星野源『POP VIRUS』が変えたJ-POPの常識 有泉智子×YANATAKE

「『POP VIRUS』は『音楽的に攻めたものは大衆にウケない』っていう言説を、本当にただの言い訳にしてしまった」。

音楽雑誌『MUSICA』編集長の有泉智子は、星野源が昨年末に発表した『POP VIRUS』についてこのように語った。2018年12月19日にリリースされ、4週にわたってオリコン週間アルバムチャート1位に輝き続けた同作は発売から2か月以上が経ち、各メディアで様々な切り口で語られ、そして評されてきた。最先端のサウンドが持ち込まれるにとどまらず、星野源のフィルターを通して独自昇華されて生まれた音楽は世界を見渡しても類を見ないほど異様なものとなっているわけだが、実際どこがどうすごくて、ヤバいのだろうか?

CINRA.NETでは、これまでに幾度となく星野本人に取材をしてきた有泉智子と、ヒップホップカルチャーに深く精通するYANATAKEの対談を実施。即完した五大ドームツアーも佳境に入り、さらに待望のアナログ盤でのリリースも発表された今、ふたりに語り合ってもらった。音楽的な先鋭性を保ったまま、お茶の間にまで受け入れられた『POP VIRUS』。その事実が意味することとはいかに。

ポップミュージックとして一番攻めている作品が一番売れたという事実は、今後の日本の音楽シーンを考えるうえで非常に重要なこと。(有泉)

有泉:YANATAKEさんはもともと「Cisco」(渋谷区宇田川町が「レコードの聖地」と呼ばれていた1990年代、その中心地となったレコードショップ)でヒップホップのチーフバイヤーをされていたところから、今はご自身もDJとして活動されている他、block.fm『INSIDE OUT』のディレクションをはじめ、ヒップホップシーンの中心で様々な活動をされています。今日はそんなYANATAKEさんと『MUSICA』という音楽雑誌を作っている私とで、改めて星野源のアルバム『POP VIRUS』は何がヤバいのかを語り合おうという企画です(笑)。

YANATAKE:よろしくお願いします(笑)。

有泉:まず、『POP VIRUS』は2018年の12月19日にリリースされまして、以後、4週間にわたってチャートの1位を独占し続けるという快挙を遂げたんですよね。チャートって他のリリース状況にもよるから一概には言えませんけど、2018年の年末から2019年の年初にかけての1か月間において、日本で一番売れた音楽が『POP VIRUS』だったというのは、このアルバムの音楽的特性から考えるとものすごいことだなと思っていて。

つまり、ポップミュージックとして一番攻めている作品が一番売れた。その事実は、今後の日本の音楽シーンを考えるうえで非常に重要なことだな、と。まずはざっくりと、YANATAKEさんの視点から見ると、『POP VIRUS』とはどんな作品だと思われますか?

有泉智子

YANATAKE:「攻めてる」ということは僕もすごく感じていて。正直に言うと、僕は普段ヒップホップばっかり聴いているんで、星野さんに関しては『SUN』(2015年リリースの8thシングル)くらいから知ったリスナーなんですけど、『POP VIRUS』を聴き込んでみたときに「こんなにも攻めてるのか!」と本当にびっくりしました。

最初は仕事しながら、家でお風呂入りながら、スマホで聴いてたんで、そこまでのすごさに気づいてなかったんですよ。でも、みんながここまでヤバいって言ってるのはなんでだろう? と思って、しっかりヘッドフォンで聴いてみたら「うわ、何このアルバム!?」って。

有泉:(笑)。

YANATAKE:ポップスとしてライトにも聴けるアルバムでありながら、実は異常なまでに音楽的に作り込まれている。ヘッドフォンでいろんな音を気にしながら聴いたら、鳥肌が立つような場面がいっぱいあって。「この人どんだけ凝るんだろう、どんだけ攻めんだろう」みたいな(笑)。で、彼がこだわって詰め込んでいる音楽的なポイントに俺はどれだけ気づけるんだろう、みたいなワクワク感もあって……そこからはもうどんどんのめり込んで聴いちゃいましたね。

