いまいち広がらない「ポエムコア」の伝道師BOOLにインタビュー

一昨年にworld's end girlfriend名義で発表された“ゆでちゃん”に続いて、今年もクリスマスシーズンに巨大な「闇」が投下される。ポエムコアの創始者=BOOLによるセカンドアルバム『OMOSHIRO DARKNESS』だ。world's end girlfriendに加え、ゴルジェシーンの注目株Kazuki Kogaや、サンプリングの極北を行くcanooooopyら、超個性的なトラックメイカーが顔を揃えた本作で、BOOLは再び下ネタ満載の「おもしろ」なポエムを、「ダークネス」な雰囲気のシリアス口調で読み上げ、ポエムコアの世界をさらに拡張してみせた。

日々新たな音楽ジャンルが現れては消えていくネットの音楽シーン。その中から大きな可能性と懐疑の目線を伴って登場したポエムコアは、果たしてどこへ向かうのか? 今年からアルバムと同名の『おもしろダークネス』というイベントをスタートさせ、リアルの地下シーンでも暗躍し始めたBOOLに話を訊いた。

「ダンスミュージック」や「ドライブミュージック」があるように、「作業ミュージック」っていうのもあると思うんですよね。

―『OMOSHIRO DARKNESS』というアルバムタイトルは、BOOLの世界観を端的に表現した言葉ですね。

BOOL:去年の12月くらいに思いついた言葉なんですけど、そのきっかけになったのが前作に参加していただいた高野政所さん(DJ JET BARON)ってファンコット(インドネシア発祥の高速ダンスミュージック)のDJの方で、あの人が「おもしろおじさん」っていう概念を提唱してたんです。毒蝮三太夫さんとか、さまぁ~ずの三村さん、あとは寅さんとか、『こち亀』の両さんみたいな、おもしろいんだけどちょっとダメなところがあったり、女の人に下ネタを言っても許されるみたいな、要は人間力の高いおじさんを目指そうっていう。

BOOL
BOOL

―実際に、毒蝮三太夫さんをフィーチャーした“おもしろおじさん”っていう曲があったりするんですよね。

BOOL:ただ、僕自身がおもしろおじさんになるのは難しいから、自分的に再解釈して、ポエムコアに当てはめようと思ったんです。ドローンとかダークアンビエントにおもしろさを組み合わせたものをやりたいっていうのは前から言ってて、でもそれを具体的に言語化できなかったんですけど、「おもしろダークネス」という言葉を思いついたときに「これだ!」と思って、次の作品はこの言葉を全面に押し出す形で作りたいと思ったんです。

―もともとBOOLさんがお笑い好きだっていうのが「おもしろ」に結びついていると思うんですけど、なぜ「ダークネス」が重要だったのでしょうか?

BOOL:平日は普通に働いているので、普段は仕事中の作業音楽として音楽を聴くことが多くて、あんまりアッパーな感じだと疲れちゃうんですよね。なので、自然とエレクトロニカとかポストロックとか、ちょっと暗い印象の音楽を好むようになっただけで、特別な理由があってダークなのが好きっていうことではないんです。「おもしろ」に関しては、ラジオが大好きなので、作業中に聴くんだったら堅苦しいトーク番組よりも、おもしろい方がいいじゃないですか?

―それを組み合わせちゃうっていうのがまたおもしろいですよね。

BOOL:仕事中はパソコンで聴いてるんですけど、トーク番組と音楽を一緒に流して聴いてたりするんですよ。例えば、ドローン系のインターネットラジオと、おぎやはぎのPodcastを一緒に聴くみたいな(笑)。「ダンスミュージック」や「ドライブミュージック」があるように、「作業ミュージック」っていうのもあると思うんですよね。「作業ミュージックDJ」とかいてもいいんじゃないかなって(笑)。

