平井大が歌う、後世に語り継がれる音楽。夏の夜のイベントレポ

7月31日にアルバム『THE GIFT』をリリースした平井大が、同日にアルバムの発売を記念したリスニングパーティー「HIRAIDAI New Album『THE GIFT』Listening Party」を渋谷「hotel koe tokyo」にて開催した。この数日前に梅雨が明けた東京はうだるような暑さだったが、そんな暑さもなんのその、会場にはアルバムの発売を祝福しようと、多くの人々が詰めかけた。

このリスニングパーティーでは、平井本人によるライブに加え、平井のキーボーディスト兼アレンジャーであるnabeLTDがDJも披露。18時の開場から約1時間のnabeLTDによるDJタイムでは、序盤はオリジナルのDJ、後半は「リスニングパーティー」の名にふさわしく『THE GIFT』からの楽曲が立て続けにプレイされた。

その後、ステージに平井が登場。この日はアコギ&ウクレレの弾き語りセット。「hotel koe tokyo」の1階にあるイベントスペース「koe space」は、去年、「幕張メッセ イベントホール」での単独公演も成功させた平井の歌を聴くには贅沢ともいえる小さな空間だが、そんな空間だからこそ、平井の歌は聴き手に対して親密に、寄り添うように響く。終演後の取材に答えて、平井は以下のように語っていた。

お客さんがなにかをやっている傍らに、僕らの生の音楽がある。僕にとっては一番の理想ですね。

―今日のような小さな会場で演奏する魅力とは、平井さんにとってはどのようなものなのでしょうか?

平井:特に今日は弾き語りでしたし、その場の盛り上がり方に応じて、自分の演奏を自由自在に操ることができました。それはやっぱり、今日のようなクローズドな空間でやるライブの魅力ですよね。「ここでブレイクを作りたい」とか、「ここはもうちょっと長くやりたい」とか、その場でお客さんと音楽を通じて「話」をしながら、音楽を自由にコントロールして作っていける。

大きなホールやアリーナだと、自分たちの小さい動きを感じとってもらうことが難しいので、オーバーな動きでお客さんにアクションを起こすことが多いですけど、でも、こういう小さなハコでは、僕のひとつの息継ぎやひとつの音でもお客さんがアクションを起こしてくれるんです。

平井大(ひらい だい)
1991年5月3日、東京都生まれ。ギターとサーフィンが趣味の父の影響で幼少の頃より海に親しみ、3歳の時に祖母から貰ったウクレレがきっかけで音楽に興味を持つ。印象的な耳に残る優しい歌声と歌詞、キャッチーなメロディーラインは聴く人の気持ちを癒し、穏やかにしてくれる。

―少し大きな質問になってしまいますけど、平井さんが理想とするライブ空間とは、どのようなものなのでしょうか?

平井:聴いてくださるお客さんに強制しないライブが僕にとっては魅力的ですし、いいライブの形なんじゃないかなって思います。一緒に来たパートナーや家族でお話しながら僕のライブを見てくれたり、あるいは、バーベキューやピクニックをしながら見てくれてもいい。お客さんがなにかをやっている傍らに、僕らの生の音楽がある……そういうのが僕にとっては一番の理想ですね。

そういう意味では、今年の5月に茅ヶ崎でビーチライブをやったんですけど(『HIRAIDAI THE BEACH TRIP 2019』)、あれは僕の理想のライブに近かったと思います。僕が演奏している間も、親子連れで来てくれた家族は海で遊んだりしていて。すごくゴージャスな空間を演出できたんじゃないかと思いますし、今後の自分のライブのあるべき姿がひとつ見えてきたような日でしたね。

イベント中の様子。会場は200名以上のお客さんで超満員となった。

音楽は、聴いている生活の傍にあるもの……こういう言葉のなかに、平井の音楽家としての品のよさが表れている。この日、平井は“THE GIFT”“Slow & Easy”“Beautiful Journey”の3曲を披露したが、それは先の平井の発言の通り、まるで聴き手と「対話」をしていくような演奏だった。

その場の空気を瞬間的に読みながら表情や歩調をコロコロと変えるように演奏し、歌う平井。集まった人々も音楽に合わせて、ときに手を叩き、ときに共に歌う。人と音楽が対話を繰り返しながら、波のように演奏が展開していく。演奏されたのは3曲と短いライブだったが、とても豊かで穏やかな時間だった。