有泉:歌に耳を傾けると普遍的で大衆的な、上質な日本語のポップスとして聴こえてくる、そういう楽しみ方ができるアルバムなんですけど、サウンドとしては非常に斬新なことをやっているアルバムで。これまでのいわゆるJ-POPではありえない音が鳴っているし、日本のポップミュージックのアーティストでここまで先鋭的な音楽性を独自の形でポップスに昇華している人は他にいない。じゃあ世界を見渡してみたときに同じことをやっている人がいるかと考えたら、それもいないっていう。

YANATAKE:まさに同じことを思いました。世界で考えてもこんなに突き詰めてやっている人っているのかな? って。ドラムのパターン、打ち込みのリズムひとつとっても、めちゃくちゃ実験的なアイデアが詰め込まれている。こんなに実験的なアルバムって近年聴いたことないってくらいの感じです。だから、今これが日本の頂点にいるのかと思うとすごく嬉しいですよね。

YANATAKE

……言い方は悪いけど、ちょっと変態っていうか(笑)。(YANATAKE)

YANATAKE:最初、このアルバムに対して僕がとっつきにくかった部分があるとしたら、展開がすごすぎるってところだったんですよ。なぜなら、今の海外の音楽って基本的には引き算の世界になっていて、僕自身が普段そういうものばかり聴いているから。特に現行のアメリカはスーパー引き算の音楽になっていて、ヒップホップはどんどんミニマルな音楽になっている。

有泉:それこそ基本的には重低音とハイハットのような上モノのみ、みたいな構成で、中音域は隙間がめちゃくちゃ多い。で、そうやっていかに音を削ぎ落とし、空間を空けた音域のなかでどう印象的にラップや歌を聴かせるかっていうのが肝だったりもしますよね。

YANATAKE:そうそう。ブラックミュージックの基本はループミュージックで、繰り返されることで生まれるグルーヴがポイントとなる音楽であり、現行のものは特に引き算がポイントだと思っているんですけど、星野さんの曲はブラックミュージックでありながらもすごく展開してるじゃないですか。サウンド的にもストリングスとかが足されてゴージャスな展開を見せる、つまり足し算が行われている。

YANATAKE:僕は、引き算はセンスと勇気だと思うんですけど、対して、足し算って不安の表れだと考えていたんですよ。実際、日本でJ-POPとして勝負しようと思うと足し算で失敗しちゃう人が多いような気がしていたんで、なおさら足し算否定派だった(笑)。でも、『POP VIRUS』によってその考え方を覆されたところがあって。足し算でこのセンスをこれだけハメられるっていうのは……言い方は悪いけど、ちょっと変態っていうか(笑)。

有泉:ははははは、変態!(笑)。でも同意です(笑)。

YANATAKE:作詞・作曲全部されているのはもちろん、編曲の凝り方が変態的ですよね。役者もやっていてスーパー忙しいはずなのに、一体どこまで1曲について突き詰めて考えているんだろうって……「普通、そこまで凝らないよね」っていうレベルのところまで凝っているのがすごいなって思います。絶対に妥協しない人なんだろうな……。

有泉:そうですね。もちろん楽しんで作ってはいるんでしょうけど、やっぱり音楽の追い込み方が尋常じゃないなとはいつも思いますね。

YANATAKE:狂気すら感じる作り込みですよね。ヒップホップってビートがすべてで、ビートがカッコよければいいみたいなところがあるんですけど、このアルバムのドラムパターンもいちいち普通じゃない。

普通、打ち込みと生の音ってもうちょっと差が出るんですけど、このアルバムは異常にシームレス。(有泉)

有泉:星野源で意外と語られないなと思うのが、編曲家・プロデューサーとしてのすごさで。彼はその部分が本当に卓越しているんですよね。アレンジにこだわるのはもちろん、一音一音の音の鳴りとか、ミックスのバランスとか、細部までこだわりにこだわっている。

