tofubeatsと米津玄師の開拓精神 大谷ノブ彦×柴那典の公開放談

CINRA.NETでリブートした、大谷ノブ彦(ダイノジ)と、音楽ジャーナリスト・柴那典による音楽放談企画「心のベストテン」。第6回となる今回は、2018年11月10日にCINRA.NET主催イベント『NEWTOWN 2018』で開催された、公開トークからお届け。

『心のベストテン 公開放談――平成が終わっても音楽は鳴り止まない』と題し、祭りの重要性や、tofubeats、米津玄師、そしてニュータウンの関連性など、独自の論点で自由に語り合いました。

全員が愚かになれるのは、祭りのいいところ。(大谷)

:今回の「心のベストテン」はCINRA.NETが主催している『NEWTOWN』というイベントでの公開収録なんですけれど、ここ、すごくいいムードですよね。

大谷:初めて来ましたけど、めちゃくちゃいい感じ。みんなゆるく楽しそうにして、子供からお年寄りまで集まってて。

:多摩ニュータウンの、もともとは小学校だった場所を使って「大人の文化祭」をやるというイベントなんですよ。

大谷:裏では七尾旅人さんがライブしているのに、こんなに集まってくださって。ありがとうございます!

:大谷さん、今日はね、「ニュータウン」の話をしたいんです。題して「tofubeatsと米津玄師と、ニュータウンのフロンティアスピリット」。

大谷:なになに? どういうこと?

:実はtofubeatsと米津玄師が同じ「ニュータウン」をテーマに曲を作っているという話なんです。

大谷:たしかtofubeatsは『RUN』に“NEWTOWN”って曲を作ってましたよね。

tofubeats“NEWTOWN”を聴く(Apple Musicはこちら

:そうそう! 彼はもともと神戸の西神ニュータウンで生まれ育ってるし、dj newtownを名乗っていたりしたこともあったし、ずっとニュータウンにこだわって音楽を作ってきている。藤井隆さんの“She is my new town”をリミックスしたり。

藤井隆“She is my new town(tofubeats west-kobe remix)”を聴く(Apple Musicはこちら

大谷:そういえば、YOUR SONG IS GOODにも“A MAN FROM THE NEW TOWN”って曲がありますよね。人工的に作った新しい街で育った自分たちがバンドをやってるんだっていう。

YOUR SONG IS GOOD“A MAN FROM THE NEW TOWN”を聴く(Apple Musicはこちら

:YOUR SONG IS GOODのサイトウ”JxJx”ジュンさんも神戸の須磨ニュータウン出身ですもんね。tofubeatsにはインタビューで話を聞いたんですけど、『RUN』は『ニュータウンの社会史』(2017年、青弓社)という本に影響を受けて作ったっていうんです。

大谷:へえ! どんな本なんですか。

:多摩ニュータウンについて書かれた話なんですよ。大谷さん、ニュータウンって、どういうイメージあります?

大谷:うーん、少し無味乾燥で殺伐として人情味がないとか、今や老朽化してきたとか……。

:そう。あんまり良いイメージがないじゃないですか。

そういうネガティブなことを言われがちなニュータウンだけど、この本を読むと、1970年代の多摩ニュータウンに最初に入居した人たちは、すごく素敵なマインドで新しい街を作ろうとしたことがわかるんです。

大谷:へー! そうなんだ。

:バス路線を引くために自分たちで交渉したり、いろんな施設を誘致したり、街作りを自分たちでいろいろやっている。

大谷:なるほど、フロンティアスピリットだ!

:そうです! この本を読んで特に感動したのが、神社の話なんですよ。ニュータウンを作るから神社を移設しないといけない。それで最初にやったのが神社の記録映画を作ることだったんです。

つまり、映画を作るという文化的な作業が、そのまま街作りの土台になっている。で、それが今の多摩ニュータウンにある白山神社になってるんですけど、そこはサンリオピューロランドが隣にあるんで、全国で唯一キティちゃんお守りが売っている神社になってるという。

大谷:へえ~。キティちゃんはいち早くライセンス契約を導入したんで、契約したらコラボグッズを作れるんですよね。プロ野球だと広島カープが最初にやって、それでカープ女子が増えた。

:で、結果としてキティちゃんのご利益があるニュータウンの神社ができている。そこから、数十年で新しい文化ができた。

左から:柴那典、大谷ノブ彦

大谷:これって、ゼロから作って新しい風習を根付かせるっていう話ですよね。

僕、最近、大分の『別府八湯温泉まつり』をDJダイノジで手伝ってるんですけど、そこで『湯ぶっかけ祭り』というものをやっていて。お神輿にむかって温泉のお湯をぶっかけまくるっていう。最初は3トンのお湯から始まったのに2018年は40トンになったんです。

:へえー、すごい。そんなのやってるんですね。

大谷:「別府八湯交わりの儀」を最初にやるんですよ。厳かな音楽が鳴って、8つの筒に入ったお湯を一つの樽の中に入れてかき混ぜて「今、別府のお湯が一つになりました!」って太鼓をドドン! と叩く。

:まさに伝統的なお祭りって感じですね。

大谷:そうなの! いかにも100年前から続いてる伝統的なイベントっぽいんですけど、実は去年から始まったんです。

:ははははは、全然始まったばかりなんだ。でも10年経つと、これが伝統になるんですよね。

大谷:そうそう。これを語り継いでいくうちに伝統になるわけですよ。盆踊りだってまさにそうですよね。柴さん、Bon Joviの盆踊りって見ました?

