苦しみの先にあった言葉 NIKIIEインタビュー

昨年発表された初のフルアルバム『*(NOTES)』は、それまでのNIKIIEがノートにびっしりと綴ってきた変身願望を基にした、まさに彼女の原点というべき作品だった。今の季節にピッタリのサニーサイドポップから、美しいバラードまでを収録した新作『hachimitsu e.p.』は、いわば新しいノートを手に再出発を果たした、その最初の一歩である。もちろん、そのノートにはまだ余白がたくさんあるのだが、今のNIKIIEはその余白部分に秘められた可能性に対し、迷い悩みながらも、楽しんでいるように感じられる。おそらく、これからこの余白も徐々に埋められていくことだろう。しかし、『*(NOTES)』と大きく違うのは、そこにはNIKIIE自身のことだけでなく、彼女にとっての大切な誰かや何かも綴られていくであろうということだ。そうやって、彼女の世界は今まさに外へ外へと開かれていっている。

余白があるというか、そんなに全部詰め込まなくても、芯がちゃんとぶれずにあれば、そのまま伝わるんだなって。

―1stアルバム『*(NOTES)』は自らの原点とも言うべき作品だったと思うのですが、それをリリースしたことで、何かNIKIIEさんの中で変わったことはありますか?

NIKIIE:いい意味で、曲に対して向き合う時間が短くなりましたね。以前は少しでも疑問に思ったら、何十回もその曲を聴いたりしてたんですけど、今はナチュラルにいられるようになりました。そのお陰で、その場で自分が思ったことを楽しみながら試せるようになったりとか、ポジティブに変わった感じがあります。

―肩の力が抜けて、リラックスして音楽と向き合えるようになったんですね。

NIKIIE:あと去年は誰にとってもものすごい激動の1年だったじゃないですか? そういう中で、自分をコントロールできなくなっちゃったというか、ひたすら「自分のやれることを」ってがむしゃらだったんです。そういう中でもアルバムを出してツアーをやって、一段落したときに改めてそこでできた隙間と向き合って、その隙間を表現するために、映画やライブを見に行ったりする時間をわりとたっぷり作りました。それを自分の表現の糧として、『hachimitsu e.p.』に向かった感じでしたね。

―そうやってインプットしていく中で、特に影響を受けたものを挙げるとしたら?

NIKIIE:一番大きかったのは、ジェーン・バーキンの来日ライブに行ったことですね。喜びは喜びのまま、悲しみは悲しみのままに表現していて、その姿を見たときに、自分もありのままでいいんだなって感じたんです。歌詞はフランス語なので何を言ってるかは分からないんですけど(笑)、でも歌から来る気持ちにすごく動かされたんです。余白があるというか、そんなに全部詰め込まなくても、芯がちゃんとぶれずにあれば、そのまま伝わるんだなって。彼女の姿を通じてそれを感じて、そうありたいなってすごく思いました。

―それって自分のツアーから得た自信とかも影響してるんじゃないですか?

NIKIIE:ツアーは…すごい葛藤の連続でしたね。ステージに立ってるときはとにかくやり切ることに集中してるんですけど、ステージを降りてからは常に自問自答していました。今まではわりと閉ざしたライブをしていて、自分から(お客さんに)歩み寄るというよりは、壁を作ってライブをしてたんです。でも、今回は自分から歩み寄ってみたいという気持ちがあって。その扉を開くのはすごく怖かったんですけど、そこに嘘をつかずにやり切りたいと思って。

NIKIIE

―やっぱり『*(NOTES)』っていう作品は基本的に「私」を表現した作品で、それを作ったことによって、今度は「伝える」「届ける」っていう方向に目が向いたんでしょうね。『hachimitsu e.p.』は間違いなくそういう作品になってると思うし。

