館の大型展が複数ランクイン。今年、一番の話題となったあのアーティスト

文:宮原朋之

10位 『国立新美術館開館10周年 ジャコメッティ展』

『国立新美術館開館10周年 ジャコメッティ展』
『国立新美術館開館10周年 ジャコメッティ展』(オフィシャルサイトを見る

細長く引き伸ばされた人物彫刻で知られる彫刻家アルベルト・ジャコメッティ。ジャコメッティ展としては約11年ぶりの日本開催となる本展は、初期から晩年までの作品を紹介する回顧展。代表的な彫刻作品をはじめ、油彩、素描、版画、記録写真など約135点が出品される充実した展覧会となりました。また年始にはジャコメッティ自身を描いた映画も公開される予定で、まだまだジャコメッティ人気は続きそうです。

9位 『長島有里枝 そしてひとつまみの皮肉と、愛を少々。』

『そしてひとつまみの皮肉と、愛を少々。』
『そしてひとつまみの皮肉と、愛を少々。』(オフィシャルサイトを見る

デビュー以来、個人的な視点をもとに、家族や女性のあり方を写真を通して問い続けてきた長島有里枝。公立美術館では初の個展となった本展では、初期を代表するセルフポートレイトのシリーズをはじめ、家族を撮影したシリーズ作品や女性のライフコースに焦点を当てた新作などが展示されました。一躍注目を集めたデビューから四半世紀、作家のいまとその歩みを辿ることのできる貴重な展覧会に多くの反響が見られました。

特集:野村友里が語る長島有里枝。写真展から見えた「戦い続ける姿」

8位 デヴィッド・ボウイ大回顧展『DAVID BOWIE is』

『DAVID BOWIE is』
『DAVID BOWIE is』(オフィシャルサイトを見る

デヴィッド・ボウイの約50年間にわたる創作活動を、300点を超える展示品を通して振り返った同展。ボウイのパフォーマンス映像や様々な衣装が展示されたほか、親日家であったボウイが日本文化から受けた影響やクリエイターとのコラボレーションなどが展示されました。音楽活動だけにとどまらない先見性に満ちた多彩な活動はファッション、音楽、デザイン、演劇、アート、フィルムのカテゴリごとに紹介され、年代やジャンルを問わず、多くの人を魅了していたようです。

特集:なぜ、デヴィッド・ボウイは特別なのか? 奈良美智が語る

7位 『荒木経惟 センチメンタルな旅 1971-2017-』

『荒木経惟 センチメンタルな旅 1971-2017-』
『荒木経惟 センチメンタルな旅 1971-2017-』(オフィシャルサイトを見る

多岐にわたるテーマや手法で知られ、これまでに500冊近い写真集を上梓している写真家・荒木経惟。その膨大な作品群のなかから、妻・陽子をテーマに焦点をあてた本展では、1971年の『センチメンタルな旅』の収録作をはじめ、妻を被写体にしたものや、妻の存在を色濃く感じさせるものなど、現在に至るまでの作品が展示されました。また会期を重複して東京オペラシティアートギャラリーでは『荒木経惟 写狂老人A』が開催されるなど、その注目の高さは未だとどまることを知りません。

特集:荒木経惟インタビュー 77歳でなお勢いを増すアラーキーの生き方

6位 『ニューヨークが生んだ伝説 写真家ソール・ライター展』

『ニューヨークが生んだ伝説 写真家ソール・ライター展』
『ニューヨークが生んだ伝説 写真家ソール・ライター展』(オフィシャルサイトを見る

1940年代からニューヨークを拠点に活動し、2013年に逝去した写真家ソール・ライター。1940年代から50年代に撮影されながら長い時間、日の目を見なかったカラー写真を纏めた作品集『Early Color』(2006年)で世界中に大きな驚きをもたらした彼の待望の回顧展では、作品と資料200点超が展示されました。「カラー写真のパイオニア」と称されるライターの創作を辿る展示は、Instagram全盛のいま、再び時を隔てて新たな驚きをもたらしたようです。

5位 『ボイマンス美術館所蔵 ブリューゲル「バベルの塔」展 16世紀ネーデルラントの至宝―ボスを超えて―』

『ボイマンス美術館所蔵 ブリューゲル「バベルの塔」展 16世紀ネーデルラントの至宝 ― ボスを超えて ―』
『ボイマンス美術館所蔵 ブリューゲル「バベルの塔」展 16世紀ネーデルラントの至宝 ― ボスを超えて ―』(オフィシャルサイトを見る