:Twitterで見ましたよ!中野駅前の盆踊り大会でDJ Cellyという人がBon Joviの“Livin' On A Prayer”をかけて、みんなでハードロックにあわせて盆踊りを踊ってたっていう。

大谷:そうしたらお客さんが撮った動画がめちゃめちゃバズって、Bon Joviの公式アカウントに届いて。「来日公演でもみんながこんなふうに踊ってくれるのを楽しみにしているよ!」ってコメントしたんです。

Bon Jovi“Livin' On A Prayer”を聴く(Apple Musicはこちら

:そもそも「Bon Joviで盆踊り」って半笑いで言うダジャレですしね。

大谷:「やろうよ! やりゃあいいじゃん」ってね。お祭りってみんなでバカ騒ぎするところから始まってるんだなって。

:『NEWTOWN』でも、DE DE MOUSEさんとホナガヨウコさんが「盆踊りDISCO!」をやってますもんね。

大谷:そういうのを大真面目にやるのがいいんですよ。全員がボケになる。やっぱりインターネットはツッコミばっかりで、マウントをとりたがる人が多すぎるんで、こうやって全員が愚かになれるのは、祭りのいいところなんですよね。

1970年代のニュータウンと2000年代のインターネットって、同じなんです。(柴)

:今、大谷さんが言った「インターネットはツッコミばかりだ」というのが、まさにtofubeatsとニュータウンの話につながるんです。彼は神戸のニュータウンで生まれ育った人なんですけど、同時に彼は2000年代のインターネットから世に出てきた人間でもある。で、1970年代のニュータウンと2000年代のインターネットって、同じなんです。

大谷:ほうほう。同じというと?

:つまり、多摩ニュータウンに最初に入居した人が開拓者だったのと同じように、2000年代のインターネットはフロンティアスピリットを持った人たちが集まる場所だった。自分でなんとかして面白いことを始めようとする人たちが集まる場だったわけです。だけど、今のインターネットは1980年代以降のニュータウンのように変わってしまった。

大谷:なるほどね。ツッコミだらけ、揚げ足をとられるばかりの、殺伐とした場所になってしまった。

:そして、2000年代のインターネットから世に出てきた人間の代表って、やっぱりtofubeatsと米津玄師だと思うんですよ。

tofubeatsはネットレーベル、米津玄師はボカロだったので、別のところから出てきたと思われがちなんです。だけど、実は全くの同世代だし、どっちもフロンティアスピリットを持った人が集まる場所だった2000年代のインターネットが出自である。そして、どっちも「変わってしまったインターネット」をテーマにした曲を作っている。

大谷:米津玄師はなんでしたっけ?

:米津玄師は2017年にボカロP時代のハチ名義で“砂の惑星”という曲を作ってるんですけど、かなり辛辣な歌なんですよ。初音ミクの10周年を祝うために作られたのに<今後千年草も生えない 砂の惑星さ><すでに廃れた砂漠で何思う>という歌詞になっている。

大谷:10年経ってインターネットは砂漠になったって歌ってるわけだ。

:そうそう。だけど、米津玄師は、それを踏まえて最後に<砂漠に林檎の木を植えよう>って歌ってるわけですよ。ここが大事なポイントで。つまり、2000年代のインターネットにあったフロンティアスピリットはすでに失われてしまった。でもあきらめずに次の世代に託し続けようじゃないか、と。

大谷:僕は“LOSER”という曲が大好きなんですけど、あれも「あきらめるな」って言ってる歌なんですよね。「LOSER」って、つまりは「負け犬」なわけだけど、それでも<聞こえてんなら声出していこうぜ>って、みんなを奮い立たせてる。

:そうそう。それに、この曲でも揚げ足をとられるばかりになった今のインターネットのことを歌ってる。<踊る阿呆に見る阿呆 我らそれを端から笑う阿呆>という歌詞があって、この<踊る阿呆>がボケで<端から笑う阿呆>がツッコミ。“TEENAGE RIOT”だってそうですよ。

大谷:あの曲、最高!