NIKIIE:やっぱり曲を書くときはどうしても自分1人しかいないし、1人の世界の中だけで完結した歌だったりとかして、それをどう伝えていくかっていう課題は、今後もずっと続いていくんだろうなって思いました。でも、きっと毎回迷うけど、迷うことによってまた違った自分が見えたり、違う形で表現できたりすると思うんで、迷い続けて…いきたくはないんですけどね(笑)。

2/3ページ:「苦しい」「せつない」って思ってたんですけど、言葉にするとすごく温かいものだった。

「苦しい」「せつない」って思ってたんですけど、言葉にするとすごく温かいものだった。

―そうやって迷いながらも、作品を形にする中で見えてくることは絶対ありますよね。

NIKIIE:そうですね。形になって初めて、「あ、自分はこういうのを求めてたんだな」って、意図しないで出てくるものがあって、今回の『hachimitsu e.p.』でもそれはすごく多かったです。収録する曲を考える中でも、わりとポップでキャッチーな、自分の痛みとか苦しみをちゃんと消化してる曲を選んでるんですよね。

―アルバム全体として開けてる感じがすごくあって、「私」が中心にはいるんだけど、「私」と「誰か」の関係性の曲になってるものが多いなって思いました。その中で、1曲目の“カナリア”はNIKIEさん自身のことを歌った曲で、『*(NOTES)』と『hachimitsu e.p.』をつないでいる曲なんじゃないかなって。

NIKIIE:“カナリア”は1曲目しかないって思ってましたね。っていうのも、作品を作ることになって、一番最初に「この曲を入れたい」と思ったからなんです。曲を書いたのは、音楽でやっていこうと思ってる自分と、それに伴わない現実があったすごく苦しい時期で、「音楽嫌いになれたらな」って思う瞬間もいっぱいあったんですけど、でも好きなんですよね。そこを忘れないでいたいなってすごく思って、サビで<I wanna love you>って何回も歌ってるんです。

―音楽に対するラブソングになってるわけですね。

NIKIIE:大事にすればするほど力が入ってしまって、<すり抜けて行く>っていう。去年もそういう状態だったんですけど、そこからわりと脱した状態でこの曲のレコーディングが始まったので、タイミング的にも合ってて、心情と被りましたね。

―一方、ラストに収録されてる“good night my sweet home”は、震災で壊れてしまった茨城の実家へのラブソングになっているわけですよね。

NIKIIE:最初に言った自分がコントロールできてなかったときって、闇が深くて、きっとそれを受け止めようとしたら全部が止まってしまうこともわかっていたので、蓋をして過ごしてたんです。でも、曲作りをしててもどこかに突っかかってる部分があって。それで1回その蓋を取り払って、誰に聴かせるつもりもなく、素直に自分の中で書いてみようと思ったのがこの曲だったんです。「苦しい」「せつない」って思ってたんですけど、言葉にするとすごく温かいものだったことに気が付いて、そこから少しずつナチュラルに過ごせるようになったんです。

―レコーディングはそのご実家で行われたんですよね?

NIKIIE:今はもうその家は壊してなくなってしまったんですけど、その前にレコーディングをしたいと思って、実家にスタッフみんなを引き連れて(笑)。玄関に卓を作ったり、隣の和室でスタッフが動画を撮ったりとかしていました。そういう中で、録音の合間にディレクターが玄関で鼻歌で歌ってたのを聴いたら、1人では乗り越えられなかったなって痛感して。それでコーラスに参加してもらったりして、すごく思い出になりましたね。

どの曲でも歌ってるのは、対相手だったり、対大事なものだったりして、つながりを強く求めたり、確認する歌だったんです。

―そんないろんな曲が入った作品に、なぜ『hachimitsu e.p.』というタイトルをつけたんですか?

