性善説の後始末を押しつけられて amazarashiインタビュー

かつては、自分のためだけに鳴らされる音楽だった――。青森県むつ市在住、秋田ひろむを中心としたバンド、amazarashi。デビューから3年、その心の奥底をえぐるような鮮烈な言葉と美しいメロディーは、たくさんの人たちと共鳴を果たしてきた。ライブのチケットは全てソールドアウト。そして、その事実は、彼自身も大きく変えた。「世界への復讐のつもりだった」と語り、自分を肯定するためだけに言葉と音楽を連ねていたという彼。しかし、その衝動は徐々に変質していく。

前作『ラブソング』は、聴き手に寄り添うポップな温かみのある作品だった。しかし、その発売後、昨年7月にZepp Divercity Tokyoで行われた公演で、彼はこんなMCを語っている。「『amazarashiは負け組の歌だって親父に言われた』という手紙をもらいました。わいは、そのとき、なんか敵が見つかったという気がして。これからも、そういうもんに抗う歌をやっていきたいです。負け組なんて、言わせないから。」

そして、約1年ぶりのアルバム『ねえママ あなたの言うとおり』が届いた。デビュー作が持っていた衝動とは明らかに異なる、胸を揺さぶる力強い熱量が宿る新作。今回の取材は、その背景にある彼のソングライターとしての「覚醒」を解き明かす取材になった。

曲作りの原動力が怒りや恨みだけじゃなく、もっと日常に根ざしたものになりました。

「なんであいつらは平気な顔をして笑っていられるんだろう?」「目覚めたら全てが無くなっていたらいいのに」――。amazarashiが鳴らす音楽は、そんなことを考えて眠れぬ夜をやり過ごした記憶を持つすべての人を、力強く揺さぶる。「救われた」「泣きそうになった」。YouTubeに公開された数々のMVには、そんなコメントが今も集まり続ける。その共感の核にあるものは何だろうか。

2010年に『爆弾の作り方』でメジャーデビューを果たしたamazarashi。当時は報われないことへの怒りやフラストレーションから音楽が生まれていたというが、そこから『千年幸福論』『ラブソング』へと、彼らを巡る状況は少しずつ変わっていく。昨年11月にリリースされた初のライブ映像作品『0.7』は、「気が付けばたくさんの人に支えられていた」という秋田ひろむ自身の独白から始まるドキュメンタリーを混じえた構成で、「過去の自分との訣別」をテーマにしたものだった。自分自身の表現の「核」にあるものの変化を、彼はこんな風に語る。

―昨年末にリリースされた映像作品『0.7』を作ったことで、曲作りへの向き合い方はどう変わりましたか。

秋田:曲作りに関してはそれほど変わらないと思います。『0.7』が一区切りであったことも、あの作品を作ったことで僕の考え方が変わったのも確かです。でも結果的にそうなってしまって、今回のアルバムもそれを作品にしただけなので特に変化はないと思います。

―「考え方が変わった」というのは?

秋田:曲作りの原動力が怒りや恨みだけじゃなくなりました。誰かを励まそうとしたり、なんでもない風景を歌おうとしたり、もっと日常に根ざした要素が入ってきています。そしてそういうものを受け入れられるようにもなりました。以前はもっと気持ちが殺伐としていたというか、自分を追い込んでいた気がします。


―以前のインタビューで秋田さんは、amazarashiの初期衝動について、「世界に対する恨みつらみが原動力になっていた」「抱え込んでいた自分の汚い部分を吐き出すようなものだった」と語っていました。その原動力が自分から無くなりつつあることに気付いたのはいつぐらいのことでしたか。

秋田:『千年幸福論』を作っているときでしょうか。今でも全くゼロになったわけではないですが、「無理矢理怒らなきゃ」ってなりかけてることに気付いたのがその頃だと思います。

―その変化に気付いたことは、amazarashiとしての活動を続けていく上で、どういう影響を与えましたか?

秋田:曲作りに行き詰まったりしました。でもそれぐらいですかね。

―ちなみに、活動を止めてしまおうと考えたことはありましたか?

秋田:amazarashiを始めた頃は何度もありましたが、今はないです。楽しくなくなったらいつでも止めようと思ってます。

―今回のアルバムを作っていく上で、自分が曲を作る上でのモチベーションは、どういうところにありましたか?

