冨田ラボとceroによる音楽授業。日本でしか生まれない表現を熱弁

日本の音楽シーンにおける「ポップマエストロ」の称号をほしいままにしている冨田恵一が、ゲストボーカルを迎えるプロジェクト・冨田ラボのニューアルバム『SUPERFINE』を完成させた。前作『Joyous』から3年強、今作でまず特筆すべきなのは、やはりゲストボーカリスト陣の顔ぶれだろう。YONCE(Suchmos)、安部勇磨(never young beach)、コムアイ(水曜日のカンパネラ)、城戸あき子(CICADA)、そしてこの対談取材にも参加してくれたceroの高城晶平など、新時代に鳴るべき都市型のポップスを、それぞれ独立したクリエイティビティーを持って表現しているアーティストが名を連ねている。

現行のインディーズシーンの牽引役ともいえるceroの高城は、本作で“ふたりは空気の底に”という名曲を冨田と作り上げた。高城を対談相手に迎えることで、読者に本作の魅力を立体的に伝えられたらと思う。また、ceroのニューシングル『街の報せ』と“ふたりは空気の底に”の共通項も探ってみた。

2014年以降から、僕は「新譜が面白い」って言い出すようになったんです。(冨田)

―今作のゲストアーティストの人選の特徴として、それぞれのアプローチで新時代における都市型のポップスを表現しているボーカリストが、数多く名を連ねていて。特にceroはそのインディーズにおけるその潮流の牽引役として見られることも多いと思うんですけど。

高城:いやいや(笑)。

左から:冨田恵一、高城晶平
左から:冨田恵一、高城晶平

―音楽的なルーツやアプローチで一括りに語られることに違和感を覚えている当事者のアーティストも少なくないと思うんですけど、こうして冨田ラボというポップスの実験室に各アーティストが入ったときに、各曲にワクワクする同時代性を感じることができて。素直に「さすが冨田ラボだ」と思いました。

冨田:ありがとうございます。まず、マスタリングが終わってすでにひと月くらい経っているので、聴き慣れてきた感想としては、僕自身、まさに「SUPERFINE」なアルバムだと思います。

このアルバムがこの時代にどのような意義を持つのかということは、今みたいに具体的に言ってくださると「なるほど」と思う面もあるんだけど、特にそういう作品を作ろうと思ったというわけではなくて。僕はいつもシンプルに1曲1曲が良質で、アルバムの中に適切に配置されていれば、必ずリスナーに訴求するだろうという考えのもとにアルバムを作っているので。

冨田恵一

―でも、ボーカリストがこういうメンツになったのは何かしらの意図や目的があったのではないかと思うのですが。

冨田:次世代というか、そういったシーンの方々を多くフィーチャーしているということですよね?

―そうです。

冨田:それは、順番でいうと、まず自分の音楽性の変化がここ数年にあったんですね。2013年にリリースした前作『Joyous』までで、僕の「シグネイチャーサウンド」を確立したなと思っていて。その一方で、僕は音楽家でありながら演奏家でもあるので、リアルタイムで新しい音楽のアプローチをする人たちに、すごくエキサイトしていたんです。

―それはやはりいわゆる現代ジャズ周辺の作品ですか?

冨田:そうそう。たとえば、ドラマーだとマーク・ジュリアナが素晴らしいプレイヤーだなと思ったり、ジェイソン・リンドナー(ピアニスト / キーボーディスト)の『Now Vs Now』(2009年)とかが、すごく好きだったりして。

でも、やっぱり自分のこれまでの音楽性は70年代中盤あたりのシミュレーショニズム(既存作品の表現から、サンプリングやリミックスなどの手法を用いて、新しい作品を作る)を中心に構築されたものだったと思うので、そこと現代ジャズの潮流がなかなか一緒にならなかったんです。いや、入れようと思えばできたんだけど、自分の中で「やっぱり冨田ラボはこういうイメージがあるからこういう作風にしよう」みたいな自制心が無意識に働いていたんだと思う。

