漕いだり流されたり カコイミクインタビュー

音楽シーンを見渡せば、ソロの女性シンガーは無数に存在するわけだが、その中でも輝きを見せる人というのは、セルフプロデュース能力が高い人なのではないかと思う。歌の上手い人も、容姿の美しい人もたくさんいる中で、いかに自分の得意なこと・やりたいことを見極め、実際にどう実行していくかを考えること。それこそが大事なのではないだろうか。
幼い頃からダンスやピアノに親しみ、絵を書くことや料理も好きだという根っからのクリエイター気質を持ったシンガー・カコイミクは、試行錯誤のときを経て、自らのやりたいことを選び取り、初のフルアルバム『RAFT』を完成させた。大橋トリオをはじめとした多数のプロデューサーが参加し、バラエティ豊かな楽曲を収録した本作の制作を通じて、彼女はより自らを反映した音楽を作る意欲が高まったと語っている。これからそのクリエイティビティとセルフプロデュース能力を、ますます発揮していってくれることを期待したい。

Aメロからサビになったときに、サビの歌詞だってわかるのはこういう感じなんだなとか、そういうことを1人で黙々とやってました。

―小さい頃は歌じゃなくてダンスやピアノをやっていたそうですね?

漕いだり流されたり カコイミクインタビュー
カコイミク

カコイ:新体操のリボンを見て、「あれをやりたい!」って母親に言ったらしいんです。私がやりたかったのは踊りでも何でもなくて、ただリボンをぐるーって回したかっただけなんですけど、連れて行ってくれたのはダンス教室みたいなところで、「リボンないじゃん」って(笑)。ピアノはおじいちゃんが買ってくれたんで、習いに行ってました。


―ご家族も音楽好きなんですか?

カコイ:そうでもないんですけど、「この子は音楽とかエンタテイメントが好きな子なんだ」って思ってたらしくて。

―へえ、何でそう思ったんでしょうね?

カコイ:すごい踊りが上手かったらしいんですよね。親バカだと思いますけど(笑)。それで「この子はこういう才能があるんだ」って思い込んじゃったらしくて、ミュージカル見に行ったりとかさせてもらってました。

―でも実際、親御さんには先見の明がありましたね(笑)。それで、出身の福岡から大阪に移ったときぐらいから、興味が音楽に移行してるんですよね?

カコイ:そうですね。ピアノも踊りもやめちゃって、結構ぼやーっとしてたんですけど、バンドみたいなものをやってみたいって漠然と思うようになって、でも楽器をやってる友達もいないし、とりあえず歌詞かなって思ったんです。知ってる洋楽のポップスに日本語の歌詞を乗せてみたりとか、全然何もフォーマットがない状態で歌詞だけ書いたりとか、中学の時は1人でそういうことをチマチマとやってました。

―ちなみに、どんなことを書いてたか覚えてます?

カコイ:なんか意味のわかんない歌詞でした…この消しゴムはどこから来てどこに行くんだろう、とか(笑)。

―いかにも中学生らしいモチーフですね(笑)。じゃあ、作詞から、実際に歌ってみるようになるのは?

カコイ:文章ばかり書いてたら面白くなくなっちゃって、ピアノで作曲とかできないかなって思ってやってみたら、結構できたんで、それに自分の歌詞を乗せてみたりして、「あ、こういう風に歌謡曲ってできてるんだな」って考えたりしてました。言葉のキャッチ―さとかあるじゃないですか? サビに来るような歌詞っていうのを何となく自分で学んで、Aメロからサビになったときに、サビの歌詞だってわかるのはこういう感じなんだなとか、そういうことを1人で黙々とやってました。

―作詞も作曲も独学で身につけてきたんですね。

カコイ:基本的に何かを作るのがすごく好きで、もしかして歌より得意だったら、絵描きをやってたかもしれないし、とにかく創作するのが好きなんですよ。料理とかも好きだし。あと考えるのがすごく好きなんですよね。「これを作るにはどうしたらいいんだろう?」みたいな。

2/4ページ:ただ言葉にできなかったことをちゃんと形にしたいっていう思いが強かったですね。

ただ言葉にできなかったことをちゃんと形にしたいっていう思いが強かったですね。

―ボーカリストっていうのを意識するようになったのはいつ頃からですか? 大学生のときに念願のバンドに入ったんですよね?

