死にたい自分を説き伏せてきたamazarashiが、外へと向う

『ねえママ あなたの言うとおり』に続く、今年2枚目となるアルバム『あんたへ』を発表するamazarashi。“まえがき”で始まり、“あとがき”で終わる構成、初回生産限定盤の文庫本ブックレットが、現代におけるライトノベルと音楽の関係性を連想させ、彼らのメディアミックス的な立ち位置を改めて示しているが、それ以上に印象的なのが、より外側へと開かれると同時に、新たな表現領域をも切り開こうとする、秋田ひろむの歌詞世界である。

かつて自分に向けて書いた歌で現状と戦う誰かへと呼びける“あんたへ”、日本語ラップを意識したという長編のポエトリーリーディング“冷凍睡眠”など、本作も聴き所は非常に多い。今回は秋田へのインタビューをもとに、具体的なアーティスト名を出し、比較することによって、amazarashiの独自性をより立体的に浮かび上がらせることを試みた。

「“あんたへ”自体は自分に向けて作った歌だったんですが、今の僕だったら外に向かって歌えるんじゃないかと思いました」

amazarashiにとっての2013年は、これまでになく外側へと開かれた活動を展開した年となった。4月に発表したアルバム『ねえママ あなたの言うとおり』は、オリコンデイリーチャートで5位を記録。アルバムを引っ提げての東名阪ツアーを終えると、8月には秋田が楽曲を提供した中島美嘉のシングル『僕が死のうと思ったのは』が発売。同月には『RISING SUN ROCK FESTIVAL』に出演してフェスデビューを果たすと、9月にはリキッドルームでTK from 凛として時雨との対バンを行った。これまでのamazarashiはワンマンしか行ってこなかったが、その存在がより多くの人へと知れ渡り始めたのだ。

秋田:“僕が死のうと思ったのは”は以前からあった曲です。中島さんへの楽曲提供という話が来た段階で、この曲が絶対合うと思って、聴いてもらいました。その他にも何曲か作ったりしたんですが、曲の作り方としてはいつも通り、amazarashiと変わらない感じで作りました。ライブに関して一番思ったのは、心を強く持つことです。「最悪ブーイングが来ても歌いきる」みたいな、そういう覚悟はあったと思います。あとはいつも通り、今まで積み上げたもので勝負するしかないので、そこを信じてやりました。でも実際はワンマンと違って環境も時間も厳しいし、開き直ってやれたのが良かったと思います。

では、なぜ今年このような開かれた活動に向かったのかといえば、それは2012年に発表したアルバム『ラブソング』と、映像作品『0.7』で、amazarashiの活動がひとつのフェイズを終えたことが大きな要因だろう。秋田いわく「世界への復讐のつもりだった」攻撃的な歌が受け入れられ、またライブを通してオーディエンスと触れ合う中で、曲作りの原動力が怒りやフラストレーションだけではなくなり、単純に音楽が楽しめるようになったということを、秋田は過去のインタビューで語っている。バイトをしながら音楽をやり、それ以外は家に籠っていた頃に書かれたというタイトルトラック“あんたへ”を中心に作られた新作『あんたへ』は、今のamazarashiだからこそ生み出せた作品であることは間違いない。

秋田:“あんたへ”を自分自身がひさびさに聴いて、すごい励まされた感じがして、これはちゃんとアルバムに入れたいなと思ったのが最初です。そこから考え始めて、アルバム全体で何か伝えるということをできないかなと思いました。“あんたへ”自体は自分に向けて作った歌だったんですが、今の僕だったら外に向かって歌えるんじゃないかと思いました。


「死にたい僕を説き伏せる感じで曲を作ってたと思います」

9月のリキッドルームでのライブで“あんたへ”を披露した際、秋田は「自分が言われたい言葉を探していたんじゃないかと最近思うようになりました」と語っている。ここでひとつ疑問に思うのは、「なぜ自分が言われたい言葉を自分で生み出す必要があったのか?」ということだ。例えば、本作には秋田いわく「ラブソング」だという“ドブネズミ”という曲が入っているが、このタイトルからはかねてより秋田がファンを公言しているTHE BLUE HEARTSのあの曲が思い浮かぶ。THE BLUE HERATSの言葉は「自分が言われたい言葉」ではなかったのだろうか?

