鬱屈と解放のトリックスター 清竜人インタビュー

清竜人のことを少しでも知っている人であれば、まずはその外見の変化に驚きを隠せなかったに違いない。これまでも長かったり短かったり、ストレートだったりパーマだったりと、髪型の変化が多いタイプではあったが、彼がフェイバリットに挙げる漫画『本気!』に出てきそうなチンピラ風のルックスは、「……何かあった?」と思わず聞かずにはいられない。例えば、くるりの岸田繁がクラシックに大きく傾倒したアルバム『ワルツを踊れ』の制作時に、ベートーベンのような作曲家風の長髪にしていたのは、心身ともに作品に捧げているかのような印象があった。そう考えれば、清も新作『WORK』においてラップを披露したりしているし、そのイメージに自分を近づけたのかも……なんてことを考えながら取材に臨んだのだが、清の答えはたった一言、「いや、気分転換です」だった。

清がこういった変化をする予兆がなかったわけではない。2009年のデビューアルバム『PHILOSOPHY』以降、彼はソウルやジャズを基調としたポップスに乗せて、「人間とは?」もしくは「愛とは?」といった哲学的な自問自答を繰り返していた。しかし、昨年発表の『MUSIC』ではそこから一転、ゲームやアニメ界のクリエイターとのコラボレーションによるド派手なミュージカルアルバムを作り上げたのだ。そして、限定販売された『KIYOSHI RYUJIN』に続く『WORK』では、打ち込みだった『MUSIC』と同等の情報量を生楽器で再現し、あらゆるジャンルを飲み込みながらも、10曲30分ほどのコンパクトなポップアルバムとして聴かせるという離れ業をやってのけている。こんな音楽を僕は他で聴いたことがない。

以下の対話の中で、清の内面に起こったであろう変化の背景を何とか聞き出そうとする僕と、「今はすごくナチュラルで、音楽を作ることが楽しいんです」と繰り返す清竜人とのやりとりは、基本的に最後まで平行線をたどっている。これが音楽家としてある種、達観の境地にたどり着いたということなのか、それともトリックスター的な清なりのエンターテインなのか、その判断は後に譲ることにしよう。まずは『WORK』という圧倒的な作品を味わい尽くし、またいずれ、インタビューの機会があることを願いたい。

今回は今まであったメッセージ性を排除して、単純に音楽を音楽としてだけ捉えようと思って。

―清さんはデビューアルバムのタイトルが『PHILOSOPHY』だったように、特に初期の作品において、哲学的な思考が表現の基盤になっていたと思うんですね。そういった清さんなりの哲学観が、どのような影響を受けて形成されたかというのをまずお伺いしたいのですが。

:音楽は単純に音として聴いていたので、音楽家から思想や哲学を吸収したのは少ないかもしれないですね。ただ、5枚目のアルバム(『KIYOSHI RYUJIN』)のジャケットを描いてくださった立原あゆみ先生の『本気!』という漫画がすごく好きで、それは人生の1冊と言えるような作品なので、そこからいろんなものを得てるとは思います。

清竜人
清竜人

―どんな部分での影響が大きいですか?

:すごくメッセージ性の強い漫画なんですけど、人間愛的な考え方にすごく感銘を受けることが多くて、歌詞に影響してるかもしれません。長編なので、主人公が成長していく様に、いろいろなことを考えさせられる作品ですね。

―清さんの最初の2枚のアルバムは、自分だったり、自分と相手だったり、狭い人間関係を歌っていて、3枚目の『PEOPLE』のときはもっと開かれた、大きな人類愛をテーマにしていたように思います。今はそういった人間愛に対して、どんな目線を持っていますか?

:最近は何も考えてないですね。ホントにフラットに、今日のことだけを考えて生きてる感じです。2枚目(『WORLD』)や3枚目のアルバムを作ってる頃は、頭の中でモヤモヤ考えたり、思春期みたいな時期を過ごしてましたけど、今はフラフラ生きてる感じですかね。

―確かに、今回のアルバムの歌詞は、意味よりも言葉の響きを重視して書かれているように思いました。

:そうですね。今回は今まであったメッセージ性を排除して、単純に音楽を音楽としてだけ捉えようと思って。まずはメロディーラインをどうきれいに聴こえさせるかっていうことを考えながら、音に言葉を乗せたので、歌詞は二の次っていう感じでした。

―今は意味性よりも、音楽そのものにより興味があると。

:1つ前のアルバム(『KIYOSHI RYUJIN』)はすごくメッセージ性が強いというか、言葉が強いものだったので、今回はそういうのはいらないかなと思って。

最近は人生が結構楽しいので、単純に音楽だけをやってる感じですね。

―ちなみに、先ほど挙げていただいた『本気!』以外で、何か強い影響を受けたものってありますか?

