小林武史が音楽プロデューサーとして語る、1990年代と現在の変化

今、小林武史を、単に「数々のヒット曲を生み出した音楽プロデューサー」というイメージで捉えている人は、少ないのではないだろうか。

2003年に非営利団体「ap bank」を設立し、2017年には東北・石巻にてアートと音楽と食の総合芸術祭『Reborn-Art Festival』を立ち上げるなど、音楽という枠組みを超え、社会を動かす活動に長らく携わってきた彼。CINRA.NETでも、たびたびその意志と構想を記事として伝えてきた(参照:『Reborn-Art Festival』関連記事)。だからこそ、この記事では改めて小林武史の音楽に焦点を当て、「プロデュースワークとは」「今の時代における音楽やクリエイティブの『新しさ』とは」というテーマでインタビューを行った。

4月4日には、近年のプロデュース作品を集めたアルバム『Takeshi Kobayashi meets Very Special Music Bloods』がリリースされる。2年間にわたり携わってきた東京メトロのCMシリーズを中心に、『Reborn-Art Festival』など様々なプロジェクトのために制作された楽曲を集めた1枚だ。ここでは「佐藤千亜妃と金子ノブアキ」や「クリープハイプ×谷口鮪(KANA-BOON)」「絢香&三浦大知」のように、世代や性別やジャンルを超えた多様な歌い手が共演を果たしている。その背景にはどんなアイデアやモチーフがあったのか。小林武史が企む「出会い」について語ってもらった。

プロデューサーというのは、「一期一会」をずっと日々繰り返していくものだと思うんです。

—まず、小林さんにとって「プロデュースワーク」というのはどういうものなのでしょうか? 「プロデュース」という仕事はどういうものか、というところから教えていただければと思うのですが。

小林:難しいですね。たとえばMr.Childrenと僕が長く関わってやってきたことと、今回のアルバム(『Takeshi Kobayashi meets Very Special Music Bloods』)でクリープハイプと関わってやったことは、当然違う。関わっている時間の量が違いますから、「プロデュース」という言葉の指す内容も変わってくる。それは、みなさんの人生に当てはめて考えてみてもわかる通りです。

ただ、基本的には「一期一会」みたいなものですね。改めて思うのは、プロデュースワークというのは、こういう形がひとつの基本なんじゃないかということで。

小林武史
小林武史

—こういう形、というのは?

小林:プロデューサーというのは、一期一会をずっと日々繰り返していくものだと思うんです。当然、ずっと一緒にやっていけば時間の堆積になっていくから、関係が深くなっていく。それでも、新しい出会いを起こしていきたいと思うんですよね。

今も東京メトロのCMソングのシリーズで、[ALEXANDROS]と一緒に新しい曲を作っているんですけど、一期一会とは言え、相当濃密な時間になっているんです。終わるときには離れがたいようなくらいのことがあって。若い頃を思い出したような感じもあったし、自分のプロデュースワークがもう一度浄化されたような気もしたくらいでした。

CMには[ALEXANDROS]がカメオ出演している。使用楽曲:[ALEXANDROS]×最果タヒ“ハナウタ”

「切ないが、前に進むのだ」というような表現が、日本のメジャーシーンにはずっと変わらずある。

—小林さんが今の時代の空気をどう見ているのかについても訊かせてください。1980年代から音楽家、プロデューサーとして活動されてきて、1990年代、2000年代、2010年代と、世の中に受け入れられる音楽はどう変わってきたという感覚がありますか?

小林:全体を括ってなにかを言うのは難しいかな。でも、今は本当に、どこかが全体を引っ張っているという感じはなくなっていますよね。

—たしかに、それぞれの趣味嗜好が多様化しているのは間違いないですね。

小林:基本的にはそれでいいと思うんだけれど、どうしても、次の扉を開けていくものに期待をしてしまいますね。焼き直しを喜ぶ人たちもたくさんいるし、それもわかるんです。音楽ファンも時代とともに歳を重ねていくから。でも、僕個人としては、新しく起こる化学反応に興味がある。

音楽のスタイルも「次はこれだ」と近視眼になって新しいものに飛びつくようなところが多々あるけど、もう一度、古典的なものから、新しいものまで、自由にセンスを活かして作り上げるものがもっと出てきたらいいのにと思います。いろんな枠組みを取っ払って、射抜くようなものが出てきてほしいという思いはありますね。

