FIVE NEW OLD、覚醒の理由 「中途半端さ」が武器と気づくまで

FIVE NEW OLDが9月11日にリリースした、メジャー2ndアルバム『Emulsification』。バンドのキャリア上、ダントツの最高作と言っていいだろう。ドライブ感、キメ細やかなサウンドデザイン、そして瑞々しいメロディーをさらに飛ばすリズムの妙。すべてにおいて、FIVE NEW OLDが得てきた武器を4人で解体&再構築したような、視点がビシッと定まった作品だ。

USポップパンクの影響を受けたサウンドを原風景に持ちながら、次第にHIROSHIのルーツであるジャズ、R&B、ソウルの要素を増やし、リズムとグルーヴに重心を置いたトラックの上で流麗なメロディーを聴かせるスタイルへシフトしてきたFIVE NEW OLD。その歴史を振り返り、一旦総括するところからスタートしたという今作では、4人が呼び合うようなアンサンブルが終始躍動している。そのバンド感と生物感には、「FIVE NEW OLDが本当のバンドになった」という言葉が浮かぶ。「乳化」を意味するアルバムタイトルの通り、4音がそれぞれの色を保ったまま共存し合っているのが、この覚醒感の肝だろう。

この作品のツアーが先日始まったばかりだが、強固によられたバンドサウンドが、各地で新たな景色を描き出すだろう。この進化と真価はいかにして鳴らされたのか。音楽の旅を繰り返してきたFIVE NEW OLDとはどこへ向かっていくバンドだと確信できたのか。HIROSHIのソロインタビューで、とことん探った。

僕らにとっての音楽とはつまり、相反するものを共存させる行為なんじゃないかと思った。

―『Emulsification』という、「乳化」を意味するタイトルがついている作品なんですが。まず、どういうコンセプトから始まったアルバムなのかを教えてもらえますか。

HIROSHI:このアルバムを作るにあたって、先に『Emulsification』というタイトルがあったんですよ。FIVE NEW OLDというバンドがやってきたことを振り返ったときに、この「乳化」という言葉が自分たちを表すものとしてくしっくりきたんです。

―自分たちのことをどう振り返って、どう位置付けたから「乳化」がしっくりきたんですか。

HIROSHI:FIVE NEW OLDはずっと「矛盾」を好んできたバンドだと振り返れたんですよ。最初はポップパンクから始まって、今だとシティポップと呼ばれるような音楽性に変化してきて。その結果として、特定のジャンルに立ち位置を作ることもなく、色合いの違う場所で音を鳴らせるバンドになったと思うんです。

なんならバンド名自体にも「NEW」と「OLD」という矛盾した言葉を含んでいるし、前のアルバムも『Too Much Is Never Enough』(2018年)――「過ぎたるは及ばざるが如し」という意味でしたし。どれにも矛盾が含まれてる。

HIROSHI
FIVE NEW OLD(ふぁいぶ にゅー おーるど)
2010年神戸にて結成。パンクロックバンドとしてキャリアをスタートさせ、次第にR&B、ソウル、ゴスペルなどを昇華したサウンドへと変化。2018年1月にメジャー1stアルバム『Too Much Is Never Enough』をリリースし、2018年7月にSHUN(Ba)が正式加入。2019年4月から初のアジアツアーを開催し、香港・台湾・中国・タイ・日本にて合計10公演を行う。2019年9月11日にメジャー2ndアルバム『Emulsification』をリリースした。
FIVE NEW OLD『Too Much Is Never Enough』を聴く(Apple Musicはこちら

HIROSHI:だから、ある種の対比と矛盾を調合してきたバンドなんだっていうのが、自分で腑に落ちたんですよ。それで、まず「矛盾」がテーマになったんです。それを話しているときに、SHUNくん(Ba,Cho)が「この『調合』とか『矛盾』って、ペペロンチーノを作るときのアレじゃない?」って言い出したんですよ(笑)。

―ペペロンチーノ?