実際このアルバムも、“恋”と“Family Song”、そして“肌”の3曲は、特にクレジットで「アルバムver.」みたいなことは書かれてないけど、でもシングルリリースされているものとはミックスが違うんですよ。具体的には、よりビートが鮮明に聴こえてくるようにミックスし直していて。あとわかりやすいところで言うと、『POP VIRUS』にはSTUTSのMPCや打ち込みのビートの曲と生ドラムの曲が混在しているんですけど、その音の差が少ないというか。普通、打ち込みと生の音ってもうちょっと差が出るんですけど、このアルバムは異常にシームレス。

YANATAKE:僕もそれ、思いました。そこもちょっとびっくりしましたね。

有泉:要因はいくつかあると思うんですけど、やっぱりひとつ大きいのは、生ドラムの音が異常にタイトに録音されているんですよね。“ギャグ”(2013年リリースの5thシングル)という曲以降の星野さんのレコーディングは、渡辺省二郎さんというエンジニアさんが録音とミックスを担当されているんですけど、ドラムを録るときも相当試行錯誤して、ものすごくデッドな環境(=音の反響が少ない環境)を作って録音していたりする。そういう部分からして本当に緻密なこだわりがあるんですよね。

YANATAKE:“サピエンス”のビートとか、あれが生ドラムであることに驚愕しますよね。

有泉:あれは本当にびっくりしましたね(笑)。それこそ私は最初、生ドラムとプログラミングのビートを混ぜているのかと思ったんですけど、実は全部、玉田豊夢さんのドラム生演奏だったという。

YANATAKE:「え! これ、生でできるんだ!?」っていうね。あのドラマーの方も本当にすごい。

有泉:あのプレイはもはや人間離れしてますね(笑)。実際“サピエンス”に関しては星野さんも、「アルバムを作るにあたってこういう機械的なビートを生音でやりたいっていうイメージはあったけど、でも今回そこまでいくのは無理かなと思ってた」と話していて。

YANATAKE:ああ、頭のなかにはあっても実現不可能かもって?

有泉:そう。でも豊夢さんにそのイメージを伝えてプレイしてもらったら一発でできちゃった、と。星野さん自身も「こんなことできるんだ、すげぇ! と思った」って言っていましたけど、そもそもそういうことを考えて実現しようとするあなたがすごいよ、と(笑)。

ビートは人力なんだけど機械的なリズムパターンで、逆にベースはSnail's Houseを迎えてシンセベースなんだけど、思い切り人間的な揺らぎが反映されたプレイをさせているという……星野さん自身はこの曲に関して「アンドロイドと人間がセッションしてるみたいな感じにしたかった」っておっしゃっていましたね(笑)。

ルーツから現行までをすごく俯瞰して、かつ深く理解したうえで、自分の音楽に昇華している。(有泉)

YANATAKE:本当にアルバム全編通して、「よくそんなこと考えるな」っていうアイデアの連続ですよね。そういうアルバムが、この年末年始、一番のお茶の間ミュージックにもなってるっていうのが、今までからしたら考えられない。「売れ線のJ-POP」ってとにかくわかりやすく、みたいな方向を向いちゃっていると思うんですよ。それが悪いとは言わないんだけど、『POP VIRUS』って、そういうものとは向いてる方向が真逆。

それこそコアな音楽ファンが聴いたときに「あそこ、気づいた?」とか誰かと語りたくなるアイデアが満載なんですよね。しかも海外の最新の音楽をチェックしている子たちにとっても「あ、ここ!」っていうポイントがあるし、きっと昔からブラックミュージックを聴いている人にとっても唸るポイントがいっぱいあるだろうし……そういう複雑なパズルみたいになってるアレンジは相当ヤバいなと思うし、それがこんなにも大衆音楽として受け入れられているのは本当にすごいと思う。

有泉:見ている視点がめちゃくちゃ広いし深いってことは、最近の星野さんの音楽を聴くといつも思うことで。『POP VIRUS』には現行のトラップ、ベースミュージックからインスパイアされたアイデアが数多く入っていて、それが前作までとは違う今作の大きな特徴になっていますけど、それがただ「現行を追いました」というものには決してなっていない。