小林武史

—歌詞については、1990年代と今で、日本国民に受け入れられるものが変わってきていると思いますか? アルバムに収録されている絢香&三浦大知“ハートアップ”について、「『切実だけれど、希望を失わずに生きる姿勢』みたいなものが、多くの共感を集めるのではないかなと思います」とライナーノーツに書かれていますよね。

小林:そこは変わらないと思います。「切ないが、前に進むのだ」というような表現が、日本のメジャーシーンにはずっと変わらずある。かつて“innocent world”(Mr.Childrenの楽曲。1994年発表)を手がけたとき、僕のなかに「これだったんだ」という気持ちが芽生えて。その「切ないが、前に進むのだ」という感覚には、今もみんなどこかで惹かれているように思います。

もちろん、歌詞の書き方は多様だし自由なんですよ。もっとシニカルだったり、ドライだったり、ハードボイルドだったり、逆に過剰なまでにロマンティックなのもある。ただ、「切ないが、前に進むのだ」というのが日本人の心であると、若干悩ましいところもありつつ、そう思っているんですよね。

—悩ましいところ、というと?

小林:「桃太郎主義」という言葉があるんです。辺見庸さん(1944年生まれ。作家、ジャーナリスト、詩人)が『1 9 3 7(イクミナ)』(2015年)という本で、そのことについて書いていて。桃太郎は鬼ヶ島に行って、征伐を行うわけですよね。それは内側からだと純粋な思いを持っているように見えるけれど、外側から見ると無知でしかない。そのことが「切ないが、前に進むのだ」という感覚と、背中合わせにある。数年前、そのことに気づいたんです。

そういう意味で、世界のなかで日本人を評するのに「桃太郎」という言葉がぴったりくる。ピュアなようでいて、無知であるという。それを変えていかないといけないという思いはあります。だから、自分がやってきたことを、苦い気持ちで振り返るようなところもあるんですよね。

今バンドをやっている人を見ても、歌う才能、曲を書く才能が、退化しているとはまったく思わないです。

—先ほど「次の扉を開けるものに期待をする」とおっしゃっていましたが、そのあたりはどうでしょうか。CINRA.NETは若い世代のクリエイターやアーティストの読者もいると思うのですが、「こういう価値観で進むと突破口が開くんじゃないか」といったアドバイスはありますか?

小林:いろいろありますよ。「こういうあたりを掘ればなにかが出てきそうだ」と思うことはあります。ただ、それは計画通りにいくものではないし、言葉で説明できるようなことでもないので。

—小林さんご自身は、今、どんなところから音楽的な刺激を得て、それをプロデュースワークに活かしているのでしょうか?

小林:最近は弦の世界にどっぷりハマってしまっていますね。新しいダンスミュージックからネタを仕入れているというより、数百年前のクラシックのシンフォニーにハマっています。オーケストラを含めた楽器のアンサンブルに、すごく興味を持っているんです。

特にそれをアナログレコードで、50年以上前のヴィンテージなオーディオで聴いているんですよ。ものすごく気持ちいいし、ものすごくピュアなものがあるんですよね。ただ、今バンドをやっている人を見ても、歌う才能、曲を書く才能が、退化しているとはまったく思わないです。

小林武史

—1990年代と今とでは、音楽が必要とされている度合いが違うのではないか、今は音楽が必要とされていない時代なのではないか、というようなことを考える若いミュージシャンもいます。そのあたりは、小林さんはどう見ていますか?

小林:時代は変わっていると思いますよ。確実に変わっている。アーティストはリスナーにどこで出会えるのか、どう待ち伏せするのかを、冷静に考えていかないとダメだろうとは思います。昔の音楽業界にあったような、テレビ番組やCMに投げると誰かが振り向いてくれる、という出会い方はもうないですし。ただ、音楽に反応しない人が増えているとは思わないですね。

今のほうがよっぽど、みんな自分がどう音楽を好きかがわかっている時代という感じがします。なにを観に行ってどういう気持ちになりたいのかがわかっている、というか。やっぱり、送り手側の企みが問われていると思いますね。

小林武史

—僕の印象ですけれども、今の時代はバンドだけでなく、たとえば歌い手とトラックメイカーと映像作家とイラストレーターのように、広い分野のクリエイターが集まっているクリエイティブのあり方に注目が集まっているような印象があります。

小林:たしかに、クリエイティブなことをするにあたって、間違いなく小さなチームはあったほうがいいと思います。1人でやれる人もいると思うけれど、小さなチームやコミュニティーでなにかをする、そのためにクリエイティブな集団を組むということが大事になっていますよね。

最初に、箭内(道彦)くんから手紙が来たんです。

—今回のアルバム『Takeshi Kobayashi meets Very Special Music Bloods』は、どういった経緯で作られたものなのでしょうか?