HIROSHI:オリーブオイルと茹で汁を混ぜることでパスタに旨味を閉じ込める効果が生まれるんですけど、それを「乳化」って呼ぶんですね。つまり水と油という相反する存在が、小麦の成分を媒介にして共存する。矛盾を好んできた僕らにとっての音楽とはつまり、相反するものを共存させる行為なんじゃないかと。だから「乳化」が僕らのアイデンティティーなんだなって、バンドとしての気づきがあったんです。

―現時点でのテーマというよりもバンドが普遍的に持っているものを捉えたというお話ですよね。そもそも、そうやってFIVE NEW OLDがやってきたことを一旦総括するように振り返ったのはなぜだったんですか。

HIROSHI:うーん……次のチャプターに進むにあたって、もっと自分たちを理解したくなったというか。これまでずっと僕らは感覚だけで曲を作って、後から振り返るっていうやり方をしてきた気がするんです。でも、それ以前に自分たちを深く理解しないと新しいところに進める気がしなかったし、自分たちが何をしてきたかを理解できれば、意識的に壊すことも構築することもできるんじゃないかって。そういう気持ちでしたね。

―先ほど言われた通り、USポップパンクの影響が強い音楽から始まって、ソウルやR&Bをベースにした音楽性に変化してきた。そういう幅の広い道程を振り返ることで、HIROSHIくん自身が自分の芯を掴みたかったということでもあるんですか。

HIROSHI:ああ……確かに、これまでを振り返るのは、自分の表現を突き詰めることでもありましたね。

―そこにある核はどんなものだったんですか。

HIROSHI:……たとえば今って、自分が何を考えているのか自分でわからなくても、ある程度の答えはこいつ(iPhone)が教えてくれちゃうわけですよ。で、その向きはどんどんブーストしている。そうなると行き着く先はAIとかになってきますよね。

あるいは、ただ極端な意見を「正しい」と錯覚させられて、ちょっと間違った人をすぐ叩いたり追い出したりしてしまう現象も同じことだと思ってて。それだと、どんどん窮屈になっていく一方じゃないですか。

―そうですよね。

HIROSHI:じゃあその中で「人間を人間たらしめるものとは」「自分を自分たらしめるものとは」って考えたら、それこそ矛盾を抱えながらも何がベストかを模索してもがいている部分だと思ったんです。そう考えたときに、自分たちの過程にあった矛盾をポジティブに捉えることができたんですよね。

HIROSHI:ジャンル分布図でいえば中途半端な位置にいるバンドだけど、それこそが人間らしさを表現することに繋がるんじゃないかなって。だから言われた通り、僕自身が歌うことの意味を大事にしていくために、自分の矛盾やダメなところまで振り返って見つめる必要があったんでしょうね。カッコいいことをするために、カッコ悪い自分も出そうとしたというか……情けなさも隠さず自分に素直に生きられたら、もっと人を愛おしく思えるんじゃないかなって思うから。

―それは、この作品を聴くと本当によくわかります。バンドの息遣い、HIROSHIくんの歌のストレートさ、4人の顔がよく見えるアンサンブルが印象に残るアルバムですよね。

HIROSHI:「バンドとして」っていうのはすごく大事にしましたね。人間らしさや矛盾に目を向けてみて思ったのは、やっぱり人間なんて昨日言ったことと今日言うことがバラバラなもので、余白がないと窮屈になるだけだってことで。

窮屈になればモノを言う気も起きなくなるし、そうなると何事も我関せずになっていく。そうやって人と人の分断が深まっていくんですよね。だからこそ、今こうしてバンドで音楽を鳴らしている自分が大事にすべきなのは、4人としてどうするのかを考えることだったんですよ。