なぜそうならないかというと、彼の場合は、1960年代とかの遥か昔から音楽が辿ってきた歴史や文化、感覚を自分で咀嚼して、その根っこの部分を今の自分の音楽や感覚と照らし合わせたうえで、どうアウトプットするかっていう意識を当たり前に持っているからだと思うんですよね。

有泉:たとえば“KIDS”や“Nothing”にはTR-08(TR-808という、通称「ヤオヤ」と呼ばれるリズムマシン名器の復刻版)が使われていますけど、“KIDS”に関しては、アナログシンセ以外は2017年に宅録している曲で。当時はおそらく、星野さん自身が近年聴いてるヒップホップに808の音が多く使われているっていうところも、着想のひとつにはなっていたと思うんですよ。

YANATAKE:うん、現行のヒップホップとかもすごく聴いてらっしゃる方だなっていうのは随所で感じますよね。こうやって日本のポップシーンで活躍しているアーティストが今のヒップホップからアイデアを得ている部分があるのは、僕らサイドから見ても嬉しいなと思う。

有泉:で、星野さんの場合、それをただトレースするのではなく、じゃあなぜ自分が808の音にグッと来るのかを振り返ったときに、そもそも1980年代のTR-808のビートを使っているメロウなバラードがすごく好きだということに行き当たる。それでマーヴィン・ゲイの“Sexual Healing”みたいなことを今の自分の感覚でやるとどうなるんだろう? と思って“Nothing”という曲が生まれる、みたいな。実際“KIDS”から“Nothing”の間にそういう思考の流れ方をしたかどうかはわからない、そこは私の推測ですけど(笑)、でも何かにインスパイアされたとき、それを自分の感覚やルーツ、音楽の歴史や文脈と照らし合わせたうえで、自分だったらどうやるか? どうしたら今の自分の表現になるか? っていうことを常に考えていると思う。

マーヴィン・ゲイ“Sexual Healing”を聴く(Apple Musicはこちら

YANATAKE:そうですよね。

有泉:だからこそ、これだけ聴いたことがないパズルが成立するんだと思う。それこそドラマ主題歌として書き下ろした“恋”だって、星野さんいわく「モータウン・コア」がコンセプトですけど、そもそもは「モータウンの33回転のアナログレコードを間違えて45回転で再生しちゃった」みたいなことをやったら面白いんじゃないかってところからはじまっていて。

そんなこと考える人ってなかなかいないし、そこには、「モータウンのリズムを今の日本の生活にフィットするスピード感で表現するには?」という批評的な視点も入っていると思うんです。で、そういうことは『POP VIRUS』の楽曲たちにも言えて。だからルーツから現行までをすごく俯瞰して、かつ深く理解しながら、自分の音楽に落とし込んでいるんですよね。そのリファレンスの幅と深度が異常に大きい。

今、世界的にポップミュージックのテーマになっていることと自然にリンクしている。(YANATAKE)

YANATAKE:ヒップホップのカルチャーでは、最近は曲がリリースされたときに、「RAP GENIUS」っていうサイトでいろんな人が一斉にリリック分析をしはじめるんですよね。リリックに出てくる固有名詞とか言葉の文脈とかに注釈をつけていくっていう……「この文脈、気づいた?」とか「これはあの曲、あの出来事への言及で」みたいなのがどんどん書き込まれていく。誰がどこまで読み解けるか競争、みたいな(笑)。それが面白いんですけど、『POP VIRUS』にはそういう面白さもありますよね。

有泉:音楽的にもそうだし、歌詞でもそうなんですよね。“アイデア”の1番なんかも過去のご自分の曲のタイトルやキーになる単語が差し込まれていたり、読み解き甲斐がある。

YANATAKE:それもヒップホップの手法との共通点はあるのかもしれない。“Get a Feel”には、<どんな肌の色でも>という言葉がありますけど、人種差別だったり、あるいはLGBTQのことだったり、そういうことに対してちゃんと言及することも、今またヒップホップの文脈では重要なトレンドになっていて。そういうのも自然に入ってきていますよね。

有泉:“恋”も、既存の「夫婦」という概念を変えていこうという、LGBTQに対するメッセージも含まれていますからね。かつ、あの曲には<虚構にも / 愛が生まれるのは / 一人から>という歌詞があるんですけど、それは二次元の恋に対しての肯定でもあって。