小林:2年くらい前から東京メトロのCM曲を手がけるようになった一方で、『Reborn-Art Festival』(以下、『RAF』)のプロジェクトも進めていて。かたや震災のあった東北を舞台にした芸術祭で、こちらは東京がテーマになっている。ここ数年はそれを同時に進めていた時期だったんですね。

で、せっかくいろいろなアーティストが登場するものなので、レコード会社の人間も目をつけておかないわけがない(笑)。「いずれアルバムにできたらいいよね」という話もありつつ、1曲1曲が生まれていったんです。

小林武史

—当初からアルバムを見据えた動きはあった。

小林:僕としてはそれを形にするという執念のようなものはなかったんだけど、最近になって並べて聴いてみたら、単に東京のみならず、『RAF』も含むこの何年かのことを反映していると感じたんです。それを僕のほうから送り出せるかもしれないと思って、「じゃあ、僭越ながらアルバムにしましょうか」ということになりました。

—『RAF』は東北・石巻、東京メトロのCM曲は東京を舞台にしたものです。ある種対照的なイメージもありますが、つながるものを感じられたのでしょうか?

小林:そこは本当にひねりもなく、「人の営み」ということですね。そこには東京メトロのCMディレクターである箭内(道彦)くんの視点もありました。彼はあのCMで、東京を地域でわけて、そのなかにある人のつながりや、人の営みを描いていたんですよ。石原さとみさんがいろんな地域を探訪していき、そこに音楽とのちょっとした出会いが挟まれている。そういうふうに作ったことが、このCMシリーズがブレずに続いている理由でもあると思います。

使用楽曲:絢香&三浦大知“ハートアップ”

小林:何気ないようだけれど、東京という大きな都市も、地域や人の営みの集まりからできているということには、マスなところばかりに目を向けているとなかなか気づかないんです。僕自身も、比較的東京の中心部にずっと住んでいるので、気づきにくいところがあったんですよね。

小林武史

—東京という街を大きく括るのではなく、そのなかの小さな地域にスポットをあてるという箭内さんの発想や、彼のクリエイティブのあり方から触発されたものがあったと。

小林:そうですね。最初に、彼から手紙が来たんですよ。そこには、「個の人間で成り立っている東京」ということがテーマだ、みたいなことが書いてあって。ただ、彼とは土俵が一緒だという感覚はあまりないんです。これはお互いにそうだと思う。

箭内くんの温かくもちょっと笑えるようなテイストと、僕がやっているもののテイストは、少し違う。だから最初は、もうちょっと音楽を箭内くんに寄せるよう言われるかと思っていたんです。でも、そういうことはなかった。それぞれが干渉しないまでも、どこかしら関わり合いながら存在しているという感じで進めていくことができました。

石巻で企んでいた多様な「出会い」と、東京メトロのCMの音楽を通して作った「出会い」は、同じようなことだった。

—東京メトロのCMソングでは、佐藤千亜妃さん(きのこ帝国)と金子ノブアキさん(RIZE)や、back numberと秦 基博さんのように、いろんな人たちを結びつける楽曲制作が繰り広げられています。これは、どういう経緯があったのでしょうか?

小林:最初は、それぞれのアーティストの通常の活動とどう差別化できるかということに対するひとつのアイデアだったんです。それと同時に、僕からすると『RAF』との関わりもあって。『RAF』は途中から「出会う」ということがテーマになっていったんです。

震災によって大きなものが失われた場所で、新たな出会いが起こっていく。そういうことを考えていた。僕はそれまで「出会う」という言葉をそんなに使ってこなかったし、出会いのために音楽を作るということもなかった。東京メトロのCM映像でも、日常の範囲を少し超えた場で新しいなにかに出会うということが常に盛り込まれていて、その感じが、そのまま音楽的なコラボに反映されていった側面はあると思います。

—『RAF』と東京メトロのCMという2つのプロジェクトに共通するものが、「出会い」というモチーフだったと。

小林:そのおかげで、このアルバムも実にシンプルですっきりした構造になっていきました。出会いといっても、新たな出会いだけでなく、旧友との再会もあるだろうし、自分のなかのもう一人の誰かとの出会いということもあるかもしれない。そういう点で、石巻の牡鹿半島で僕が企んでいた多様な「出会い」と、東京メトロのCMの音楽を通して作った「出会い」は、同じようなことだった気もしますね。