オランダ・ロッテルダムのボイマンス・ファン・ベーニンゲン美術館所蔵の16世紀ネーデルラント美術の至宝を紹介する『バベルの塔展』。そのネーデルラント派を代表する画家ピーテル・ブリューゲルの代表作のひとつである『バベルの塔』が日本で24年ぶりに展示されました。同展の開催を記念して『AKIRA』などで知られる大友克洋が『バベルの塔』からインスピレーションを得た新作を発表したことでも話題になりました。

4位 『国立新美術館開館10周年 安藤忠雄展―挑戦―』

『国立新美術館開館10周年 安藤忠雄展―挑戦―』
『国立新美術館開館10周年 安藤忠雄展―挑戦―』(オフィシャルサイトを見る

建築家・安藤忠雄の約半世紀におよぶ仕事の軌跡と未来への展望を紹介する本展。安藤建築の初期から最新プロジェクトまで、模型やスケッチ、ドローイングなどの設計資料で詳細に振返ることができる充実の展示が並びました。なかでも話題を集めたのは、1 / 1の原寸大サイズで再現された代表作『光の教会』。会期中には安藤本人によるギャラリートークの開催や、自身が肉声で収録した音声ガイドなど、ANDOワールドを文字通り体感できるダイナミックな機会となりました。

3位 『興福寺中金堂再建記念特別展「運慶」』

『興福寺中金堂再建記念特別展「運慶」』
『興福寺中金堂再建記念特別展「運慶」』(オフィシャルサイトを見る

平安時代末期から鎌倉時代初期にかけて活動した日本で最も著名な仏師・運慶。本展は、卓越した造形力で時代をリードした運慶とゆかりの深い興福寺をはじめとした各地からの名品を集めて、その生涯の事績を通覧するというもの。運慶の父や子、親子3代の作品を揃え、運慶の作風の樹立から次代の継承までたどる充実した展示構成となりました。

2位 『国立新美術館開館10周年・チェコ文化年事業 ミュシャ展』

『国立新美術館開館10周年・チェコ文化年事業 ミュシャ展』
『国立新美術館開館10周年・チェコ文化年事業 ミュシャ展』(オフィシャルサイトを見る

アール・ヌーヴォーを代表する画家の1人であるアルフォンス・ミュシャ。そのミュシャが、17年間かけて制作した連作『スラヴ叙事詩』の全作品が、チェコ国外では本展で世界初公開されたことで話題を呼びました。他にも『パリ万国博覧会』の下絵やプラハ市民会館の装飾など約100点が展示され、会期中は連日大盛況。入館待ちの待機列が途切れることは無かったようです。

1位 『国立新美術館開館10周年 草間彌生 わが永遠の魂』

『国立新美術館開館10周年 草間彌生 わが永遠の魂』
『国立新美術館開館10周年 草間彌生 わが永遠の魂』(オフィシャルサイトを見る

2009年から現在も草間彌生が取り組んでいる大型絵画シリーズ『わが永遠の魂』から約130点が本展で日本初公開。水玉をモチーフとした作品や『ネット・ペインティング』『ミラー・ルーム』などの代表作を織り交ぜながら、初期から現在までの草間の創作活動の軌跡を辿る展覧会となりました。とどまることを知らずになおも加速する、草間の創作意欲と一貫した信念には、ただただ圧倒されます。

■アート編総括
昨年と比較した際の一番の大きな違いは、芸術祭のランクインがなかったこと。今年も『ヨコハマトリエンナーレ』『札幌国際芸術祭』『Reborn-Art Festival 2017』『奥能登芸術祭』など、規模も質も充分な要注目の芸術祭があったものの、それを押しのけて強かったのが大御所と呼べる作家たちの大型展でした。

なかでも草間彌生は、昨年10月の文化勲章受賞が決まってから、その後2月からの国立新美術館での個展にはじまり、映画『≒草間彌生 わたし大好き』の再上映、『Reborn-Art Festival 2017』や『アジア回廊 現代美術展』など芸術祭への作品出品、10月には名誉都民として顕彰、草間彌生美術館のオープンと、今年は草間彌生の年だったといってもいいほどの活躍ぶり。また都内で大型の展覧会を同時開催するなど荒木経惟ことアラーキーの精力的な活動も記憶に残った年でした。