カコイ:楽器じゃなくてボーカルを選んだ理由は、自分の声が好きだったからだと思うんですね。歌ったときに普段と雰囲気が変わるのがすごく面白くて。でも自分がボーカリストだっていう意識は、バンドをやってるときもあんまりなくて、つい最近ですね。ソロになってから。

―バンドをやってるときはどんな意識だったんですか?

カコイ:歌心を伝えるようなバンドというよりは、ボーカルもサウンドの一部みたいな曲調が多いバンドだったので、そこまでエモーショナルに歌う感じではなかったんです。楽器として声を扱うことに100%楽しみを見出せなくて、もっと歌に焦点を当てるような音楽をやりたいと思い始めて。

―最初はとにかくバンドをやりたいっていう気持ちが強かったけど、いざ入ってみると自分のやりたいこととずれがあったと。

カコイ:音楽性自体は好きなジャンルだったんですけど、自分の歌とギャップを感じるようになっていって、でも何がそんなに違和感があるのか自分でもよくわからない状態でずっとやっていて。でも、「何が違うんだろう?」っていうのを言葉にできなかったんです。そうやって自分の意見を言えないと、周りもついてきてくれなくて…そこにすごく葛藤がありましたね。

―その中で、やっぱり歌に焦点を当てた音楽をやりたいっていうところにたどり着いたわけですね。それでバンドをやめて、ソロに転向したんですよね?

漕いだり流されたり カコイミクインタビュー

カコイ:ただ若いうちしかちゃんと音楽と向き合うっていうエネルギーがないかもしれないと思って。(笑)。まったり音楽作るのはいつでもできるけど、ちゃんと聴いてもらうための音楽を考えて作る時期は限られてると思って、ソロになってちゃんと向き合おうと思ったんです。言葉にできなかったことを、ちゃんと形にしたいっていう思いだけですね。


自分がどうすべきで、それを周りにどう分かってもらうかっていうのを考えていましたね。

―実際、東京に来てからの活動は?

カコイ:ちっちゃいライブハウスに出てみたりはしてたんですけど、わりとボーっとしてました(笑)。とにかくライブだけはしておかなきゃと思って、毎月大阪に帰ってライブしたりとか(笑)。

―結局帰ってたんだ(笑)。でも、そんな中で大橋さんとの出会いがあったと。

カコイ:京都のイベントに出たときに大橋さんの名前があって、そのとき「大橋トリオ」っていう名前を知らなかったので、ネットで試聴してみたら「わあ、素敵」と思って。それで「こんな人はどんなところに所属してるのかしら?」っていうささやかな疑問から、今の事務所と連絡を取って、入ることになったんです。

―そこからトントン拍子でデビューまで決まったっていうのはすごいですよね。

カコイ:そうですよね(笑)。タイミングが良かったんだと思います。

―でも、それこそ中学時代から、作詞、1人での曲作り、バンドと、形は変えながらもずっと音楽を続けてきたわけじゃないですか? 途中で「音楽もういいかな」っていう気持ちになったことはありませんでしたか?

カコイ:ありますよ、ソロになったときそう思いました。「なんで私はこんなに音楽というものに執着してるんだろう? 楽しくやってればそれでいいのに、なんで東京まできちゃったんだろう?」って。自分がちゃんとしてないと周りもついてきてくれないから、自分がどうすべきで、それを周りにどう分かってもらうかっていうのをすごい考えてましたね。

―めげずにやってこれたのはどんな思いがあったからなんでしょう?

カコイ:めげそうになったときに、事務所に入ったんです(笑)。1人で考えてるよりも、いろんな人と会話して、「こういうことをしていこうか」って言ってるだけで楽しいじゃないですか? あと基本的に図太いんですよ、繊細ぶって(笑)。

3/4ページ:リスナーとして純粋に音楽を聴いていた90年代は、ポップスにキラキラしたものを感じてたりしたんですね。

リスナーとして純粋に音楽を聴いていた90年代は、ポップスにキラキラしたものを感じてたりしたんですね。

―では『RAFT』の話に行きましょう。たくさんのプロデューサーの方が参加されていますが、クリエイター気質のミクさんからすると、「ここにこの人の曲があって、ここはこの人で…」とかって考えるのは楽しかったんじゃないですか?