牡鹿半島にて、『Reborn-Art Festival』の様子。左から:Salyu、小林武史(撮影:相川舜)
牡鹿半島にて、『Reborn-Art Festival』の様子。左から:Salyu、小林武史(撮影:相川舜)

—このアルバムには様々なアーティストが参加していますが、ここ数年の小林さんの興味と活動がひとつの軸になっていることで、作品全体に統一感が生まれているように思います。

小林:結果として、並べてみたら、すべてを狙って作ったかのような感じがしますよね。

小林武史『Takeshi Kobayashi meets Very Special Music Bloods』ジャケット
小林武史『Takeshi Kobayashi meets Very Special Music Bloods』ジャケット(Amazonで見る

櫻井(和寿)くんと共通する音楽とアートということをロック的に捉えると、ああいった感じになるんです。

—アルバムに収録された“What is Art?”は、櫻井和寿さんのボーカルにオートチューンのエフェクトがかかったエレクトロな楽曲となっています。そこには、デジタル方面で新しいことをやろうという感覚があったのでしょうか?

小林:このあたりは、正直に言うと、新しいことをやりたかったというよりも、1990年代へのオマージュのような感じがありました。別に懐古趣味なわけではないけれど、櫻井くんと共通する音楽とアートということをロック的に捉えると、ああいった感じになるんです。佐藤千亜妃さんとやった曲(佐藤千亜妃と金子ノブアキと小林武史“太陽に背いて”)のほうが、得体のしれない新しさのようなものはある気がしますね。

—得体のしれない新しさ、というのはどういう感覚なのでしょうか?

小林:今の時代、音楽に「あや」みたいなものが見えにくくなっていると思うんですよね。もう一度そういうものを取り戻せたらいいなと思ったのかな。僕があの曲でイメージしたのは、『恋する惑星』(1994年、ウォン・カーウァイ監督)という映画なんです。

—そのイメージを、具体的に言うと?

小林:ウォン・カーウァイがアジアの映画としてあの作品を作って、俳優には金城武くんやフェイ・ウォンがいて、The Cranberriesの曲(“Dreams”)をカバーしていた。アジアがすごく面白いことをやっていて、日本がそこに含まれていた。そしてあの映画の世界では、都市の生活のなかで、日常かサスペンスかわからないようなところに「あや」があったんですよね。そういう感じを、音楽に求めたところがありました。

さっき言った「クリエイティブな集団を組むのが大事」というのは、今の時代だけではないと思うんですよ。『恋する惑星』でも、ウォン・カーウァイの周りにクリストファー・ドイルがいたりフェイ・ウォンが出てきたり、自由な魂を持った連中が集まっていた。かつて僕や岩井俊二くんが集まったときもそうだったかもしれない。いろんな角度の人たちが集まれば、現実も見える一方で、柔軟になれる。そういう集団が増えていくべきだと思います。そういうなかで、より面白いものを作ってほしいと思いますね。

リリース情報
小林武史
『Takeshi Kobayashi meets Very Special Music Bloods』(CD)

2018年4月4日(水)発売
価格:3,240円(税込)
UMCK-1595

1. to U(Tokyo Metro version) / Bank Band with Salyu
2. ハートアップ / 絢香&三浦大知
3. Happy Life(unreleased version) / 中島美嘉×Salyu
4. What is Art? / Reborn-Art Session(櫻井和寿 小林武史)
5. my town / YEN TOWN BAND feat.Kj(Dragon Ash)
6. reunion / back numberと秦基博と小林武史
7. 太陽に背いて / 佐藤千亜妃と金子ノブアキと小林武史
8. 陽 / クリープハイプ×谷口鮪(KANA-BOON)
9. こだま、ことだま。 / Bank Band
10. 魔法(にかかって) / Salyu×小林武史
11. 70(Live version) / novem(大木伸夫(ACIDMAN)、ホリエアツシ(ストレイテナー)、黒木渚、桐嶋ノドカ、小林武史)

プロフィール
小林武史
小林武史 (こばやし たけし)

音楽家、音楽プロデューサー。1980年代から日本を代表する数多くのアーティストのプロデュースを手掛ける。1990年代以降、映画と音楽の独創的コラボレーションで知られる『スワロウテイル』『リリイ・シュシュのすべて』など、ジャンルを越えた活動を展開。2003年に「ap bank」を立ち上げ、自然エネルギーや食の循環、東日本大震災の復興支援等、様々な活動を行っている。

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