YANATAKE:ああ、なるほど! そういう、今、世界的にもポップミュージックのテーマになっていることと自然にリンクしているのは、いろんなものを聴いているなかでの必然だったりもするんだろうけど、でも一歩間違えたらすごく重たいテーマになるし、暗くなったりするテーマでもあるじゃないですか。それを割と明るい、いわゆるお茶の間でも通用するポップスにできているのもすごいですよね。

普通のポップスというものの音像やビートの感覚というものが、無意識的なレベルで更新されている。(有泉)

YANATAKE:こういう言い方は失礼になっちゃうかもしれないけど、音楽をあまり掘り下げて聴いてない、ライトに聴いている人たちにとっては、このアルバムってどういう聴こえ方をしているんですかね?

有泉:きっと「こんな音、聴いたことない」とか「こんなリズム、初めて」とか、そういう新鮮さとか驚き、いい意味での違和感はみなさん感じているんじゃないかと思いますよ。とはいえ一方で、ナチュラルに、自分に馴染みのあるポップスとして聴けちゃうアルバムでもあると思うんです。

YANATAKE:音楽知識がなくても、誰もが楽しく聴けるアルバムになっていますもんね。

有泉:そうそう。特にスマホのスピーカーで聴いているみたいな、低音やノイズがあまり鳴らないリスニング環境で、ビートや音像ではなく歌を中心に聴いていく方にとっては、普通に大衆的な日本のポップスアルバムという印象もあるかもしれない。それはそれでいいと思うんです。というか、コアな層を唸らせつつも、知識や文脈を知らなくても誰もが純粋に楽しめるというところも、このアルバムのすごいところではあるんですけど。

YANATAKE:その共存ができちゃっているのが奇跡なんですよね。

有泉:ただひとつ思うのは、歌を聴いていたら、意識せずとも音とビートも一緒に入ってくるじゃないですか。ということは刷り込みと一緒で、ライトに聴いている人たちが『POP VIRUS』の楽曲を「普通のポップス」として受け止める、その普通のポップスというものの音像やビートの感覚というものが、無意識的なレベルで更新されているという事実は確実にあると思うんですよね。時代ごとにそういうことを繰り返しながらポップミュージックって変容していくものだと思うんですけど、それが今まさに、水面下で進行中なはず。

YANATAKE:それこそウイルスのように浸食しているってことですよね。

有泉:そうそう、まさに。そこに星野さんは自覚的だし、挑戦していると思います。

YANATAKE:僕はやっぱり、日本の歌謡界では16ビートの曲ってまだまだ少ないのかなと感じているんですけど、そういうサウンドを日本に定着させるために挑戦しているってことを話されているのを何かの記事で読んだことがあって。

今回の“Get a Feel”の歌詞でも思い切り<16に乗って / 手を叩け 裏側で>って歌っているのを聴いて、こういう言葉を歌詞に入れるってことからも闘ってることが伝わる。だから星野さんのファンがライブで16ビートを裏で手拍子できるときが来たら最高だと思うし、そういうことに挑戦しているんだなって。

有泉:実際それ、星野さんのライブの現場だともう起こっているんですよ。

YANATAKE:あー! やっぱりそうなんだ!

有泉:2015年に“桜の森”っていう曲をシングルリリースしていて、その曲はJ-WAVEのキャンペーンソングになったんですけど、“桜の森”をライブでやるようになったタイミングから、すごくナチュラルに楽しく、オーディエンスが裏で手拍子するような形に誘導していって(笑)。今やもう自然と、何万人が裏打ちで綺麗にハンドクラップをするっていう、非常に気持ちのいい光景が生まれています。

YANATAKE:それすごいですね、見てみたいな。

『POP VIRUS』は「音楽的に攻めたものは大衆にウケない」っていう言説を本当にただの言い訳にしてしまった。(有泉)