カコイ:そうですね。でも結構今回は偶然の産物も多いんです。考えてやってる部分もあるし、「こういうことをやりたいんですけど、どういう人がいいですかね?」って紹介してもらったりもしたし。だから最終的な仕上がりは想像できてなかったです。

―アルバム全体の青写真があったというよりは、一つ一つ、これがやりたい、あれがやりたいっていうことの積み重ねでできてるアルバム?

カコイ:もちろん、バランスやアルバム全体のテーマなんかはちゃんと考えましたけどね。プロデューサーごとにチームが違うから、チームごとで一つの方向に向かっていくんですけど、横のつながりを知ってるのは私だけだから、頭の中で組み立てながら作ってました。

―渡辺善太郎さんの参加は、ミクさんが希望されたそうですね?

カコイ:80年代も、70年代も、年代ごとに色があるじゃないですか? 自分がリスナーとして純粋に音楽を聴いていた90年代は、ポップスにキラキラしたものを感じてたりしたんですね。渡辺さんは90年代にCharaさんとかをやってらっしゃって、そういう人とお仕事してみたいと思って。

―少し前に別のインタビューで、確かに90年代まではその年代の色っていうのがあったんだけど、00年代ってそれがないよねって話をしたんですよね。おそらく、10年代もないんじゃないかって。

カコイ:ホントそうだと思います。00年代って試行錯誤してたっていうか、生み出したような、生み出さなかったような、何って言われても困る10年間だったと思うけど、今思えば90年代にはあったと思うんですよね。音っていう面ではそこまで意識してなかったんですけど、精神的なもので、音楽業界の羽振りも良かったし、好きなことをお金掛けてやれちゃった時代だったりするじゃないですか? 今は残念ながらそうじゃないですけど、そういう無茶できた感じを今の自分なりの解釈でできたらなって。

私は音楽的に「これがルーツにあります」っていうのが特にないんで、それが逆に特徴だと思うし、似合わないことは絶対にやらないっていう。

―「ロックの要素が感じられる音楽に惹かれていることに改めて気づいた」っていうコメントも資料にありましたが、それってもう少し具体的に言うとどういう部分なんですか?

カコイ:ブルース感みたいなところに一番惹かれるんです。ジャンルとかサウンドは何でもいいんですけど、自分の歌はそこを伸ばすべきじゃないかと漠然と思ってて。私は音楽的に「これがルーツにあります」っていうのが特にないんで、それが逆に特徴だと思うし、似合わないことは絶対にやらないっていうスタイルになってきてると思います。

―ご自身が作曲・プロデュースを担当してる曲もありますね。ボーカリストであり、作詞もするっていうのがあった上で、作曲のプライオリティはいかがですか?

カコイ:バンドのときは曲を書く人がいて、自分の中で曲を書くことの順番がかなり下の方に行っちゃってたんですね。でも今回アルバムを作るにあたっては、自分の曲を一曲は入れたいって思ったんです。「私シンガーソングライターなんです」って言いたいわけじゃなくて、せっかく1枚目だし、自分のことを一番わかってるのは自分だから、こういう世界観なんですっていうものが出せればいいなって。

4/4ページ:日本語っていう言葉の文化の中で生まれてきたメロディっていうのは、世界で見てもクオリティが高いと思うんです。

とにかく赤裸々な、あんまり人に見せたくないような歌詞にしたいと思って、それだけを思ってずっと書いてました。

―ミクさんが作曲してる“雪”は、歌詞も一番個人的な内容なのかなって思いました。

カコイ:そうです。こういう歌詞は普段書かないんですけど、自分の曲ぐらいは恥ずかしくしちゃおうって(笑)。曲自体は4年ぐらい前に作った曲なんですけど、自分の曲の歌詞を書くのにすごい時間がかかっちゃうんですよ。曲を書くのと詞を書くのって私の中では分かれていて、人の曲の世界観はすぐ頭に入ってくるんですけど、自分が出した世界観にイメージをつけるのが難しくて。今回のは、とにかく赤裸々な、あんまり人に見せたくないような歌詞にしたいと思って、それだけを思ってずっと書いてました。