左から:WATARU、HIROSHI、SHUN、HAYATO

「自分がバンドの先頭に立つこと」と「バンドを抱え込むこと」は違うと理解できた。それが今だと思うんです。

―逆に言うと、これまではひとりでFIVE NEW OLDを背負い込もうとしていたところがあったんですか。

HIROSHI:そう思います。……もともと僕は、音楽に人間性は関係ないと思うタイプだったんですけど。

―音楽が必ずしもパーソナリティーと直結している必要なんてないですからね。

HIROSHI:そうそう。でも実際にライブや作品を重ねてくる中で、「どうしてこの人の言葉は届いて、僕の言葉は届かないんだろう」みたいな疑問が湧くことも増えていったんですね。で、周りは「人間性が出てるかどうかだよ」で片付けるし、本当にそうなのかなって思うこともあって。

どちらにせよ、自分自身を音楽で表現するにはどうしたらいいのかっていう試行錯誤はずっとしてきたと思うし、「人間力」がフロントマンとしての重要なファクターになってきたときに、その理想像ばかりが膨らんでがんじがらめになってた部分もあるんですよ。

HIROSHI:でもそこに囚われないために、経てきた道のりや持っているものをちゃんと見直すことが必要だったんでしょうね。そうすることで、「自分がバンドの先頭に立つこと」と「バンドを抱え込むこと」は違うと理解できた。それが今のこのタイミングだと思うんです。

―それはなぜ理解できたんですか。

HIROSHI:メンバーが、「HIROSHIがやりたいことを形にしていくのがバンドにとって大事だ」と改めて言ってくれたんですよ。

行きたいところへ行くための環境や力を与えてくれる仲間がいるから僕はバンドをやれてるんだなって思えたし、それは抱え込むこととは違うとわかった。「乳化」っていうのは外の世界に対してだけじゃなくて、バンド4人にとっても大事なことだなと思ったんですよ。

―バンド4人の乳化にとって、何が一番大事だったと思います?

HIROSHI:やっぱり、自分がフロントマンかつリリシストとしてバンドの音楽を届けるために、まずは自分の持つ矛盾やカッコ悪いところまで生々しく曝け出すことが大事だと思いましたね。

今までは大まかな絵まで描いてから「ここに色を塗ってください」っていうふうに曲をバンドに持っていってたんですけど、今回はメロディーとコードだけで持っていって、リズムも決まっていないところからバンドで形にしていくことが多くなったんです。それは大きな変化でした。

FIVE NEW OLD『Emulsification』を聴く(Apple Musicはこちら

―メロディーとコードだけっていうのはつまり、素っ裸の自分を仲間に委ねられるようになったということ?

HIROSHI:そうですね。メンバーが曲の絵も描いて、色も塗ってくれて、そこに僕がリリックで風景をつけるような。そういう作業が多かったんですよね。まずは自分が自分のことを見せることが必要だと思ったし、自分のメロディーと歌が軸であるのは大前提として、作曲している最中も「これ、まだ乳化できそうじゃない?」っていう言葉が普通に出てくるくらい、それぞれの音を混ぜることにバンドとして意識的に取り組めたんですよ。それが、さっき言ってくれたバンド感になっていったんだと思いますね。

さっきのパスタの話で言えば「お前、そんな具入れるの!?」みたいなことの連発だったし、いろんなものにすでに答えが提示されていてわかった気になれる時代だからこそ、そういう予想外のものが生まれるところにバンドの面白さがあるなって改めて思ったんです。時代的に言えばひとりで完結できる音楽の面白さもわかるけど、でもやっぱりバンドで全部をやりたくなっちゃうんですよね(笑)。

―全部をバンドでやりたがるのは、バンドに何を投影してるからなんですか。

HIROSHI:なんだろう……純粋に、繋がりとか絆を欲してるんだと思います。それは数があればいいってわけじゃなくて、お互いの存在を愛し合える関係を相手にも求めて、自分も人に対してそうでありたいっていう願いみたいなものだと思うんですよね。

