スーパースターに学んだこと 大橋トリオインタビュー

CINRAではこれまで何度も大橋トリオへの取材を行ってきたが、その度に彼が口にしていたのは、海外での活動展開と、自分が日本人であることのジレンマだった。そして、そんな彼にとって、あくまで日本人らしく、海外のミュージシャンにも全く引けを取らないクオリティーとオリジナリティーで音楽を作り続けている人物の代表が、矢野顕子だったのである。今回の取材の中でも、「天才」「スーパースター」「神」「怪物」「一番すごい人」と、矢野に対しては最大級の賛辞を惜しむことなく連発していたことからも、大橋の矢野に対する敬愛は相当なものであることがよくわかる。そして、そんな矢野との共作を果たした“窓”を含む、初の全編コラボレーションアルバム『White』は、彼にとってひとつの区切りとなる作品だという。今回の経験で手にした自信を大きな財産とし、大橋トリオはまた新たなる道へと、一歩踏み出そうとしている。

矢野さんの『SUPER FOLK SONG』が大好きで、音に説教されてる感じがするんです。

―まずは、今回コラボアルバムをリリースするに至った経緯を話していただけますか?

大橋:これまでインディーズから含めると全部でCDを10枚出していて、ひとしきりやった感があったので、区切りというか、そういう意味があります。この次にやりたいことがもうあったりするんですけど、一緒に曲を作りたいアーティストさんがいたので、新しい曲と今までの曲を足して、それをひとつの形にするのもアリなのかなって。

大橋トリオ
大橋トリオ

―確かに、前回の『L』『R』の取材のときに、「一人ではやりきった感がある」っていう話をしてましたもんね。だから、今回の『White』っていうタイトルは、一度自分のスタイルを白紙にした上で、いろんな方と一緒にやって、自分のやれること・やりたいことを再確認するっていう意味もあるのかなって。

大橋:おっしゃる通りで(笑)。そう取っていただいてもいいし、他のフィーチャリングするアーティストさんの色に染めてもらうっていうのもあるし。

―『L』『R』をリリースして、そのツアーファイナルが3月の渋谷公会堂だったじゃないですか? そこでも改めて一区切りって感じました?

大橋:そこまで意識はしてなかったかな。次に考えていることがあって、今また曲を作ってるんですけど、今はそれに向かってますね。

―じゃあ、それについては最後に改めて話していただくことにして、まずはアルバムについて聞かせてください。非常に豪華な参加者の中でも、やはり一際目につくのが矢野顕子さんの参加ですよね。

大橋:言ったら、大ファンなんです。でも、すごいこだわりの強い方だし、お会いしたこともなかったので、ものすごいハードル高いだろうけど、この際だから当たって砕けろでオファーしてみようって。たまたまその頃にJ-WAVEの『TOKYO M.A.P.S』というイベントで矢野さんがオーガナイズをしてらして、どういうわけか呼んでいただいたので、それもあったから話は早かったんです。ただ、その分ますます気持ちのハードルが上がって、「絶対いいものにしないといけない」って思いましたね。

―そのイベントで初対面ということですよね? どんなお話をされたか覚えていますか?

大橋:ええと……覚えてないですね、あまりの緊張で(笑)。スーパースターですからね。放ってるオーラが半端ないですから、簡単には近づけないです。

―昔から矢野さんの音楽を聴いてらっしゃったんですか?

大橋:そうですね。ルーツにジャズがあるので、僕にとっては非常に聴きやすいし、それにオリジナリティーの塊じゃないですか? 他に絶対いない、いわゆる「天才」っていうイメージでした。

―今日で大橋さんに取材させていただくのは3回目なんですけど、度々話題に上がるのが、海外での展開と、日本人であることのジレンマっていうことだったりするじゃないですか? そういう意味でも、まさに矢野さんっていうのは、あくまで日本人らしく、高いクオリティーとオリジナリティーを持って音楽を作るっていうことを体現している方ですよね。

大橋:完全にそうですね。実際にニューヨークで長い間活動もされてますしね。僕は特に『SUPER FOLK SONG』が大好きで、音に説教されてる感じがするんです。だから、あれを聴くときは電気を真っ暗にして、正座して、大音量で聴くようにしてます。グッと来すぎちゃって、苦しいぐらいなんですよ(笑)。

自分に足りない部分は何百とあったんですけど、「間違ってました」っていうのは、実はそんなになかった。

―その矢野さんとのコラボ曲“窓”は作詞を矢野さんが担当されていますが、これは大橋さんからのリクエストだったんですか?