BOOL

―つまり、「おもしろダークネス」っていう概念は、ある種の「機能性」から生まれていると。いわゆるロックバンド的な、「俺の闇を見てくれ」みたいな話ではなく(笑)。

BOOL:作業中に暗い話を聞いてたら落ち込んじゃいますからね(笑)。雰囲気が暗くてかっこいいのが好きっていうだけで、言葉のほうは、おもしろければそれでいい。なので、今回の作品はその「おもしろダークネス」ありきで作っていったんです。前作は「ポエムコアとはどういうものか」っていうのを提案するのがテーマで、作り方もポエムテープ(ポエムコアは、「ポエムテープ」というポエムの朗読音源を先に作って配布し、それをもとにトラックを制作し、楽曲として完成させることになっている)を軸に、後からトラックをつけていたんですけど、今回はもっとバリエーションを持たせたいと思って、いろんな作り方をしてます。

―あ、「ポエムコアとはポエムテープから作るもの」っていう定義は早くも崩れてるんですね?

BOOL:前回でひとつのあり方は提示できたし、常に進化した方がおもしろいと思うので、違うアプローチをしたっていう感じですね。アルバムのイメージとしては、Mr.Bungle(FAITH NO MOREのボーカルだったマイク・パットンが高校時代、同級生らと結成したバンドで、2000年まで活動していた)とか、CORNELIUSの『FANTASMA』みたいな、統一された感じじゃない、カラフルなおもちゃ箱みたいなものを作りたくて、「ダークな『FANTASMA』」みたいなのを思い描いてました。

ポエムコアをダンスミュージックとして解釈したときに、「ラジオ体操」が一番合うと思ったんです。

―「おもちゃ箱」という言葉通り、アルバムには前作以上に多彩な曲が収録されていますが、どのあたりから作っていったのでしょうか?

BOOL:アルバムの軸になったのは、arai tasukuさんと作った“バナナくん”っていう長い曲です。「おもしろダークネス」という概念をイベントやライブでも実現したいと思って、今年から同タイトルのイベントを隔月でやってるんですけど、arai tasukuさんに出てもらったときに、一緒に新曲を作ろうという話になって。結果的に出来上がった曲が40分くらいの大作になってしまって、そのままアルバムに入れるとこの曲だけ強くなっちゃうから、前編と後半に分けて、流れの中で聴ける構成にしました。それを軸に、アルバムの流れを考えていったんです。

―“バナナくん”みたいな長いポエムを書くときは、何か影響源ってあるんですか?

BOOL:今回のアルバムに関してはあまりないですけど、一時期ポエムコアのネタとして、100円で売ってるような古本のエロライトノベルを大量に買ってたことがあります。エロライトノベルって、エロに持っていくために物語が破綻してたり、強引な設定があったりしておもしろいんです(笑)。

―“バナナくん”のような大作がある一方で、序盤の“闇ヲ走ル”とか“みみくん”“エロ本と俺”とかは、ポップな仕上がりになってますね。

BOOL:イベントをやり始めて、ライブ向けの曲が欲しくなったので、この辺の曲はポエムテープからではなく、トラック先行で作ってます。フロウはラップっぽいけど、内容はおもしろい、シリアスな口調なんだけど、大したことは言ってないっていう、そのバランスでポエムコアらしさを表現しました。

―つまり、このあたりの曲は「作業ミュージック」に「ダンスミュージック」の機能性も加わったと。なおかつ、THA BLUE HERBのILL-BOSSTINO(以下、BOSS)を彷彿とさせるシリアスさと、ポエムの内容との落差がすごい(笑)。

BOOL:THA BLUE HERBとかDJ KRUSHは大好きだし影響も受けているんですけど、やっぱりちゃんとラップをやるのは難しいし、BOSSの影響を受けてる人は他にもいっぱいいると思うから、自分なりに消化する必要はあって。なので僕は、BOSSと大槻ケンジとSuicide(1970年代にニューヨークで活動したニューウェーブのバンド)の3つを足したイメージで、これなら誰もやってないかなって。ストイックにもお笑いにもなり過ぎずっていう、そのバランスはいつも気にしながらやってます。