―なるほど。これまで築き上げてきたシグネイチャー感が崩れてしまうのではないかという危惧があったと。

冨田:そう、どこかでね。今考えて大きかったと思うのは、僕は2014年に『ナイトフライ 録音芸術の作法と鑑賞法』(DU BOOKS)という著書を出したんです。

―ドナルド・フェイゲン(1948年生まれ、Steely Danの中心人物にしてメインボーカル)の『The Nightfly』(1982年)を題材に冨田さんの音楽論を紐解いた本ですよね。

冨田恵一『ナイトフライ 録音芸術の作法と鑑賞法』表紙
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冨田:ええ。あの本を書いたことで、それまでの自分の音楽的なアプローチやシミュレーショニズムについて一段落ついたというか。あの本を書いていたときは無自覚だったんですけど、あの本を出したあとくらいに僕は「新譜が面白い」って言い出すようになったんです。で、2014年以降のプロデュース仕事から、だんだん現代ジャズに感じているスリルがサウンドの要素に入っていったんですよ。

高城:なるほど。興味深いですね。

高城晶平

冨田:2015年にリリースしたbirdの『Lush』というアルバムを全曲プロデュースしたんだけど、特にあの作品は自分のオンタイムの興味を反映できたと思っていて。冨田ラボのニューアルバムも、その系譜に連なるものになるだろうということは自分でもわかっていたんです。

で、そのサウンドの変化であり進化をよりわかりやすく提示するためには、今まで僕が接点のなかったアーティストたちの声で彩ってもらいたいと思いました。そういうアルバムを自分でも聴きたいと思ったし。

僕は洋邦で分けると、日本のバンドシーンはそんなに追ってなかったんだけど、それでもやっぱり面白いアーティストがたくさん出てきているということは耳に入ってきていたんですね。その人たちを招いて冨田ラボのニューアルバムを作れたらいいなというところから始まりました。

僕はceroに嫉妬しました。かっこいい音楽に触れて、あのスピード感で昇華できるというのは、嫉妬しますよね。(冨田)

―高城さんは冨田さんサイドからオファーをもらったときにまずどんなことを思いましたか?

高城:まずビックリしましたね。そもそもゲストボーカルの仕事ってほとんど初めてなんですよ。仲間内のミュージシャンにコーラスで呼ばれることはあったんですけど、僕だけの声がほしいと言ってもらえたことはなかったので。

冨田:そうでしたか。

高城:はい。だから最初は「マジで!?」って思ったんですけど、アルバムに参加するメンツを見て納得したというか。そこでアルバムの方向性が、なんとなくわかりました。自分に求められていることも察知して、レコーディングに臨んだという感じですね。

高城晶平

―それまで冨田ラボというプロジェクトの音楽性には、どのような印象を覚えていましたか?

高城:それこそ先ほど冨田さんがおっしゃっていたように、シミュレーショニズムを完全に日本語の音楽に昇華するということを、誰よりも職人的にやられているというか。まさかホントに一緒に仕事することがあるとは思ってなかったです。

今はインディーズとメジャーの線引きみたいなものがだんだんなくなってきたと言われつつも、冨田さんが作るような音楽はインディーズからなかなか生まれないと思うんですよね。でも、僕のようなインディーズのミュージシャンたちと、冨田さんが一緒に音楽制作をするということは、2016年に起こるべくして起こったことなんだなって客観的に思ったんですよね。

冨田ラボ『SUPERFINE』ジャケット
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―冨田さんがceroの音楽に触れたときに覚えた印象も聞かせていただけますか?

冨田:最初に『Obscure Ride』(2015年5月発売、ceroの3rdアルバム)を聴いたんですけど、あのアルバムはD'Angeloの新譜(『Black Messiah』、2014年12月発売)がリリースされた翌年の春にリリースしたんだよね?

