『セラヴィ!』監督が語る、日仏で全く違う「対話」の考え方

時代は激変している。かつての通念はもはや通用しない世の中だ。だが、日本社会においては、いまだにどこか、沈黙が美徳たりえている。『最強のふたり』で日本でもおなじみの監督コンビ、エリック・トレダノとオリヴィエ・ナカシュの最新作『セラヴィ!』を観ると、人と人との「対話」が、複雑な21世紀において、いかに重要であるかを痛感させられる。

この映画では、悪夢のようにトラブルが続出する結婚式の舞台裏で、それでもスタッフたちとコミュニケーションをとり、なんとか不測の事態をカバーしようと試みるベテラン・ウェディングプランナーの軽やかで、ひたむきな姿が描かれる。エリック・トレダノと永きにわたってコンビを組んできた監督オリヴィエ・ナカシュは、普段からパートナーとの「対話」を基盤に映画作りを進めているという。ナカシュが『セラヴィ!』を通して、「対話」の重要性について語ってくれた。

僕たちは、自分の国や、自分のことを話すけど、きっとそれは世界が共鳴してくれると信じているんです。

「他者に伝えること」「他者を理解すること」は難しい。言葉や社会が違う者同士なら、なおさらだ。だが、明らかに異なる文化からも、わたしたちは自分たちに通じる何かを「知ること」「学ぶこと」はできる。フランス映画『最強のふたり』が日本でも多くの観客の胸を打ったのは、作品に日本人の心にも「届く」普遍性があったからだろう。それはきっとナカシュたちの映画に「他者に伝えること」への情熱があるからに違いない。

—あなた方の作品は、フランス人とフランスを、愛を持って描きながらも、同時にグローバルな視野を獲得していると思います。『最強のふたり』(2011年)の世界的な大ヒットは、まさにその証明でしょう。フランス的であることと、世界的な普遍性とを共存させていますよね。

ナカシュ:ありがとう。まさにそうしたいと思っていたんです。僕らはラッキーなことに『最強のふたり』が大ヒットしたことで、その後、制作上の自由というものを享受しています。だけど、自由を享受するには、責任が伴う。作品作りは、自分の能力を投資することですし、その都度、社会にコミットしないといけないと思います。だから、僕たちは責任を持って、作品にハートをこめなければいけないんです。

オリヴィエ・ナカシュ
オリヴィエ・ナカシュ

ナカシュ:事務所にホワイトボードがあって、そこにはオリジナルストーリーを作るための教訓となる、2つのフレーズが書いてあるんです。その1つは「君のことを話しなさい。そして、みんなに君の話が届くようにしなさい」です。

—なるほど。「自分の話」を、他者に「届く」ように語ることですね。

ナカシュ:だから『最強のふたり』はいまでも世界中の人に見てもらえているのだと思います。そして、もう1つのフレーズは、シャルリー・エブド襲撃事件(イスラム過激派テロリストが乱入し、風刺週刊紙を発行していたシャルリー・エブド社を襲撃した事件)で命を落とした風刺画家ジョルジュ・ウォランスキの言葉で、「人の心に届く最短の近道はユーモアだ」です。

ナカシュ:いま、世界はどこへでもすぐ行けるようになっています。インターネットや情報社会の中で、世界はすごく狭まっていて、たとえばアメリカの田舎で起こったこと、あるいは日本の地方で起きたことでも瞬時に世界中にニュースとして駆け巡ります。インターネットがなかったら、日本の農家の人の話に感じ入るなんてことはなかったでしょう。いま遠くにあるものとの即時的なコミュニケーションは成立しているということです。

だからこそ、フランス特有の物語を語ることによってでも、他国の人も感動させられると確信を持っています。僕たちは、自分たちの国や、自分のことを話すけど、きっとそれは世界が共鳴してくれると信じているからなんです。

オリヴィエ・ナカシュ

フランスでも日本でもみんなスマホを見続けている。まるで「自分の世界」というシャボン玉に閉じこもっているみたいに。

たとえば、危機的状況にあえて発する悪い冗談が、事態のムードを変えることがある。言葉はときにぶつかりあったり、すれ違ったりもするが、それでも何かを口にすることは、関係性の生成や回復につながる。恐れずに対話をすること。エリック・トレダノとオリヴィエ・ナカシュの新作『セラヴィ!』には、「勇敢なおしゃべり」があふれている。

