大衆を抜け出して踊れ。個を証明するため、ステレオガールは鳴らす

2014年に高校の軽音楽部で結成され、2018年から本格的な活動をスタートしたステレオガール。USポストパンク、サイケデリック、マッドチェスター、ブリットポップ、ガレージロックリバイバルからの影響を感じさせる楽曲に、素面のままバーストしていく狂気的な歌が乗る。UKもUSも日本もごちゃ混ぜにして食らっていく音楽性にも、目だけが笑っていない鋭い歌にも、そして何より5人が一気に音へ没入していくライブパフォーマンスにも、瞬時にロックオンされた。煽らず、媚びず、語りかけず、ただただ爆音と鋭い残響だけを置いていく。「古き良き」も「今が云々」も関係ない、普遍的なロックバンドロマンを強烈に感じるところが好きだ。

6月3日にリリースされた初のフルアルバム『Pink Fog』に収録された楽曲たちには、上記した特徴がより鮮やかに表れている。特に“春眠”や“I Don't Play Baseball”に映り込むのは、自分の意志で群れから離れて生きる人間の、孤独と喜びのコントラストだ。その音に滲む影響源や文脈から、音自体の陰影から、静けさの中で踊り続けようとするリズムから、自分の居場所を求めて歩き続ける心の声が聴こえてくる。ボーカルのAnju、コンポーザーでありギターのChamicotに、バンドの背景を語り尽くしてもらった。ロックバンドをやる必然しか感じない語録だ。

その音楽を聴いたそれぞれが好きなように踊れる――私たちが好きな「踊る」っていう行為は、ガレージロックとか、1980年代のマッドチェスターにあるんです。(Anju)

―Anjuさんの歌の力、ガレージロックリバイバルの影響やマッドチェスターのエッセンスを日本的な歌に昇華しているところが素敵なバンドだと思って聴かせていただいてるんですが、ご自身ではステレオガールの音楽はどういうものだと捉えられていますか。

Anju(Vo):やりたいことが変わりながらも明確になってきたのが今回の『Pink Fog』だと思うんですけど、基本的には、「音楽を聴いて体が動くと嬉しいな」って思った時の感覚のままやってきた気がします。無理やりじゃなく、音楽で自然に体が動くって楽しい。きっと音楽をやっている人の多くは、そういうプリミティブなところを目指している気がするんですけど。それを、周りとは違うやり方でステレオガールはできているんじゃないかなって思います。

Chamicot(Gt):たとえば今回の『Pink Fog』も、個々の曲を作った時期が違うはずなのにまとまりがあると思うんです。それはどうしてかって考えたら、Anjuが言ったように、自分たちの目指すところが常に一緒だからだと思っていて。音楽で自然と体が動く感じ、人と一緒に踊るんじゃなく自分の好きに動ける感じ……それさえ大事にすれば、もっと広がりが出てくるんだろうなって。

ステレオガール
左から:Anju(Vo)、Kanako(Gt)、Yuka(Dr)、Riku(Ba)、Chamicot(Gt)
2014年、高校の軽音部にて結成。2018年より本格的な活動をスタートし、同年6月にリリースした『ベイビー、ぼくらはL.S.D.』が話題を呼ぶ。10代アーティスト限定の『未確認フェスティバル』では準ブランプリを獲得し、2019年3月にアメリカ・テキサス州オースティンで開催された『SXSW 2019 Japan Nite』に出演。2020年6月3日に初のフルアルバム『Pink Fog』をリリースした。

―今おっしゃった「周りとは違う、ステレオガールのやり方」とはどういうものだと思います?

Anju:毒のある話に聞こえるかもしれないですけど……やっぱり日本の音楽は、わかりやすくダンサブルなビートとか、一体感を演出するようなやり方とか、人の感情を操作して「踊らせる」みたいな手法が多く見られると思うんですよ。実際、画一的な動きで一体感を演出する音楽は流行ったと思うんですけど……それとは別のやり方でやりたいのがステレオガールの音楽なんだと思います。

私たちが好きな「踊る」っていう行為は、それこそガレージロックとか、1980年代のマッドチェスターにあって。ロックバンドは何を煽るでもなく自分たちのままでいて、その音楽を聴いたそれぞれが好きなように踊れる音楽というか。それに元々、その場を支配する空気によった「一体感っぽいもの」が苦手な人間だったので。

―そもそもの音楽の原風景は、どういうものだったんですか。

Chamicot:うちの5人は高校の軽音部で出会ったんですけど、その当時は椎名林檎さん、クリープハイプ……あとはBLANKEY JET CITYとか、ARBもコピーしたよね?

