カジヒデキとリディムサウンター インタビュー

元祖渋谷系の貴公子であり、2008年春に帰国した後は、クラブ・イベントの開催などを通じて若手バンドとの交流も活発なカジヒデキ。ブラック・ミュージックを独自に消化したギターポップに対する評判がすこぶる高い現代の渋谷系バンド=リディムサウンター。この両者がタッグを組み、その名も「カジヒデキとリディムサウンター」名義でアルバム『TEENS FILM』を発表した。カジが詞曲、リディムが演奏、編曲は共同で行われた本作は、両者のネオアコ/ギターポップに対する愛情と、海外のトレンドへの目配せがはっきりと感じられる好盤に仕上がっている。今回インタビューに答えてくれたカジと、リディムの中心人物であるTA-1の年齢差は10歳以上あるものの、制作の現場ではTA-1が中心となって先輩であるカジに意見をぶつけ、カジも後輩の意見をしっかり受け止めたという。そこには音楽家としてのプロ意識があったのはもちろん、何よりお互いの音楽に対する愛情をそれぞれがわかっていたからこそのやり取りだったはず。そう、レコード愛があれば年の差なんて! そんな2人の音楽談義、ゆっくりお楽しみください。

(インタビュー・テキスト:金子厚武 撮影:柏井万作)

やっぱり僕らが仲良くなるのってレコードがすごく大きくて。

―まずはお2人が知り合ったきっかけから教えてください。

カジ:リディムサウンターを最初に知ったのは4年か5年ぐらい前で、僕その頃あまり日本にいなかったので…

―ああ、スウェーデンやイギリスにいらっしゃった頃ですね。

カジ:あんまり日本の状況を知らなくなっていた時期だったんですけど、帰った時にHARVARDのバックをリディムサウンターがやっているのを観て、すごく上手くて、おしゃれな音を出してたから気になっていたんです。でも、色々話すようになったのはこの2年半ぐらいで。リディムのセカンドがクラブでもよくかかってて、すごいかっこいいなと思って、僕らぐらいの世代の人はみんな嫉妬してたんです(笑)。

カジヒデキとリディムサウンター インタビュー
カジヒデキとリディムサウンター

―若いのがかっこいい音を出してると(笑)。

カジ:それぐらいインパクトがあって、ライブもすごくかっこよくて。でも明らかに自分たちの線上にいるような気もして。

―TA-1さんはカジさんに対してどんなイメージを持っていましたか?

TA-1:エスカレーター(レコーズ)の第一人者というか、チャーベさん(松田岳二/CUBISMO GRAFICO FIVE)とかが先輩にいたので、そのさらに上のカジさんみたいな。いろんな人から「カジさんはすごい」って聞いていたので(笑)。

カジ:音楽がすごいというよりも、よくわかんない人間としてでしょうね(笑)。

―(笑)。じゃあ実際会ってみての印象はどうでした?

TA-1:レコード好きなお兄さん(笑)。

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カジヒデキ

カジ:やっぱり僕らが仲良くなるのってレコードがすごく大きくて。同世代の友達でも、結局仲良くなったのって出発点は同じで、その中で性格も合った人とは長い付き合いになってるんだろうけど、最初のきっかけはやっぱりレコードで。

TA-1:そう考えると、僕が今まで仲良くなった人もほとんどそうかもしれない。

カジ:TA-1くんのことは、話す前はすごくストイックな人っていう印象があったんだけど、この2〜3年で音楽の話をするようになって、すごく面白くて柔らかで、パワーを持ってる人だなって。いろんな音楽を知りたいっていう気持ちがすごく強いし、それを自分はどう演奏するかって考えるミュージシャンとしての部分も強く持っていて、実際にそれをやってたりする。そういう意味ではすごく真面目で、くだけた部分と熱心な部分のバランスが面白いなって。

―お2人ともDJをやられてたりとか、リスナーとしての耳を持っていて、いろんな音楽を吸収して自分のスタイルを作りつつ、さらに今の海外のトレンドに対する目配せもしっかりしていますよね。だから、それを表面的に取り入れるんじゃなくて、自分のスタイルにあった形で消化できる。そういうところがお2人の共通点かなって。

TA-1:好きだから買っちゃうんですよね、新譜とか(笑)。

―今でもたくさん買います?

