アリアナ・グランデとこんまりの類似性 大谷ノブ彦×柴那典放談

CINRA.NETでリブートした、大谷ノブ彦(ダイノジ)と、音楽ジャーナリスト・柴那典による音楽放談企画「心のベストテン」。第3回となる今回は、2019年2月に5thアルバム『thank u, next』をリリースした、アリアナ・グランデについて。

表題曲“thank u, next”とこんまりの関連性、「七輪」タトゥー騒動や文化盗用とパクリ問題など、多岐にわたる音楽トークをお届けします。

あのアルバム(アリアナ・グランデ『thank u, next』)って「こんまり」の感性にそっくりだと思うんですよね。(大谷)

大谷:今日はアリアナ・グランデのことについて語ろうと思うんですよ。『thank u, next』は聴きました?

:もちろん。最高!

大谷:最近考えたんですけど、あのアルバムって「こんまり」の感性にそっくりだと思うんですよね。

:こんまり? 片づけ術の近藤麻理恵さんのことですか?

大谷:そうそう。今年、アメリカ中で「こんまり」ブームが起こったんですよ。Netflixで『KonMari ~人生がときめく片づけの魔法~』っていうリアリティ番組のシリーズが公開されて、それがめちゃくちゃヒットした。

:すごいことになってたんですよね。僕も見ました。

左から:柴那典、大谷ノブ彦

大谷:こんまりがいろんな家族やカップルの散らかった自宅に行くんですけど、こんまりの片づけ術って、モノを捨てるかどうかを「ときめくかどうか」で判断するんです。ときめきがなくなったら手放すという。

:「ときめき」って英語にどう翻訳してるのかなって思ったら「Spark Joy」って言ってましたね。

大谷:それで「Spark Joy」っていう言葉自体も流行語になっている。「こんまりメソッド」のなにがアメリカ人に衝撃だったかっていうと、ただモノを捨てるだけじゃないってところらしいんです。こんまりは「これまでありがとう」と感謝してさよならするんですよ。それがつまり『thank u, next』だという。

:たしかにアリアナ・グランデの『thank u, next』も「ありがとう、次に行くね」ですもんね。

大谷:あの歌(“thank u, next”)って、今まで付き合った男性とのことを歌っている曲なんですよね。「あなたたちがいたから、今の私がいるの。でも私は次に行くね」っていう歌なんですよ。それがこれまでの失恋ソングとの大きな違いですよね。

よくあるのは「男なんてクソったればっかり」って別れた男をこき下ろすみたいな曲。テイラー・スウィフトの“We Are Never Ever Getting Back Together”とかね。

:あとはアデルの“Hello”みたいに未練たっぷりの失恋ソングも多いですね。

大谷:そんな中、アリアナ・グランデは全員に感謝してるんです。前に交際していたマック・ミラーが去年に亡くなってるんですけれど、彼のことも「天使みたいだった」と歌ってる。そうやって感謝して別れを告げるっていうのが、こんまりと同じだなって思って。なんと言うか、とても「日本的な感覚」だと思うんですよ。

:日本的な感覚?

大谷:モノ信仰というか、いろんなモノに八百万の神が宿るって日本では言うじゃないですか。僕、ダルマの絵付けを群馬の高崎でやったときにそれをすごく思ったんですよ。絵付けって、絶対に機械でやらないんですって。顔とか目は全部手作業でやるんです。それにはちゃんと理由があって。

:ほうほう。

大谷:「まあ大谷さん、挑戦してみてください」って言われて、やってみたんです。でも素人だからめっちゃ下手くそで。1時間かけて出来上がって、「どうです、大谷さん?」って言われたときに「なんかわかんないですけど、かわいいっすね」みたいなことを言ったんです。

そしたら「あ、じゃあ、願い事が叶います」って言われたんです。つまりその瞬間に僕の念がだるまに入ったんだって。

:なるほど、モノにちゃんと思いが込められてるっていうことだ。ビジネス風に言えば、エンゲージメント(愛着)が高まった。でも、愛着があるからこそ捨てられないっていう人も多そうですよね。

柴那典(しば とものり)
1976年神奈川県生まれ。音楽ジャーナリスト。ロッキング・オン社を経て独立、雑誌、ウェブなど各方面にて音楽やサブカルチャー分野を中心に幅広くインタビュー、記事執筆を手がける。主な執筆媒体は『AERA』『ナタリー』『CINRA.NET』『MUSICA』『リアルサウンド』『ミュージック・マガジン』『婦人公論』など。日経MJにてコラム「柴那典の新音学」連載中。CINRA.NETにて大谷ノブ彦(ダイノジ)との対談「心のベストテン」連載中。