高城:そうですね。

冨田:僕はそのタイム感にちょっと嫉妬しました。やっぱり音楽家はかっこいい音楽に触れたら、それを昇華したいじゃないですか。それをあのスピード感でできるというのは、嫉妬しますよね。高城さんとは今回が初対面だったんだけど、実際に話してみて、音楽の聴き方や掘り方、それを自分たちの音楽に活かす視点や手法に、僕と似たスタンスを持ってる人だと思いました。

cero『Obscure Ride』ジャケット
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高城:いやあ、嬉しいですね。ceroって、バンド形態をとってはいますけど、どこかプロデュースチームみたいな側面もあって。メンバー同士がお互いをプロデュースし合うようなグループなんですよね。

時代や周りにある音楽を横目に見つつ、「今、ここが空いてるな」と思うところにスポッと入れるような音楽を作るというやり方で今まで活動してきて。それこそ『Obscure Ride』に関しては、他の日本のバンドがネオソウルやブラックミュージックのエッセンスを取り入れるほんの少し早いタイミングで作ったアルバムで。インディーズバンドがああいう乾いた音像でネオソウルなどを昇華するという方向性は、ありそうでなかったから実践したんです。

そしたらその後に日本でもどんどん、特にインディーズシーンでブラックミュージックにアプローチした音楽がフィーチャーされるようになって。ギリギリ間に合ったタイミングだったなと思っています。これがワンテンポ遅かったら、ダサいことになっていただろうし。実際、「早いうちに出さないと」という焦燥感もありました。

冨田:メジャー流通でやっていたらあのスピード感ではリリースできなかったかもしれないよね。

高城:そうですね。『Obscure Ride』は自分たちのやれることよりも少し遠い場所にボールを投げて、そこに一生懸命追いつくデカめのドリブルをしたような感覚があって(笑)。それが今回、冨田さんが呼んでくださったことにもつながってるだろうし、あのときちょっと急いで背伸びしてよかったなってつくづく思います。

左から:冨田恵一、高城晶平

僕がアルバムを聴いてグッときたのは、インスト曲。音の解像度のレベルが全然違うなと思ったんですよね。(高城)

―まず『SUPERFINE』から、9月23日に“Radio体操ガール feat.YONCE”と“雪の街 feat.安部勇磨”が先行配信されたじゃないですか。特に前者はYONCEくんがあのエレクトロなファンクビートで歌っているということも含めて、インパクトが大きかったです。

冨田:僕はどの曲を先行シングルにするかとか、あまり戦略的に考えるタイプではないんですけど、最初に打ち出すのは“Radio体操ガール”にしたいということだけは固執していたんです。今は配信も含めてシングルの意味も変わってきていて、シングル単体で売れるという発想よりも、アルバムへの道筋を提示するプレゼンテーションとしての意味合いが大きいと思っていて。そういう意味でも、“Radio体操ガール”を最初に聴いてもらいたかったんですよね。あの曲だったら、コアな音楽ファンはもちろん、そうじゃない人も面白いと思ってもらえるんじゃないかと思ったので。

高城:“Radio体操ガール”を聴いたときに、NFLのスーパーボールとかでかかってもおかしくないような、それこそ“Uptown Funk”(マーク・ロンソン feat.ブルーノ・マーズ)みたいなゴージャスさを持った曲だなと思って。あのビート感も含めて、1コードで進行するインパクトが大きくて、確かにあの曲を最初に出す必然性はすごくあるなと思いました。あの曲を一発聴いただけで、きっとアルバム全体でこれまでの冨田ラボ像を更新しているという期待を、多くのリスナーが抱くだろうなって。

あと、僕がアルバムを聴いてグッときたのは、最初と最後のインスト曲(“SUPERFINE OPENING”と“SUPERFINE ENDING”)で。birdさんの『Lush』を聴いたときもそうだったけど、やっぱり音の解像度のレベルが全然違うなと思ったんですよね。もちろん、歌ものでもそれは実感できるんですけど、インスト曲ほどハッキリ感じるなって。

冨田:すごく嬉しいです。インスト、面白かったですか?