有泉:だから、よくコア層に対してグレー層っていう言い方をしますけど、もっとライトな層、歌以外の部分にもある音楽というものの面白さ、楽しみ方にまだ気づいていないホワイト層にまで、その面白さ、楽しさを浸透させる。その部分こそ、星野源が闘っている部分だと思いますね。

だからこそ、彼は音楽的にコアなことや実験的なことをやりながらも、大衆的なポップスとしてちゃんと成立するものを作ること――音楽を知らない人たちにも届くもの、その入り口をちゃんと作ることを絶対に諦めない。その姿勢は徹底しているし、そこは強い意志と覚悟を持って闘っている部分だと思いますね。

YANATAKE:僕が思うのは、真剣にJ-POPと向き合うほうが、実は難しいかもしれないってことで。今のヒップホップシーンでも直輸入型というか、アメリカの潮流をそのまま持ってきて、それを日本に広めようとして闘っている子たちもいて、それもめちゃくちゃカッコいいし面白いと思うんです。

でも星野さんみたいに、J-POPと真剣に向き合いながらも攻める闘い方って、直輸入するより難しいんじゃないかなって思う。逆に星野さんって、本気で直輸入のサウンドをやろうとしたら、きっと誰よりも上手くできちゃう気がする。『POP VIRUS』を聴いているとそう思いません?

有泉:そうかもしれない(笑)。でも、それだと「自分の音楽」にはならない。だから彼はやらないでしょうね。「イエローミュージック」という言葉を掲げていたのもそうですけど、海外のメインストリームを取り入れようとか、海外に追いつこうとか、そういう意識はないと思うんです。そうじゃなくて、日本に生まれて日本で生きている、そして他の誰でもない星野源という人生を歩んできている自分が、どんな音楽を、どんな表現を作るのかが大事で。

だから自分がすごく面白いと思ったもの、感動したものからの影響は受けながらも、それをただコピーするだけでは自分の音楽にはならない。そして何よりそういうことをすること自体が、音楽やそれを作ったアーティストに対して、誠意のない行動だってことをわかっているんでしょうね。

YANATAKE:これをやられちゃうと勝てない。もしくは、ヒップホップでもブラックミュージックでも、「本格的になり過ぎると日本で売れない」みたいなことがずっと言われている状況もあるけど、そういうことを言ってる人が全部負けていくと思う。

有泉:(笑)。というか、『POP VIRUS』は「音楽的に攻めたものは大衆にウケない」っていう言説を、本当にただの言い訳にしてしまったアルバムだなって思います。「尖ったことやりたいんだけどそれじゃ売れないんだ、日本のポップにはならないんだ」ってよく聞く話ですけど、このアルバムがちゃんと結果出した以上、それはもう言い訳にしかならない。

YANATAKE:この音楽で5大ドームツアー埋めちゃうんですからね。

有泉:そういう意味でも、このアルバムが2020年代を前に生まれたのはすごく大きな意味があると思っていて。このアルバムの成功によって、アーティストたちがどんどん自分らしく攻めたクリエイティブを発揮していったら、日本の音楽シーンはもっと面白くなっていくんじゃないかと思ってます。

ちょっと一度、ヘッドフォンで、いつもより少し大きめの音で聴いてもらいたい。(YANATAKE)

YANATAKE:けど、今後これに勝てるアルバムが出るのかっていうのも、ハードルが高い話だなとは思います(笑)。

有泉:まぁ確かに(笑)。ただ、マスのポップシーンのど真ん中で活躍するアーティストも、アンダーグラウンドで大衆性よりも自分の芸術性や先鋭性をストイックに追求するアーティストも、どちらのあり方も面白いし美しいと思うんですけど、『POP VIRUS』ってその両者にとっての希望になる作品なんじゃないかな、と。

YANATAKE:確かにそうですね。すごく攻めてても売れる可能性があるっていう希望が持てるアルバムだし、逆にポップスとして売れながらもどこか置きにいってた部分がある人にとっては、もっと攻めていいんだって思えるアルバムだし。

そういうふうにアーティストが背中を押されることで、日本の音楽シーンの可能性はもっと広がるだろうなって思える。そういう未来を示してくれてるアルバムですよね。それも含めて、「ポップウイルス」ってことかもしれないし、ひょっとしたらそれが星野さんの目指していることかもしれないですね。