大橋トリオ

大橋:まず最初は、僕のイメージで曲を作って、結構頑張ってアレンジしたものを矢野さんに送ったんです。矢野さんが日本に来られるタイミングで録音することを考えると、ある程度はこっちで作り込んでおいて、矢野さんのピアノだけ録るようにしておいた方がいいと思って。でも、音を送ったら、「これはもうできあがっているから、私が弾いてもあまり意味がないんじゃない?」っておっしゃられて。確かにそうだと思って、1回仕切り直したんです。


―そういうことがあったんですね。

大橋:それで、「本当は二人で一緒に何かを作るっていうことがしたいので、曲なのか詞なのか、お任せしてやってみたいです」って伝えたら、「じゃあ、歌詞を書くから、曲をつけて」っていうことになって、結果的にはすごくよかったと思ってます。師匠に怒られて……怒られてはいないけど(笑)。

―怒られても嬉しいっていう(笑)。曲のイメージについて、意見交換をしたりもしたんですか?

大橋:最初に「詞を書くので、お題だけちょうだい」と言われて、それで「窓」っていうお題を思いついたんです。ニューヨークに住んでらっしゃって、その家の窓からの景色というか、どういうものを感じ取っているのかがすごく気になったので。ただ、普段はメロディーから先に作っていて、今回のように詞にメロディーをつけるっていうことが初めてだったので、すごく悩みました。素晴らしい言葉が並んでいたので、絶対一語一句無駄にしてはいけないとも思ったし。

―結果的にアレンジはすごくシンプルで、矢野さんのピアノを伴奏にデュエットする形になりましたね。レコーディング当日はどうでしたか?

大橋:いつもだったらクリックに合わせて楽器毎に演奏して、歌も楽器も後で録り直せるようにしているんですけど、せっかく矢野さんとやるから、今回はほぼ全て一緒にやりました。それも僕はほぼ初めてで。ピアノは矢野さんなので、僕は歌うだけだったんですけど、楽しかったというか……いい体験でしたね。

―矢野さんのテンポ感っていうのは、一番の魅力と言ってもいい部分ですもんね。

大橋:そうですよね。カバーをいっぱいやってらっしゃるから、音を自分のペースに巻き込んでしまう。それって相当すごいことで、あたかもその音楽がすべて矢野さんから出てきたように聴こえて、説得力が全く違うんですよね。

大橋トリオ

―大橋さんもカバー集『FAKE BOOK』を作っていますが、人の曲をカバーする際はどんなことに気を使いますか?

大橋:オリジナリティーは意識してますね。「こうしたら面白いんじゃないか」っていう、それぐらいなんですけど、それを思ってもどこまでできるかっていうのもありますし、僕は中途半端です(笑)。

―いやいやいや、そんなことはないと思います(笑)。他に、矢野さんとはどんなことを話されました?

大橋:アレンジどうしようとか……緊張してたので、話したことをあまり覚えてないんですよね。覚えてるのは、「いい曲ねえ」って言ってもらえたことと、あとはどら焼きを一緒に食べました(笑)。

―じゃあ、アルバムに付属のDVDに収録されてる“窓”のレコーディング風景では、緊張してる大橋さんが見られるわけですね(笑)。

大橋:いや、そのときは緊張というよりも、矢野さんの音源を聴くときの、説教を受けてるあの状態ですね。

―もちろん、音源から受ける説教と、実際にお会いして、一緒に曲を作って、レコーディングをして受ける説教では受け取るものも違うと思いますが、今回のレコーディングで気付かされたこと、思い直したことなどあれば、教えてください。

