「男のためのプラネタリウム」を作ったプロデューサーの挑戦

Underworldの楽曲に身を委ねながら、声優・杉田智和のナレーションに導かれ、遠い宇宙の果てへと旅をする。まるで、人気アミューズメント施設にある「ライド系アトラクション」のような体験ができるプラネタリウムのプログラム『Dancing in the UNIVERSE』が、コニカミノルタプラネタリウム“満天” in Sunshine Cityにて11月よりスタートした。

同館といえば、これまでにもサカナクション、GLAY、Superflyなど数々のミュージシャンとコラボしたプログラムを公開し、話題を集めてきたプラネタリウムである。今作では、UKクラブミュージックのカリスマ的存在であるUnderworldの代表曲をフィーチャー。まるでミュージックビデオのようなエッジの効いた映像の数々は、「プラネタリウム=デートスポット」や「女性が楽しむ場所」といった従来までのイメージを大きく覆すものとなっており、例えば、男性が一人でふらっと観に行ったとしても充分楽しめる空間といえるだろう。

この画期的なプログラムをプロデュースしたのは、コニカミノルタプラネタリウム株式会社の作品プロデューサー、林寛之。「観る前と観た後で、モノの見方が変わるようなプログラムを作りたい」と語る林は、本作『Dancing in the UNIVERSE』をどのように作り上げていったのだろうか。

久々にプラネタリウムを観て「これは何か、新しくて面白いことができるんじゃないか?」と。

—林さんは現在、コニカミノルタプラネタリウム株式会社でプログラムの企画を担当されていますが、以前はテレビのバラエティー番組を作っていたそうですね。

:はい。昔からお笑いが大好きで、自分でもお笑いの番組を作ってみたくて。大学を出てすぐ、番組の制作会社に入ったんです。

『Dancing in the UNIVERSE』プロデューサー林寛之
『Dancing in the UNIVERSE』プロデューサー林寛之

—ちなみに、好きな芸人さんは?

:昔から、くりぃむしちゅーが大好きです。だから今でも、お笑いとプラネタリウムを融合したものは、いつか作ってみたいと思っていて。

—落語とプラネタリウムのコラボレートは時々あるし、掛け合わせたら何か斬新なプログラムになりそうですね。

:ただ、私自身プラネタリウムで10年くらいやって来た中で、「プラネタリウムとお笑いは合わない」という判断を自分の中で出してしまったんですけど(笑)、もしかしたら何か方法はあるんじゃないかと模索しています。

—バラエティー番組の制作からプラネタリウムへ転職されたということは、映像作りは続けていこうと思われたんですね。

:はい。ちょうど担当番組が終わるタイミングで、自分のキャリアの積み方を見直そうと思ったときに、今までとは違う分野にチャレンジしてみるのもいいなと考えて、今の会社に転職しました。もう、かれこれ10年くらい前ですね。

—もともと、プラネタリウムにも興味があったのですか?

:小さい頃は、ときどき観に行きました。名古屋にある「名古屋市科学館」で観たプラネタリウムが、すごく楽しかった記憶が残っていて。

転職を考えるにあたって、当館のプログラムを観たんですが、小さい頃に観たプラネタリウムからのあまりの変化に驚きました。「これは何か、新しくて面白いことができるんじゃないか?」と思ったんです。それも入社の決め手となりましたね。

『Dancing in the UNIVERSE』プロデューサー林寛之

—入社後は、どんなことをされてきたのですか?

:入社してすぐは、全国の科学館や博物館で投映されるプログラムの制作をお手伝いしていました。科学館・博物館のスタッフは、情熱溢れる人が多くて。そういう方々に、プラネタリウムとはどういうものか、宇宙の楽しさはどういうものなのかを沢山教えていただきました。全国各地の科学館・博物館に、自分の師匠がいるような感じですね。

あるプラネタリウム館の学芸員の方からは、例えば、ナレーションでは子供でも分かるような平易な表現を使うこと、それも自分の言葉で落とし込むことなど、様々なプログラム制作の秘訣を教わりました。それは、私がプロデュースした『Feel the Earth 〜Music by 葉加瀬太郎〜』や、今回の『Dancing in the UNIVERSE』にも活かされていると思います。

Underworldの楽曲であれば、「宇宙の中の何か」ではなく「宇宙そのもの」を表現したら面白いと思った。

—『Dancing in the UNIVERSE』を観させていただきましたが、プラネタリウムの概念を覆されました。「アトラクション」に近い感覚というか(参考記事:大音量のUnderworldサウンドで味わう、満天のプラネタリウム)。

:ありがとうございます。

—この作品はどんな経緯で制作されたのでしょう?

