CLOWが生んだ、自分の居場所で息がしづらい人を救うための音楽

ライブを観たのは去年、7月に開催されたEggsとCINRA共同主催のイベント『exPoP!!!!!』での1回きりだけれど、そのときの印象はよく覚えている。背丈に不釣り合いな大きさのギターを抱えて、ひとり弾き語る彼女の歌から感じられたものは、喜びや悲しみや怒りといった感情より、「芯」だった。生きることの「芯」。考えることの「芯」。

23歳のシンガーソングライター、CLOW。「音楽は救いだった」と語る彼女の音楽は、この世界に降りかかる正論や固定観念の重圧のなかで苦しそうに息を吐きながら、それでも自分の足で生きようともがいている。<君の世界に あいつらを 存在させることはないよ>(“Dialogue”)――心の柔らかくて繊細な部分を歌に託すその姿は、自分が大人になるために捨ててきたものを思い出させもする。そう、たしかに、「孤独」は強さだった。

CLOWの歌声は、この世界の残酷さと美しさのなかで、どう響くのだろう。傷つき、傷つけ合う関わり合いのなかで、どう変わっていくのだろう。初の全国流通盤『DEAR FRAME』を世に放つ彼女に話を聞いた。

教室にひとりでいることが多かったし、周りを見ながら「こいつらが誰もいない学校に行きたい」って思ってた。

―まず、なぜ「CLOW」という名前を付けられたのですか?

CLOW:特に意味はないんですけど、響きがかっこいいなと思って。この名前を付けた当時、People In The Boxの“聖者たち”を聴いて、<まだ空っぽな明日は 限りなく黒に近いグレイ>っていうフレーズの、「黒」というワードが「クロウ」に聴こえたんです。「どういう意味なんだろう?」って考えながら歌詞を見て、「黒」だとわかったんですけど、その響きによさがあったし、黒が好きなので、これにしようって。

CLOWのアーティスト写真
CLOWのアーティスト写真

―CLOWさんは、北海道出身なんですよね。東京に出てきたのはどうしてだったんですか?

CLOW:大学進学で東京に出てきたんですけど、ポジティブな理由ではなくて、「今いる環境じゃない場所に行きたい」っていう、どちらかと言えば「逃げてきた」感じなんです。「今の環境では生きられないけど、なんとかして新しい世界に行けば、もう少し生きながらえるのではないだろうか?」みたいな……。

―「逃げる」というのは、なにから?

CLOW:私は生まれも育ちも北海道なんですけど、北海道の人って、大体は「北海道が日本」みたいな感覚なんですよね。でも、日本ってもっと広いじゃないですか。もっと外の世界を見たいという気持ちがありました。

CLOW
CLOW

―閉塞感が嫌だったんですね。

CLOW:はい……小中高、ずっと居づらかったです。教室にひとりでいることが多かったし、周りを見ながら「こいつらが誰もいない学校に行きたい」って思っていて。高校から大学に行くときも、知っている人がいない場所に行きたかったから、中高の頃は勉強しかしていなかったですね。

―進学が勉強のモチベーションになっていた?

CLOW:そうですね。小学校の頃はそんなに勉強をした覚えがないんですけど、中学校に入ってから教室にひとりでいることが多くなったので、暇だから始めたっていうのもあります。学校の教科書はすぐに終わっちゃうから、自分で買った問題集を学校に持って行って、ひたすら解いていました。

―僕も高校生の頃、進学のために勉強を熱心にしていたんですけど、当時の勉強で得た知識って、ほとんど覚えていないんですよ。

CLOW:わかります(笑)。問題集を解くのって、若干の知識を得ることはできると思うんですけど、そこで得られる知識は色味がないもので……実際になにかを学ぶというよりは、目の前の紙に書かれた情報を処理する訓練ですよね。

あと、学校の勉強って、どれくらい頑張ったかが点数に直接反映されるじゃないですか。どれくらい自分が努力してできるようになったかが、目に見えてわかる。仕事や趣味では、どれだけ頑張っても、学校の勉強ほどわかりやすく結果が出ることってあんまりないですよね。なので、やればやるだけ上がるという経験が嬉しかったのかもしれない。

―その点、音楽活動はどうでしょう。やればやるほど成果が出るものだと思いますか?

