Saucy Dogが気づいた十人十色。感覚が違う3人だからできる音楽

自分らしくありながら、他者と共存する。そう言葉にするのは簡単だが、実際は難しい。ときに「自分らしさ」は自己弁護のためのエクスキューズとなり、向上心や人とのコミュニケーションを拒絶することにもなりかねないからだ。「私はこうだから」ではなく、お互いが無理せず心地よい距離感を保つためには、それなりのコツがいる。たとえそれが「バンド」という共通の夢を持つ集団であっても、「社会」であることに変わりないのだ。

吉田兼好による『徒然草』を、5組のアーティストがそれぞれに解釈して曲を作る『徒然なるトリビュート』。その第4弾は、Saucy Dog。メンバーの脱退など、試練を乗り越え3人組となり、アマチュアバンドの登竜門『MASH FIGHT』で見事グランプリを勝ちとりデビューした彼らもまた、「自分らしさ」と「他者との共存」の狭間で葛藤した時期があった。

今回のインタビューでメンバーの秋澤和貴は、「まともな会話すらないときもあった」と明かしてくれたが、そんな彼らが「徒然なるままに」ではじまるあまりにも有名な序段にインスパイアされ、「人によって感受性は違うし、違っていいんだよ」というテーマの楽曲“雀ノ欠伸”を作り上げるまでには、一体どんな紆余曲折があったのだろうか。

吉田兼好さんの気持ちに近づきたいと思い、世の中を引いて眺めてみたんです。(石原)

―みなさんは、これまで『徒然草』を読んだことありました?

石原(Vo,Gt):お話をいただいたときは、僕ら3人とも名前しか知りませんでした(笑)。なので、このオファーをいただいてすぐに現代語訳の本を買って読んでみたんですけど……いやあ、普段あんまり活字を読まないので苦戦しました(笑)。

『徒然草』といえば、「徒然なるままに、日暮らし、硯(すずり)に向かひて」ではじまる序段が有名ですよね。これを読んでまず、僕とは考え方が全然違う人なんだな兼好さんは、と思いました。

Saucy Dog(さうしーどっぐ)
左から:せとゆいか、石原慎也、秋澤和貴
2013年西日本各地出身のメンバーが大阪で結成した、3ピースギターロックバンド。メンバーチェンジを経て2016年度MASH A&RのオーディションでGP受賞。代表曲“いつか” のMVは再生回数800万回を突破。

―どんなところでそう感じたのでしょう?

石原:「心にうつりゆく由無し事を、そこはかとなく書き付くれば、あやしうこそ物狂ほしけれ」ってつまり、「1人で何となく心に浮かんだことを書き連ねていくと、だんだんミステリアスな感じになっちゃって、そんななかで自分を見つめ直すことで、本当の自分が見えてくるのではないか?」っていう意味らしいんですけど、「はあ、そんなことってあるのか」という感想を持ったんです。

『徒然草』序段 原文と現代語訳

石原:僕は、曲や歌詞は書くけど「物書き」ではないし、紙と鉛筆を用意して机の上で書いているわけじゃないですし。でも、少しでも兼好さんの気持ちに近づきたいなと思い、携帯電話を脇に置いて、1人で散歩したり絵を描いたりしながら世の中を一歩引いた状態で眺めてみたら、どんな気持ちになるかを試してみたんです。

―「徒然なるままに」を自分で試してみたのですね。どうでした?

石原:不思議な体験でしたね。いつもは「こんな絵を描いてほしい」と頼まれてからとり掛かっていたんですけど、何も制限がないところから描きはじめると、普段とは違う抽象的な感覚が自分のなかに起こったような気がします。

―歌詞を書く場合でも、大抵はメロディーのなかに当てはまる言葉を探すというか、ある意味では「制限」のなかでの表現といえますよね。全く制限がないところから作りはじめるのは、なかなか難しそうな気がします。

石原:そうなんですよ! めちゃめちゃ難しかった(笑)。

―秋澤さんと、せとさんは普段、思っていることを文章にすることってあります?