NIKIIE:曲を並べてみたときに、それぞれの曲がそれぞれの方向を向いてるなって思ったんですけど、でもどの曲でも歌ってるのは、対相手だったり、対大事なものだったりして、つながりを強く求めたり、確認する歌だったんです。それを表す言葉をタイトルにしようと思って、最初はひとつひとつ表情が違うから花束みたいだと思ったんですけど、もっと密な関係性のイメージがあったので、表情の違う花の蜜がひとつになってできる蜂蜜にたどり着いたんです。

―なるほど、そういうことなんですね。これ、ジャケットもすごく印象的ですよね。

NIKIIE『hachimitsu e.p.』ジャケット画像
NIKIIE『hachimitsu e.p.』ジャケット画像

NIKIIE:最初は頭に花を乗せたいって言ってて、あとは自由にデザイナーさんに考えてもらったんですけど、アイデアを持ってきてもらった中に、紅茶を頭で入れてるのがあって、すごくいいなって思ったんですよね。蜂蜜って単体で聞くとすごく甘くて優しい印象の言葉だと思うんですけど、実際にはそれだけじゃなくて、自分の中でいろんなことを消化した上での言葉なんです。だから、絵の中に紅茶みたいな苦いものが入ってるのはすごくいいなって。インパクトもあるし(笑)。

3/3ページ:何かをひとつ選択すると、その他って中途半端に握っていられないじゃないですか? だから怖いなって思うけど、「それ!」って決めたときのパワーってその何倍もある。

あまり決めずに自由にやってもらったら、すっごい楽しくて。「音楽してる!」みたいな(笑)。

―前回の取材のときに、曲を作ったりピアノを弾いたりすることには研究者のような側面があるっていう話をしたと思うんですけど、そういう研究的な側面と、もっとイメージとか感覚で作る部分、そのバランスってどうなっているのでしょう?

NIKIIE:研究的な要素から発信されたものって、クオリティは高いと思うんですけど、面白味や人間味がない気がするんです。例えば、バンドとリハに入って、休憩が終わって、それぞれが音出しを始めたらセッションっぽくなって、「めっちゃいい!」みたいな、あの瞬間は絶対に計算してできるものじゃないし、計算したものはそこを超えられない気がするんですよね。

―今回の曲で言うと、“ito.”ってそういうセッションからできた曲だったりしますか?

NIKIIE

NIKIIE:そうなんです。この曲は、他の曲が全部決まった後で、その他の曲たちをつなげる曲が欲しいなって思って書いた曲でした。最初はアレンジャーさんにお願いしてもいいかなって思ってたんですけど、ディレクターが「自分でやってみたら?」って提案してくれて。それでいつもやってくれてる朝ちゃん(朝倉真司)と鹿島(達也)さんと何も決めずにヌルッとスタジオに入って(笑)、あまり決めずに自由にやってもらったら、すっごい楽しくて。「音楽してる!」みたいな(笑)。


―最初に言ってた「何十回も聴き直す」っていうことをやっていた頃だったら、絶対にそんな作り方はしないですよね。

NIKIIE:しなかったと思います。もっと音をいっぱい入れてたかもしれないですね。でも今回は全曲通して余白が大事だと思っていたので、この曲は特にその根っこになる曲かなって。

―ああ、確かにそうですね。もちろん、アレンジャーさんにアレンジしてもらうのもいい経験になるし、ずっと同じメンバーでやることのバンドマジックみたいなものもあるし、それぞれの魅力がありますよね。

NIKIIE:そうですね。アレンジャーさんと一緒に作ってるときはすごく勉強になって、“涙星”は元々間奏がなかったんですけど、作ってくれて、そのコード進行は私の引き出しになかったんですよね。そういうところは勉強させてもらってて、やっぱり1人じゃ限度があるし、知識もまだまだなので、大事な時間ですね。

何かをひとつ選択すると、その他って中途半端に握っていられないじゃないですか? だから怖いなって思うけど、「それ!」って決めたときのパワーってその何倍もある。

―プロフィールを見てたら、「music」の欄にTeam MeとFlorence + The Machineが加わってましたけど、これって最近のお気に入りなんですか?