秋田:今になってTHE BLUE HEARTSの歌詞のすごさは分かるようになったと思うんですけど、当時はそんなこと分からず聴いてました。理屈じゃなかったと思います。「怒る」とか「笑う」とかの延長線上に、「THE BLUE HEARTSを聴く」とか「THE BLUE HERATSをコピーする」とかがあったんだと思います。

「怒る」や「笑う」といった普段の感情の延長線上にあったTHE BLUE HEARTSの言葉。しかし、当時の秋田にとっては、もっともっと自分を鼓舞する言葉が必要だった。

秋田:自分で自分を言い負かすことが必要だったんだと思います。常に死にたいと思ってたし、このままだったらやばいと分かってましたし、死にたい僕を説き伏せる感じで曲を作ってたと思います。

秋田は過去に音楽のために上京するも、挫折を経験して青森に帰郷。それでも音楽を作り続け、必死に食らいついてきたからこそ、今のamazarashiとしての成功がある。生きるか死ぬか、それだけの切迫感と、音楽に対する強い想いが込められているのが“あんたへ”という曲なのであり、だからこそ、この曲はかつての秋田と同じような境遇にいる人を鼓舞することができる曲なのだ。

「自分を一人の人間として肯定したい」

<はやく 涙拭けよ 笑い飛ばそう 僕らの過去>

“あんたへ”はこのようなフレーズで始まっているが、秋田は以前のインタビューで「自分の気持ちを語るときに複数形を使うのは、やっぱり『共感してほしい』という願望かもしれません」という発言を残している。ここで思い出したのが、つい先日CINRAで行ったハルカトミユキのハルカと、歌人の穂村弘との対談で話題となった「シンパシーとワンダー」というテーマである。

穂村いわく、表現の本質は「ワンダー」、つまりは「驚異」であり、「人と違うもの、聴いたことのないものを聴きたい(見たい)」と思うことのはずだが、現代の表現は「シンパシー」、つまり「共感」が圧倒的に強い、という話だった。個人的に、amazarashiはこの「シンパシーとワンダー」を非常に独特なバランスで成り立たせている存在だと思っている。そして、だからこそ、秋田にこの「シンパシーとワンダー」についての考えを訊いてみたかった。まずは「シンパシー」について、「曲を作るときにそこまで意図してないので難しい質問なんですが」と前置きしたうえで、彼はこう答えてくれた。

秋田:自分を一人の人間として肯定したいという気持ちがあって、おそらくそこがリスナーの共感してくれる部分で、“あんたへ”や、昔で言えば“光、再考”のような曲だと思います。この部分は昔から普遍的なもので、たぶん僕の中の価値観としてずっと変わらないものだと思います。今でも中島みゆきの“ファイト”を聴いて感動するように。

<闘う君の唄を 闘わない奴等が笑うだろう>と歌う“ファイト”。<今辛いのは 戦ってるから 逃げないから>と歌う“あんたへ”。どちらの曲も、自分を肯定するため、現状と戦っている人への力強い応援歌である。

「人種差別的なジョークを取り扱ったりとか、文化的なものを皮肉ったりとか、そういうことが僕の音楽でもできるんじゃないかなと思ったりします」

では、「ワンダー」についてはどのように考えているのだろう。

秋田:「身の回りのことをちゃんと表現したい」っていうのが、僕の「ワンダー」に当てはまるかもしれません。例えば、最近日本のヒップホップをよく聴くんですが、ヒップホップで言う「リアル」とか、そんな状況になったことないけど、「本当なんだろうな」って感じさせる部分、それはもう新しい体験だと思うんですが、そういうものができたらなと思ってます。海外ドラマやゲームで人種差別的なジョークを取り扱ったりとか、文化的なものを皮肉ったりとか、そういうことが僕の音楽でもできるんじゃないかなと思ったりします。今回のアルバムで言えば“匿名希望”のような形だと思うんですけど、表現として進化していくにはたぶんここしかなくて、普遍的なものをずっと歌っていくのもミュージシャンとして美しいですが、僕がどうするべきかっていうのは、まだ見つかっていません。

“匿名希望”では<入口のワゴンセールは まるで商業音楽の墓場>と、自身もその一部となった音楽業界の暗部を皮肉って見せる。秋田は連載中のゲームコラム「ゲーム、再考」の中で、アメリカ産のゲーム『グランド・セフト・オートV』について語り、その中でも「若者のカルチャーや日本の社会問題を皮肉ることくらいのリアリティーは表現できるはずだ」と語っている。彼はそれについて日本のヒップホップに感化されたと語っているわけだが、僕が思い出したのはイギリスのラッパー、THE STREETSの存在だ。その名が表すように、ストリートのリアル、いわば日常そのものを皮肉やジョークたっぷりのリリックに詰め込んで、2000年代に一躍時の人となった人物である。そして、彼の手法を受け継いだロックバンドがARCTIC MONKEYSであり、この両者から大きな影響を受けた日本のバンドがTHE MIRRAZだ。

THE MIRRAZの畠山承平は、2010年に発表した『TOP OF THE FUCK'N WORLD』というアルバムのタイトルを、『グランド・セフト・オート』の登場人物の台詞から取ったことをかつて語っている。パブリックイメージとしては、シリアスな秋田と、どちらかといえば軽薄そうな畠山(失礼!)で大きく異なるが、「過激な表現もいとわない、真の意味で日常に根差した日本語詞」という方向性に関しては、通じるものがあると言えよう。ちなみに、秋田が本作の中で一番日本語ラップを意識しているのは、長編のポエトリーリーディングによる“冷凍睡眠”だそうだが、好きなラッパーについては、こう答えてくれた。