せと(Dr):私もたまに曲を書くんですけど、それは何か曲にしたいテーマみたいなものがあるんです。「これめっちゃ思うよなあ」ってことを膨らませてひとつの曲にしていくことが多くて。だから、頭に思い浮かんだことをつらつらと書いていく……みたいなことはほとんどないです。ただ、歌詞を書きながらイメージを膨らませていると、思いもよらない言葉が出てきて「あ、私はこんなこと思ってたんや」と気づくことはありますね。

秋澤(Ba):俺は何もしてないな、そういうこと……(笑)。絵や文章を書いて自分と向き合うというより、誰かと話しているときの方が、自分と向き合えているかもしれないです。いろんな人と話すことで、自分が今まで思っていたことにも違う側面が見えてきたり、反対の意見があったりということを知るじゃないですか。それって、1人で考えていたら到達し得ない視点だと思うんですよね。

左から:秋澤和貴、石原慎也、せとゆいか

やろうと思いつつ先延ばしにして、あとから「やっておけばよかった」って思うことはたくさんあります。(石原)

―たしかに、人とのコミュニケーションで自分を知るのも大切なことですよね。今回のトリビュート曲“雀ノ欠伸”は、どのようにして作っていきましたか?

石原:今回、トリビュートするにあたって序段以外にもいくつか候補をいただいたんです。なので、実は1番のAメロだけ序段で、あとは59段や75段、167段、241段も歌詞に盛り込んじゃいました(笑)。

―曲名の“雀ノ欠伸”には、どんな由来があるんですか?

石原:雀って、朝起きてチュンチュンって鳴く前に、一度欠伸をするらしいんですよ。

―そうなんですか! 知らなかった(笑)。

石原:今回、朝っぽい楽曲にしたいなと思ったときに、雀がチュンチュンと鳴いているイメージが浮かんできて。「そういえば雀って早起きだけど、欠伸とかしないのかな?」と思って調べたら、しているということが判明したんですよね(笑)。

―雀のことを考えたときに、「欠伸するのかな?」という発想になること自体が素敵ですね(笑)。

石原:ありがとうございます(笑)。今回『徒然草』をトリビュートするなら「やりたいことを何でもやってみよう」という話になり、歌詞に合わせてリズムも3拍子になったりスピードが半分になったり、自由に変化させてみました。<周りの表情や態度なんか 一々気にせんでいいから>と歌っている、2番のAメロですね。これは今までにない試みだったのでとても印象に残っています。

石原慎也

―歌詞のなかに、<できなかった事は大体 先延ばしにしていた事だったり あのときやっておけばなんて もう後の祭りだったり>というラインがありますが、こういう経験がこれまでにあったんですか?

石原:俺は、曲作りやギターの練習をちゃんとしてこなかったんですよね(笑)。やろうやろうと思いつつも先延ばしにしていて、あとから「もっとちゃんとやっておけばよかった」って思うことは、他にもたくさんあります。

英語もそう。中学生のときにちゃんとやっておけばなあって。以前、海外のファンから「歌詞を英訳してほしい」というコメントをいただいて、自分なりに挑戦したけど途中で挫折しちゃったんです。それがすごく悔しくて。(秋澤)和貴も先延ばしにすること多いよね(笑)、免許とった?

秋澤:とってない……(笑)。先延ばしにするタイプなので、面倒臭いことは基本的にあれこれ考えず、すぐやるよう心がけてはいるんですけどね。

秋澤和貴

せと:普通に生きていたら、先延ばしにしちゃうことはメチャクチャあるよね。

石原:ソファでウダウダしてたらいつの間にか寝ちゃったとか、明日からツアーだから洗い物して寝なきゃ、と思ってもそのままだったりね(笑)。そういう小さいことだったらいくらでも思いつく。

僕は直感で行動するタイプなので「怖い」と感じたことはないかな。(秋澤)

―<新しい朝がたまに怖くなるよね>というラインがありますが、新しいことにチャレンジしようと思って、怖くなった経験はありますか?

石原:「新しい朝が怖くなる」というのは、やらなきゃいけないことが山積みなのに、「ああ、もう夜が明けちゃう」って焦るときのことを歌っているんですけど、今おっしゃったような「新しいことにチャレンジする不安」という意味では、曲作りのときはいつも思いますね。

作っているうちに、何が正解か分からなくなっていくというか……「みんな、この曲を喜んでくれるのかな」とか、「Saucyっぽくないって言われたらどうしよう」とか、いろんなことを考えてしまいます。

秋澤:僕は、わりと直感で行動するタイプなので、そんなに「怖い」とか感じたことはないかな。やってダメだったこととかも覚えてないし、覚えてないということは、大したことじゃなかったのかな? とも思いますし。

―新しいことに挑戦する前は、いろんなことを想像して不安になるけど、実際にはじめてみると大して怖くもないし、たとえ失敗してもどうにかなるということの方が多いのかもしれないですね。

秋澤:たしかに。それでいうと、以前はライブでベースを弾くときほとんど動かなかったんですけど、みんなから「もっと動いた方がいい」と言われて。最初は「動く必要なんてないじゃん」という気持ちもあったし、しばらくの間は慣れなくて大変でしたね。

ようやく慣れたんですけど「動かないで弾く」ということへのこだわりは、大したことなかったなって今は思います。

Saucy Dogに入ることは、私にとっては大きな挑戦でしたね。(せと)

―新しいことをはじめるのが不安なのは、それまでの習慣をやめたり、今まで持っていたものを手放したりしなければならないからだと思うんですよ。そういう「過去」へのこだわりや執着から自由になった経験などはありませんか?