TA-1:普通に…多分カジさんの方が買ってると思いますけど。

カジ:そんなことない、そんなことない(笑)。昔はすごい買ってたなって自分でも思いますけど、今はある程度落ち着いてます。「なんで買ったんだろう?」っていう眠らせちゃってるレコードがホントかわいそうで、そういうレコードを作っちゃいけないなと(笑)。

ヒップホップとかR&Bが好きだったところから、ギターポップに変化してるのがすごく面白い。

―でもお2人で面白いなと思うのは、カジさんにはやっぱり「渋谷系」っていう代名詞があって、リディムもその後継者と言われたりもしてますが、TA-1さんは元々の出自はヒップホップだったんですよね? そういう違うバックグラウンドを持っている2人が、結果今同じ方向を向いてるっていうことが面白いなって。

TA-1:ヒップホップの人たちが掘るレコードも、カジさんたちが掘ってきたレコードも、結構近いと思うんですよ。その頃のヒップホップの人たちってソウルとかニューウェイヴまで行ってたと思うんです。だからいろんなところで被っていて、同じ空気感があるんじゃないかって。

カジ:実際「渋谷系」って言葉が生まれた頃とか、生まれる前ぐらいの90年代初頭って、言ってみればみんなレコードが好きだったんですよ。よく「渋谷系」ってポップとかネオアコって言われたりするけど、そういうのもありつつ、ものすごく短いタームで、ソウルが急に好きになったり、ジャズ・グルーヴにハマったり、アシッド・ジャズがリアルタイムであったり、マンチェとかインディ・ダンスが流行ったりしてて。ヒップホップもそうで、実際スチャダラパーもフリッパーズもみんな同じ「渋谷系」だったし。

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右:TA-1

―確かに、そうですね。

カジ:そういう意味ではTA-1くんやリディムは新しい世代で、ヒップホップとかR&Bが好きだったところからギターポップに変化してるのがすごく面白い。だから渋谷系の流れだと思うし、そうじゃない面白さもある。いわゆるネオアコのバンドとかだと、バックボーンが狭い気がして、共感を持つのが逆になかなか難しかったりするんです。

―表面的には違っても根っこの部分でつながってる。つまりはレコードが好きで、いろんな音楽を聴いてるっていう。

カジ:そうですね。だからTA-1くんがヒップホップからギターポップやインディを掘り下げていくのもすごく共感するし。熱心な感じというか、そういうのが面白いと思う。

TA-1:そこはB-BOY魂で、ひとつ知ると全部ディグんないとダメだみたいなところがあって。そういうところも(渋谷系と)共通してるんでしょうね。ジャンルは関係なく、いい音楽が何でも好きだっていう。

僕らコラボってあんまり好きじゃないんですけど、「カジさんだったら全然やります!」って。

―では『TEENS FILM』についてですが、そもそも一緒に作ろうという話はどのように生まれたのですか?

カジ:元々自分がリディムと一緒にやれたらいいなって単純に思って。前作って、その前の『lolipop』って作品の延長みたいな気持ちで作ったんですね。それで今回はちょっと違うことをしたいなと思ったときに、リディムサウンターと一緒にできたら面白いんじゃないかって。単純にリディムのライブを見て刺激を受けたのもあるし、音楽性も共通項がすごく多いと思って。特に最近のインディものに対する聴き方とか。

―なるほど。

カジ:最初はミニ・アルバムを作ろうと思ってたんです。リディムはすごく活発に活動していてライブも多いし、TA-1くんはDJもやってるし、リディムが他のバンドとコラボしてるのもあんまり聞いたことなかったんで、「やってくれるかな?」っていうのがまずあって(笑)。とりあえずミニだったらそんなに時間もかからないし、ちょっとできないかってお願いして。

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―その話が来てTA-1さんは…

TA-1:ぜひぜひ(笑)。僕らコラボってあんまり好きじゃないんですけど、「カジさんだったら全然やります!」って。僕がエスカレーターのファンだっていうのもあるし、すごく嬉しくて。「やってみたら面白いかな?」と思ってやってみたら、実際とても面白かったっていう。

―ミニ・アルバムからフル・アルバムになるぐらい盛り上がったってことですよね?