―音楽を続けていくいことの苦しみや悩みが表れてますよね。

カコイ:いろんな人と関わって生きていくことは、純粋に自分の思いだけじゃできない部分ももちろんあるし、そこから派生して生まれてくるいろんな大変なこともあれば、楽しいこともあるしっていう、そういう中でできた曲ですね。

―ミクさんの詞は一面的じゃないのがいいなって思うんですよね。ただ楽しい、明るいでも、ただつらい、悲しいでもなくて、どっちもちゃんとあるっていう。

カコイ:書いてるときは1人で考えすぎちゃうんですよね。ハッピーなことを書いてるつもりでも、「そんな幸せなことあるわけないじゃん」って突っ込みが自分の中で入ってきたり、逆に「そんな絶望的じゃないだろ」とか。そういういろんなことを考えながら書いてると、混ざっちゃうんですよね。

―でも、そういう方がリアルですよね。

カコイ:そうですよね。ありがとうございます。

日本語っていう言葉の文化の中で生まれてきたメロディっていうのは、世界で見てもクオリティが高いと思うんです。

―『RAFT』っていうアルバムタイトルにはどんな意味があるんですか? 「イカダ」のことですよね?

カコイ:今日のインタビューでおっしゃっていただいたように、あっちに行ったりこっちに行ったり、流されたり、自分で漕いでみたりっていうスタイルで今ここに至るっていう。豪華客船に乗って悠々自適にやってきたわけではないし、かといって1人で漕いできたわけでもなくて、風があったり、波があったり、そういう中でやってきたので。

―なるほど、今までの集大成的な意味があるわけですね。ちなみに、まだ今もイカダに乗ってるんでしょうか?

カコイ:イカダにちょっとジェットがついた感じ(笑)。

―(笑)。では、そのジェットのついたイカダに乗って、今後はどのようなキャリアを築いていきたいとお考えですか?

カコイ:途中でも言ったように、自分で曲を書くことにそんなに前向きじゃなかったんですけど、今回やってみたらすごく楽しくて、「あ、できるんだ」って思ったので、増やしていけたらいいなと思います。あと今回はいろんな人にやってもらったんですけど、決まったメンバーで動いていけるような制作スタイルができれば一番理想的だと思っていて、「私の曲で演奏してもらうのはこの人」みたいな。よりバンドっぽい作り方、録り方ができたら面白いだろうなって。

―じゃあ最後にもう一問だけ。以前、CINRAで大橋トリオさんにインタビューさせていただいたときに、大橋さんは日本人の音楽がもっと世界で聴かれるようになればいいということを強くおっしゃってたのが印象的だったんですけど、ミクさんはどうお考えですか?

カコイ:(その気持ちは)ありますよ、やっぱり。歌謡曲のメロディのクオリティはワールドミュージックとしても素晴らしいと思うんですね。洋楽を聴いていい曲だと思っても、日本語に置き換えてみるとそんなたいしたメロディじゃなかったりするので、日本語っていう言葉の文化の中で生まれてきたメロディっていうのは、世界で見てもクオリティが高いと思うんです。自分は日本語で歌う人だし、洋楽っぽいことをやりたいわけじゃないんで、日本語の歌で、メロディで、サウンドはいろんな要素があってっていう音楽を作りたいんですよね。

リリース情報
カコイミク
『RAFT』

2011年5月18日
価格:2,500円(税込)
Knife Edge / PCCA-3416

1. エンプティ・エンプティ
2. IROHA
3. イン・ザ・ダーク イン・ザ・ライト
4. 好きさ
5. 彼の陽、彼の場所
6. RAFT SONG
7. 雪
8. I GO HOME
9. ロマンチックストレンジャー
10. よごれた靴
11. 歩いて帰ろう

プロフィール
カコイミク

O型。福岡県出身。3歳の頃からジャズバレエとピアノを習い始め、マイケル・ジャクソンや当時の流行の洋楽をなんとなく聴いて育ちダンスと音楽に親しむ少女時代を過ごす。大学入学後、個人で音楽活動をしていた2003年頃に大阪でバンドのボーカリストとして加入したことがきっかけとなり、2006年にBMG JAPANのインディーズから1st mini album『飾らない情熱』にてデビュー。2009年7月、大橋好規(大橋トリオ)のプロデュースによりmini album『DIGIDIGI LALA』をリリース。2011年5月18日にアルバム『RAFT』をリリースした。



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