:当館で制作しているプログラムは「音楽」を軸にしたものが多いのですが、その中でもテクノミュージックは「絶対に合うだろう」というのは以前から思っていたんです。それで、実際にプログラムを作りたいと考えたときに、「テクノといえば誰だろう?」と検討して挙がったのがUnderworldでした。

—いきなり本丸ですね。

:ええ。そんなビッグアーティストが楽曲の使用を許諾してくれるのかな……? と、最初は半信半疑だったんですけど、本人サイドから「NO」と言われるまで交渉してみることにしたんです。そこから、Underworldの音楽を使わせていただけるなら、どんな映像や内容がいいだろうと考えていきました。

—Underworldの楽曲ありきで考えたわけですね。

:はい。“Born Slippy(Nuxx)”や“Two Month Off”のような楽曲をフィーチャーするのであれば、やはり壮大なテーマの方が合うだろうし、「それならいっそ宇宙を丸ごとテーマにしてしまおう」と。「宇宙の中の何か」、ではなく「宇宙そのもの」を表現したら面白いんじゃないかということで、内容が決まっていきました。

杉田さんのナレーションが入ったときに、楽曲の音量を下げるようなことはしたくなかった。

—『Dancing in the UNIVERSE』は、私たちが暮らす地球から始まり、太陽系、天の川銀河、そして宇宙の果てへと、どんどん俯瞰していく壮大なプログラムでした。作品には、どんなこだわりがありますか?

:今回、ナレーションを声優の杉田智和さん(代表作に『METAL GEAR SOLID PEACE WALKER』のカズヒラ・ミラー役、『ジョジョの奇妙な冒険』のジョセフ・ジョースター役、『涼宮ハルヒの憂鬱』のキョン役、『銀魂』の坂田銀時役など)にお願いしたのですが、杉田さんの声とUnderworldの楽曲を、きちんと両立させるのにはこだわりましたね。どちらのファンにも楽しんでいただきたかったので、例えば杉田さんのナレーションが入ったときに、楽曲の音量を下げるようなことはしたくなかったんです。

—それは例えば、Underworldの周波数帯域で、杉田さんの声と被るところを削るとか?

:そうです。そうすることで、あれだけ楽曲を大音量で流しても、杉田さんの声が埋もれず前に出てきているわけです。

—なるほど。映像もかなり斬新で驚きました。プログラムが始まって最初の10分くらいは星空が出てこなくて(笑)。ひたすらビデオドラッグのような、アブストラクトかつスペイシーな映像が繰り広げられます。あの美しくもスタイリッシュな映像は、どこから思いついたのでしょう?

『Dancing in the UNIVERSE』の様子
『Dancing in the UNIVERSE』の様子(サイトで見る

『Dancing in the UNIVERSE』の様子
『Dancing in the UNIVERSE』の様子(サイトで見る

:監督を務めてもらった、イメージファクトリーの大竹宏さんによれば、映像面で参考にしたのはリドリー・スコット監督の『プロメテウス』(2012年)だと話していました。

—確かにオープニング映像は、映画『プロメテウス』の中で異星人の宇宙船に乗り込んだアンドロイドのデヴィッドが見る、立体星図のホログラムを彷彿とさせます。11月3日からすでに上演がスタートしていますが(2018年9月24日まで)、反響はどうでしょうか?

:ご覧いただいた方の感想を聞くと、Underworldの楽曲や映像はもちろんですが、杉田さんのナレーションを喜んでいただいている意見が多かったのにはびっくりしました。Underworldのファンにも杉田さんのファンにも、満足いただいているようです。

『Dancing in the UNIVERSE』プロデューサー林寛之

「俺たちが本当に観たいプログラム」というところに、とことんこだわって作った作品でもあるんです。

—プログラムは、どんなことを考えながら制作されていくのでしょう? アイデアや発想はどんなところから?

:まず、どんな人に観て欲しいかをきちんと設定することですね。館によって来館される客層が変わってきます。子供メインの科学館もあれば、大人向けで専門性の高い博物館もある。となると当然、扱うジャンルも変わってきますよね。それから、旬なものをテーマにすること。ちょっと前に探査機「はやぶさ」が流行ったり、来年夏には「火星大接近」があったり、そういうところからもヒントを得ることはありますね。

—今回の『Dancing in the UNIVERSE』は、どんな人に観て欲しいと思って制作されたのでしょう?