CLOW:……いや、そんなに単純な話ではないです。音楽活動を始めた頃は、いいと思ってくれる人なんてひとりもいなかったし、ライブハウスに「出してください」って言ってもダメだったし、お客さんがいても自主制作のCDも全然売れなかったし……。

たしかにその頃と比べれば、今は段々と上手くいくようになっているのかもしれないですけど、自分からしたら、いいと思う曲を作って、それをかっこよくライブで見せるということを、ただただ、やり続けているだけで。周りから見れば上手くいっていなかったとしても、自分が作っている曲に対してはずっと自信があった。それは変わらないです。

―ギターを始めたのは東京に出てきてからだそうですが、北海道時代はどんなふうに音楽に接してきたんですか?

CLOW:特にBUMP OF CHICKENがすごく好きで、麻薬みたいに常に聴いていましたね。当時はまだ、自分で楽器を弾いたりもしていなくて、ただただ聴いて救われていました。

―CLOWさんにとって、「救い」は音楽の重要な要素ですか?

CLOW:そうですね……上手く言葉にできないんですけど……すみません。

聴いてくれる人が、私の歌を聴いてなにかを感じたり考えたりすることで、今日、死ぬことを諦めてくれるかもしれない。

―当時のCLOWさんにとって、音楽によって得た「救い」は、具体的にどんなものだったのでしょう?

CLOW:……たぶん、「今、生きている」っていう、それ自体かなと思います。10代の頃は、「生きるために強くならきゃいけない」ってずっと思っていて。自分の足で立たなければいけないと思っていたし、弱いままだったら死んでいたと思うし……その感覚は、あの頃から根本的には変わっていないと思います。

CLOW

―プロフィールによると、CLOWさんは『MASH A&R』や『COLUMBIA U-25 AUDITION』など、オーディションにたくさん応募されていたんですよね。なので、音楽で世に出ることを強く求めてきた方なのかなって思うんです。

CLOW:そうですね……頭が固いので、「ひとりでも多くの人に聴いてもらうにはどうすればいいんだろう?」って考えると、手当たり次第に音源を送っていくことしか考えられなくて。なので、できるだけたくさん……2~300回くらいは、レコード会社に音源を送ったんですけど、でも、返事なんか1回もこなかったです。

―それでも、音楽を諦めることはなかったんですね。

CLOW:そこはもう、「聴いてほしい」っていう1点に尽きるかもしれないです。とにかく誰かに聴いてほしくて。

―ちなみに、大学時代にバンドをやったりはしなかったんですか?

CLOW:一応、大学では最初、ギターのサークルに入ったんです。それでギターを始めたんですけど、そこでも中高と同じように全然馴染めなくて、すぐに辞めました。

―でも、そこは中高とは違って、CLOWさんと同じように音楽に興味のある人たちがいる場所ですよね。それでも、居場所にならなかった?

CLOW:そうですね……一番大きな点は、そのサークルは、コピーやカバーをするのが目的だったんですよね。もちろん、そういうのも楽しいけど、私は「自分で作ったものを聴いてもらいたい」という気持ちが強くて。聴いているだけでは救われない部分を、自分が音楽を作ることで補いたかったんだと思います。

CLOW

―北海道時代には、学校の集団社会や地元の閉塞感によって感じる「生きづらさ」のなかでの「救い」が音楽だったんですよね。今のCLOWさんが生み出したい「救い」は、どんなものなんでしょう?

CLOW:なんて言ったらいいんだろう…………「私の気持ちを聴いてくれ!」っていう感じではないんです。でも、私が歌っていることって、別に私だけにしかわからないことだとは思っていなくて。同じようなことを思っていたり感じたりしている人は、少ないかもしれないけど、いるんじゃないかって思う。

そのこと自体が、誰かにとっての「救い」になるかもしれないじゃないですか。聴いてくれる人が、私の歌を聴いてなにかを感じたり考えたりすることで、今日、死ぬことを諦めてくれるかもしれない……これ、回答の方向として合っているのかなぁ……すみません。

―いえ、大丈夫ですよ。

CLOW:「救ってあげよう」っていう、上から目線のことではないんです。自分もまだ、救われていないことがいっぱいあるし。だから、今でも曲を作って歌っているわけだし。でも、その上で、今は「あのフェスに出たい」とか、「あのライブハウスに出たい」とか以上に、私の曲を好きだと思ってくれる「ひとり」が増えていってくれればなって思うんです。