:昔はすごく舞台が好きでよく観に行ってたんですけど、最近はめっきり行かなくなったし、映画もあんまり観なくなりました。音楽は結構聴くようになったんですけど、それ以外の芸術にはあんまり触れなくなりましたね。そういう時期もいいかなって感じですけど。

―それって「思春期から抜けた」という話とリンクする部分なのでしょうか?

:無関係ではないかもしれないですけど、単純に今は自分の周りに楽しいことがいっぱいあるので。それこそ、人生つまらなかったりすると、映画を観るとか、何かに触れて紛らわせようとしますけど、最近は結構楽しいので、単純に音楽だけをやってる感じですね。

清竜人

―音楽を作ることが昔よりも楽しくなったということですか?

:音楽を作るのも楽しくなりましたし、普通に私生活も楽しくやってる感じです。

―音楽を作ること以外だと、何をしてるときが一番楽しいですか?

:何ですかね(笑)。うーん……そう言われると難しいですけど(笑)、ブラブラ遠くに行ったり、1日何もしなくていい日があるとすごく楽しいですね。自由な時間を楽しめるようになってきたというか。

―思春期的な時期っていうのは、どうやって終わった、もしくは終わらせたのでしょうか? 自分の想いが聴き手に伝わっていることを実感したということでしょうか。

:そういうのもあると思うんですけど、まあ、日にち薬みたいなものじゃないですかね。

―思春期って、自分の中の何かしらのコンプレックスと向き合う時期だと思うんですね。例えば、「人と上手くコミュニケーションが取れない」とか。そういったことを克服した、もしくは折り合いをつけることができた、ということでもあるのでしょうか?

:昔の作品を聴くと、すごく内に籠って、暗い青春時代を過ごしてきたように聴こえる作品もありますけど、学生時代も朗らかなほうで、そんなに悩みもないほうだったと思うんですね。だから、コンプレックスに悩んで、苦しくて家から出たくないとか、そういう経験もあんまりないですし、マイナスなところからエネルギーを貯めて作ったような作品は、そこまでないかもしれないですね。今ハッピーだから、思い出せないだけかもしれないですけど(笑)。

―最初にも言ったように、特に初期の作品に関しては、自問自答を繰り返してるイメージが強かったんですよね。


:そうですよね。考えることが好きな時期だったので、ある種哲学的な、思想的なものを作ってました。

ミュージシャンとしての自分にあんまり納得がいってないので、より自分を好きになるために作品を作ってるところがあって。

―だから、その頃から今の清さんへの変化の大きさっていうのは、やっぱりちょっとびっくりする部分はあるんです。考え方が変わっていったのは、さっきおっしゃったように時間の経過という理由もあるとは思うんですけど、特に「この時期がターニングポイントだった」みたいな時期ってあったのでしょうか?

:3枚目や4枚目(『MUSIC』)のアルバムを作ってた時期は、自分のやりたいことをやれなかったり、逆にやりたいことを全面的にやった時期でもあったので、もしかしたら、大きく変わった時期だったかもしれないですね。4枚目と5枚目は、前々からずっとやりたかったことだったんですけど、タイミングが見つからず、スタッフと何度もやり取りして見つけたリリースタイミングだったので、ああいう順番のリリースになったんです。

―というと、3枚目の『PEOPLE』よりも前に、4枚目と5枚目の構想があったということですか?

:もともと『PEOPLE』は出すつもりがなかったので、ホントは3枚目が『MUSIC』で、4枚目が『KIYOSHI RYUJIN』というのが、自分の中での流れだったんです。でも「もう1枚だけポピュラリティーのあるものを作ってほしい」と言われたので、1枚挟んだのが『PEOPLE』ですね。

―『PEOPLE』ってすごくエネルギッシュで、それこそ人類愛というか、生を祝福するようなアルバムだったと思うんです。あの作品で振り切ったからこそ、その次の『MUSIC』における大きな変化があったんだと思ってました。