美術館という視点でみると、4つ展覧会がランクインしている国立新美術館。広い展示空間を利用した充実の展示内容が大きな反響に繋がったようです。10位外には、市原湖畔美術館での『カールステン・ニコライ:Parallax パララックス』展やChim↑Pom『Sukurappu ando Birudoプロジェクト 道が拓ける』など、中規模ながらも今年話題となった展覧会がひしめき合う結果に。来年は中小規模の展覧会がランクインすることに期待したいと思います。

【演劇編】人気劇団の待望の新作公演や代表作の再演が目白押しだった2017年

文:宮原朋之

10位 チェルフィッチュ『三月の5日間』リクリエーション

チェルフィッチュ『三月の5日間』リクリエーション
チェルフィッチュ『三月の5日間』リクリエーション(オフィシャルサイトを見る

今年活動20周年となったチェルフィッチュの代表作のリクリエーション。日本の現代演劇のターニングポイントとも評される本作が初演から10年以上経ち、20代前半の俳優7人によって新たに生まれ変わりました。来年も引き続き、豊橋、京都の公演が予定されている本作。常に新しいものを生み出していくチェルフィッチュの動向は今後も目が離せません。

特集:チェルフィッチュ岡田利規が語る、劇団20年間の歩み

9位 『極付印度伝 マハーバーラタ戦記』

『極付印度伝 マハーバーラタ戦記』ポスター
『極付印度伝 マハーバーラタ戦記』ポスター(オフィシャルサイトを見る

世界三大叙事詩のひとつに数えられ、インドでは誰もが知っている古代インドの神話的叙事詩『マハーバーラタ』。本作はそれを新作歌舞伎として描いた意欲作です。主演の尾上菊之助が企画から取り組み、演出は宮城聰、脚本に青木豪が参加。視覚的な面白さはもちろん、歌舞伎という様式美のなか、劇伴にパーカッションを取り入れるなど、不思議な魅力を持つ公演が話題となりました。

8位 庭劇団ペニノ『地獄谷温泉 無明ノ宿』

庭劇団ペニノ『地獄谷温泉 無明ノ宿』
庭劇団ペニノ『地獄谷温泉 無明ノ宿』(オフィシャルサイトを見る

北陸の山奥の湯治宿で、風変わりな人形師の親子が出会う、孤独な人々との一夜。そこには現代社会では決して光を当てられない、史実か寓話かも判然としない世界が描かれます。年内にKAAT 神奈川芸術劇場での公演を終え、年始に主宰・タニノクロウの生まれ故郷であり、物語の舞台ともなっている富山での最終公演を予定しています。舞台美術へのこだわりに定評のある庭劇団ペニノ。『第60回岸田國士戯曲賞』を受賞した代表作の国内最終公演は要チェックです。

7位 『百鬼オペラ「羅生門」』

『百鬼オペラ「羅生門」』©奥山由之
『百鬼オペラ「羅生門」』©奥山由之(オフィシャルサイトを見る

『羅生門』『藪の中』『蜘蛛の糸』『鼻』といった芥川龍之介の代表作と、芥川の人生を絡ませ、ひとつの物語として描いた本作。『羅生門』主人公の下人が仕事を失い途方にくれ、悪に手を染めてでも生き抜く選択をするまでの数秒間に、脳内で起きた出来事を描きだしました。戯曲は今年『第61回岸田國士戯曲賞』の最終候補に選出された長田育恵。演出、振付、美術、衣装をイスラエルのインバル・ピントとアブシャロム・ポラックが担当し、柄本佑、満島ひかり、吉沢亮の三人が出演しました。芥川の作品世界がまるでひとつの宇宙のように舞台上に浮かびあがるような構成は話題を呼びました。

6位 コムレイドプロデュース『鳥の名前』

コムレイドプロデュース『鳥の名前』
コムレイドプロデュース『鳥の名前』(オフィシャルサイトを見る

赤堀雅秋が脚本・演出を手がけ、新井浩文の2度目の舞台出演が注目を集めた本作。舞台では、思いがけない理由から職を失ったり、結婚を決意したり、命の危険にさらされる人々が描かれました。そんな小さな町に起こるいろいろな悲喜劇はある意味でどうでもよくもあり、場合によっては深刻でもあったり。それぞれの登場人物が行き着くラストは果たしてどうだったのか、得票数からもその反響の高さが伺えます。

5位 『シアターコクーン・オンレパートリー2017+キューブ20th,2017「陥没」』

『シアターコクーン・オンレパートリー2017+キューブ20th,2017「陥没」』
『シアターコクーン・オンレパートリー2017+キューブ20th,2017「陥没」』(オフィシャルサイトを見る