NIKIIE:ですね。フローレンスは、ギリギリのラインというか、すごく凛としてるし美しいんだけど、すごいヒリヒリ傷ついた部分も見えてくるっていうか、アーティストとしてすごいなって。

―前からキャロル・キングとかブリトニー・スピアーズが好きって言っていましたが、よく考えるとその2人を並べる人って珍しいなと思って。実際表面的な音のタイプはかなり違いますよね? でも、フローレンスも含めて、音から伝わる内面のエモーションみたいな部分で言うと、この3人の名前が並んでても決しておかしくないなって。

NIKIIE:人間性がわかるというか、表現しようとしなくても出ちゃうみたいな、その感じがある人が好きなんですよ。だから、ブリトニーはゴシップも多いけど、作品ごとにチャレンジしてくるから毎回アルバムが楽しみだし、やっぱりすごいアーティストだと思うんです。名前を挙げた人はみんなそうですね。

―NIKIIEさんって基本的には洋楽ファンだと思うんですけど、日本語で歌うことの難しさって感じます?

NIKIIE:日本語のリズムって難しくって、そのリズムでしか伝わらなかったりとか、ちょっと字余りしただけでその意味が薄まっちゃったりとか、すごく難しいなって思います。でも、それって何曲も何曲も書かないとわからないことだったりして、日本語が美しいと思えるようになったのって、ホントに最近なんですよね。だからきっと、常に迷いはあると思うんですけど(笑)。

―書けば書くほど、もちろん慣れも出てくるだろうし、技術的にも高まるけど、その分迷いも生まれてくると。

NIKIIE:ありますね。新しい言葉、新しい答えを見つけていく中で、毎回悩むしチャレンジだけど、でもそれがあるから曲を書いてるのかなって思いますね。

―最初に話したライブの話と同じで、迷いや悩みはこれからも続くんでしょうね。でも、今までは選択肢が少なかったから迷いも少なかったけど、可能性が開けてきたからこそ、その分迷いも生まれてるってことなんだと思います。

NIKIIE:そうですね。何かをひとつ選択すると、その他って中途半端に握っていられないじゃないですか? だから怖いなって思うけど、「それ!」って決めたときのパワーってその何倍もあるから、その気持ちをこれからも大事にしていきたいですね。

リリース情報
NIKIIE
『hachimitsu e.p.』

2012年4月11日発売
価格:1,890円(税込)
COCP-37254

1. カナリア
2. Say you love me
3. 涙星
4. ito.
5. 3sec.
6. good night my sweet home

イベント情報
『NIKIIE LIVE TOUR 2012「hachimitsu」』

2012年6月17日(日)
会場:福岡県 福岡 ROOMS

2012年6月23日(土)
会場:大阪府 大阪umeda AKASO

2012年6月24日(日)
会場:愛知県 名古屋 BOTTOM LINE

2012年6月29日(金)
会場:東京都 渋谷 duo MUSIC EXCHANGE

プロフィール
NIKIIE

1987年、茨城県出身。4歳からピアノ教室へ。周りと馴染めない混沌とした日々の中、ピアノと音楽に癒され育つ。16歳より作詞・作曲、オーストラリアホームステイ時の経験がその後の音楽活動に影響を与える。高校卒業後上京、ライブを中心に都内で活動。2010年12月1日、シングル「春夏秋冬」でデビュー。同曲は12月度FMパワープレイを42局獲得、歴代女性アーティストとしての史上最多獲得記録を更新した。独特の詩世界と、声、ライヴパフォーマンスが注目を集める。2ndSingle「HIDE&SEEK」は代々木ゼミナールCMソングに抜擢され話題に。2011年7月13日に1stアルバム「*(NOTES)」をリリース。そして、新しく発表された楽曲「涙星」がテレビ朝日系木曜ミステリー『科捜研の女』の主題歌に大抜擢される。その「涙星」を含む待望のミニアルバム『hachimitsu e.p.』を4月11日にリリースする。



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