高城:最高でした。一番の聴きどころだと思います。

冨田:嬉しいなあ。

左から:冨田恵一、高城晶平

―そして、“ふたりは空気の底に feat.高城晶平”も素晴らしい楽曲に仕上がっていて。冨田ラボとボーカリストの親和性の妙って、ボーカリストのありそうでなかった面を引き出すところにあると思うんですね。

冨田:ああ、なるほど。

ラップのフロウを音符化するようなアプローチを、高城さんとの曲でもやりたかった。(冨田)

―“ふたりは空気の底に”は、冨田さんが構築したサウンドも、高城さんが書いたリリックも、まさにこれまでの高城さんのありそうでなかった面を引き出す楽曲になっていて。

冨田:インストを除くと、この曲を最後に作ったんです。まず、BPMの話でいうと、今回アッパーな曲がいくつかあったので、あまりアブストラクトではないミディアムでポップな曲にしようと思ったんですね。

“Radio体操ガール”しかり、わりとラップのフロウを音符化したようなアプローチの曲が多くできたので、高城さんとの曲もそれに近い方向性で、なおかつミディアムでポップであるということを意識しました。高城さんと話してるときに、Chance the Rapper(1993年シカゴ生まれのヒップホップアーティスト)の名前を出してたんですよ。

左から:冨田恵一、高城晶平

―おおっ!

高城:最初に打ち合わせしたとき、名前が出ましたね。

冨田:Chance the Rapperって、ラップしていたかと思うと、突然歌になったりするじゃないですか。だから、その逆ですよね。先ほども言ったフロウを音符化するようなアプローチを高城さんとの曲でもやりたくて。

―アウトロに向かってビートがカオティックな様相になって、高城さんのボーカルの熱量も上がっていく感じもすごくかっこよくて。高城さんは冨田さんからオケをもらったときにどのように受け止めましたか?

高城:まず、シンプルにすげえかっこいいなと思いました。まさにChance the Rapperとかドニー・トランペット(トランペット奏者)が一番に思い浮かんで。僕が言うのもおこがましい話ですけど、冨田さんはやっぱりすごく音楽が好きな人なんだなって。だから、まるで友達と話しているようなノリを感じてすごくホッとしたんですよ。

正直、最初は「難しいことを言われたらどうしよう」という不安もあったんです。でも、いざ直接話してみたら、ceroのメンバーと「最近、あの曲いいよね。じゃあ曲作りに反映させよう」って音楽の話をしているような感覚があって。「これは難しいことを考えなくていいぞ!」と思って、歌入れのときにフェイクでChance the Rapperのマネをしたんですよ。そしたら実際にでき上がった音源に使ってくれていて(笑)。

冨田:高城さんはサービスでやってくれたのかなと思いつつ、全然嫌味がなくてハマってたから、いいところで使いました(笑)。

―ティーザー映像のインタビューでは、キーの低さがレイドバックした新しいボーカルのニュアンスを引き出してくれたと言っていましたよね。

高城:ceroの楽曲だったら、キーを2つか1.5くらい上げたかもしれないですけど、今回のキーは、それこそラップっぽくもいけるし、歌謡曲っぽくもいけるなと思ったんです。

冨田:最初の歌い出しからすごく説得力があったんですよ。サウンドのアプローチにもすごくフィットしていて。高城さんも歌いづらくないということで「じゃあこのキーでいきましょう」ってなりました。

冨田恵一

1歳半の子どもを見ていて、人間がたくさんの人からひとりを選んで友達になる流れって、すごく不思議だなと思って。(高城)

―高城さんが書いたリリックの内容は、まるで絶滅後の世界で男女の子どもが戯れているようなストーリー性がありますね。

高城:最初に冨田さんと打ち合わせをしたときに、「歌詞のヒントになるようなワードをもらえますか?」って聞いたら、「日常のゴスペルのような歌にしたい」と言ってくれたんですね。それを受けて家に帰ったときに、手塚治虫さんの『空気の底』というタイトルの短編を思い出して。そこからイメージがパッと浮かんで、一気に歌詞を書けたんです。さきほど絶滅後の世界に取り残された男女の子どもっておっしゃいましたけど、僕の中では2人の男児なんですよね。

―ああ、なるほど。そうか。

高城:今、僕の子どもは1歳半で保育園に通っているんですけど、連絡帳に「最近はソウちゃんという男の子とよく遊んでます」って書いてあって。他にもいっぱい園児はいるのに、よくその子の隣にいて一緒におもちゃで遊んでるみたいなんですね。人間がたくさんの人からひとりを選んで、友達になる流れって、すごく不思議だなと思って。