―そんな中で、“ポエムコア体操”はお笑い寄りというか、かなりシュールな世界観が繰り広げられてますね。

BOOL:これもまずタイトルを思いついて、ポエムコアをラジオ体操っぽい感じでやったら、絶対おもしろいだろうと。あと、ポエムコアをダンスミュージックとして解釈したときに、「体操」が一番合うと思ったんです。ただ、実際に曲にするのは一番時間がかかりました。最初はホントのラジオ体操みたいに、ピアノだけでやろうかなと思ってたんですけど、実際のラジオ体操の曲をちゃんと聴いてみると、テンポが変わったりとかすごい複雑で、めちゃくちゃ名曲なんです。これを自分でやるのは無理だと思ったんで、変態的なビートのアプローチに変えたっていう。

BOOL

―たしかに、ラジオ体操の曲ってかなりプログレッシヴですよね(笑)。

BOOL:そうなんですよ。イントロが終わって、体操が始まるところでいきなりテンポが落ちるっていう(笑)。国民的なダンスミュージックだけあって、あの名曲と対等なものを作るのは難しくて、逆に対極なアプローチをしたんですけど、結果的にイメージ通りのものができましたね。

(“The Panty Anthem”は)ポエムコアの可能性を一気に広げてくれましたね。

―オープニングの“Fried Chicken Yesterday”はKazuki Kogaさんが参加のゴルジェ(インド~ネパールの山岳地帯のクラブシーンで生まれた新ジャンルの音楽)ですが、定型の拍から自由なゴルジェは、ポエムから自由に作られるポエムコアとの相性がいいわけですよね。

BOOL:そうですね。イベントの『おもしろダークネス』にもゴルジェの人にはいっぱい出てもらってるんですけど、一番話が合うというか、音楽的な成り立ちも近いと思うし、ちょっとユーモアが入ってるっていう意味でも、すごく合うなって。しかも、Kazuki Kogaさんはゴルジェと言いつつ、常に最先端のサウンドを取り入れてやってるんで、この人に頼めば絶対かっこいいものができると思ってました。音楽的に一番尖ってるんで、そういう曲を1曲目にしたかったんです。

―“ギャルEYES”はmus.hibaさんのプロデュースで、これもこれまでのBOOLにはなかった世界観ですね。

BOOL:適当に作ったトラックでフリースタイルしたら、めちゃくちゃおもしろいポエムが録れたので、それを違ったトラックに乗せてみたいと思ったんですけど、言葉のインパクトが強いんで難しかったと思うんですよね。でも、mus.hibaさんにお願いしたら想像してなかったものを作ってくれて、今までのポエムコアにはなかった「オシャレ」という要素が加わって(笑)。今回のアルバムの中で一番オシャレじゃないポエムが、こんなスタイリッシュな仕上がりになって感動しましたね。原曲はSoundCloudに上がってるんですけど、聴き比べたら相当違うっていうのがわかると思います。

左から:BOOL、金子厚武

―canooooopyさんとのショートポエムコアも数曲入っています。

BOOL:canooooopyさんはもともと1分台の曲が多いんで、ポエムコアでそれをやったら、長いやつとはまた違ったおもしろいものになるんじゃないかなって。しかも、こういうのってたくさんある方がおもしろいから、4曲作ってもらいました。アルバムの中のブリッジ的な役割というか、バラエティー番組の中のショートコントコーナーみたいな感じ。ポエムも一番笑いに偏ってるというか、雰囲気重視で、一切中身がない(笑)。そういうのがアルバムに入ると、幅も出るかなって。

―そしてラストは、公募した35組の声を使った、ポエムコア版“We are the world”の、“The Panty Anthem”。

BOOL:公募はworld's end girlfriendのアイデアです。これまでのポエムコアは1人でやってたわけですけど、一気に35人でやるっていう(笑)。この曲は僕がいなくてもいいんじゃないかって思うんですけど、実験としておもしろいし、こんな曲は他にないというか、ポエムコアの可能性を一気に広げてくれましたね。ポエムコアを超えた何かになったような気もするし、“バナナくん”の後で、一番くだらない曲でアルバムを締めるっていうのもいいなって。これはホントに早く聴いてほしいです。

ポエムコアははがき職人なんですよ。

―初のフィジカルリリースとなった『THIS IS POEMCORE』から1年ちょっと経ったわけですが、ポエムコアは世の中に浸透しましたか?

