スターの政治的発言は有権者を動かすか? テイラーが沈黙破った米中間選挙

(メイン画像:テイラー・スウィフトGabboT [CC BY-SA 2.0], via Wikimedia Commons)

米中間選挙、スターが支持した民主党候補は軒並み落選。セレブリティの支持は選挙結果に影響しない?

2018年、アメリカ中間選挙レースは華々しいものだった。テイラー・スウィフトやビヨンセ、トラヴィス・スコット、リアーナといったトップスターたちが民主党候補への支持を表明していったからだ。

ただし、その絢爛は最後まで続かなかった。

ビヨンセが支持を明らかにしたテキサス州のベト・オルークや、当選すればアメリカ初の黒人女性知事が誕生するところだったジョージア州のステイシー・エイブラムスなど、トップスターから支持を集めた候補者が軒並み落選したのである。要するに、2016年大統領選と似た展開に終わった――選挙においてスターたちの支持は当選に繋がらない。果たして、今日のアメリカにおいて「セレブリティの選挙への影響力」は存在するのだろうか?

共和党の大物議員テッド・クルーズに対抗した民主党候補ベト・オルークの支持者のキャップをかぶるビヨンセ

知名度が低かった問題や政治家に光を当てる「スポットライト効果」

「セレブリティからの支持表明はキングブレイカーではない。しかし、タイブレイカーにはなりうる」としたのはアメリカの政治メディア「The Hill」だ。

エンターテイメント界の人気者による政治的発言が珍しくないアメリカにおいて、セレブリティの政治・社会問題に関するステートメントが持つ影響力は徐々に検証され始めている。大きなインパクトはないが、有権者の気分を左右する程度の可能性はあるようだ。

セレブが選挙や政局に与える基本的な影響に「スポットライト効果」がある。人気セレブリティによる発言はメディアに報じられやすい。ゆえに、それまで知名度が低かった問題や政治家の注目度を一気に上げることができる。代表例は、ジョージ・クルーニーによる南スーダン内戦問題の知名度上昇。2012年、南スーダン大使館前で抗議活動を行なったクルーニーは逮捕までされたため、ゴシップとセットでスーダンにまつわる情報が一気に拡散されていった。

2018年においてもセレブリティの「スポットライト効果」は発揮されている。チャンス・ザ・ラッパーとカニエ・ウェストは、地元シカゴの市長選挙においてアマラ・エニヤを支持し、彼女の知名度を一気に上げた。

シカゴ市長選に立候補したアマラ・エニヤのキャンペーン映像に彼女と共に登場したチャンス・ザ・ラッパー

彼女はアメリカ・ビルボードのインタビューで「チャンスとカニエからの支持の効果は、従来の選挙キャンペーンでは届かなかった人々にまで波及しました。彼らは人々に楽観をもたらすんです」と発言している。また、セレブリティからの支持は政治家の資金集めにも有益のようだ。カニエとエンニヤのように、セレブリティ自身が資金を寄附するケースもある。

テイラー・スウィフトやフランク・オーシャンらが発揮した「選挙に関心の低い層」を投票に引き込む力

近年最もわかりやすいかたちで「セレブの影響力」を示したのは、2018年10月に初めて支持政党を明かしたテイラー・スウィフトだろう。単純に有権者登録を増やしたのである。テイラーの投稿後、48時間で21万人以上がVote.orgで有権者登録を行ったと報じられている。2016年10月の1日あたりの平均登録数が約1万3千人に過ぎないことを考えると相当な数だ。

テイラー・スウィフトが政治的発言の沈黙を破ったInstagram投稿

テイラーと同じ人気シンガーであるアリアナ・グランデもこの波に乗った。彼女がInstagram Storiesで「投票しよう」と呼びかけた日、アクセスが殺到したVote.orgはサーバーダウンしている。これこそがスターのパワーだ。今回の中間選挙で注目を集めた「セレブの影響力」は「選挙に関心の低い層を投票に引き込む力」である。