:男性の方に沢山観に来ていただきたいと思って作りました。じつはこの作品は、男性社員の有志が集まり、「俺たちが本当に観たいプログラム」というところに、とことんこだわって作った作品でもあるんです。男だけでカラオケボックスにこもって、「ひたすら大音量でUnderworldを聴く会」を開いたり(笑)。

—それはすごい(笑)。男性社員のロマンが集結した作品ですね。

:はい。やはり、コニカミノルタプラネタリウムが直営するプラネタリウム“満天”・“天空”はカップルや女性のイメージが強くて。実際、これまでの当館の男性の来客率は、2割くらいで、その2割も「(女性との)デートで訪れた」という人がほとんどなんです。

だけど、今回の『Dancing in the UNIVERSE』は、男性が会社帰りに一人でふらっと来たり、男性同士で映画やクラブに行ったりするような感覚で観てもらえるようなプログラム作りを目指しました。今まで誰も観たことのないような、体感するプログラムに仕上がったと思っています。

『Dancing in the UNIVERSE』プロデューサー林寛之

自分が観てきたものや読んできたもの、体験してきたことからしかアイデアは生まれない気がします。

—プラネタリウムを通して、何を伝えたいと思っていますか?

:どの作品でもそうですが、観る前と観た後で、例えば「空」や「星」に対する見方やイメージが変わるような、そんなプログラムが出来たらいいなと思っていて。帰り道にふと空を見上げた時、いつもとは違う感情が生まれてくるような。「意識が変わる」とまではいかなくても、何かしら心に残るものができたらいいなと思っています。

『Dancing in the UNIVERSE』プロデューサー林寛之

—モノの見方やイメージを変えるって、例えばどんなことをされているのでしょう?

:例えば今回の『Dancing in the UNIVERSE』もそうですが、「自分たちがいる場所」を意識してもらうことが大切なのかなと。そして、今観ている星は単なる光の点ではなくて、宇宙の一部である。つまり、私たちと同じ世界に含まれているのだということに気づかされるような、そういう作品作りを常に意識していますね。

—確かにそうですね。先ほども言ったように、「今、自分たちのいる場所」から始まり、文字通り「宇宙の果て」まで連れて行ってくれるプログラムでした。しかも、宇宙には反復するリズムがあって、その中で私たちが生きているということを、Underworldの楽曲のビートに乗って「体感」する。本当に、アトラクションのような楽しさもあります。

:そう思っていただけたら嬉しいです。

『Dancing in the UNIVERSE』プロデューサー林寛之

—コニカミノルタプラネタリウム“満天” in Sunshine Cityでは、これまでにもサカナクションやGLAYとコラボするなど、音楽へのこだわりを強く感じます。

:プラネタリウムと音楽の親和性は高いと思っています。たまに館内で一人で作業しているときに、イヤフォンで好きな音楽を聴きながら星空を投映して気分転換することもあるんですけど、ものすごく贅沢な気分を味わえます(笑)。結構、どんな音楽でも合うような気がしますね。

—それは最高の息抜きですね(笑)。どんな音楽がプラネタリウムに合うと感じましたか?

:ロックが好きで、例えばThe BeatlesやOasis、くるり、奥田民生さん、椎名林檎さんなどよく聴くのですが、プラネタリウムにも合うと思いました。

—ロックとプラネタリウムの融合って面白いですね! いつか「ロックと宇宙」をテーマにしたプログラムも観てみたいです。今後、チャレンジしてみたいプログラムはありますか?

:プラネタリウムで出来ることって、まだまだ沢山あると思うんです。そこは果敢にトライしていきたいですね。例えばナレーションが全くなくても成立するくらい、シンプルなプログラムとか。あるいは星空だけをひたすら映し出すプログラムとか、今までになかったような、プラネタリウムの概念を覆すような作品を沢山作りたいと思っています。

イベント情報
『Dancing in the UNIVERSE』

2017年11月3日(金・祝)~2018年9月24日(月)
会場:東京都 池袋 コニカミノルタプラネタリウム“満天” in Sunshine City

プロフィール
林寛之 (はやし ひろゆき)

コニカミノルタプラネタリウム株式会社のプログラム企画担当・プロデューサー。テレビのバラエティー番組制作に携わった後、2008年より現職に。直営館をはじめ、全国の科学館・博物館で投映するプラネタリウム番組や番組素材を制作している。これまでに担当した直営作品に、『Feel the Earth~Music by 葉加瀬太郎~』や『ALMA まだ見ぬ宇宙へ』などがある。



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