そこで『空気の底に』とゴスペルというテーマを結ぶと、泣けるけどちょっと笑えるストーリーにできるなと思ったんです。最後に取り残された人類が男同士って悲劇じゃないですか。だけど、それなりに楽しくやれると思うんですよ。もしかしたら男女よりも上手くいくかもしれない。冨田さんから「コーラスのワードも考えてほしい」って言われて、ゴスペルというテーマがあるから、神や精霊が取り残された2人の男児に「そっちじゃないよ」って上から見守るように囁くニュアンスを出せたらなと思ったんです。

高城晶平

―冨田さんがゴスペルというキーワードを出したのはどういう思いからだったんですか?

冨田:シンプルに曲調のイメージから浮かんだというのと、どんな内容でもポジティビティーを感じられる歌詞にしてほしいということも引っくるめて、そう言ったんですね。僕は何も聞かれなければ、「曲を聴いて感じたように歌詞を書いてほしい」ということしか言わないんですけど、高城さんは素晴らしいリリックを書いてくれましたね。

高城:ありがとうございます。

冨田:今、2人の男児が主人公ということを初めて知ったんですけど、それを踏まえるとさらに深みを感じられる歌詞ですよね。

―余計に愛らしさも感じるし。

高城:ちょっと体の混じり合いも試してみたんでしょうけど、「やっぱりダメだった」みたいな(笑)。<大いに笑い 泣こうよ 古いポルノ映画で>というフレーズは、そういうイメージで。

―ceroのニューシングル『街の報せ』も聴かせてもらって、“ふたりは空気の底に”との共振性があるなと思ったんです。たとえば2曲目の“ロープウェー”もキーが低めだし、“街の報せ”は現代ジャズの潮流も感じさせるシンコペートするリズムに後ノリなボーカルが乗っていて。3曲を通して新たなグルーヴを見いだそうとする意志を感じました。

高城:そう。キーの低さでいえば、確かに“ロープウェー”は“ふたりは空気の底に”よりさらに低いんですね。今回のシングルに関しては、今までceroがやってなかったことにチャレンジしようと思って作りました。パーソナルなモードの時期に作ったという実感があって。『Obscure Ride』をリリースして、いろんなことが過ぎ去った時期にリハビリ的に作った曲が“ロープウェー”だったりして。

荒内くんが手がけた“街の報せ”は、彼が僕の子どもに宛てて作ってくれたみたいで。粋なことをしてくれたなって。(高城)

―『Obscure Ride』以降のある種の過渡期をアウトプットしたという感じなんですかね?

高城:それがこのシングル全体のムードという感じはありますね。メンバーとひとり1曲作ろうってゲームのように始まった制作で。それぞれがノーコンセプトで作ったから、バラバラな3曲ができたんですけど、それはそれで1本の線にもなったなって。

ジャケットの写真は、1970年代後半くらいに、滝本淳助さんという写真家の方が撮ったもので。リフトに乗った親子が霧の中を進んでいく、このすごく不思議な写真を見て、僕はこの写真に曲をつけてみようと思って“ロープウェー”を作ったんです。

cero『街の報せ』ジャケット
cero『街の報せ』ジャケット(Amazonで見る

―リリックも、これから何かが始まる気配のようなものが3曲に通底しているなと思いました。

高城:荒内くん(佑 / ceroのキーボード・コーラス担当)が手がけた“街の報せ”は、彼が僕の子どもに宛てて作ってくれたみたいで。ちょうどさっき本人から聞いたんですけど、僕の子どもが生まれる前日に歌詞を書いたらしいんです。

―グッときますね、それは。

高城:うん、粋なことをしてくれるんですよね。だから“街の報せ”は祝福の曲なんだけど、お父さんである僕は“ロープウェー”で<やがて人生が次のコーナーに>とか歌っちゃっていて(笑)。でも、それも人間くさくていいなって。

―つまり、“ふたりは空気の底に”も“街の報せ”も高城さんのお子さんのことが歌詞に反映されている。

高城:子どもが1歳半くらいだと、やっぱり親はそればかりになっちゃうんですよね。今は子どもの存在はどうしても曲にも反映されるんだけど、よくある「ありがとう系ソング」は書きたくないので。「自分が書けるファミリー感のある曲って何だろう?」という思いが、“ふたりは空気の底に”を作らせたところはあります。

洋楽的なオケに日本語乗せて、どのように今の時代にも通用する音楽を作れるかという意識を、ceroは強く持ってると思うんですよね。(冨田)

―冨田さんはceroのニューシングルをどのように聴きましたか?