秋田:音楽が楽しいというところです。いい曲が出来上がっていく瞬間は楽しいですし、歌うのも楽しいです。自分が音楽を好きだと再認識した制作期間でした。

―「音楽が好きだ」「音楽が楽しい」という感覚は、今回のアルバムの制作期間の前には忘れがちなものだったのでしょうか。アマチュア時代やデビュー後の期間はどうでしたか?

秋田:アマチュア時代から、「やらなきゃいけない」っていう気持ちが強かったです。とにかくいっぱい曲を作って、いっぱいライブをやらなきゃ……と焦っていました。デビューしたらしたで大変だったので、音楽を楽しむ余裕はほぼなかった気がします。それでもここまで続けてこられたのは音楽が好きな気持ちが根底にあったからだということに、最近になって気付きました。

リスナーに寄り添った歌がamazarashiの中心になり得るのか? と考えたときにできた曲です。

新作は、<他人ではなく 面目じゃなく 自分の為に今は歌いたい><理解し難い と言われても他に道など無い>と歌う“風に流離い”から幕を開ける。いわば、歌い手としての彼の覚悟を綴ったような曲だ。「音楽が楽しい」と秋田ひろむは語るが、描かれた曲には「楽しさ」よりも、やはり、何かに抗う強い意志のようなものが宿っている。

―新作の方向性については、どういうイメージを持っていましたか?

秋田:漠然とですが、尖ったものになるだろうなと考えてました。具体的なコンセプトはなかったんです。

―その方向性のキーになった曲はどの曲でしたか?

秋田:“風に流離い”ができたときに、これは次のアルバムに絶対入れたいと思って、そこから今回の構成を考えていきました。始めは“風に流離い”を聴いてもらいたいがためのアルバムだったのですが、結果的にバランスのとれたアルバムになったと思います。

―“風に流離い”という曲ができた背景は?

秋田:前作『ラブソング』がリスナーに寄り添った作品で、それはそれで良かったのですが、そういう歌がamazarashiの中心になり得るのか? と考えたときにできた曲です。どんな曲を作ればいいのか変に悩んでしまった時期があって、そのときに自分の位置を再確認するために作ったのだと思います。

僕らが実際生活する中で無意識に実践している道徳とか、そういうものがなくなりつつある気がします。

新作のタイトルは、“性善説”の歌詞の一節からとられたもの。この曲では、<ねえママ あなたの言う通り 自分を善だと信じて疑わないときは 他方からは悪だと思われてるものよ あなただけが私の善なのよ>と歌われる。価値観や常識の前提が揺らぐ過渡期にある今の社会のありさま、そして、そんな中で信じられるものを、鋭く射抜く。

―“性善説”のアルバムの中での役割はどういうところにあるんでしょうか。

秋田:曲のテーマ自体は以前リリースした“アノミー”という曲と同じなんですが、“アノミー”が問題提起だとしたら“性善説”は僕なりの答えです。アルバムの中では“性善説”が主役のような気がします。だからタイトル曲にしたんです。さきほど“風に流離い”を聴いてもらいたくてこのアルバムを作ったと話しましたが、あれはとても私的な歌なので。


―では、“アノミー”と“性善説”に共通するテーマとはどういうものなんでしょうか?

秋田:社会規範の崩壊です。僕らが実際生活する中で無意識に実践している道徳とか、そういうものがなくなりつつある気がします。例えば、小さい頃は「嘘をつけばバチがあたる」と教えられましたが、今は「そもそもバチなんて存在しないよ」とネタばらしされた後の世界のように感じます。でも、だったら何をしてもいいのか? というのがテーマです。

―“性善説”で自分なりの答えを示せたという実感は、どういうところから生まれたんでしょうか。

秋田:人を思いやる純粋な気持ちが伝われば、それが受け取った側の価値観になっていくものだと思うんです。今回は母と子の関係でそのことを描きましたが、いろいろな人間関係において言えることです。最後の二行にその想いを込めました。

失敗すらしないひきこもりだった自分を思うと、今の方がましだなと思います。

そして、本作の中で最も象徴的な楽曲が“ジュブナイル”だ。少年期を意味し、日本では思春期向けの小説などを指す言葉を冠したこの曲。そのタイトルの通り、「かつての自分」と重ね合わせて生きづらさと夢を抱える人たちを奮い立たせるような楽曲になっている。<僕らに変な名前を付けたがるのはいつも部外者>など、一人称に「僕ら」という言葉が使われているのも印象的。こういう曲を歌うようになったのは、秋田ひろむのシンガーソングライターとしての「覚醒」なのではないかと思っている。

―“ジュブナイル”は、にはどのような思いを込めましたか?