ちなみに、アルバムの発売と同じく7月31日からは、渋谷の旧ドン・キホーテ壁面と宇田川町交番横壁面の2箇所に『THE GIFT』の巨大看板も出現。これらを撮影し、イベント指定のハッシュタグをつけてSNSに投稿した人のなかから先着で150名にアルバムのオリジナルTシャツがプレゼントされるというキャンペーン『THEGIFT_0731』も実施されていた(キャンペーン期間は8月2日~4日)。

渋谷の街中に掲示された看板
『THEGIFT_0731』キャンペーンで配布されたオリジナルTシャツ

自分が本当に好きだと思えるものを、好きなように探求して、音楽として表現し始めた感覚があります。

新作のリリースにリスニングパーティーの開催、そしてキャンペーンの実施と、7月の終わりのこの日は「平井大の夏」の始まりを告げるにふさわしい1日となったわけだが、そのもっとも大きなピースである新作アルバム『THE GIFT』についても、平井に話を聞くことができた。

―新作アルバム『THE GIFT』は「後世に伝え残したい」というのがテーマとしてあったと今日のライブでも語られていましたが、こうしたテーマ性はどこから生まれたものだったのでしょうか?

平井大『THE GIFT』を聴く(Apple Musicはこちら

平井:まず、僕は古いもの、ヴィンテージなものが好きなんですけど、古くて今も残っているものって、すごくいいものなんですよね。人の生活に馴染んできたものや、ずっと使っていても飽きないもの……そういう突出した要素があるからこそ、ヴィンテージとして残ることができるんだと思うんです。

今回のアルバムでは、僕もそういう音楽を作りたいなと思ったんですよね。生活のなかで邪魔にならず、でもヘビーでもあり、聴いてくれる人の人生に寄り添うような音楽。そういうものが作れれば、30年、40年と経ったあとで、「2019年の平井大のアルバムよかったよね」っていう会話がなされるかもしれないじゃないですか。そういうアルバムにしたいと思ったんです。それが、今回の大きなコンセプトでしたね。

―今日のライブ中は、「ポストヴィンテージ」という言葉も使われていましたよね。

平井:そうですね。このアルバムはすごく真新しいものでもあるんですけど、それはいつかはヴィンテージになるわけで。そういう思いを込めて、「ポストヴィンテージ」という言葉を使いました。

―平井さんが「古いもの」、いわば「ルーツ」を大切にされているというのは、その音楽を聴いても感じます。自分がなにを引き継いでいて、なにを残していくのか……そういう大きな歴史の流れの一部として、平井さんはご自身の音楽を捉えているのかな、とも思います。

平井:文化って、引き継いでいかないと終わってしまうものじゃないですか。今残っている素晴らしい音楽たちを、自分はどれだけ「現代」という社会に、古びないものとして表現し直せるのか?……そういうことを、20代の初めごろから考え始めるようになったんですよね。

アルバムとしては『Life is Beautiful』(2016年)くらいのころですね。それまでは「フロントマンとして自分はどう立ち振る舞うべきか?」ということばかり考えて、自分でキャラクターを作ってしまう部分もあったんですけど、『Life is Beautiful』のころに「素直である」っていうことの重要性を知った感覚があって。そのころから、「ヴィンテージ」に焦点を当てて、自分が本当に好きだと思えるものを、好きなように探求して、音楽として表現し始めた感覚があります。

平井大『Life is Beautiful』を聴く(Apple Musicはこちら

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』や『E.T.』『スター・ウォーズ』『ゴーストバスターズ』など、1980年代の映画が大好きなんです。

―結果として、本作『THE GIFT』の音楽性は1980年代のブルーアイドソウル、日本ではAORと呼ばれるような音楽からの影響も強く感じさせますよね。アートワークも、非常にAOR的だなと感じます。

平井:80sや90sの文化がやっとヴィンテージになってきたっていう感覚が、僕のなかにあって。ちょっと前までは70年代くらいまでのものがヴィンテージとして扱われていたと思うんです。でも、最近は1980年代の文化も「ヴィンテージ」のなかにとり入れられてきたって、去年、ロサンゼルスに行ったときに感じたんです。