:変な言い方をすると、『PEOPLE』のときはやりたくないものをやってた感じはあるんです。そのタイミングで自分が作りたいと思ったものに対して、「1年待ってくれ」と言われて、それを押し込めて違うことをやっていたので、鬱屈してたとは思います。1年貯めた分、4枚目と5枚目がよりエスカレートしたものになったのはあるかもしれない。

―『PEOPLE』のあの力強さにしても、押し込められていた分、逆に解放的な作品になったということかもしれないと。

:そういう部分もあると思いますね。あとは、今もそうなんですけど、ミュージシャンとしての自分にあんまり納得がいってないというか、好きじゃないので、より自分を好きになるために作品を作ってるところがあって、何か出すごとにちょっとずつ好きになれてる気はしてるんですよね。

音楽家として自立した作品にしたいなっていうのがありました。

―ここまで話していただいた清さんの内面の変化と、今作のタイミングでの外見の変化というのは、何かしら関連があると言えますか?

:気分転換をしたいときに、髪型を変えるのが一番効果的なのと、単純に飽き性なので、髪型はよく変わるんですよ。

―でも、今回はその変化の振り幅が極端ですよね。音楽のモードの変化とはリンクしているのでしょうか?

:いや、どうでしょうねえ(笑)。身なりを変えると気分が変わるので、音楽に影響する部分もあるとは思うんですけど、今回に関しては作り終わった後に髪を切ったので、そんなに影響してないかもしれないですね。今回は『WORK』というタイトルにもあるように、仕事としていい距離感を保って音楽と向き合っていたので、そこまでのめり込んで作ったわけでもなくて。あっさりと、サラッと作った感じなんですよね。

―サラッと作った作品にはとても聴こえないですけどね(笑)。その『WORK』が「仕事」なのか「作品」なのかというのは考えていて、ビジュアルも含めて、どこか「金儲けだぜ」という皮肉めいた「仕事」という意味もありつつ、一方では音楽作品としての高みを目指したという、ダブルミーニングなんじゃないかなと思ってました。

:まったく今おっしゃったとおりで、アルバムも6枚目ですし、音楽家として自立した作品にしたいなっていうのがありました。なので、今回はアレンジメントもできるだけ誰かの手を借りずにやろうとしたし、その分緻密に作り込めたかなとは思ってます。

―『MUSIC』では打ち込みでやったことを、生楽器に置き換えて、さらにもっと音楽的な幅を広げた作品という印象を受けました。

:5枚目を作ってた段階で今回のことも考えてたんですけど、今までの作品をいい意味で踏襲しつつ、総括になるようなものにしたいとは思ってました。もちろん、同じことをしてても楽しくないので、新しいものを作れたらいいなって気持ちもありましたけど。

―2009年のデビュー以来、毎年アルバムを発表してきて、今回が6枚目。もちろん、単純に強い創作意欲を持っていらっしゃると思うし、一方で、「音楽家としての力を証明したい」という気持ちも原動力になってるのではとも思うのですが、いかがですか?

:性格的にはすごくだらけちゃうタイプなので、コンスタントに出せてるのはスタッフのおかげですね。もちろん、作りたいものはあるんですけど、出だしが弱いので、リリースプランのようなビジネス的なことがケツを叩いてくれてる感じはあります。「こういうことができるんだぜ」って証明したい気持ちもあるんですけど、とにかく今は結構ナチュラルに楽しくやってる感じなんですよね。もうちょっと歳をとってくると、自分の性格的に我が強くなってそうな気はするんですけど(笑)。

ある程度ポピュラリティーのある中で何か面白いものができたほうが、自分の色が出るんじゃないか。

―今回の作品っていうのは本当にいろんな音楽性が含まれてると思うんですけど、中でもクラシカルな要素は特に重要だと思うんですね。いわゆるクラシックの作曲家、もしくはエンニオ・モリコーネのようなポップス寄りの作曲家、もしくは近年のUSインディーのチェンバーポップ……清さんが最もシンパシーを感じるのはどれですか?

:モリコーネかなあ……そんな聴かないんですけど(笑)。でも、一番耳馴染みがあるかな。やっぱり、ポップスを意識して作ってるので、ポピュラーな音の匂いは毎回意識してます。

―清さんの中での「ポップス」の定義とは?