―それは、バンドとしての音楽を追求したからこそわかったことですか。

HIROSHI:そうだと思います。それに、今年の4月にアジアツアーを経験したことも大きいと思うんです。中国は広州でライブをする予定だったんですけど、色々な事情でキャンセルになってしまって、会場を南京に変更したんですよ。日本に生きてる身としては、歴史を意識しないわけにはいかないじゃないですか。そういう場所でライブをしたら嫌な顔をされるんじゃないかって心配な気持ちもあったんです。

……でも、会場に着いた瞬間に「あなたたちがこの会場でライブをする初めての日本人だよ。来てくれて本当にありがとう」って言ってくれて。お客さんは500人も来てくれて本当にピースだったんです。やっぱり音楽の上では中国人も日本人も何も関係なかったし、当たり前だけど奇跡的なことが音楽の中で起こるんだなって改めて信じられたんです。そういう繋がりを、僕自身がバンドに求めてるんだと思うんですよね。

「FIVE NEW OLD自身にカウンターを打ちたいんだろうな」って。

―実際、「愛が足りていない」ということを歌い続けてきた方だと思うんですけど、それがより一層ストレートに聴こえてくるようになりましたよね。それは“Fast Car”の<君が何を言ってるかわからなくても 構わない / 僕等が隠してる気持ちについて考えて>(和訳)という象徴的なラインにも表れていると思うんです。こうして寛容性という意味での愛を歌い続ける背景には、何があるんですか。

HIROSHI:振り返ると……僕は父親を知らない母子家庭に生まれて、だけど叔母と祖母もいて。女性3人に僕が1人っていう少し変わった環境の中で育ってきたんですね。そういう環境で「男はこうあるべきだ」っていう刷り込みがなく生きてきたのは大きいと思っていて。ジェンダー観においてもフラットな感覚を持てているし、何の偏向もなくいろんなものを受け入れたいっていう感覚はそこで培われた気がするんです。

それにティピカルな家庭ではなかったからこそ、「人は会社に就職して生きていく」っていう考え方もなかった。自由に選択して、それを謳歌して生きていけばいいと環境に教わったんです。だから、どういう生き方も間違いじゃないっていう感覚が強いんですよ。それがずっと自分の歌の種になってるし、“Fast Car”にはハッキリ出てると思いますね。

―“Fast Car”は久々の8ビートという意味でもストレートだし、今作を象徴するような生物感のあるアンサンブルで。同時にサウンドデザインの面では現行のポップミュージックをちゃんと食えてる。いろんな意味で、今出てきてよかったなと思える曲になっているんですけど。ご自身ではどう捉えてる曲ですか。

HIROSHI:WATARUがこのトラックを仕上げてくれたときに、アルバムに対しての全部が見えた気がしたんですよ。この曲が持ってる景色――フューチャーサウンド的なシンセから、人の温もりのあるドラムが入ってくる。そこで、サイバーパンクにしたいなって思いついたんですよ。

『ストレンジャー・シングス』的な空気もありつつ、もう少しマイルドな『ブレードランナー』みたいな(笑)。基本はヘビーなサイバーパンクに人の温もりを足すことで、僕の中での「センチメンタル・サイバーパンク」にしたいと思って。

FIVE NEW OLD“Fast Car”を聴く(Apple Musicはこちら

―デジタライズされて合理化が加速する現代の空気と、そこに生きる人間の温もりとを共存させられたと。

HIROSHI:まさに。合理性だけを重視する世界が訪れる中で、人間らしさの糸口を探したいっていう想い。それをサウンドに導いてもらった感じがしたんですね。

―これまではメロディーでバンドを導くこが多かったのが、逆にバンドのサウンドに自分を引き出してもらったということ?