冨田:“街の報せ”でいえば、訛ったリズムを取り入れて、若干変拍子なところもあり。そういった僕と高城さんが共通して興味を持っている現代ジャズ周辺のフィーリングを取り入れながらも、メロディーは日本の良質なポップスシーンに息づいている要素を感じましたね。

高城:いろんな音楽的なスタイルを取り入れながらも、やっぱり根本は日本語の歌ものというところが、ceroの大本のコンセプトなんですよね。ブラジルのポップスが、オケとメロディーにポルトガル語が乗ることでブラジルでしか生まれ得ないものになるように、日本語が乗ることで自分たちが参照する音楽と全然違うグルーヴになるということはいつも意識していることです。

冨田:そこに意識的なのはすごく重要なことだと思う。洋楽的なオケに日本語を乗せるということは、遡ればはっぴいえんどの時代から行われていることで。その文脈をどのように昇華して今の時代にも通用する、自分たちが興奮できる音楽を作れるかという意識を、ceroは強く持ってると思うんですよね。

僕は歌詞を書かないけれど、メロを書く人間としてはそこに日本語が乗ることを大前提にしているので。そういう意味でも高城さんしかり、洋楽的なオケに日本語を乗せた新たなポップスの提示ができる人に歌詞を書いてもらいたいなと思ってるんです。ceroはいつもその可能性を追求してるんだと思います。日本語って厄介なときがあるからね。

高城:ホントにそうですね。厄介だからこそ可能性もあって。英詞だと簡単にいけちゃうんだけど、それを日本語詞でやることで別ものになるマジックが生まれると信じています。

―高城さんはすでに独立した歌詞文体を確立していると思いますし。

高城:それが僕のシグネイチャー感みたいなところはあるかもしれないですね。

左から:冨田恵一、高城晶平

―最後にあらためて、お互いの今後に期待したいことを語っていただけたらと思います。

冨田:ぜひまた一緒に何かやりたいということをお伝えしたいですね。

高城:もう、こちらこそです。ぜひぜひ。

冨田:ceroはシーンの牽引役でもあるという話が最初に出ましたけど、常に音楽性を更新しようとしているバンドだと思います。そういうスタンスをとれるバンドはそんなに多くないと思うので、ずっとこの調子で活動してほしいですね。

高城:ありがとうございます。今回、あらためてすごくいい作品に関わらせていただいたなと思います。僕自身はボーカルという点において自信を持ってるわけではないので、不安もあったんですけど、ひとつ自分の持ち味をここで出させてもらって自信につながりました。きっと自分の今後の作品にもいい影響があるだろうと思っています。こちらこそ、ぜひまた一緒に何かやらせてください。

リリース情報
冨田ラボ
『SUPERFINE』完全生産限定盤(CD+DVD)

2016年11月30日(水)発売
価格:4,536円(税込)
VIZL-1040

[CD]
1. SUPERFINE OPENING(instrumental)
2. Radio体操ガール feat.YONCE
3. 冨田魚店 feat.コムアイ
4. 荒川小景 feat.坂本真綾
5. ふたりは空気の底に feat.高城晶平
6. Bite My Nails feat.藤原さくら
7. 鼓動 feat.城戸あき子
8. 雪の街 feat.安部勇磨
9. 笑ってリグレット feat.AKIO
10. SUPERFINE ENDING(instrumental)
※TOMITA LAB STUDIOやRed Bull Studios Tokyoで撮影されたレコーディングドキュメント映像を収録したDVD付き
※124ページに及ぶ冨田ラボのレコーディングダイアリーBOOK付属
※5千枚限定

冨田ラボ
『SUPERFINE』通常盤(CD)