秋田:これは頑張ってる人への応援歌なんですけど、応援歌という形を借りて、自分の過去を顧みて今の自分を奮い立たせる曲でもあります。自分を肯定する歌という意味で、とてもamazarashiらしい曲だと思います。

―「頑張ってる人」というのはどういうイメージでしょうか?

秋田:理想を持ってそれに向かう人たちです。夢を追うといえば聞こえはいいですが、実際もっとドロドロしたものだと思います。特にアーティストを志す人たちにとっては。絶対どこかで壁にぶつかるし、心に闇を抱えることもあるし、それでも苦しみながら前進しようとしている人たちに向けた応援歌です。


―“パーフェクトライフ”という曲でアルバムは終わります。どういう余韻を残したいと思いましたか。

秋田:色々ダメな人間でも人生はダメじゃないよ、というところでしょうか。僕も外に出るようになって、出会う人も増えて、それに比例して失敗も増えて落ち込むことも増えましたが、失敗すらしないひきこもりだった自分を思うと、今の方がましだなと思います。そういう気持ちの曲だと思います。

―そうやって、かつての自分を思い起こしたという“ジュブナイル”や“パーフェクトライフ”の歌詞に、「僕ら」という言葉が歌われているのも印象的です。この言葉を選んだ理由は?

秋田:昔から一人称はよく「僕ら」を使ってしまうんですが、ずっと無意識に使ってました。共感してくれる人を想定しているのかもしれないし、共感してくれる人がいてほしいという願望かもしれません。昔の歌詞カードを見てみたのですが、一人称は「僕」と「僕ら」があって、「僕」を使うのは明確な情景描写やストーリー性のある場合で、「僕ら」は自分の気持ちを語る場合が多いみたいです。自分の気持ちを語るときに複数形を使うのは、やっぱり「共感してほしい」という願望かもしれません。

―5月からはアルバムと同名のツアーが始まります。amazarashiのライブは、その内実も表現方法としても回を重ねるごとに進化してきたと思いますが、今回はどういう場所になることを目指していますか。

秋田:もちろん演出も面白いものができたらと考えてるんですが、それとは別にバンドとしてパワーアップしたものを見せられたらと思ってます。

リリース情報
amazarashi
『ねえママ あなたの言うとおり』初回限定盤(CD+DVD)

2013年4月10日発売
価格:2,100円(税込)
AICL-2527/2528

1. 風に流離い
2. ジュブナイル
3. 春待ち
4. 性善説
5. ミサイル
6. 僕は盗む
7. パーフェクトライフ
[DVD収録内容]
『2012年1月28日渋谷公会堂ライブ映像』
・“つじつま合わせに生まれた僕等”
・“爆弾の作り方”
・“奇跡”

amazarashi
『ねえママ あなたの言うとおり』通常盤(CD)

2013年4月10日発売
価格:1,800円(税込)
AICL1-2529

1. 風に流離い
2. ジュブナイル
3. 春待ち
4. 性善説
5. ミサイル
6. 僕は盗む
7. パーフェクトライフ

イベント情報
『amazarashi LIVE TOUR 2013 「ねぇママ あなたの言うとおり」』

2013年5月31日(金)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:東京都 渋谷公会堂
料金:前売4,500円 当日5,500円

2013年6月8日(土)OPEN 17:00 / START 18:00
会場:大阪府 大阪 なんば hatch
料金:前売4,500円 当日5,500円(ドリンク別)

2013年6月9日(日)OPEN 17:00 / START 18:00
会場:愛知県 名古屋 ダイアモンドホール
料金:前売4,500円 当日5,500円(ドリンク別)

プロフィール
amazarashi

青森県むつ市在住の秋田ひろむを中心としたバンド。2009年12月青森にて500枚限定でリリースされた『0.』に問い合わせが殺到し、全国版『0.6』をリリース。強烈な歌詞の世界観が耳の早いリスナーの中で話題になり、2010年6月に『爆弾の作り方』にてメジャーデビュー。2012年6月、2ndアルバム『ラブソング』、2013年5月15日3rdアルバム『ねえママ あなたの言うとおり』をリリース。



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