HIROSHI:そうそう、みんなに引き出してもらったんですよね。そういう意味でも、今のバンドとしてのサウンド、歌が詰まってるのが“Fast Car”だと思ってて。サウンドは未来に対して明るいのに、描く風景には不安が満ちている。じゃあ速い車で抜け出すしかないっていう、古風なところも出てきちゃったんですけど(笑)。

―それらが混ざりまくってるのが面白いし、このバンドの音楽のいいところだと思う。それにこの“Fast Car”がいいなと思うのは、メロディーを大前提にしつつ、リズム以外が主役になっている曲が久々に出てきたなっていうところで。もっと言えば、この曲の主役は今言っていただいた「エモーション」の部分だと思ったんです。

HIROSHI:それ、わかります。WATARUが主導で曲を仕上げてくれたんですけど、この疾走感のあるトラックを聴いたときに僕もニヤリとしたんです。「そろそろFIVE NEW OLD自身にカウンターを打ちたいんだろうな」って。

心地よく揺れるにはこうすればいい、みたいなサウンド感もわかってきたところで、もう1回ストレートパンチを打ってやろうっていう意味でのパンク精神と天邪鬼さを感じたんですよ。曲に自分の想いが引っ張り出されたという意味でも、FIVE NEW OLDの今の時点での衝動性という意味でも、今作を象徴する大事なものがこの曲に詰まってると思いましたね。

―音楽的な衝動はいろんなところに飛び散っているバンドだし、実際そういうアルバムではあるんですけど、その軸となるようなバンドの衝動性をまっさらな形で出せている曲ですよね。

HIROSHI:本当にそうだと思います。だってね、このイントロのビートって、Red Jumpsuit Apparatusの“Face Down”の入りをイメージしたものなんですよ(笑)。

『Don't You Fake It』(2006年)収録曲

―うおおお! 2000年代のポストハードコアの中でもかなりコアな名前が出てきた(笑)。つまり、自分がバンドに惹かれた頃の原風景も詰まってるということですよね。

HIROSHI:そうそう(笑)。このバンドを始めた頃のポップパンク感とか、ポストハードコアが好きだった頃の想いもちゃんと持ったまま成長できてるって自分たちでも実感できたんですよ。そうして青春を持ってきちゃうところはある種不器用とも言えるかもしれないんですけど、それが自分たち4人だと思えたんですよね。

―なおかつ最後には“Punk”という隠しトラックもある。スタジオでの会話からそのままドンと入るショートチューンになっていて、1990年代のパンクバンドがやっていた手法ですね。

HIROSHI:何かの帰り道でなんとなくRelient K(USのポップパンクバンド)を久々に聴いたら、アガっちゃって(笑)。それで久々にポップパンクをやってみようかなと思ったら5分くらいで書けちゃったのが“Punk”で。10代の俺が聴いたら盛り上がるだろうなあ、っていう曲を作れたと思うし、結局は「全部忘れてないよ」っていうのを出せたと思うんですよね。

―それに、人と鳴らす面白さを改めて感じられてるような曲ですよね。ちゃんと空気に入ってる。

HIROSHI:そうそう、まさに4人で一発録りしたんですよ(笑)。改めて、バンドで鳴らす面白さの原点を感じられましたね。

水と油でも、媒介があることによって共存し続けられる状態がいいんです。それが限りなく「ひとつ」っていうことだと思っていて。

―その原点にあるサウンドって、忘れていたものなのか、意識的に一旦置いておいたものなのか、どうなんですか。

HIROSHI:正直に言うと、自分の中にはあったけど小っ恥ずかしくて見られなかった感じかもしれない。「蒼いなあ、俺」みたいな。でもそこも含めて自分を見つめたいと思えたから、こういう蒼いこともできるようになったんですよ。バンドの歩みをちゃんと振り返ることが、今の形での新しい衝動になったというか。

―そして“Keep On Marching”も面白くて。ソウルもゴスペルも入った上でアフロビートが主軸になっている点にも次のフェーズを感じたし、先ほどのお話通り、分け隔てなく人と繋がって歩いていこうとする大きなリズムだなと。