大橋:できてるかどうかは別にして、「正しかったな、自分は」って思うことはできました。矢野さんと一緒にやらせてもらって、「やっぱり、そうですよね」って確認できたっていうか。まあ、自分に足りない部分は何百とあったんですけど、「間違ってました」っていうのは、実はそんなになかった。それが非常に嬉しかったですね。

音楽を本気でやってたら、海外志向になると思うんですよね。

―では、他の収録曲についても聴かせてください。U-zhaanさんとコラボした“顔”は、意外な組み合わせでしたけど、すごく印象的でした。

大橋:U-zhaanは最近知り合ったんですけど、矢野さんの娘さんの坂本美雨ちゃんに紹介してもらって。(U-zhaanに)「ファンでいつも聴いてます」って言われて驚いたんですけど、彼が言うには、rei harakamiさんが大橋トリオをプッシュしてくれていたようで、harakamiさんと一緒にやるようになってから、聴くようになったって。

―となると、yanokami(矢野顕子とrei harakamiのユニット)ともつながりそうですね。

大橋:そうなんですよ。ってことは、harakamiさんが矢野さんに紹介してくれてたのか……。わからないですけどね。

―この曲自体はどのように作っていったんですか?

大橋:タブラはポップスと絡むのは難しいイメージがあったんですけど、Stingがやったりしてるんですよね。いわゆるJ-POPというか、普通の曲にはタブラが入る余地ってないと思うんですけど、隙間が多い曲ならいいなと思って、家に来てもらって録音しました。

大橋トリオ

―前作に引き続いて参加の伊澤一葉さんも、やっぱり家で録音を?

大橋:今回も長い時間かけてやってました(笑)。結構キツイ話し合いもしたんですけど、笑って吸収しちゃうんです。そこが面白かった。

―さらには、平井堅さんやエミ・マイヤーさんといった、素晴らしいボーカリストも参加されてますね。

大橋:前も言ったと思うんですけど、プロデュースをさせてもらってる感じなんですよね。普段ご本人がやらないようなジャンルとか、「こういうメロディーを歌ったら合うだろうな」っていう。「この人がこのカバーしたら絶対いいだろうな」とか、あるじゃないですか? そういう感じでやってるんですよね。

―平井堅さんとの“東京ピエロ”って、大橋さんと交互に歌ってらっしゃるじゃないですか? 声域が近いのか、たまに聴いてて「今どっち?」ってなるんですよね。

大橋:確かに、変わったことに一瞬気が付かなかったりしますよね。でも、2秒だとわからないんですけど、3秒でわかるんです。倍音の感じとか、ハリは全然違うから、本物と偽物なんで(笑)。

―いやいや(笑)。エミさんも今年CINRAで取材をさせていただいたんですが、“Turn our world around”もすごくいいですね。

大橋:この曲も矢野さんと同じで、彼女が来日するタイミングに間に合わなかったんです。で、普段彼女はシアトルにいるんですけど、ニューヨークに4か月行くというので、ニューヨークには僕のすごく信頼する日本人の音楽仲間がいて、その彼に頼んで録音してもらったんです。いろいろリクエストして、遠隔操作をやりました(笑)。

―あと、『NEWOLD』に収録されていた布袋寅泰さんとの“JASMINE”も収録されているのでお聞きしたいのですが、つい先日布袋さんがロンドンに移住されたじゃないですか? やっぱりああいうキャリアのある方が、夢を追って海外へ出ていく姿っていうのは、大きな刺激になりますか?

大橋:当然ですね。矢野さんもそうですし、僕も海外願望は相当強いですから。やっぱりミュージシャンの個性も明らかに違うので、そりゃあ向こうを目指すよなって。音楽を本気でやってたら、そっちの方向になると思うんですよね。

―実際に、海外に行くことを考えたりもします?