昭和の東京をモチーフにした『東京月光魔曲』(2009年)と『黴菌』(2010年)で、「昭和三部作」を目指したケラリーノ・サンドロヴィッチ。実に7年という時を経て、完結編となる3作目が公演されました。舞台となるのは第1回東京オリンピックを目前に控えた1963年頃の東京。オリンピックとの因縁に翻弄される人々が群像劇として描かれました。そこには2020年のオリンピックへの展望も照らし出されていたのではないでしょうか。

4位 三谷幸喜『子供の事情』

『子供の事情』
『子供の事情』

昭和46年の小学校を舞台に天海祐希、大泉洋ら豪華キャストが小学4年生を演じるという、一見奇抜な内容にも聞こえる本作。実際には、クラスに必ずひとりはいたような個性的なキャラクターを、26歳から63歳までの出演陣が生き生きと演じ、大きな反響を呼びました。かつて10歳だったすべてのオトナたちへ三谷幸喜が贈る、心温まる物語に仕上がっています。

3位 ナイロン100℃ 44th SESSION『ちょっと、まってください』

ナイロン100℃ 44th SESSION『ちょっと、まってください』
ナイロン100℃ 44th SESSION『ちょっと、まってください』(オフィシャルサイトを見る

劇団公演としては待望の3年ぶりの新作となった本作でも、ケラリーノ・サンドロヴィッチの唯一無二の世界観は健在でした。「現代社会における道化としてふさわしい」とケラが言う、金持ちの家族と乞食の家族、その二つが入れ替わるという不条理な物語に、不穏な雰囲気ながらも笑ってしまう観客が続出。なかには「笑えるデヴィッド・リンチ」と評する声も聞かれました。

2位 『日本総合悲劇協会 VOL.6「業音 GO-ON」』

『業音』
『業音』(オフィシャルサイトを見る

悲劇をテーマに、松尾スズキが作・演出を手掛けるプロデュース公演「日本総合悲劇協会」。『業音』は約15年ぶりの再演で、大人計画作品では、はじめて平岩紙が主演を務めました。その「すごい業の女」を演じる役柄に、終始圧倒された方が多かったようです。15年という歳月を経ても色褪せない劇作家・松尾スズキの演出はさすがの一言。

1位 NODA・MAP『「足跡姫」~時代錯誤冬幽霊~』

NODA・MAP『「足跡姫」~時代錯誤冬幽霊~』
NODA・MAP『「足跡姫」~時代錯誤冬幽霊~』(オフィシャルサイトを見る

野田秀樹は、2012年に逝去した十八代目中村勘三郎に、病床で「俺が治ったら、この姿(医療器具でがんじがらめの彼の姿)を舞台にしてよ」と告げられていたと言います。本作はそんな野田が勘三郎にオマージュを捧げた公演。出演者には宮沢りえ、妻夫木聡、古田新太らが名を連ね、江戸を舞台にコミカルに脱線しながらも、歌舞伎のはじまりを辿る物語が展開されました。

■演劇編総括
多数の公演が上げられた昨年に比べ、実績ある劇団の質の高い公演がひしめき合う結果になった今年のランキング。待望のケラリーノ・サンドロヴィッチ新作公演は2作がランクインし、その不動の人気ぶりが伺えます。また庭劇団ペニノや日本総合悲劇協会の待望の再演は大きな話題を集めました。

そして栄えある1位は、昨年の『逆鱗』から引き続き2冠となったNODA・MAP公演『足跡姫』。2012年に逝去した十八代目中村勘三郎へ捧げたオマージュとなる本作は多くの人に感動を与えたようです。

ランクインした10作以外にも、『レ・ミゼラブル』や『ビリー・エリオット』などのミュージカル作品にも多くの票が寄せられたほか、玉木宏が主演した『危険な関係』や客席が360度回転する劇場での公演が話題となった劇団☆新感線『髑髏城の七人』シリーズも多数の支持を得ていました。

【書籍編】新たなプラットフォームから生まれる表現と言葉の可能性

文:野村由芽

10位 宇野維正『小沢健二の帰還』

宇野維正『小沢健二の帰還』
宇野維正『小沢健二の帰還』(Amazonで見る

1994年、NY移住。2017年、19年ぶりとなるシングル『流動体について』を発表。その後、『ミュージックステーション』や『FUJI ROCK FESTIVAL 2017』への出演、SEKAI NO OWARIら若手とのコラボレーション、盟友・岡崎京子原作の『リバーズ・エッジ』主題歌の書き下ろし発表に至るまで、華々しく復活を遂げた小沢健二。彼が日本の音楽シーンから消えた空白の20年のことを、ジャーナリストの宇野維正はこの20年を共に生き抜いた人たちへの祝福ともとれるような特別な年月として捉え、一冊に記録しています。