YANATAKE:それにしても、このアルバム、ジェイムス・ブレイクに聴かせてみたいな。

有泉:それ、すごくわかります。ジェイムス・ブレイクとかフランク・オーシャンに聴かせたらどんな反応が返ってくるのか、すごく知りたい(笑)。

YANATAKE:すごく気になりますよね。それくらい可能性は秘めているアルバムだと思う。だから音楽的な知識なく楽しむ聴き方も全然いいと思うんですけど、今までそういうことを気にしてなかったっていう人は、ちょっと一度、ヘッドフォンで、いつもより少し大きめの音で聴いてもらいたいですよね。それだけで新しいことにいっぱい気づくはずなんで。

たとえば1番と2番でも全然違う音が入ってるし、Aメロの同じ箇所で鳴ってるノイズも入れ方が違ったりするし。で、しかもそれが効果的なんですよね。だから音楽的に難しいことがわからなくても、いろんな楽器や音が足されていく感じを追いかけていくだけでも面白いんじゃないかな。

有泉:最近面白かったのが、音源をMP3で圧縮すると、その音楽が持つ「幸せ」とか「ロマンチック」といったポジティブな感情が失われていくっていう研究論文が発表されてて。

YANATAKE:へー、面白い!

有泉:それって要するに、音の響き自体が感情を表していることの証でもある。だから、YANATAKEさんがおっしゃったようにヘッドフォンでどんな音が足されていくのか注意して聴いていったら、たとえば今まで自分は歌詞に感動しているんだと思っていた人も、「あ、ここでこの音が鳴ってることによって自分の感情がこんなに動かされていたんだ」とか、「ここのビートがこう変化してるから、こんなにドキドキするんだ」ーーみたいなことを気づくんじゃないかな、と。そういう体験するだけで、音楽の見方って結構変わるんだろうなって思います。

YANATAKE:確かに、そういうふうに思って聴いてもらえたら面白いかもしれないですね。“Present”っていう曲も、最初めっちゃ暗いところからはじまっていくんだけど、音だけ聴いててもだんだん明るくなって、最後に希望が見えて出口が見えた、みたいなところでハッと終わるじゃないですか。そういうのも、ちゃんと音やアレンジで表現できているのは本当にすごいと思う。で、そういうところに気づくと、より深い世界が待ってるんで。

有泉:そう。だから“Present”で言うなら、この曲はゴスペルのコーラスアプローチが取り入れられている曲ですけど、この歌の歌詞って、苦しみや痛みを抱えながらも日々を歩いている人を光で照らすような内容であり、“Present”というタイトルにも表れてるとおり、生まれながらに与えられた運命というものを自分の意志で変えていこうとする人を肯定するような内容なんですよね。

そもそもゴスペルというものの成り立ちを考えると、奴隷制の歴史含めて差別を受け続けてきた黒人が、そんな運命からの解放を願い、祈る気持ちがルーツにあって。だからこの歌にゴスペルが入ってくるのは、音楽の歴史的な文脈と照らし合わせてもすごく真っ当というか、必然がある。そういう部分がこのアルバムにはいたるところに隠されているので。それを少しずつ見つけたり、そこに想いを巡らせていくと、より音楽が面白くなるんじゃないかなと思います。

リリース情報
星野源
『POP VIRUS』生産限定盤(2LP)

2019年3月27日(水)発売
価格:5,400円(税込)
VIJL-60194/5

[SIDE-A]
1. Pop Virus
2. 恋
3. Get a Feel
4. 肌

[SIDE-B]
1. Pair Dancer
2. Present
3. Dead Leaf
4. KIDS

[SIDE-C]
1. Continues
2. サピエンス
3. アイデア

[SIDE-D]
1. Family Song
2. Nothing
3. Hello Song

星野源
『YELLOW DANCER』生産限定盤(2LP)