大橋:しますね。僕ひとりで行くんだったら何とかなると思うので、さっき言ったニューヨークの友達の仲間のミュージシャンと、何かやってみようかなとは思います。

(ライブで)小編成だと自分の負担は増えるんですけど、その分演奏家として楽しいから、やりたいなって。

―ちょうど今(8月20日)、矢野さんがブルーノートでトリオ編成でのライブをやられていて、大橋さんは昨日見に行かれたそうですね。

大橋:純粋にステージ上の3人が楽しんでるのがよくわかりました。海でビーチバレーをやってるみたいでしたよ(笑)。

―めちゃめちゃレベルの高いことをやってるんだけど、でもパッと見とにかく楽しんでるように見えるっていう。

大橋:ブルーノートっていう空間もいいですしね。近くて、音もいいし、美味しいお酒とご飯をいただいたところでのライブですから。自分も秋のツアーでブルーノートとかビルボードに出るので、ああいう姿をお客さんに見せたいですね。それには相当バンドのクオリティーを上げないとですけど、非常に勉強になりました。

―秋のツアーはカルテット編成なんですよね?

大橋:小編成だと自分の負担は増えるんですけど、その分演奏家として楽しいから、やりたいなって。去年はトリオ編成でやって、それも非常に楽しかったんですけど、さすがに3人だとちょっと音が少ないと思って。今回メンバーがいつものドラム(神谷洵平)と、伊澤さんと、プラス(東京)事変の浮雲の4人でやるんです。浮雲のことはたまたま昔から知ってたんですよ。

―ペトロールズ(浮雲こと長岡亮介はペトロールズのボーカル / ギター)を知ってたっていうことですか?

大橋:もっと昔、彼のお父さんがカントリーをやってて、そのバンドで彼がギターを弾いてるのをたまたま見てて、「上手いな、この人」って。事変はロックですけど、もっとテクニカルな演奏ができるのも知っているので、一緒にやるのが非常に楽しみです。

―では最後に、一番初めにおっしゃってた「次にやりたいこと」についてもお伺いしたいのですが?

大橋:……まだ言えないです(笑)。

―あれ(笑)。でも、もう明確なビジョンはあるわけですよね?

大橋:ありますね。

―これまでとはガラッと違うことをやるわけですか?

大橋:そうですね……言えなきゃ意味ないですよね(笑)。

―じゃあ、ちょっとヒントだけでもいただけませんか?

大橋:ヒントは……僕がベースばっかり弾きます。まだ模索段階なので、どうなることかって感じではあるんですけど、要は次のアルバムの企画なので、そんなに遠くなくリリースできるんじゃないかとは思いますね。

大橋トリオSPライブwith映画『Playback』Ustream

2012年9月6日(水)21:00〜22:00

リリース情報
大橋トリオ
『White』初回限定盤(CD+DVD)

2012年9月19日発売
価格:3,990円(税込)
RZCD-59134/B

1. 東京ピエロ feat.平井堅
2. Turn our world around feat.Emi Meyer
3. モンスター feat.秦 基博
4. Natural Girl feat.伊澤一葉
5. 窓 feat.矢野顕子
6. 日曜の夜に鳴く鶏 feat.高田漣
7. She is a Rainbow
8. Be there feat.BONNIE PINK
9. This is the love with 浜田真理子
10. 顔 feat.U-zhaan
11. JASMINE with 布袋寅泰
12. フラワー
13. 真夜中のメリーゴーランド with 手嶌葵
14. オールドタイム
[DVD収録内容]
1. モンスター feat.秦 基博
2. Be there feat.BONNIE PINK
3. フラワー
4. 東京ピエロ feat.平井堅
5. 窓 feat.矢野顕子(recording@ONKIO HAUS)
[購入特典]
・村上淳アートディレクションによる大橋トリオステッカー

プロフィール
大橋トリオ

2009年5月にミニ・アルバム『A BIRD』でメジャー・デビューを果たす。ニューアルバム「White」に収録された「オールドタイム」が主題歌となった映画「Playback」(監督:三宅唱 / 主演:村上淳)が、11月上旬より、東京オーディトリウム渋谷、他全国劇場にてロードショー予定。



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