BOOL:あんまり浸透してないですね(笑)。なので、地道にやんなきゃと思って、ホーム作りのためにイベントを始めたっていう。やっぱりネットだけだと限界があるから、イベントをやっていろんな人と仲良くなって、基盤をちゃんと作んないとなって。「ポエムコア」って急に出てきたんで、すぐダメになっちゃう可能性もあると思うんです。ネットって、アカウントが消えたらホントに消えちゃうわけで。でも、リアルでイベントをやっていけば急に消えることはないし、長くやってきた人たちはみんなそうやってきたと思うから……地道にやっていこうと(笑)。

BOOL

―イベントはどう展開させていこうと考えているんでしょうか?

BOOL:毎回テーマを決めてやってて、例えば、ゴルジェの中にSLABっていうサブジャンルがあって、BPM60ぐらいの低速で重いやつなんですけど、それをやってる人とブレイクコアの人を一緒にブッキングして、「地獄のような低速VS地獄のような高速」をやったり(笑)。あとは音楽だけじゃなく、トークのコーナーがあったり、落語もあったり、ポエムコア的な話芸も混ぜていきたいです。

―最近フリースタイルバトルが流行ってるから、BOOLさんがそういうところに出て行くのはどうでしょう?(笑)

BOOL:いやあ、フリースタイル以前にラップのスキルがないので(笑)。フリースタイルの動画とかを見るのは好きなんですけど、絶対自分にはできないと思います。僕は頭の回転が速い方ではないですし、即興でっていうよりも、家でひねり出して考えるタイプなので。

―ですよね(笑)。

BOOL:お笑いの人は生のラジオでおもしろいことを言うけど、ポエムコアははがき職人なんですよ。クラスの中のおもしろいやつがお笑い芸人さんだとしたら、そうじゃなくて、頭の中でおもしろいことを考えてるんだけど、でもそれをそいつが言うと寒くなるっていうタイプ(笑)。ヒップホップの人は自分のハードコアな人生をラップしたりするけど、僕自身そのまま話しておもしろい体験というのは、ほとんどしてないというのもあって、ポエムコアは完全に作り物で勝負なんです。

リリース情報
BOOL
『OMOSHIRO DARKNESS』(CD)

2015年12月24日(木)発売
価格:2,073円(税込)
Virgin Babylon Records / VBR-028

1. Fried Chicken Yesterday
2. 闇ヲ走ル
3. みみくん
4. エロ本と俺
5. アイドルちゃん
6. バナナくん 前編
7. ギャルEYES
8. 鉄棒おじさん
9. ポエムコア体操
10. Under the Pylon
11. 夏の夜の思考
12. 盆栽
13. バナナくん 後編
14. The Panty Anthem

イベント情報
『おもしろダークネスvol.6 ~OMOSHIRO DARKNESSリリースパーティー~』

2016年1月10日(日)OPEN 17:00 / START 22:00
会場:東京都 西麻布 BULLET'S
ライブ・DJ:
BOOL feat. world's end girlfriend + VJ Yasuyuki Yoshida
arai tasuku feat. BOOL
mus.hiba
HiBiKi MaMeShiBa
kumorida
emeow(MEOW!!!)
春太郎
AMANDA
クイズ大会:
クイズくん a.k.a.泥団子食べ太郎
料金:2,000円(ドリンク付)

プロフィール
BOOL
BOOL (ぶーる)

world's end girlfriendの「ゆでちゃん」に参加し話題を呼んだポエムコアの創始者。1stアルバム『THIS IS POEMCORE』をVirgin Babylon Recordsより2014年10月11日発売。downyのギタリスト青木裕、world's end girlfriend、Go-qualia、食品まつり、DJ JET BARON a.k.a. 高野政所、hanali、canooooopyなど、豪華トラックメーカーを迎えている。2015年12月には2ndアルバム『OMOSHIRO DARKNESS』をリリース。

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