9位 九井諒子『ダンジョン飯』

九井諒子『ダンジョン飯』5巻
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『ハルタ』にて連載中の人気マンガ。その絵柄から古典的な冒険モノを想像しますが、実は、既存のファンタジー作品に登場する定番モンスター(たとえばスライムなど)を、「どうすれば美味しく食べられるのか?」という視点で料理するグルメ作品です。作中で登場した料理にはレシピが掲載されるなど、メタ的な視点と遊び心がたまりません。

8位 F『いつか別れる。でもそれは今日ではない』

F『いつか別れる。でもそれは今日ではない』
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Twitterの140文字において日々の断片を情緒豊かに捉えてきた「F」によるエッセイ。65篇の作品は「恋愛講座、もしくは反恋愛講座」「優等生の皆様、不良の皆様」「寂しいって言って」「恋愛を越えろ、夜を越えろ、永遠を越えろ」といった4章にわかれており、全体を通底する切ないトーンのなかで、「幸せにすると言われるより、三日に一回チロルチョコをくれた方が信じられる」など、日常を鋭く捉える確かな観察眼が光ります。

7位 市川春子『宝石の国』

市川春子『宝石の国』
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2017年10~12月の期間にアニメ化されたことでも話題になった本作。「人間とは何か?」の境目を探り続け、メタモルフォーゼした身体と心を描き続けてきた市川春子が目下、取り組んでいるのは、宝石のからだをもつ人型の生物が生きる世界。澄んだユーモアと批評性に、とにかく美しい絵柄が相俟って、唯一無二の世界観を独走しています。自身で手がけているというホログラム仕様の装丁も毎回素敵です。

6位 かっぴー『左ききのエレン』

かっぴー『左ききのエレン』10巻 左ききのエレン・後
かっぴー『左ききのエレン』10巻 左ききのエレン・後(Amazonで見る

大手広告代理店のアートディレクターを経て、WEB制作会社のプランナーに転職後、noteに掲載した漫画『フェイスブックポリス』が「あるある……!」の嵐を巻き起こし大きな話題となったかっぴー。「自分は天才ではない」という自身の挫折と気づきから生まれた初の長編ストーリーマンガとなる本作のリアリティが、生々しく胸に迫ります。

5位 村上春樹『騎士団長殺し』

村上春樹『騎士団長殺し』第1部 顕れるイデア編
村上春樹『騎士団長殺し』第1部 顕れるイデア編(Amazonで見る

『1Q84』から7年、村上春樹14作目の小説となる『騎士団長殺し』が、今年の2月に2巻同時に発売。前年11月からティザーサイトを立ち上げて情報を段階的に告知し、発売日まで関係者等への献本をおこなわず、発行部数は過去最高の130万部とするなど、新刊発売を世間の「ニュース」に仕立てたプロモーション戦略も注目を浴びました。

4位 恩田陸『蜜蜂と遠雷』

恩田陸『蜜蜂と遠雷』
恩田陸『蜜蜂と遠雷』(Amazonで見る

史上初の『直木賞』『本屋大賞』ダブル受賞を果たした本作は、構想から12年、取材に11年、執筆に7年もの歳月を費やして描き上げた、国際的なピアノコンクールに挑む若者たちを捉えた青春群像小説。音楽は言葉でどこまで表現できるのか? に挑んだ、ストイックかつ豊かな描写が大きな見どころです。

3位 星野源『いのちの車窓から』

星野源『いのちの車窓から』
星野源『いのちの車窓から』(Amazonで見る

雑誌『ダ・ヴィンチ』で2014年12月号からスタートした連載エッセイに、書き下ろしを加えて単行本化。ドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』や『真田丸』への出演、“恋”の大ヒットに2度目の『紅白歌合戦』への出場など、時代のポップアイコンに変貌した2年間を綴る筆致は、その華々しいキャリアからは拍子抜けするほどに、風通しがよくて驚きます。自分を実物以上に大きくも小さくも見せようとせず、ありのままの姿で、世界を淡々と感じ、眺める姿勢は、今の時代を心地良く生きるうえでのヒントになるのかもしれません。『恋』のジャケットを担当した吉田ユニが装丁を手がけています。