CLOW

―大きなステージの上から大勢の人たちに向かって、「あなたは生きていてもいいんだ」という救いを与えることのできる音楽家もいますよね。でも、今のCLOWさんが見ているのはそういう場所ではなくて、CLOWさんが音楽を鳴らして生きていること、その姿自体が、他の誰かを生かすかもしれない。きっと、そういうことですよね。

CLOW:……なるほど。……すみません、「なるほどぉ」って思っちゃった(笑)。

どんな出来事もおのずと過ぎ去っていくもの。でも、ひとりの人が抱いた感情や気持ちは、簡単に昇華されるものではない。

―具体的な曲の話をしていきたいんですけど、CLOWさんの曲は、客観的な、観察者のような視点が常に入ってきますよね。

CLOW:そう……なんですか?

CLOW『DEAR FRAME』ジャケット
CLOW『DEAR FRAME』ジャケット(Amazonで見る

―そうだと思いました。

CLOW:私自身は逆だと思っていて。よくも悪くも、すごく「自分」でしかない歌だと思っています。

―たとえば、『DEAR FRAME』の1曲目の“スクロール”では、<今日 僕が大好きなバンドが解散するらしい / 今日 遅刻が原因で彼はバイトをクビになった>とか、スクロールされていくいろんな景色が描かれていますよね。しかも、自分もスクロールされる対象だという事実から目を背けていない。

CLOW:なるほど……“スクロール”に関して言うと、取っ掛かりとして「スクロール」という言葉は使ったけれど、そもそもはネットがどうこうより、もっと普遍的なことについて歌った歌なんです。

どんな出来事もおのずと過ぎ去っていくものですよね。事故が起こってもいつかは復旧するし、大きな事件が起こっても、それはいつか過去のものになるし。でも、そのときに、ひとりの人が抱いた感情や気持ちって、たとえ事故が復旧したからといって、昇華されるものではないじゃないですか。“スクロール”に込めたのはそういう思いです。

―CLOWさんにとってこの曲で重要なのは、スクロールされていく風景の描写より、そのなかで消えずに残る個人の存在なんですね。

CLOW:そうだと思います。

―CLOWさんは、曲のなかで、一人称を「僕」と歌うことが多いですよね。それはどうしてですか?

CLOW:どうしてだろう……曲は「自分」から生まれてくるものだけど、描き方は「自分自分」したくないっていう気持ちはちょっとあります。そのために「僕」にしているのかもしれない。聴く人に対して、曲を押し付けがましく提示したいわけではなくて。曲は「私のもの」というよりは、それを聴く人が受け取って、その人のなかで考えたり感じたりするものだと思っているので。

CLOW

―ちなみに、顔を出したくない理由もそこですか?

CLOW:そうですね。今のところ顔は出さない方が、曲がちゃんと響いてくれるかなって思って。でも、こうやって取材をしていただくとき、カメラマンさんに本当にご迷惑をおかけしてしまって……すみません。

別に違和感があることが悪いわけではないと思う。みんな違う人間だし、違うことをやっているわけだから。

―どうして今作のタイトルは『DEAR FRAME』なんですか?

CLOW:フレームって、生きていたり、なにかを感じたり考えたりする上では、絶対的に免れることができないものですよね。

―「自分」と「自分以外のなにか」を分ける「枠」ということですよね。その存在を、CLOWさんは肯定的に見ているんですか? それとも、否定的に見ていますか?

CLOW:どっちでもあるし、どっちでもないと思います。自主制作盤のタイトルは『ごめん、そんなに興味ない』なんですけど、「興味」も、「フレーム」と同じようにあらゆることを支配していることだと思うんです。でも、「興味ない」っていうのも、ポジティブでもネガティブでもないというか……その状態があるだけですよね。

CLOW

―でも、どうしたってフレームや興味の外側に対して違和感が出てきたり、その違和感が自分の行動や考えに作用したりはしませんか? たとえば3曲目の“みんな同じ恋の歌ばっか つまんない”は、そういう違和感から生まれているのかなって思ったんですけど。

CLOW:「違和感」かぁ……それって、いつも誰でも感じていることだと思うんです。もちろん、この曲は違和感があったから書いたんですけど、別に違和感があることが悪いわけではないと思う。みんな違う人間だし、違うことをやっているわけだから。自分は「つまらない」と思ったからこう書いただけで、別に恋の歌を歌っている人たちを批判したいわけではないし、なにかを言いたいわけでもないんですよね。

―ちなみに、CLOWさんが恋の歌を歌うとしたら、どんなものになると思いますか?