秋田:あんまり詳しくはないんですけど、THA BLUE HERBとかRHYMESTERとか好きです。最近小林勝行さんの“108 bars”という曲を聴いて衝撃を受けました。

小林勝行は神戸出身のラッパーで、“108 bars”は2011年発表の『神戸薔薇尻』で1曲目を飾っている。彼女にふられて自暴自棄になり、悪い方向へと転げ落ちていく姿を、実体験をベースに描いた強烈な1曲だ。そして、小林もまた音楽活動の中で一度大きな挫折を経験し、音楽に「救い」を求める人物。おそらく彼もまた、「自分が言われたい言葉」を探していたのではないかと思う。

amazarashi『あんたへ』初回生産限定盤ジャケット
歌詞や詩集を掲載した文庫本型のブックレットが収録された
amazarashi『あんたへ』初回生産限定盤ジャケット

生楽器を効果的に使うamazarashiのアレンジ力

最後に、amazarashiの音楽的成長についても少しだけ触れておきたい。『ねえママ あなたの言うとおり』では、初めて生のストリングスを導入し、より豊かな音世界を展開していたが、本作の“冷凍睡眠”では、メロディーにアレンジが規定されない分、非常にダイナミックなサウンドスケープが描かれていて、「amazarashi史上最も美しい1曲」と言っても過言ではないほどの出来となっている。最近のリスニング傾向については「ジェイク・バグとTHE LUMINEERS、MUMFORD & SONSとかずっと聴いてます」と答えてくれたが、インディーフォークと呼ばれる面々の名前が挙がっているのが非常に象徴的。amazarashiは生楽器の使い方が非常に緻密で効果的であり、9月に対バンしたTKもまた、エレクトリックとの使い分けが上手いミュージシャン。この2組の相性は抜群だったと言えるだろう。

 
TK from 凛として時雨×amazarashi @LIQUIDROOMの様子

アルバムの発表後、年明けからは東名阪に加え、福岡や札幌も含むツアーへと旅立つ。やはり青森出身のバンドだけに、彼らの音楽が一番似合うのは寒い冬であり、暖かみのある生楽器の音色も一層引き立つことは間違いない。ぜひこの時期のamazarashiを体験してほしい。

イベント情報
『amazarashi LIVE TOUR 2014「あんたへ」』

2014年1月11日(土)OPEN 17:00 / START 18:00
会場:東京都 Zepp Tokyo

2014年1月18日(土)OPEN 17:00 / START 18:00
会場:愛知県 名古屋ダイアモンドホール

2014年1月19日(日)OPEN 17:00 / START 18:00
会場:福岡県 福岡イムズホール

2014年1月25日(土)OPEN 17:00 / START 18:00
会場:大阪府 Zepp Namba

2014年2月8日(土)OPEN 17:00 / START 18:00
会場:北海道 札幌PENNY LANE24

2014年2月1日(土)OPEN 17:00 / START 18:00
会場:東京都 Zepp Divercity Tokyo

料金:各公演 前売4,500円 当日5,500円(共にドリンク別)
※福岡公演はドリンク代なし

リリース情報
amazarashi
『あんたへ』初回生産限定盤(CD+DVD)

2013年11月20日発売
価格:2,100円(税込)
AICL-2603

1. まえがき
2. あんたへ
3. 匿名希望
4. 冷凍睡眠
5. ドブネズミ
6. 終わりで始まり
7. あとがき
[DVD]
1. 匿名希望 2013.09.30 @リキッドルーム
2. MC2013.09.30@リキッドルーム
3. あんたへ 2013.09.30@リキッドルーム
※文庫本型ブックレット付属

amazarashi
『あんたへ』通常盤(CD)

2013年11月20日発売
価格:1,800円(税込)
AICL-2605

1. まえがき
2. あんたへ
3. 匿名希望
4. 冷凍睡眠
5. ドブネズミ
6. 終わりで始まり
7. あとがき

プロフィール
amazarashi (あまざらし)

amazarashiは秋田ひろむを中心としたバンド。2010年のデビュー以来、一切本人のメディア露出がないながらも、絶望の中から希望を見出すズバ抜けて強烈な詩世界とCGアニメーションを駆使したライブパフォーマンスが口コミになりまたたく間にリリースされた7枚のアルバム全てがロングセールスを続けている。今年4月にリリースされたアルバム「ねえママ あなたの言うとおり」はオリコンデイリーチャートにて5位を記録、また8月には中島美嘉への楽曲提供や初のフェス出演など精力的に活動している。



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