せと:それこそSaucy Dogに入ることは、私にとっては大きな挑戦でしたね。大学を中退してアパレルに就職したんですけど、しばらくしてそのお店が閉店になってしまったんです。

そこで再就職先を探すか、音楽を続けていくかで悩んだ末ににSaucy Dogへの加入を決めたのですが、そのときは正直メチャクチャ不安でした。しかも、私が入る前のSaucy Dogは男の子3人組だったので、そこに女子が入って大丈夫なのかって。

せとゆいか

―それでも音楽を選んだのはなぜだったのでしょう?

せと:うーん、やっぱり音楽がやりたかったんですよね。就職した方が安定した生活を送れるし、親もそれを望んでいるのは分かっていたのですが、ドラムを叩いているときは本当に楽しいし、ここまで長く真剣に打ち込んできたことが自分にはなくて。辞めたくなかったんです。

石原:僕は「変化すること」の方が怖いと思います。それもあって、メンバーが入れ替わっても「Saucy Dog」というバンド名をそのまま残したんですよね。新たな名前で再出発しなかったのは、「お客さんが離れてしまうんじゃないか」という「怖さ」があったからです。ただ、それだけじゃなく、抜けてしまったメンバーに対して「負けたくない」というか、「見返してやりたい」という気持ちもあったんですよね。

バンド名を変えずに続けてきたからこそ今の自分たちがあるし、もしバンド名を変えていたら「今と違う未来」があったのかもしれないとも思います。

正直、以前はメンバー同士でまともな会話が全然なかったんですよ。(秋澤)

―この曲には「人によって感受性は違うし違っていいんだよ」というメッセージも込めたそうですね。

石原:メンバーと接していても、意見はいつもすれ違うし、俺が吉田兼好さんとは違う感性だということにも気づいたし、それはもう千差万別、十人十色じゃないですか。1人として同じ感受性の人はいない、それが当たり前だと思うんですよね。「何が正解というのもないし、違っていていいんだよ」というメッセージを込めたつもりです。

―なるほど。こうやってお話ししていても、3人とも全く性格が違うことが分かります(笑)。「意見はいつもすれ違う」とおっしゃいましたが、どうやってバランスをとっているのですか?

石原:このメンバーになってもう3~4年が経って。ほぼ毎日一緒にいるわけじゃないですか。そうすると大体、お互いの怒るポイントも分かってくるんですよね(笑)。当然そこは刺激しないよう気をつけてはいるんですけど、本当にいやだったり言うべきだと思ったりしたときは言うし……あと、何か気をつけてる?

秋澤:正直、以前はメンバー同士でまともな会話が全然なかったんですよ。

石原:一時期は曲作りもスタジオでの練習のやり方も、一切意見が合わないときがあって。会話が本当に少なかったんですよね。

せと:最近やっと、ライブの打ち上げ以外でも飲みに行くようになって。

秋澤:そうだね、ここ1年くらいで会話をちゃんとするようになってきた。それまではお互い、自分のやりたいことばかり考えていて、認め合おうともしなかったんですけど、続けていくうちにいろんな人が関わるようになってきて、このままじゃダメだなと。

お互いのいい部分をちゃんと認め合い、バンドとしていい作品を作ろうという雰囲気になっていきました。それは、普段の会話の質が上がったことも大きいと思う。

石原:たとえば僕が曲を作って持って行ったときに「このフレーズはやめよう」とか言われると、「いや、このフレーズを演奏したくて作った曲なんだから、このフレーズをやらないなら意味がない」みたいなことを言っていたんですよね、そんなはずないのに(笑)。

でも、こうやって感覚が違うメンバーが3人いるからこそ、出てくるアイデアも増えるわけじゃないですか。それに気づけたことで、ようやくいろんな意見を受け止められるようになってきたのだと思います。

―「自分にとってどうなのか?」よりも「バンドにとってどうなのか?」を第一に考えられるようになったのかもしれないですね。

石原:それは大きいと思います。

「自分らしくある」って、言い訳にもなる気がして。(せと)