HIROSHI:ここ最近はゴスペルやソウルのエッセンスが多く入ってきていたわけですけど、“What's Gonna Be?”でリズムに対してのアプローチを練ってみて、さらに新しい何かを模索する中で、まさに人とユナイトできるビートを考えてたんですよ。そこからマーチングが出てきたんですけど、そのビートから学ぶことが多かったんですね。

こうして人とユナイトできるリズムができたはいいものの、どういうコーラスをつけようかとなったときに、試しに自分の声をピッチチェンジしてみたら急に大陸感が出て。みんなが「『ライオンキング』だ!」って言い出して(笑)。

―ああー、それでリズムもアフリカに行ったと(笑)。

HIROSHI:そうそう、それがアフロビートに繋がっていったんです。ソウルやゴスペルを追った先に、人間そのもののルーツに辿り着いたぞ! みたいな気持ちになって。それこそ原始的な音楽の気持ちよさというか、人とともに歩けるようなビートとリズムを鳴らせたのが嬉しかったんです。やっぱり音楽においての一番の言語って、メロディーや歌詞の前にリズムじゃないですか。

―そうですね。骨格としても、音楽自体の表情としても。

HIROSHI:その「人の境界を超えるための一番の言語はリズムなんだ」っていう学びもアジアツアーから得たもののひとつで。それがあったからこそ、「人とユナイトする」っていう想いの上で、アフリカのビートとマーチングのビートを混ぜられたんですよね。人と言葉を介す以上に、大地そのものとコミュニケーションできる方法がリズムだよなあって。

―今の話は、技術面でも精神面でも面白いですね。リズムやビートを突き詰めるとやっぱりアフリカに行くんだ、っていうのはいろんな音楽を聴いていても感じることで。

HIROSHI:そうですよね。人間らしさ、人間が繋がれるものっていう部分を考えれば考えるほど、リズムの解釈が広がっていくのが面白くて。リズムの面白さっていうのは、ポップパンクからソウルやR&Bに惹かれていった理由でもあると思うんですけど。

―ご自身のリズムフェチな部分は、どう育まれたものなんだと思います?

HIROSHI:昔、ゲームをやり過ぎてゲーム機を取り上げられたことがあったんですね(HIROSHIはミュージシャン界隈でもトップクラスのゲーマー)。でも「とにかくボタンを押したい!」っていう衝動でとりあえずCDコンポのボタンを押したら、そこでかかったのがモーツァルトだったんですよ(笑)。

そこからクラシックにハマり、クラシックをジャズでやっている人たちがいることも知って、そこからブラックミュージックが自分の中に入ってきて。そういう聴き方だったから、僕の中の「音楽」には分断がなかったし、言葉以上にリズムやメロディーで音楽を聴くっていうのが染みついてたんですよね。

―譜面上のドラマを再現することが正義であるクラシックをジャズの解釈で好き勝手に鳴らしてもいいんだと知った時点で、割となんでもアリになっちゃいますよね。

HIROSHI:そうですね(笑)。音楽としても人としても、境目なんてないほうがいいっていうのは自分の中で通じてるんだなって。話してて思いましたね。で、そうするためにどうしたらいいのかって考えたら、やっぱりリズムの気持ちよさは人を選ばないから。

―人との絆感やユニティに惹かれて、その絆や青春性が見えやすい音楽としてポップパンクを鳴らして。そこから自分の強みを模索する中で、自然と吸収してきたブラックミュージックを鳴らすようになった。ジャンルとしては線になりにくいものも、HIROSHIくんの人間観の中でちゃんと線になっているんだなと。それがよくわかるお話であり、そういう作品だと思いました。

HIROSHI:結局、「乳化」って混ざることではなくて。水と油はいつまでも水と油のままそこにあって、媒介があることによって共存し続けられる状態のことを乳化って言うんですよね。たとえば水と油を一緒に混ぜると一緒のものになるんじゃなくて、混ぜれば混ぜるほどそれぞれの細かい円が増えて粒子化していくんです。で、それが限りなく「ひとつ」の意味に近いと思うんですよ。「俺は油でお前は水だよな。それでいいじゃん」って言い合えることがいいんだよなって。