たとえば、肩パッドの入っているジャケットを着た若者を街で見かけたり、それまでは1950~60年代のものを多く扱っていた行きつけの古着屋さんに、1980年代の洋服がとり入れられ始めたりしていて。それは、僕にとって盲点だったんですよね。1980年代や1990年代の音楽はずっと好きで聴いていたけど、自分でそれを表現しようとするきっかけがあまりなかったんです。でも、ロサンゼルスで見た景色から、「これは自分のなかで上手く昇華できるかもしれないな」って思い始めたんです。

―それこそ今は『ストレンジャー・シングス』なんかも若者に人気ですけど、あれも1980年代が舞台ですよね。そういうことを考えてみても、1980年代カルチャーの持つ質感が若い人たちにフィットしているんだろうっていうのは、僕も感じます。

平井:面白いですよね。1980年代のアーティストたちは、今こうやって80sブームが来るなんて予想していなかったでしょうし。それくらい、今の若い人たちは情報が多い社会に生きているけど、それゆえの柔軟さも持っているような気がしますね。

それに、そもそも僕は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』や『E.T.』『スター・ウォーズ』『ゴーストバスターズ』……そういう1980年代の映画が大好きなんですよ。寝るときは大体、そういう映画かホラー映画をつけて寝るくらいなんです(笑)。

―そうなんですか!(笑)

平井:僕は1980年代の、いわば「レトロフューチャー」なものが大好きなんです。僕は1991年生まれなので、1980年代にはまだ生まれていませんでしたけど、でも、どこか子供のころに見ていたものに対する懐かしさを、そういった映画や音楽から感じるんでしょうね。今になって見るとすごく懐かしさを感じるし、子供のころは「すごい!」と思って観ていたはずの映像が、今見ると「手作り感」満載だったりして。そういう部分から、温かみや安心感を得ることができるんです。

―たしかに、1980年代の映画は今観ると、その「手作り」感が作品の愛嬌になっていたりしますよね。

平井:たとえば『バック・トゥ・ザ・フューチャー』なんかは激しい映画ですけど、観ていると温かみを感じるし、目を閉じて音楽を聴いているだけでもリラックスできる。それはきっと、「人間の手で作ったもの」としての質感が、そこにあるからなんじゃないかなって思います。「そこに人間がいる」感覚って人に伝わるものだと思うし、完璧なものよりも不完全なもののほうに、僕は美しさを感じるんだと思いますね。

東京は、人工的なものと昔からあるヴィンテージなものや自然が、バランスよく融合している。

―音楽性の話にもつながると思うんですけど、デビュー当初の平井さんは、やはり「ハワイ」のイメージが強かったように思うのですが、前作『WAVE on WAVES』(2018年)から今作『THE GIFT』にかけての平井さんの作品には、非常に「日本的」ともいえるエッセンスを感じるんですよね。今作には“Tokyo Love in the Air”という曲もありますし、ご自身のなかでもなにか変化があるのかなと思うのですが、どうでしょう?

平井大『THE GIFT』収録曲“Tokyo Love in the Air”を聴く(Apple Musicはこちら

平井:ハワイという場所は、僕は初めてシンガーソングライターとして舞台に立たせてもらった場所で、大好きな場所なんです。小さいころはよくサーフィンしたりもしていましたし、ハワイとの交流は昔からずっとあるんですけど、やっぱり僕自身、生まれも育ちも東京ですし、ベースは日本なんですよね。ここ数年で、今までは身近にありすぎて気づかなかった東京の魅力に、改めて気づき始めている感じはあるかもしれないです。

―今の平井さんから見て、東京の魅力とはどんなものでしょうか?

平井:東京って、バランス感がすごくいいんですよね。新しいものを受け入れるし、海外のカルチャーもたくさん入ってくるんだけど、古いものに対するリスペクトもちゃんとある。この間、月島に行ったんですけど、街のなかに風情がある場所があれば、高層マンションが立ち並んでいる場所もあって、それはすごく東京的なバランス感覚だと思うんですよね。あと、東京タワーの周り、芝公園のあたりもすごくいいですよね。人工的なものと昔からあるヴィンテージなものや自然が、バランスよく融合している。

そこは、僕の音楽性にも通じている部分だと思います。僕が初めて手にとった楽器はウクレレという温かみのある楽器でしたけど、東京で生まれ育った僕には人工的なエッセンスもすごく大切なものだし。