2位 燃え殻『ボクたちはみんな大人になれなかった』

燃え殻『ボクたちはみんな大人になれなかった』(新潮社)
燃え殻『ボクたちはみんな大人になれなかった』(新潮社)(Amazonで見る

Twitterに凝縮された、哀愁漂う文章に多くのファンを持つ燃え殻が、43歳の男性が20代の頃の自分の仕事や恋愛の記憶を回想する小説を発表。「エモい」という言葉が本来持っていた純度は、今年一年で薄まってしまったようにも感じるけれど、自己陶酔に陥らず、透徹のまなざしで情景を丹念に描写する燃え殻の文体は、読み手の手をひいて、ともに過去の記憶へ誘うことに成功しています。将来、「エモい」という言葉が死んでしまっても、きっとこういう感情は永遠に人の心を揺さぶり続けるだろうなと思える一冊。

1位 坂元裕二『往復書簡 初恋と不倫』

坂元裕二『往復書簡 初恋と不倫』
坂元裕二『往復書簡 初恋と不倫』(リトルモア)(Amazonで見る

今年の1~3月にかけて放映されたドラマ『カルテット』。松たか子、満島ひかり、松田龍平、高橋一生による、目を見開くような圧倒的な会話劇の面白さが一部で社会現象となった本作ですが、その脚本を務めたのが坂元裕二。彼によるちょっぴり不思議な小説が、今年の書籍編第1位となりました。

「不帰の初恋、海老名SA」「カラシニコフ不倫海峡」の2篇は、どちらもメールや電話のみでやりとりされる男女二人の台詞劇。構成は究極にミニマルなのに、先が読めずに心がざわめき、ものすごくミステリアスで、やがてロマンティシズムの極北へ連れ去られるかのような、幸福な読後感に包まれます。ちなみに、本作は朗読公演としても実施されており、なんと高橋一生も出演していたのだとか! 坂元裕二の新作は2018年1月から、広瀬すず主演『anone』で見ることができます。年明けから、見逃せません。

■書籍編総括
書籍のランキングでは、大別すると2つの傾向が特徴的でした。ひとつは、燃え殻やかっぴー、Fといった、Twitterやnoteなどのプラットフォームで独自の表現を磨きながらファンを増やした結果、出版社から声がかかり、書籍化に至ったケース。これまでも小説投稿サイト『小説家になろう』が作品数40万、月間11億PV以上を記録するなど、インターネットの表現の場は注目を浴びてきましたが、SNSの普及によって、個人的な体験や情緒をシェアすることが当たり前になってきた時代ならではの、パーソナルな新しい表現が支持を得たのが印象的でした。noteに関しては、2017年10月にUXデザイナーの深津貴之がCxOとして加入するなど、さらなるユーザビリティの改革が予測されることから、さらに魅力的な表現の場に進化していくはず。それに伴い、新たな表現者と読み手の出会いが生まれることに期待します。

もうひとつは、昨年から引き続いての星野源の活躍、19年ぶりの小沢健二の復活、高橋一生の再評価など、「今年の顔」となるようなキーパーソンが影響している本。そしてその本に心動かされ、評価した人が多いという事実は、たんに彼らが人気だから、というような理由ではなく、その文字表現の強度が圧倒的にすぐれていたからでしょう。

具体的には、小沢健二が日本を離れていた約20年は、一見「空白の20年」かのようでいて、実は、「私たちが彼と同じように、自分の人生を生きていた20年」——つまり、「すべてがあった20年」だったのだ、ということに気づくには、空白のページを文字や本という手段で、一文字ずつ埋めていく必然性があったのではないかと感じるのです。

また今年、彼を見ない日はなかったというぐらいに日夜ひっぱりだこだった高橋一生が再び注目を浴びたのは、まぎれもなく坂元裕二が『カルテット』で彼のために書いた台詞が、彼の人間的魅力を引き出したからでしょう。

2017年は、「どのプラットフォームやフォーマットで」「何を表現するのか」という組み合わせの可能性が広がった1年だったと感じますが、2018年は、そのクオリティがさらに高まったところに、新たな表現が生まれるのではないでしょうか。より進化を続けるプラットフォームの自主的な選択と、「言葉」でなくてはならなかった、必然性と強度のある言語表現。その2つが交わった表現を、見てみたいと思います。



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