テイラーは、投票が始まっても抜かりなかった。投票をしたファンたちからセルフィーを募り、それを自身のInstagram Storiesに掲載していったのである。彼女のInstagramに載るために投票所に出向いたフォロワーも生まれていたかもしれない。

似たような施策としては、フランク・オーシャンが「特定の州で投票した者に無料でマーチャンダイズを配布する」企画を行なった。当該マーチャンは転売サイトで3万円相当で売られた。リターン目当てに投票する人が出そうな金額だ。「セレブリティ」とは「有名な人物」を意味するが、テイラーやアリアナ、フランクは見事に自らの名声を投票に繋げたと言える。彼女たちのパワーは、2020年大統領選挙でより重要なものとなるかもしれない。

中間選挙では若年層の投票率が過去25年で最高。若者の動員を助けるセレブの力は2020年の大統領選挙でもカギを握る?

アメリカにおいて「セレブ効果」が特に期待される有権者は30歳未満の若者たちだ。Morning Consultの調査において「セレブリティの意見が中間選挙に影響をもたらした」と回答した者は全体で25%だったが、Z世代(1990年代半ばから2010年の間に生まれた世代)に限ると36%、ミレニアル世代は32%だった。テイラー・スウィフトの投稿後、Vote.orgに有権者登録した年代も18~24歳が最多だったと報告されている。中間選挙へのセレブリティーの影響を政治学者が考察したMarket Watchの記事では、マーティ・コーエン准教授(ジェームズ・マディソン大学)が「テイラー・スウィフトのようなセレブリティは、投票率が下落する中間選挙のような状況において、大手メディアや政党よりも簡単に若年層にリーチできるかもしれない」と分析した。

テイラー・スウィフトのInstagramより。民主党支持を表明した投稿の後日にも再び中間選挙での投票を呼び掛けた

今日のアメリカの若者は政治への問題意識が高いとされる。事実、2018年中間選挙では、若年層の投票率が過去25年で最高となった。CIRCLEによると、若年層の投票率は2014年から10%増の31%。CNNの出口調査では、18~29歳の67%が民主党に投票しており、最も同党派の多い年齢層となっている。

若年層の投票率が上がれば、アメリカの選挙レースは変わる。彼らは前世代よりも投票意欲が高く、民主党支持が多く、比較的セレブに影響されやすい。スターたち、特に民主党支持派のセレブが狙うべき層はここだ。自らのファン、そして「政治に関心が低い若者」を投票に導いていけば、政局にインパクトを与えることができる。

バーミンガム大学のスコット・ルーカス教授はBBCの取材に対し、「若者の動員を助けるセレブの力は重要だ。もし2020年大統領選挙まで18~24歳の投票率が伸び続ければ、アメリカ政治は根本的に変わる」という考えを示している。

セレブ起用のデメリットも。裕福なスターはバッシングの標的になりやすい

一方でセレブリティの選挙キャンペーン参加は、デメリットを伴う諸刃の剣でもある。派手で裕福なスターはバッシングの標的になりやすい。民主党議員がセレブリティと連帯したことを受けた共和党議員が「セレブともども市民を搾取する既得権益だ」と非難し、反ハリウッドエリート票を取り込もうとする――こうした構図は2016年大統領選挙においても見られた。

「反ハリウッドエリート」は、裕福でリベラルなスターに対する反感を指す。ドナルド・トランプは、ミシガン州集会において「我々はビヨンセもガガも必要としない」と演説した。こうした表現をとれば「金持ち同士でつるむ民主党と異なり自分は庶民の味方だ」とアピールできる。