:大衆性って人それぞれなので、一概には言えないですけど、ある程度ポピュラリティーのある中で何か面白いものができたほうが、自分の色が出るんじゃないかってデビュー当初から思ってるんです。だから今自分がいるシーンは結構気に入ってて、この中で何ができるかっていうのを日々考えているんですけどね。

―やっぱり、この先も音楽を作り続けるイメージは持ってらっしゃるんですか?

:いや、ないですね(笑)。

―「10年先も音楽をやってるか?」と言われると、「イエス」とは言えない?

:そうですね。楽しいことができればいいですね。

―それが音楽じゃないかもしれない?

:そうですね。

―ホントですか?(笑)

:16歳頃から音楽ばっかりやってきたんで、そろそろ違うことをやっても楽しいかもしれないですよね。昔は映画を撮ったりもしてたんですけど、最近はめっきりなので。

―人によっては「続ける」ということが何よりのモチベーションだと言う人もいますが、清さんにとってのモチベーションは何だと言えますか?

:何ですかね? お金とかですかね(笑)。単純に、音楽を作って、日々生活してっていう今のライフスタイルは、すごくしっくりきてるし、気に入ってるので、それが続けばいいなあとは思うんですけど。何せ飽き性なんで、どっかで寄り道しちゃうんじゃないかという気はしてますね。

清竜人

―今回のアルバムの最後の曲が、“I Don't Understand”じゃないですか? これまでの作品も、自問自答の末に「でも、やっぱりわからないな」っていう終わりを迎える作品が多かったように思うんです。この「わからなさ」を追いかけることが、ある種のモチベーションになっているのではないかとも思ったのですが。

:それもやっぱり、ちょっと前まではそういうのもあった気がするんですけど、ホントに今はフラットだし、ナチュラルなんですよね。こういう仕事をしてると、変に考え込んじゃうことがあって、それがいいときもあれば、よくないときもあるので、最近はあんまり考え過ぎず、単純に「音楽を作る」という作業をしてる感じなんですよね。

―今回の“I Don't Understand”にも特別な意味はない?

:これも語感ですね。あと乗せだし、理由は特にないです。

―では、最後にもう1つ。今清さんもおっしゃられたように、何かしら思春期的な悩みを抱え、考え込みながら表現をしている人はとても多いですよね。そういった人たちへの、清さんなりのアドバイスをいただけますか?

:生活リズムをよくしたほうがいいと思います。

―清さんもそれで何かしら改善されたんですか?

:僕は夜型ですけど(笑)。でも、たぶん朝ちゃんと起きて、1日3食食べて、夜寝るっていう、そういう生活をしたら、いい曲が書けると思います。

―でも、清さんはそうじゃないんですよね……?

:だから、いい曲書けてないんですよ(笑)。もっといい曲が書きたいですね。

―そこはモチベーションと言えそうですよね。今回の作品でもそうだったように、自立した音楽家として、「もっといいものを作りたい」っていう。

:それはありますね。まあ……少しだけですけど(笑)。

イベント情報
『清 竜人「WORK」TOUR』

2013年12月2日(月)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:大阪府 心斎橋 BIG CAT

2013年12月4日(水)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:愛知県 名古屋 BOTTOM LINE

2013年12月6日(金)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:東京都 SHIBUYA-AX

料金:各公演 前売5,000円

リリース情報
清竜人
『WORK』(CD)

2013年10月23日発売
価格:2,800円(税込)
TYCT-60003

1. Zipangu
2. Katie
3. All My Life
4. LOVE&PEACE
5. UNDER
6. The Movement
7. Microphone is…
8. Championship
9. Disclosure
10. I Don't Understand

プロフィール
清竜人(きよし りゅうじん)

1989年生まれ、大阪府出身。15歳からオリジナル曲を作り始め、16歳の夏に自主制作した音源が、後に多くの業界関係者の耳に留まる。17歳の夏、全国高校生バンド選手権『TEENS ROCK IN HITACHINAKA 2006』グランプリを受賞、同年のROCK IN JAPAN FESへの出場を果たす。さらにデビュー前にも関わらず映画『僕の彼女はサイボーグ』への挿入歌の提供を行うなど話題を呼び、2009年3月、シングル『Morning Sun』を発表、続いてデビューアルバム『PHILOSOPHY』をリリース。この作品は後に「第2回CDショップ大賞」準大賞を受賞。赤裸々でストレートな歌詞が口コミで多くの人の共感を集めながら、近年では、声優・堀江由衣に楽曲“インモラリスト”を提供し、オリコンチャートトップ10入りするなど、活躍の幅を広げている。



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