大谷:だからこんまりは「感謝しましょう」って言うんですよね。「これまで人生を彩ってくれてありがとう」って。それが終わったら自分に問いかけさせるんです。「よく考えてみて、このモノは、あなたがこれからの人生を共に歩んでいくのにふさわしいモノですか?」って。

:たしかに。まさに“thank u, next”の歌詞だ。

大谷:この曲が世界中でシェアされてるのって、こんまりがブームになってることと通じ合ってると思うんですよね。

:あの番組でこんまりのやってることって、本当にセラピーみたいなんですよね。最初に部屋に入ったときにやることも、まず部屋に対して静かに祈るという。

大谷:ちょっとシャーマンみたいなね(笑)。でも、これも超大事なポイントですよね。

大谷ノブ彦(おおたに のぶひこ)
1972年生まれ。1994年に大地洋輔とお笑いコンビ、ダイノジを結成。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。音楽や映画などのカルチャーに造詣が深い。相方の大地と共にロックDJ・DJダイノジとしても活動。著書に『ダイノジ大谷ノブ彦の 俺のROCK LIFE!』、平野啓一郎氏との共著に『生きる理由を探してる人へ』がある。

文化というものを誰かが所有できる、第三者の誰かがそれをパクったとか盗んだとか言って糾弾できるって発想自体が大間違いだと思う。(柴)

:そうそう、これは大事な話なんでちゃんと言っておきたいんですけど、「七輪」タトゥーが燃えた件があったじゃないですか。

大谷:はいはい。アリアナ・グランデが、“7 rings”をリリースしたときに手に「七輪」ってタトゥーを入れて、その写真をinstagramにアップしたら、みんなから「それは7つの指輪じゃなくて日本式のバーベキューコンロのことだよ!」って総ツッコミが入ったんですよね。

:あの一連の騒動のせいで、アリアナが「日本語の勉強をやめる」って言って、日本語を使ったグッズもオフィシャルサイトから削除した事件があったんですよね。僕はあれが本当に悲しくて。日本の人はきっと誰一人怒ってないから、撤回してほしいって心からお願いしたい。

大谷:たしかに最高のボケなのになあ!

:そうそう。で、アリアナ・グランデがそれに対してなにをしたかって言うと「七」の下に「指」って入れて、「輪」の下に「♡」というタトゥーを入れた。「七指輪♡」にしたんですよ。しかもその写真をアップしたときのコメントも最高で。「さようなら、私の小さなバーベキューコンロ。実はあなたのこと大好きだったの」って。

大谷:かわいい! めちゃくちゃ素敵な返しですよね。これも“thank u, next”だという。

:そこまではいい話なんです。さすがアリアナ、とても聡明だしキュートだな、って。でも、そこから続きがあって。この話が広まったことで「漢字を使うこと自体が文化の盗用だ」って、アジア系のアメリカ人からクレームみたいな声が集まっちゃった。漢字をモチーフにしてグッズを作ってるのも「文化の盗用」だろうって。

大谷:「文化の盗用」ってなんなんでしょうね? 全然わかんないんですけど。

:英語では「cultural appropriation」って言うんですけどね。縁もゆかりもない文化のモチーフを勝手に使うことが批判されるという話です。もともとは白人が先住民の人の格好をしたり、マイノリティの人たちの文化を勝手に使ったりすることを言ってたんですよね。

大谷:いや、文化って本来は盗めるもんじゃないですよね。白人が黒人文化のヒップホップをやってたり、ジャマイカの文化のレゲエをやってるのも「文化の盗用」だとか言い始めたりして、わけわかんなくなってきてる。

:これはもう、おかしな騒動だと僕は声を大にして言いたいですね。もちろん、いろんな背景はあるんですよ。もともと西欧が植民地支配をしていたこととか、オリエンタリズムの問題だとか。

でも、僕が思うに、これは「パクリ」騒動と似てると思うんです。「文化の盗用」っていう便利なバズワードを使って他人を手軽に糾弾したい人がいるだけの話。

大谷:そうですよね。

:ORANGE RANGEがデビューした頃に「パクリだ」と言われて、だいぶ叩かれてたのを覚えてるんですけれど、それだって、結局、外野が騒いでるだけで。

大谷:そうそう、昔、大瀧詠一さんが誰かにパクリだって言われたときの話を聞いたんですけど。「へえ、あなたはこれのパクリだって思ったんだ。あと12個元ネタがあるんだけど、あなたにはわかる?」って。最高ですよね。

:大前提として、そもそも創作というのは、どんなものだって先行するなんらかの要素を取り入れて、それを自分なりのフィルターを通して表現するものなわけじゃないですか。だから、文化というものを誰かが所有できる、第三者の誰かがそれをパクったとか盗んだとか言って糾弾できるって発想自体が大間違いだと思う。

大谷:じゃあなにが問題なんでしょうね?