そういったバランスの「融合」というのは、音楽の話に限らず、人類の目標でもありますよね。人間が生み出すものは全部人工物ですけど、それが自然と共存できるようにバランスを取っていくことは、すごく重要なことで。人工物が、あたかも昔からあったもののように自然に受け入れてもらえるような社会になったら、美しいんだろうなって思います。

「死」を意識することは、決してネガティブなことでもないと思います。

―歌詞についても聞かてください。たとえば1曲目“Beautiful Journey”の歌詞などが顕著ですけど、今作の歌詞の多くは、根本的には普遍的で大きなテーマを描きながらも、それが「君と僕」というミニマムな関係性の歌に着地しているような質感がありますよね。

平井:“Beautiful Journey”の歌詞に関して言うと、夏には終わりがあるのと同じように、人生も終わっていくじゃないですか。でも、そこには終わっていくからこその美しさがあると思うんですよね。いつか終わってしまうから、今日1日、誰かのことを精一杯愛そうとする……人って、そういうものだと思うんです。終わりのある夏だし、終わりのある人生だからこそ、あなたと旅を続けていたい……そういう想いが、“Beautiful Journey”には描かれていると思います。

今の僕の日常生活のなかで一番大きな存在が、僕のパートナーなんですけど、そのパートナーと生活するなかで僕が素直に感じるものがメロディーになり、歌詞になっていると思います。

―「後世に伝え残す」というテーマのもと、「残す」ことや「続く」ことを描こうとするからこそ、それはきっと、「終わり」を考えることにもつながるんですよね。

平井:そうですね。「自分がいつか死ぬ」なんて思いながら生きている人はあまりいないと思うけど、でも、実際のところ、人はいつ死ぬかわからないですから。だからこそ「今」を精一杯生きようと思うし、今、一緒にいる人をたくさん愛そうと思ったり、今食べているご飯を美味しく食べようって思えたりする。だから、「死」を意識することは、決してネガティブなことでもないと思います。

―平井さんは、「死」を敏感に考えますか?

平井:「死」に関しては日々、意識しないといけないなと思っています。「死んだら宇宙と一体化するのかなぁ?」とか、寝る間によく考えたりもしますよ(笑)。で、そういうことを考えすぎて眠れなくなって、ホラー映画を見始めてしまうんです。そうするとまた、眠れなくなるんですよね(笑)。

リリース情報
平井大
『THE GIFT』(CD+DVD)

2018年7月31日(水)発売
価格:4,860円(税込)
AVCD-96314/B

[CD]
1. Beautiful Journey
2. Tokyo Love in the Air
3. me+you
4. THE GIFT
5. SUN DAY
6. Seize the Sky
7. Road to You
8. To Say Goodbye
9. FAMILY SONG -Live at Makuhari Messe Event Hall Dec. 15, 2018-
10. Summer Queen -Live at Makuhari Messe Event Hall Dec. 15, 2018-

[DVD]
『HIRAIDAI Concert Tour 2018 WAVE on WAVES at Makuhari Messe Event Hall Special Cut』

1. Kiss Me Baby
2. A Good Day
3. 祈り花
4. Slow & Easy
5. Perfect
6. Can't Help Falling In Love
7. FAMILY SONG
8. Story of Our Life
9. Life is Beautiful
10. Three Two, One
11. MyLove
12. Life Song
13. BEAUTIFUL LANE
14. Summer Queen
15. THE GIFT
16. はじまりの歌

平井大
『THE GIFT』(CD)

2018年7月31日(水)発売
価格:3,000円(税込)
AVCD-96315

1. Beautiful Journey
2. Tokyo Love in the Air
3. me+you
4. THE GIFT
5. SUN DAY
6. Seize the Sky
7. Road to You
8. To Say Goodbye
9. FAMILY SONG -Live at Makuhari Messe Event Hall Dec. 15, 2018-
10. Summer Queen -Live at Makuhari Messe Event Hall Dec. 15, 2018-

プロフィール
平井大
平井大 (ひらい だい)

1991年5月3日、東京都生まれ。ギターとサーフィンが趣味の父の影響で幼少の頃より海に親しみ、3歳の時に祖母から貰ったウクレレがきっかけで音楽に興味を持つ。印象的な耳に残る優しい歌声と歌詞、キャッチーなメロディーラインは聴く人の気持ちを癒し、穏やかにしてくれる。



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