カジ:うん、4〜5月で一段落してて、その後は8月じゃないとお互いのスケジュールが合うところがなかったんで、8月にもう1回。でも実際スタジオに入ったのは5日間だけで、6曲録ってフィニッシュ。

―お忙しい中タイミングを合わせてフルアルバムにしたんですね。

カジ:ちょうど(レコーディングの)前半が終わって、後半が始まるまでの間にTA-1くんが自分のツアーで叩いてくれたので、後半ではTA-1くんの「大体こういう感じ」っていうのがわかるようになって。これぐらい伝えたら後はどんどんやってくれるな、とか。前半はまだリディムがどうレコーディングをするかとか、勝手がわからないじゃないですか? だから自分もデモを作りこんでたんですけど、後半はデモを作りこまなくても言ったら大体わかってもらえるようになってましたね。

―クレジットを見ると、“river river”が唯一共作になっていますよね? 前半はカジさん主導で、後半はコミュニケーションがよりスムーズになったっていう話からすると、この曲は後半にできた曲だったりしますか?

カジ:そうですね。元々はもうちょっと歌謡ソウルじゃないですけど、小沢健二くんの“ラブリー”みたいなリズムで、ABサビみたいな曲の構成だったんです。でも、ただそれをやっても面白くないと思ってたら、TA-1くんがヒップホップのリズムにしたり色々やってくれて。歌メロを省いて、いいところだけ繰り返したりとか。

カジヒデキとリディムサウンター インタビュー

TA-1:プリプロをやってるときに(先が)見えなくなっちゃって、カジさんに「どうでしょうねえ?」ってずっと話してて。ブルーアイド・ソウルみたいにしたらいいんじゃないかと思ったんですけど…演奏力が追いつかないんですよね。そういうソウルの曲って、上手くやっちゃうとめちゃくちゃ上手くもできるんですけど、面白さが半減しちゃう。せっかくこのアルバムがいいラインを行ってるのに、この曲だけそっち(上手い演奏)に行っちゃうのもなって。


―でも最終的には両者の個性が上手く融合してると思います。

TA-1:カジさんのプリプロのやつをぶった切ってリミックスしたっていう僕の中の解釈です。

カジ:正直、途中の段階でも全然よかったんですよ(笑)。でもTA-1くんはアルバムの全体像を考えててくれて、その曲だけ浮いた存在になるのはよくないっていうのが強かったみたいで、僕が「いいじゃん」って言っても、「もう少し考えさせてください」って。最終的にはすごくいいところに落ち着いたと思います。

TA-1:普通カジさんに「いいじゃん」って言われたらいいんですけどね(笑)。でもなんか引けなくて、ここまでいい感じに来てるので、なあなあにはできないと思って。あのまま最後まで行ってたら、このアルバムが聴けなくなってたかもしれないんで(笑)、やってよかったです。

リディムサウンターのライブは、お客さんのハッピーになり方が尋常じゃないんです。

―元々アルバムの方向性みたいなものはあったんですか?

カジ:そんなに具体的にはなかったんですけど、元々夏に出すつもりでいたので、トロピカルなもの、それこそヴァンパイア・ウィークエンドとかあんな感じの、今のインディのトロピカルっぽいのは単純に作りたいなとは思ってました。

TA-1:前半が結構トロピカルで、これはもうちょっと行けるんじゃないかってなったときに、「じゃあ、どんな曲が足りないですかね?」って話はしましたよね。

カジ:わりとTA-1くんがそういうアイデアを出してくれて。「ギターとボーカルだけでもいいんじゃないですか?」とか、後半はそういうバランスを考えた曲の提案もあって。

TA-1:前半はキラー・チューンばっかり出来上がっちゃって、あと面白い部分があればこのアルバム行けるなって。

―じゃあ“僕のベイビー・レモネード”とかは前半にできた曲?