:“TEENAGE RIOT”の歌詞には<取るに足らない言葉ばかりが並ぶ蚤の市>って言葉がありますからね。これだって当然今のインターネットとかSNSのことを指してるわけで。

それに、あの曲で米津玄師は<何度だって歌ってしまうよ どこにも行けないんだと>と歌ってますけど、あれは言ってしまえばTwitterで一時バズった「米津玄師どこにも行けない説」のアンサーなんです。

大谷::本人が「わはは。」ってツイートしてましたよね。

::あれもツッコミに対してノリボケで返してるというか。

大谷:言い返すんじゃなくて、めっちゃ格好いい曲に乗せて「これからもずっと歌うよ」って歌ってるわけだ。

:インターネットが砂漠になってしまった、ツッコミだらけの殺伐とした場所になってしまったって嘆いている人は他にもたくさんいるんですよ。

でも、tofubeatsと米津玄師がエラいのは「じゃあどうするか」ってことを、ちゃんと歌ってるところ。米津玄師は<砂漠に林檎の木を植えよう>って歌ってるし、tofubeatsは“RUN”という曲で<どんなに挫かれきっても / 僕らはまだ走るのみ>って歌ってる。

大谷:やっぱり「あきらめるな」ってことだ。

:砂漠になった場所には、新しい祭りを作らなきゃいけない。新しいボケを、新しい「踊る阿呆」を作らないといけない。ニュータウンっていうのは本来そういうフロンティアスピリットを持った人が集まるところなんだから、という。

大谷:僕も本当にそう思いますよ。だから、鼻で笑われるってわかってることをどんどんやりたいですね。

文化の場所を作るということは、街作りにおいてとても大事なこと。(柴)

:CINRA.NETが「大人の文化祭」と銘打って『NEWTOWN』を作ってるというのも、多摩ニュータウンの10年後に効いてくると思うんです。

大谷:10年後?

:もっとすごい壮大な話をすると、たとえば、渋谷だって最初はなにもなかった。ニュータウンみたいなものなんですよ。

大谷:えっ、そうなの?

:東急の創始者の五島慶太がいて、西武の創始者の堤康次郎がいて、渋谷の街はその二人によって開発されたようなものなんです。関東大震災のときに、道玄坂に銀座の名店を引き抜いて、そこに映画館を作ったのが堤康次郎だし、東急だって戦後の渋谷駅前にいち早くプラネタリウムを作ってる。渋谷というのはずっと東急と西武の文化戦争の舞台になっている。

大谷:西武の堤清二がパルコを作ったことで若者の街になったってやつですね。人工都市なんだ、渋谷は。

:さらに遡れば、東急の五島慶太と西武の堤康次郎の師匠筋に、阪急の創始者の小林一三という人がいるんですけれど、彼が関西でやったことにつながるわけなんですよ。阪急って、電車を通しただけではなくて、その終点のところに宝塚歌劇場を作ったわけですよね。つまり、文化の場所を作るということは、街作りにおいてとても大事なことである。

大谷:わかるわかる。

:それと同じことだと思うんです。『NEWTOWN』という文化のお祭りを作ることが、10年後の街作りに効いてくる。

大谷:僕は10年もかからないと思うな。僕もやりたいですもん。「この規模、この感じ、超パクりてえ!」って(笑)。僕はこういう祭りの現場を作るのが大好きだから。みんなもやれると思うし。

:そうですよね。これは「CINRAだからできた」とか「多摩センターだからできた」とかではなくて、大谷さんの言う通り、やろうと思えば誰だってできる。

大谷:そうなんですよ。だからやったほうがいいですよね。

:キングコングの西野さんがやってることだって同じですよね。「おとぎ町」と言って街作りをやっていて。そこでフェスをやって、クラウドファンディングをやってる。

大谷:そうそう。だから、なにより「やる」っていうのがいいんです。失敗するのもいいですもん。むしろ失敗した人のほうが、一生懸命応援してくれる人が出てくるんで。石橋を叩いてあきらめたり、外側からああだこうだ言ってるより、トライするのがいいと思いますね。

プロフィール
大谷ノブ彦 (おおたに のぶひこ)

1972年生まれ。1994年に大地洋輔とお笑いコンビ、ダイノジを結成。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。音楽や映画などのカルチャーに造詣が深い。相方の大地と共にロックDJ・DJダイノジとしても活動。著書に『ダイノジ大谷ノブ彦の 俺のROCK LIFE!』、平野啓一郎氏との共著に『生きる理由を探してる人へ』がある。

柴那典 (しば とものり)

1976年神奈川県生まれ。音楽ジャーナリスト。ロッキング・オン社を経て独立、雑誌、ウェブなど各方面にて音楽やサブカルチャー分野を中心に幅広くインタビュー、記事執筆を手がける。主な執筆媒体は『AERA』『ナタリー』『CINRA』『MUSICA』『リアルサウンド』『ミュージック・マガジン』『婦人公論』など。日経MJにてコラム「柴那典の新音学」連載中。CINRAにて大谷ノブ彦(ダイノジ)との対談「心のベストテン」連載中。著書に『ヒットの崩壊』(講談社)『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(太田出版)、共著に『渋谷音楽図鑑』(太田出版)がある。



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