2016年の大統領選挙時にヒラリー・クリントンの支持者集会に登場したビヨンセとJay-Z

セレブリティの影響力を研究するデヴィッド・J・ジャクソン教授は、政治家のスター起用にはターゲティングが重要だとThe Atlanticに語っている。「セレブリティへの選挙戦への影響」で最も有名なもののひとつは、2008年大統領選挙におけるオプラ・ウィンフリーによるバラク・オバマへの支持表明だろう。人気テレビ司会者であるオプラは100万もの票をもたらしたとする研究も存在する。ビヨンセとの親交も強いオバマは、セレブリティと連帯したPRが巧みだったと評される政治家だ。

, via Wikimedia Commons" zoom="https://former-cdn.cinra.net/uploads/img/column/201811-midterm-photo2_full.jpg" caption="オプラ・ウィンフリーとオバマ夫妻。彼女を次期大統領候補に推す声も多い vargas2040 [CC BY-SA 2.0], via Wikimedia Commons"]

2016年にジャクソン教授がオハイオ州で行った調査では、オプラ・ウィンフリーの政治的意見への信頼度は-5.2%だった。しかし、黒人層に限れば信頼度は+20.7%となる。一般的なマーケティングと同じく、エンドユーザーの選択が大切というわけだ。例えば、アメリカにおいて好感度が低いキム・カーダシアンによる政治的発言への信頼度は、市民全体ベースではマイナスになるだろう。しかし、元々彼女を好んでいた人々に対しては効果が見込める。

ターゲティング戦略としても見事だったテイラー・スウィフトの投稿

ちなみに、若年層への影響においては、セレブリティは政治家への支持より特定の社会問題を語る方が効果的とする研究も存在する。Morning Consultの調査「セレブに提唱してほしい政治的問題」のトップ3は以下。「投票の呼びかけ」、「セクシャルハラスメントへの反対」、「警察の問題行為への反対」。

実は、中間選挙レースにおいて話題を呼んだテイラー・スウィフトの民主党支持表明ポストは、1位と2位のトピックを見事に押さえている。彼女のポストには、女性に対する暴力防止法の延長に反対した共和党議員への批判、そして投票の呼びかけと有権者登録サイト名が記されていた。これはターゲティング戦略としても見事だった。たった一つのInstagram投稿が、若者に対して絶大な影響力を発揮したのである。

11月に来日し、東京ドーム2DAYS公演を行なったテイラー・スウィフト。最新アルバム『Reputation』は全米において5作品連続初登場1位を獲得 Photo by Yoshika Horita

セレブであることは社会に対してどのような意味を持つのか? 「私はプラットフォームを持っています」と語ったレディー・ガガ

セレブと政治の関係は、今後とも注目を集めるトピックだろう。そもそも、今現在のアメリカ大統領はリアリティー番組で人気を博したセレブリティでもある。セレブな彼を倒す対立候補は同じセレブであるオプラ・ウィンフリーしかいない、という声も挙がっている。色々考えさせる話だが、セレブによるセレブ論を紹介して幕を閉じたい。

2018年、Elle's Women in Hollywoodに表彰されたレディー・ガガは、自らを「恵まれた存在」とした上で、ハリウッドの女性であることについてこう語った。(参考記事:レディー・ガガはなぜパンツスーツを履いたのか。「力を取り戻したかった」

「ハリウッドの女性であることは何を意味するのでしょうか? 我々は、ただ世界を楽しめるモノではありません。ただ人々を笑顔にさせるイメージでもない。争い合うことを強いられる巨大な美人会のメンバーでもありません。我々ハリウッドの女性とは、声なのです。我々は世界に関する深い考えとアイディア、信条を持っています。語って聞く力、そして沈黙を求められた際に戦う力もあります」

「私たちの声は聞かれています。我々は、女性、男性、その他のセクシャル・アイデンティティを持つ人々の平等の為に闘います。私にとって、これがハリウッドの女性であることです。つまり、私はプラットフォームを持っています。変化を呼ぶ力を持っているのです。私は願います。我々が聞き、信じ、必要とする人々に注意を寄せることを。助けの手になりましょう。変化を起こす力になってください」

Elle's Women in Hollywoodの表彰式でスピーチしたレディー・ガガ


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