2019年3月27日(水)発売
価格:5,400円(税込)
VIJL-60198/9

[SIDE-A]
1. 時よ
2. Week End
3. SUN

[SIDE-B]
1. ミスユー
2. Soul
3. 口づけ
4. 地獄でなぜ悪い

[SIDE-C]
1. Nerd Strut(Instrumental)
2. 桜の森
3. Crazy Crazy
4. Snow Men

[SIDE-D]
1. Down Town
2. 夜
3. Friend Ship

星野源
『POP VIRUS』初回限定盤A(CD+Blu-ray)

2018年12月19日(水)発売
価格:5,400円(税込)
VIZL-1490
※特製ブックレット付属

[CD]
1. Pop Virus
2. 恋
3. Get a Feel
4. 肌
5. Pair Dancer
6. Present
7. Dead Leaf
8. KIDS
9. Continues
10. サピエンス
11. アイデア
12. Family Song
13. Nothing
14. Hello Song

[Blue-ray]
特典映像『星野源 Live at ONKIO HAUS Studio』
1. Night Troop
2. 肌
3. 桜の森
4. Snow Men
5. KIDS
6. SUN
7. 海を掬う
8. 恋
9. プリン
10. アイデア
11. Friend Ship
特典映像『創作密着ドキュメンタリー「ニセ明と、仲間たち」』
※星野源と友人によるコメンタリー付

星野源
『POP VIRUS』初回限定盤B(CD+DVD)

2018年12月19日(水)発売
価格:5,184円(税込)
VIZL-1491
※特製ブックレット付属

[CD]
1. Pop Virus
2. 恋
3. Get a Feel
4. 肌
5. Pair Dancer
6. Present
7. Dead Leaf
8. KIDS
9. Continues
10. サピエンス
11. アイデア
12. Family Song
13. Nothing
14. Hello Song

[DVD]
特典映像『星野源 Live at ONKIO HAUS Studio』
1. Night Troop
2. 肌
3. 桜の森
4. Snow Men
5. KIDS
6. SUN
7. 海を掬う
8. 恋
9. プリン
10. アイデア
11. Friend Ship
特典映像『創作密着ドキュメンタリー「ニセ明と、仲間たち」』
※星野源と友人によるコメンタリー付

星野源
『POP VIRUS』通常盤初回限定仕様(CD)

2018年12月19日(水)発売
価格:3,348円(税込)
VIZL-1492
※特製ブックレット付属

1. Pop Virus
2. 恋
3. Get a Feel
4. 肌
5. Pair Dancer
6. Present
7. Dead Leaf
8. KIDS
9. Continues
10. サピエンス
11. アイデア
12. Family Song
13. Nothing
14. Hello Song

星野源
『POP VIRUS』通常盤(CD)

2018年12月19日(水)発売
価格:3,240円(税込)
VICL-65085

1. Pop Virus
2. 恋
3. Get a Feel
4. 肌
5. Pair Dancer
6. Present
7. Dead Leaf
8. KIDS
9. Continues
10. サピエンス
11. アイデア
12. Family Song
13. Nothing
14. Hello Song

プロフィール
有泉智子 (ありいずみ ともこ)

1980年、山梨県生まれ。音楽雑誌『MUSICA』編集長/音楽ジャーナリスト。音楽誌、カルチャー誌などの編集部を経て、2007年の創刊時より『MUSICA』に携わる。2010年から同誌編集長に着任。

YANATAKE (やなたけ)

レコードショップCiscoのヒップホップ・チーフバイヤーとして渋谷宇田川町の一時代を築き、Def Jam Japanの立ち上げやMTV Japanに選曲家として参加するなどヒップホップシーンの重要な場面を担って来た存在。ビデオゲーム「Grand Theft Auto」シリーズや宇多田ヒカルのPR/発売イベントも手掛け多方面に活躍中。そのセンスは多くのDJやラッパーからも信頼され、アドバイザー的な役割も果たしている。近年は旧友であるm-floの☆Taku Takahashiが立ち上げたインターネット・ラジオ局block.fmにてヒップホップの人気番組「INSIDE OUT」のディレクションや、Amebreakプレゼンツ「RAP STREAM」、ZeebraTVなどのオペレーションなども手掛けるマルチな活動が注目を集めている。



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