TA-1:完全にキラー・チューンですね(笑)。

―ですよね(笑)。“スローモーション”とかも…

カジ:前半ですね(笑)。この曲は自分の中では…フレンドリー・ファイアーズみたいな感じとか、トロピカルもちょっと入ってて、でもダンス・チューンで…深海っぽい感じというか。

TA-1:深海っぽいですね。かなり深い感じ。確か最初はドラムスっぽい感じでやるって話で始まったんですけど、コード感が全然違って(笑)。イメージはわかるんですけど、カジさんが作るコードになってて、さらに僕らが演奏すると果てしなく遠くにいっちゃう(笑)。でもそれが面白かったですね。トロピカルな中に今の要素をドラムであんまり入れたくないっていうのがあって、トロピカルっていうのをファンカ・ラティーナに持っていくというか、もっとルーツの方に持っていくドラムにしたいとか思ってやってました。

カジヒデキとリディムサウンター インタビュー

―そのまんまにならない方が面白いですもんね。

カジ:デモは僕が作るんですけど、プリプロの段階ではTA-1くんがリーダーになってやっているので、TA-1くんは自分以上にそういうサジ加減を考えてくれて。だからチャラチャラした感じにはならないっていうか(笑)。

―TA-1さんがプロデューサー的なポジションにいたんですね。

カジ:そうですね、TA-1くんはプロデューサー気質が強いので、イニシアティブを取ってやってくれて。

TA-1:そうしないと進まないんですよ、うちのバンドは(笑)。

―(笑)。そういうバンド模様が垣間見えるのも面白いですよね。

カジ:僕はしばらくバンドでレコーディングすることがなかったんで楽しかったですね。バンドにちょっとだけ参加したような(笑)。

―それこそタイトルの『TEENS FILM』ですが、10代の青い心象風景がまさに映画のように綴られていて、そのテーマ自体カジさんらしいんですけど、バンドと一緒にやることでより男の子っぽいというか、「バンド楽しい!」「ワイワイやるの楽しい!」っていう感覚が歌詞にも反映されているように思いました。

カジ:いつも歌詞は最後に書くんですけど、サウンドがいい意味で青いというか、フレッシュな感じがしたので、こういう勢いにちゃんと乗るような、弾けた歌詞が書きたいなって。ここで40代の悩みとか書いて歌っても…そんなこと書かないですけど(笑)。だから特に前半の曲はキバった感じになりましたけど、でも1曲目見せるときは照れくさいものがありましたね。リディムは英語でやってるし、難解なロックっぽいのとも違うじゃないですか? “亜熱帯ガール”とか見せるときに、「…これでいいかな?」っていう(笑)。でもみんなのってくれて。

―来年のツアーも非常に楽しみですね。

カジ:リディムサウンターのライブは今ホントに最強だと思うんです。すごいライブを毎回してると思うし、見る度に思うんですけど、お客さんのハッピーになり方が尋常じゃないんです。そういう感じで自分もやれたらいいなと思うし、どっちのお客さんが見てもすごく楽しいと思えるような、「カジヒデキとリディムサウンター」としてのショウができたらいいなと思いますね。

イベント情報
カジヒデキとリディムサウンター
『TEENS FILM SHOW』

2011年2月18日(金)OPEN 19:00 / START 19:30
会場:福岡県 福岡BEAT STATION

2011年2月20日(日)OPEN 17:00 / START 18:00
会場:大阪府 心斎橋CLUB QUATTRO

2011年2月25日(金)OPEN 18:30 / START 19:30
会場:愛知県 名古屋CLUB QUATTRO

2011年2月26日(土)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:東京都 渋谷CLUB QUATTRO

料金:前売3,500円(ドリンク別)

リリース情報
カジヒデキとリディムサウンター
『TEENS FILM』

2010年11月3日発売
価格:2,800円(税込)
PECF-1023 felicity cap-111

1. あこがれ
2. 僕のベイビー・レモネード
3. 可愛い革命の詩 〜 灼熱のサーヴィス・エリア
4. 亜熱帯ガール
5. PLAYBOY PLAYGIRL
6. River River
7. もう恋しちゃう!
8. スローモーション
9. Happy Talk
10. レモンとオレンジとスクラップ・ブック
11. パラソルでグッバイ
12. TEENS

プロフィール
カジヒデキとリディムサウンター

カジヒデキが今、クラブ/ロックシーンの於ける最重要バンド、RIDDIM SAUNTERとガップリ四つに組んだユニット。オレンジジュースやペイルファウンテンズのような、ちょっぴりソウル風味の爽快なネオアコが全開。アルバムから先行発売した7インチ“亜熱帯ガール/HAPPY TALK”は発売後、すぐに完売に。2月には最初で最後の(?)ワンマン・ツアー“TEENS FILM SHOW”を東名阪福で行います。



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