2016年11月30日(水)発売
価格:3,240円(税込)
VICL-64627

1. SUPERFINE OPENING(instrumental)
2. Radio体操ガール feat.YONCE
3. 冨田魚店 feat.コムアイ
4. 荒川小景 feat.坂本真綾
5. ふたりは空気の底に feat.高城晶平
6. Bite My Nails feat.藤原さくら
7. 鼓動 feat.城戸あき子
8. 雪の街 feat.安部勇磨
9. 笑ってリグレット feat.AKIO
10. SUPERFINE ENDING(instrumental)

イベント情報
『isai Beat presents “冨田ラボ LIVE 2017”』

2017年2月21日(火)
会場:東京都 恵比寿 LIQUIDROOM

リリース情報
cero
『街の報せ』(CD)

2016年12月7日(水)発売
価格:1,080円(税込)
KAKUBARHYTHM / DDCK-1049

1. 街の報せ
2. ロープウェー
3. よきせぬ

cero
『Outdoors』(Blu-ray)

2016年12月7日(水)発売
価格:5,000円(税込)
KAKUBARHYTHM / DDXK-1002

1. (I found it)Back Beard
2. 21世紀の日照りの都に雨が降る
3. マウンテン・マウンテン
4. 大洪水時代
5. 船上パーティー
6. good life
7. スマイル
8. さん!
9. Summer Soul
10. Yellow Magus(Obscure)
11. Orphans
12. ticktack
13. ロープウェー
14. outdoors
15. Elephant Ghost
16. わたしのすがた
17. ターミナル
18. 夜去
19. Narcolepsy Driver
20. Wayang Park Banquet
21. 大停電の夜に
22. Contemporary Tokyo Cruise
23. 街の報せ

cero
『Outdoors』(DVD)

2016年12月7日(水)発売
価格:4,000円(税込)
KAKUBARHYTHM / DDBK-1014

1. (I found it)Back Beard
2. 21世紀の日照りの都に雨が降る
3. マウンテン・マウンテン
4. 大洪水時代
5. 船上パーティー
6. good life
7. スマイル
8. さん!
9. Summer Soul
10. Yellow Magus(Obscure)
11. Orphans
12. ticktack
13. ロープウェー
14. outdoors
15. Elephant Ghost
16. わたしのすがた
17. ターミナル
18. 夜去
19. Narcolepsy Driver
20. Wayang Park Banquet
21. 大停電の夜に
22. Contemporary Tokyo Cruise
23. 街の報せ

プロフィール
冨田ラボ
冨田ラボ (とみたらぼ)

1962年6月1日生まれ、北海道旭川市出身。キリンジ、MISIA、平井堅、中島美嘉、ももいろクローバーZ、矢野顕子、RIP SLYME、椎名林檎、木村カエラ、bird、清木場俊介、Crystal Kay、AI、BONNIE PINK、畠山美由紀、JUJU、坂本真綾、他数多くのアーティストにそれぞれの新境地となるような楽曲を提供する音楽プロデューサー。「アーティストありき」で楽曲制作を行うプロデュース活動に対し、「楽曲ありき」でその楽曲イメージに合うボーカリストをフィーチャリングしていくことを前提として立ち上げたセルフプロジェクト「冨田ラボ」として、今まで4枚のアルバムを発売。2014年7月には、自身初の音楽書『ナイトフライ - 録音芸術の作法と鑑賞法 -』を発売。音楽業界を中心に耳の肥えた音楽ファンに圧倒的な支持を得るポップス界のマエストロ。

cero(せろ)

Contemporary Exotica Rock Orchestra 略してcero。2004年結成。メンバーは高城晶平、荒内佑、橋本翼の3人。様々な感情、情景を広く『エキゾチカ』と捉え、ポップミュージックへと昇華させる。2015年5月27日に、3rd Album『Obscure Ride』をリリース。各所初回盤が即座に売り切れ、オリコンウィークリーで8位を記録し、各音楽誌の2015年ベストアルバムにも多数選出されている。今後のリリース、ライブが常に注目される、音楽的快楽とストーリーテリングの巧みさを併せ持った、東京のバンドである。2016年11月3日より、全国ワンマンツアー『MODERN STEPS TOUR』を開催。



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