―そんな試練を乗り越えたからこそなのか、ミュージックビデオでの3人はとても楽しそうですよね。

せと:車の撮影以外はBBQとかやって楽しかったんですけどね、慎ちゃん(石原)の運転が怖かった……(笑)。

石原:めちゃくちゃクセのあるミッションの、しかも左ハンドルのワーゲンバスだったから難しかったんですよ。撮影は、運転の練習からスタートでしたからね。

―夜のシーンだけちょっと雰囲気が違うというか、ダークな印象ですよね。

石原:あれはワーゲンバスの後ろを開けて、そこから白いカーテンを垂らし、そこに昼間撮影した道路の映像をマッピングしているんです。

せと:<カーテンの向こう側>にある、<新しい朝に希望を感じてる>んですけど、それでも<新しい朝がたまに怖くなるよね>と歌う、この歌詞の情景を映像で表現しているんです。

石原:ちなみに“いつか”で、夕日のシーンで3人並んで歩いているのをこの曲でもやりたいなと思って。分かる人には分かると思います(笑)。

―『徒然なるトリビュート』の連載では、みなさんに「自分らしく、ありのままで生きる」ことについて、共通のテーマとしてお話を聞いているんですが、3人は自分らしく、ありのままで生きていると感じますか?

石原:最近、ヒゲを生やしはじめたんですよ。正直めっちゃ評判悪くて(笑)、ライブではお客さんから「ヒゲ剃ってください!」って毎回のように言われるんですよね。でも、今回のテーマが「自分らしく、ありのままで生きる」がテーマだったので、「俺は俺らしく、やりたいことをやるよ」っていうメッセージも込めて、今回のMVでも剃らずに撮影しました。

あんまり人に、「こうした方がいいよ」とか言われるのが好きじゃなかったんですよね。ただ、さっきも話したように人の意見はひとまず聞くべきだし、聞いた上で自分らしくいられればいいのかなと思えるようになりました。この曲を作りながら、改めてそのことを考えさせられましたね。

―それって、自分に自信が出てきたからというところもありますか?

石原:どうだろう……まだそこまではいかないかな。先輩たちのライブとか見ると「カッコいいなあ」「悔しいな」と思うことも多いので。自分たちをもっとカッコよくするためには、もっと自分たちをちゃんと見直したりしないとなって思いました。

せと:私は「自分らしくある」って、言い訳にもなる気がして。「これが自分らしさだから」と言われてしまうと、それで話が終わっちゃうときってあるじゃないですか。向上心や人とのコミュニケーションを、ときと場合によっては拒絶しているようにも聞こえてしまう。「自分らしさ」にこだわるあまり、視野が狭くなってしまわないよう、ちゃんと「自分らしさ」を成長させていかないとなあ、とも思いますね。

商品情報
サントリー 天然水GREEN TEA

2019年4月16日(火)発売

新しい時代にあった緑茶をつくりたい。そんな思いから生まれたのが「サントリー天然水 GREEN TEA」です。目指したのは、気持ちをクリーンに、前向きにしてくれるストレスフリーなお茶。「サントリー天然水」ブランドの持つ「清々しくて気持ちいい」というイメージを活かした、新時代にふさわしい緑茶商品です。ほっと一息つきたいときだけではなく、気分をすっきりリフレッシュしたいときまで、新しい緑茶が飲まれるシーンを提案していきます。

サービス情報
『徒然なる トリビュート』

約700年前、「ありのまま、自分らしくいること」の大切さを随所で綴った随筆文学、『徒然草』。サントリー 天然水 GREEN TEAのブランドメッセージとも重なるそのスタイルを、今を生きる人々へ届けたい。そんな想いから生まれたのが、この「徒然なるトリビュート」です。ありのまま、自分らしいスタイルを貫く5組のアーティストが『徒然草』を再解釈し、オリジナル楽曲を書き下ろし。MVを通じて、そのメッセージを届けていきます。

プロフィール
Saucy Dog
Saucy Dog (さうしーどっぐ)

2013年西日本各地出身のメンバーが大阪で結成した、3ピースギターロックバンド。メンバーチェンジを経て2016年度MASH A&RのオーディションでGP受賞。代表曲「いつか」のMVは再生回数800万回を突破。Vo石原の「言葉・メロディ・声」の3要素が最大の魅力。2018年5月2nd mini Album「サラダデイズ」を発売。今年4月大阪城野外音楽堂・日比谷野外音楽堂にて自身最大規模のワンマンライブの開催し大成功にて幕を閉じた。さらに夏に先輩バンドを迎えた2マンツアー「One-Step Tour」の開催が決定しており即日SOLD OUT。7月12日(金) 大阪BIGCAT、7月14日(日) 名古屋ダイアモンドホール7月25日(木) Zepp DiverCity(TOKYO)にて行われる。



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