『セラヴィ!』場面写真 / ©2017 QUAD+TEN / GAUMONT / TF1 FILMS PRODUCTION / PANACHE PRODUCTIONS / LA COMPAGNIE CINEMATOGRAPHIQUE
『セラヴィ!』場面写真 / ©2017 QUAD+TEN / GAUMONT / TF1 FILMS PRODUCTION / PANACHE PRODUCTIONS / LA COMPAGNIE CINEMATOGRAPHIQUE

—本作が描くのは、主人公にとって人生最悪の日と言っても過言ではないと思います。それでも彼はスタッフたちとの対話を欠かしませんね。チームのメンバーたちは、従属的な部下ではないし、損得抜きの仲間でもない。それぞれ個性的な自立した存在です。

ナカシュ:社会がそうなっているからですね。一人ひとりの個性は違うけれども、一緒に生きていかなければならない。これは社会の縮図なんです。

—大変なときに、さらなる窮地に陥ったと絶望させるような過激なジョークを口にする女性がいる。また、ささいな言い間違いを、ことごとく指摘しつづける妙なこだわりを持った男性がいる。人物描写はユーモラスですが、違う者同士が対話することの難しさ、素晴らしさがここでは描かれています。

ナカシュ:よくわかってくれましたね。それが、この映画の核心なんです。この映画を企画したのはパリ同時多発テロ(2015年11月13日に起き、死者130名、負傷者300名以上の犠牲者を出した)が起こった頃。あの事件で、実は知り合いの知り合いが亡くなりました。ようするに、リアルに僕らに「関係する」事件だったんです。

僕らは人間だから、悲劇の影響を受ければ、もちろん泣いたりもするけれど、だからこそそのときに喜劇を作りたいと思いました。テロリストになんか負けたくないから、ドラマティックな悲劇を作るのではなく、社会の縮図を喜劇として描きたいと思ったんです。

オリヴィエ・ナカシュ

—対話には言葉が欠かせません。この映画は言葉をとても大切にしていますね。

ナカシュ:その通り。これは「言葉の映画」なんです。いま、世界中でインターネットや携帯電話によるコミュニケーションができるようになりました。でも、一人ひとりはすごく孤独だと思います。

今日、ここに電車で来たのですが、フランスと同じで日本の乗客もみんなスマホを見続けていますね。まるで「自分の世界」というシャボン玉の中に閉じこもっているみたいです。そんなシャボン玉を破裂させたいと思うし、そこから抜け出してもらうために、僕らはこの映画を作ったと言ってもいいかもしれません。

だから、この映画では生の言葉に具体的にフォーカスしています。個別に生きるのではなく、みんな一緒に前に進んでいかなければいけない。そのためには言葉で語らなければいけないし、対話をしなければいけないんです。それが僕らの関心事でした。

—スマホをデジタルな機器ではなく、あくまでもアナログなコミュニケーションツールとして映画的に用いていますね。閉じるのではなく、行動につながるようなものとして。そのことによって、また新たなハプニングも生まれるわけですが(笑)

ナカシュ:アナログからデジタルへの変化になかなかついていけない人間もいると思います。本来、これほどの先進技術の発展は1世紀ぐらいかけて行われていたはずなのに、いまはものすごくスピーディーになっていて、10年ごとのサイクルで変化します。わたしたちはちょっとそれについていけておらず、先進技術に翻弄されているような気がするんです。

オリヴィエ・ナカシュ

—そうした翻弄も肯定的に捉えるヒューマニティーが、この映画の魅力でもあります。 

ナカシュ:フランスでは「監督は仲裁役だ」と言われるくらいで、映画に登場する人すべてに、好意的な視線を投げかけたいと思っているんです。物語を作るときは、人物それぞれの個性をちょっと誇張するようにしています。でも、それは意地悪な見方をしているわけではなくて、その人たちを愛しているから。つまり、その人の存在に感動させられているからなんです。

ヴァンサン・マケーニュ(左端) / ©2017 QUAD+TEN / GAUMONT / TF1 FILMS PRODUCTION / PANACHE PRODUCTIONS / LA COMPAGNIE CINEMATOGRAPHIQUE
ヴァンサン・マケーニュ(左端) / ©2017 QUAD+TEN / GAUMONT / TF1 FILMS PRODUCTION / PANACHE PRODUCTIONS / LA COMPAGNIE CINEMATOGRAPHIQUE

ナカシュ:『セラヴィ!』に出てくる、自分をスターだと思い込んでるバンドのボーカルや、ちょっと横柄な新郎は、僕らフランス人にとっては本来「クソ野郎」なのですが、そういう人物にもどこかホロリとさせられるところがあるんですよ。それぞれの人間がちゃんと生きていて、ちゃんと共存している。誰ひとりとしてないがしろにしないような描き方をしたつもりです。