CLOW:恋をしたことがないので、歌えないんですけど……この社会って、恋をしたり、パートナーを作ることが、優先順位の高いことだとされているじゃないですか。でも、それがすべてではないと思うんですよね。実際、それをせずに生きている人間がここにいるので。

まあ、わからないですけどね。もしかしたら3か月後に大恋愛をして恋の歌を作ることになるかもしれないし。でも、今の時点の自分の脳内にそれはないです。あ、BUMP OF CHICKENのフジくん(藤原基央)は好きですけどね(笑)。

(柏倉隆史さんや中村圭作さんに)「こうしてほしい」って伝えると、抽象的でも、ちゃんと汲み取ってくださって。圧倒されっぱなしでしたね。

―これまでの自主制作盤は完全な弾き語り作品でしたけど、今作は柏倉隆史さん(toe、the HIATUSのドラム担当)や中村圭作さん(キーボード担当。toe、木村カエラなどでも演奏)など、豪華なミュージシャンの方々が録音に参加されていますよね。CLOWさんにとって、今作のレコーディングは、「孤独」や「閉塞感」とは違った感覚を得られる体験でした?

CLOW:バンドの人たちがよく「グルーヴ」って言うじゃないですか。これかぁって、感動しました。一緒にやってくださる方々に「こうしてほしい」って伝えるとき、私は語彙力がないので抽象的になってしまうんですけど、それでもちゃんと汲み取ってくださって。圧倒されっぱなしでしたね。

CLOW

―そういうときって、他のミュージシャンの方々がCLOWさんの意志を汲み取った部分もあると思うんですけど、同時に、それぞれがCLOWさんの曲を独自に「解釈した」ということでもありますよね。それは、CLOWさんにとっては喜ばしいことでしたか?

CLOW:そうですね。ちょっと曲が広くなる感じがしました。本当なら、音を足すことで限定されていくものもあると思うんですけど、「なるほど」って思える発見もありましたし。

―「発見」って、「違和感」を能動的に言い換えた形でもあると思うんですよ。ちなみに、昨年の『exPoP!!!!!』のときは、就活をされているとおっしゃっていましたが、その後どうなりました?

CLOW:内定は頂いたんですけど……正直、働ける自信がなくて。働いてみたいな、とは思うんです。多くの人が働いているわけで、それが自分の曲作りに活きるならやってみてもいいかなって思うんですけど。自分のことを知っている人には、「CLOWちゃんにサラリーマンは無理っしょ」って言われたりして。

―でも、社会や組織に入ると、今までとは違う「発見」や「違和感」が出てくると思うので、そんな経験を経たCLOWさんの曲も、この先聴いてみたいです。

CLOW:そうですね……ちゃんと曲に繋がるのであれば、それもいいなって思います。

リリース情報
CLOW
『DEAR FRAME』(CD)

2017年1月18日(水)発売
価格:1,620円(税込)
EGGS-016

1. スクロール
2. Hair Make
3. みんな同じ恋の歌ばっか つまんない
4. Dialogue
5. 普通
6. おいてきたもの

イベント情報
『CLOW「DEAR FRAME」リリースイベント「KBKK」』

2017年2月2日(木)
会場:東京都 下北沢 GARAGE
出演:
CLOW
藤森真一(藍坊主)
門田匡陽(Poet-type.M、BURGER NUDS)
ATLANTIS AIRPORT
Blueglue

プロフィール
CLOW
CLOW

北海道札幌市出身。2013年4月、上京。2014年8月、都内を中心に活動を始める。2015年、ヤマハ主催ミュージックレボリューション東日本ファイナル出場。モナレコード主催『モナレコ女子!』ファイナリスト。2016年、『MASH A&R』2月度優秀アーティストに選出。2017年1月18日、初全国流通ミニアルバム「DEAR FRAME」リリース予定。



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