:僕はシンプルな基準で考えてるんですよ。問題は、他者の尊厳を毀損しているかどうか。それだけで考える。たとえば他の人が大事にしてるもの、それこそ信じている宗教の大切なアイコンをアクセサリー感覚でファンシーにアレンジして身につけたりしたら、それは嫌な気持ちがするじゃないですか。

大谷:仏像の首を並べてネックレスにしたりとか?

:そうそう。つまりそれは他の人が大事にしているものを踏みにじってる行為だよ、って。その指摘だけで済む。

大谷:なるほどなあ。じゃあ、それこそ「日本人は誰も怒ってないよ! むしろ漢字使ってくれてすごく喜んでるよ!」ってアリアナに伝えたいなあ。だって、アリアナにはあきらかにアンチがいるから。結局叩いてるのって、アンチじゃないですか。

:たしかに。

大谷:ORANGE RANGEがパクリだって叩かれたのも一緒ですよ。だって、奥田民生はあれだけThe Beatlesを元ネタにしてるのにアンチが少ないから叩かれないわけじゃないですか。でも、売れたことでアンチが多くなると揚げ足をとりたい人が出てきちゃう。結局、今回のアリアナもまさにそう。

:これ、本当に大事なことなんですよ。よくパクリについて「リスペクトがあればオーケー」みたいなことを言うでしょ? 奥田民生は元ネタへのリスペクトがある、って。

大谷:そうなると、じゃあORANGE RANGEにリスペクトがないってどうやって判断したんだ? っていう話になりますよね。単なるイメージやキャラの問題じゃないかって。

:もちろん、ORANGE RANGEが“ロコローション”を出したとき、元ネタにした“The Locomotion”のキャロル・キングが作曲クレジットになかったというのは事実で。インタビューで「『パクろうぜ』が俺らの合言葉」って言ったのもある。

でも、それを踏まえても、ORANGE RANGEにキャロル・キングへのリスペクトがないって、第三者がなんで勝手に決めちゃうんだって思いますよね。

ORANGE RANGE“ロコローション”を聴く(Apple Musicはこちら

リトル・エヴァ“The Locomotion”を聴く(Apple Musicはこちら)キャロル・キングが作曲を担当した

大谷:本当は平等に語られなきゃダメでしょ。そういうことをやってると、カルチャーは本当に貧弱になっちゃう。

:とにかく、アリアナには気にしないでほしいですね。結局、『グラミー賞』にも出なかったじゃないですか。演出プロデューサーにやりたくないパフォーマンスを無理強いされて、それで出演をキャンセルしたという。

大谷:ほんと、見たかったですよね。『thank u, next』のアルバムが出たばっかりのタイミングだったから、絶対主役になっただろうし。

アリアナ・グランデ『thank u, next』を聴く(Apple Musicはこちら

:それに、なにより来日してほしい!

大谷:ですよね! なんなら、来年の夏に東京五輪の裏でやってほしい。

:そうそう、「七輪」の騒動のときに東京五輪の公式アカウントがリプライしてましたよね。「七輪じゃなくて五輪でしょ?」みたいに皮肉でからかってた。あれは本当にひどかった。

大谷:こういうときにセンスを問われるよなあ。愛がなくっちゃ。だから、日本のみんなはこんなにアリアナのことが好きなんだって伝えたいよね。それこそ七輪Tシャツとか作ってさ。「俺たちは五輪よりも七輪だ!」って。

:ははははは!

プロフィール
大谷ノブ彦 (おおたに のぶひこ)

1972年生まれ。1994年に大地洋輔とお笑いコンビ、ダイノジを結成。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。音楽や映画などのカルチャーに造詣が深い。相方の大地と共にロックDJ・DJダイノジとしても活動。著書に『ダイノジ大谷ノブ彦の 俺のROCK LIFE!』、平野啓一郎氏との共著に『生きる理由を探してる人へ』がある。

柴那典 (しば とものり)

1976年神奈川県生まれ。音楽ジャーナリスト。ロッキング・オン社を経て独立、雑誌、ウェブなど各方面にて音楽やサブカルチャー分野を中心に幅広くインタビュー、記事執筆を手がける。主な執筆媒体は『AERA』『ナタリー』『CINRA』『MUSICA』『リアルサウンド』『ミュージック・マガジン』『婦人公論』など。日経MJにてコラム「柴那典の新音学」連載中。CINRAにて大谷ノブ彦(ダイノジ)との対談「心のベストテン」連載中。著書に『ヒットの崩壊』(講談社)『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(太田出版)、共著に『渋谷音楽図鑑』(太田出版)がある。



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