主演のジャン=ピエール・バクリ(1951年生まれ、フランスの俳優、脚本家)はフランスでは非常に尊敬されている大俳優で、映画には滅多に出てくれません。今回も5年かけてようやく口説き落としました。彼が演じた主人公マックスは、表面上はイライラしたりしてイヤなヤツなんだけど、心の中はあったかい、僕らが思い描く典型的なフランス人で、それをバクリは見事に体現してくれました。

左から、バンジャマン・ラヴェルヌ、ジャン=ピエール・バクリ / ©2017 QUAD+TEN / GAUMONT / TF1 FILMS PRODUCTION / PANACHE PRODUCTIONS / LA COMPAGNIE CINEMATOGRAPHIQUE
左から、バンジャマン・ラヴェルヌ、ジャン=ピエール・バクリ / ©2017 QUAD+TEN / GAUMONT / TF1 FILMS PRODUCTION / PANACHE PRODUCTIONS / LA COMPAGNIE CINEMATOGRAPHIQUE

フランスのことわざでは「沈黙は物事を悪化させる」と言うんです。

海外旅行をすると自国のことがよくわかると言われる。それと同じように『セラヴィ!』を観て気づかされる日本人の問題、そして、自分自身の問題がある。

—困難に直面したとき、人は口を閉ざしがちです。特に日本人は「沈黙は美」と思いすぎています。言わなくてもわかりあえる関係に過剰な期待があります。しかし、トラブルが起きたときほど、対話は必要だと『セラヴィ!』を観て痛感します。どうしたら、辛いときにフランス人のように口を開くことができるのでしょう?

ナカシュ:恋人とうまくいってないんですか? 電話をくれたら、僕が彼女と話してあげますよ(笑)。フランスのことわざでは「沈黙は物事を悪化させる」と言うんです。沈黙は、悪い妄想に人を向かわせます。

オリヴィエ・ナカシュ

ナカシュ:もちろん、僕らは映画を撮るとき、すべてを台詞で説明はしません。コミュニケーションは目と目のアイコンタクトでも行えるので、人物が思っていることは繊細にも表現できるんです。ただ、『セラヴィ!』を観た日本人は「フランス人はみんな、あんなに思ったことをすぐ口に出して言うの?」と、よく驚いていますね。でも、そうなんです。フランス人は思ったことをなんでも言葉にしますし、それが当たり前の資質なんです。

『セラヴィ!』場面写真 / ©2017 QUAD+TEN / GAUMONT / TF1 FILMS PRODUCTION / PANACHE PRODUCTIONS / LA COMPAGNIE CINEMATOGRAPHIQUE
『セラヴィ!』場面写真 / ©2017 QUAD+TEN / GAUMONT / TF1 FILMS PRODUCTION / PANACHE PRODUCTIONS / LA COMPAGNIE CINEMATOGRAPHIQUE

ナカシュ:僕がアドバイスするとしたら……確かに最初は言いにくいかもしれないし、言ってしまったことでいざこざがあるかもしれないし、自分自身もキツいかもしれない。でも、沈黙よりはマシだと思います。きっと、うまくいく。たとえケンカをしても、内にためずにどんどん口に出すことが重要だと思います。

—タヴィアーニ、コーエン、ダルデンヌ、ウォシャウスキー……兄弟で共同監督しているパートナーは世界映画史にもそれなりにいます。ただ、他人同士のパートナーはそう多くはない。あなたとエリック・トレダノさんは20年近くのキャリアを通して、短編、長編すべてを共同監督していますね。やはり、その創作の場でも対話を大切にしているのでしょうか。

ナカシュ:やっぱり、いっぱい話しますよ(笑)。彼とは15歳の頃に出会って、一緒に成長してきました。25歳ではなく、15歳での出会いは大きくて、あの頃から「一緒に映画をやろう」と決めていたんです。僕らの夢は、当時から全然変わってないんですよね。

『セラヴィ!』場面写真 / ©2017 QUAD+TEN / GAUMONT / TF1 FILMS PRODUCTION / PANACHE PRODUCTIONS / LA COMPAGNIE CINEMATOGRAPHIQUE
『セラヴィ!』場面写真 / ©2017 QUAD+TEN / GAUMONT / TF1 FILMS PRODUCTION / PANACHE PRODUCTIONS / LA COMPAGNIE CINEMATOGRAPHIQUE