そうやって、音楽にしても、人間そのものにしても、液体的に繋いでいくことをしたいんです。液体って、境目があったとしても少しの隙間があればじんわりと沁みていくじゃないですか。そういう繋がりを作れるのが音楽だと思うんです。ポップパンクから始まってソウルもゴスペルもやって、今ようやくその全部が自分たちなんだって納得できる作品を作れたからこそ、人にも「ありのままでいい」って伝えられたらいいなって思うんですよ。

リリース情報
FIVE NEW OLD
『Emulsification』初回生産限定盤(CD+DVD)

2019年9月11日(水)発売
価格:4,104円(税込)
TFCC-86690

1. Fast Car
2. Keep On Marching
3. Magic
4. What's Gonna Be?
5. In/Out
6. Last Goodbye
7. Pinball
8. Same Old Thing
9. Set Me Free
10. Gotta Find A Light
11. Always On My Mind
12. Please Please Please
13. Bad Behavior

DVD収録内容:
『FIVE NEW OLD ASIA TOUR 2019 / 2019.5.25 at MYNAVI BLITZ AKASAKA』

FIVE NEW OLD
『Emulsification』通常盤(CD)

2019年9月11日(水)発売
価格:2,700円(税込)
TFCC-86690

1. Fast Car
2. Keep On Marching
3. Magic
4. What's Gonna Be?
5. In/Out
6. Last Goodbye
7. Pinball
8. Same Old Thing
9. Set Me Free
10. Gotta Find A Light
11. Always On My Mind
12. Please Please Please
13. Bad Behavior

ツアー情報
『“Emulsification” Tour』

2019年10月5日(土)
会場:新潟県 新潟 CLUB RIVERST

2019年10月6日(日)
会場:石川県 金沢AZ

2019年10月14日(月・祝)
会場:北海道 札幌cube garden

2019年10月18日(金)
会場:神奈川県 横浜BAYSIS

2019年10月20日(日)
会場:宮城県 仙台MACANA

2019年10月24日(木)
会場:広島県 CAVE-Be

2019年10月26日(土)
会場:香川県 高松DIME

2019年10月27日(日)
会場:愛知県 名古屋BOTTOMLINE

2019年11月9日(土)
会場:大阪府 味園ユニバース

2019年11月22日(金)
会場:福岡県 福岡DRUM Be-1

2019年11月23日(土)
会場:熊本県 熊本Be9.V2

2019年11月24日(日)
会場:山口県 周南LIVE rise

2019年11月29日(金)
会場:東京都 EX THEATER ROPPONGI

プロフィール
FIVE NEW OLD
FIVE NEW OLD (ふぁいぶ にゅー おーるど)

2010年神戸にて結成。パンクロックバンドとしてキャリアをスタートさせ、次第にR&B、ソウル、ゴスペルなどを昇華したサウンドへと変化。2018年1月にメジャー1stアルバム『Too Much Is Never Enough』をリリースし、2018年7月にSHUN(Ba)が正式加入。2019年4月から初のアジアツアーを開催し、香港・台湾・中国・タイ・日本にて合計10公演を行う。2019年9月11日にメジャー2ndアルバム『Emulsification』をリリースした。



記事一覧をみる
フィードバック 6

新たな発見や感動を得ることはできましたか?

  • HOME
  • Music
  • FIVE NEW OLD、覚醒の理由 「中途半端さ」が武器と気づくまで

Special Feature

Crossing??

CINRAメディア20周年を節目に考える、カルチャーシーンの「これまで」と「これから」。過去と未来の「交差点」、そしてカルチャーとソーシャルの「交差点」に立ち、これまでの20年を振り返りながら、未来をよりよくしていくために何ができるのか?

詳しくみる

JOB

これからの企業を彩る9つのバッヂ認証システム

グリーンカンパニー

グリーンカンパニーについて
グリーンカンパニーについて