ナカシュ:ラッキーだったのは、いつも2人の語りたいテーマが一致していることです。今回は喜劇だったけど、次はもう少しハードなものになって、その次はまた喜劇になるかもしれない。僕らにとっては、毎回が世界とのコミットメントなので、その波長が一致しているのは大きいと思います。

2人で、1本の映画に取り組むというのは、お互いにとって「約束」のようなものなんです。エリックと僕は、実は性格がものすごく違って、だからこそ、お互いを補い合えています。東洋的に言えば、陰と陽みたいな関係ですが、どちらが陰で、どちらが陽かはわかりません。陰と陽は循環しているものですからね(笑)。

僕らは映画を受け取る人に、生ぬるい感覚ではなく、激しい感情を呼び起こすことを目指しているんです。

—映画はとても時間のかかる創作物です。1本の作品を完成させるために、何を大切にしていますか。

ナカシュ:自分にとって大事なのは、熱中できるテーマ……たとえばアートでも絵画でもいいんですが、作品には必然性というものがあると思います。作品が存在しているのはたまたまではなく、誰かが心の底から作りたかったからなんです。

僕らにとっていちばん絶望的な批評は、「ああ、まあ、感じのいい映画だね」です(笑)。嫌いだったら「大嫌いだ!」と言われたいし、好きなら「大好きだ!」と言われたい。僕らは映画を受け取る人に、生ぬるい感覚ではなく、激しい感情を呼び起こすことを目指して、真剣に映画を作っています。そして、それが僕らにとってのコミットメントなんです。

オリヴィエ・ナカシュ

ナカシュ:映画が撮れるということは、すごく恵まれたことで、選ばれているんです。たとえば100人の人が「映画を撮りたい」と思っても、実際に撮れるのはごくわずか。だから、映画を作るということには、責任が伴うと思います。「映画が作れる、ラッキー、どんな作品でも作るのは自由だ!」ではいけなくて、観客の心を動かす、存在する意味のある作品を作ろうとしているんです。

—熱い気持ちが伝わってきました。ありがとうございました。

ナカシュ:彼女とうまくいかないときは、いつでも電話してくださいね(笑)。

フランス人らしいエスプリを交えながら、オリヴィエ・ナカシュはインタビューにおいても「対話」を根幹に置いていた。それはきっと、映画が観客とのコミュニケーションだと信じているからだろう。彼は、世界へのコミットを、日常レベルで実践しているのだ。

『セラヴィ!』メイン写真 ©2017 QUAD+TEN / GAUMONT / TF1 FILMS PRODUCTION / PANACHE PRODUCTIONS / LA COMPAGNIE CINEMATOGRAPHIQUE
『セラヴィ!』メイン写真(サイトを見る) / ©2017 QUAD+TEN / GAUMONT / TF1 FILMS PRODUCTION / PANACHE PRODUCTIONS / LA COMPAGNIE CINEMATOGRAPHIQUE

リリース情報
『セラヴィ!』

2018年7月6日(金)渋谷・シネクイント他全国公開
監督:エリック・トレダノ、オリヴィエ・ナカシュ
出演:
ジャン=ピエール・バクリ
ジル・ルルーシュ
ジャン=ポール・ルーヴ
ヴァンサン・マケーニュ他
製作年:2017年
配給:パルコ

プロフィール
オリヴィエ・ナカシュ

1973年4月14日、フランス、オー=ド=セーヌ生まれ。エリック・トレダノ監督と林間学校で出逢い、映画好きなふたりは共同で映画作りを始める。1995年に初の短編映画『Le jour et la nuit』の監督・脚本を共同で手がけ、続く短編『Les Petits souliers』(99)はパリ映画祭観客賞を始めとする様々な賞を国内外で受賞し、一躍注目される。初の長編映画『Je préfère qu'on reste amis』(05)でジェラール・ドパルデューと出会い、主演のジャン=ポール・ルーヴは、観客からも批評家からも絶賛される。2011年、オマール・シーを主演に抜擢した『最強のふたり』が大絶賛を浴び、フランスをはじめ、世界各国で驚異的なヒットを成し遂げる。さらに世界中の賞レースを席巻、セザール賞全9部門、ゴールデン・グローブ賞、英国アカデミー賞、ヨーロッパ映画賞、放送映画批評家協会賞にノミネートされ、東京国際映画祭では東京サクラグランプリに輝く。ハリウッドでのリメイクが進行中で、コリン・ファース、ケヴィン・ハートが出演する予定。妹は、『プレイヤー』などに出演している女優のジェラルディン・ナカシュ。



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