Anju:ああ、やってた! バラバラだったね。

―年代も毛色も違う音楽たちですけど、やっぱりジャンルとか年代は関係なく音楽を吸収していたんですか。

Anju:私たちが所属してた軽音楽部にはいろんなタイプの音楽好きがいたんですよ。メタルやってる人もパンクやってる人もいたし、ノイズやってる先輩もいたし。どんなジャンルでも「音楽」として楽しめる場所だったので。「音楽が楽しい」っていう感覚だけを純粋に感じられてたんです。じゃあその感覚を自分たちなりに表現してみようと思った時に、音楽的にも、その背景的にも、ガレージロックとかマッドチェスターがピッタリきたんです。もちろんUSのバンドも大好きなんですけど、影響源を考えると、そういう感じでしたね。

Chamicot:私は高校時代にAnjuに貸してもらったOasisのCDを聴いてからUKロックが大好きになったんですよ。そこからThe Stone RosesとかThe Smithsが好きになって。その時に感じた「カッコいい」が私の基準になってしまったので、カッコいい曲を作ろうと思ったら、自然とそこにいっちゃうんですよね。

―特にUKの1980年代、1990年代の音楽を聴いてしっくりきたのは、ご自身のどういう琴線に触れたからなんだと思います?

Anju:私個人はUSもUKも分け隔てなく音楽を聴いてたんですけど、The Velvet Undergroundが好きで、Televisionが好きで、Pavementが好きで、Oasisが好きで、The Strokesが好きで……その音楽に通じてるのは何かって考えると、その音楽の脱力感から感じる、「起きている物事から距離を置いている感覚」ですかね。感情にも、世間の刷り込みにも浸り切ってない音楽っていうか。

でも自分が中学生、高校生の頃によく流れてた日本の音楽は、感情に寄ってるものが多かったんです。それこそ一体感を求めることが日本の音楽の要素として大きいし、2010年代くらいまでは、全部において型が決まり過ぎちゃってた感じがして。たとえば音楽だけじゃなくガワの話で言っても、「ロックバンドの人はスラッとしていて、演奏が上手くて、完璧で」みたいな。だけど私は、どうにもその型や洗練された感じに馴染めなかったんですよ。

―自分の周囲で鳴っている音楽の型に馴染めなかったから、心地いい場所を探すようにしてヴェルヴェッツやTelevisionがいた1960年代、1970年代くらいまで遡ったということ?

Anju:ああ、そういう感じですね。

集団がひとつの方向を向くと、その方向が大丈夫かどうかも考えられなくなる怖さがあるじゃないですか。(Anju)

―影響源として挙げてもらったバンド達は、年代的にはバラバラですけど、それぞれの音楽の背景から考えると、前時代のメインストリームから距離を置いて、新しい実験と新しいムーブを作った方々ですよね。そういう「洗練とは違うもの」を求めたのは、どうしてなんですか。

Anju:私は雑な人間で、何もかもいい加減なんです。なのに、洗練されていてパーフェクトなイメージで固められたものがカッコいいとされてちゃあ、困っちゃうなあと思って。完璧なスター像で固められた音楽は居心地が悪かったんです。だから、いろんなことを遠目で見ている感じの音楽なら、自分と繋げられるものがあると思って。距離を置く感じ……というか、距離を置かざるを得ない感じか。私は全然友達がいなかったので。ふふふ。

―今の話を少し解釈すると、「いろんなことから距離を置く感じ」っていうのは、音楽的な意味でも物理的な意味でも、人が集う場所から距離を置くということ?

Anju:そうです、そうです。私は昔から、団体行動が本当に苦手で。うまく自分のポジションを見つけられなかったんですよ。「みんな」って言われる人にできることが自分はできない、みたいな違和感がずっとあったんです。でもある時から、もういいやって思って、集団からリタイアして眺めてるだけにしようって。そういう感覚と、好きになった音楽の感じは繋がってるのかな。

Anju
『NADA』(2019年)収録

―人の渦とか「みんな」って言われる人の集団を眺めてみた時に、自分が抱えてきた違和感は理解できました?

Anju:うーん……私はたぶん、我が強いんでしょうね。たとえばみんなが盛り上がっていたり、大多数がひとつのことに向かっていたりすると、「それとは違う人もいるよ」とか考えちゃって。だから、みんなで行くぜ! みたいな感じがずっと苦手だったんですよ。

―「みんな」とか「大多数」みたいな言葉は、一人ひとりを置き去りにする可能性も孕んでいるから怖いですよね。まさに“I Don't Play Baseball”で歌われていることが、今のお話だと思ったんですけど。

Anju:そうそう。ひとつの方向を信じて「ここに向かって行くぞ」ってなった時に、もしその方向が間違ってたらどうするんだろうってことばかり考えちゃって。集団がひとつの方向を向くと、それが大丈夫かどうかも考えられなくなる怖さがあるじゃないですか。同意しなきゃいけない空気というか……私は違うんだけどなって言えなくなる感じとか、普通とされてるものと違っちゃいけない感じとか。それが怖いです。

Chamicot:(笑)。知り合って6年経ちますけど、新入部員の自己紹介の時に「この子(Anju)変だなあ」って思った印象からずっと変わってないですね。

Anju:えー!(笑)

Chamicot:本人曰く、その頃はまだ周りに馴染もうと頑張ってたらしいんです。服装とか髪型も周りに合わせようとしてたみたいだし。だけど、あんまり馴染めなそうな感じが滲み出ちゃってた(笑)。そこが面白かったんです。集団に対するオルタナティブな存在の人って、「集団」がある限り絶対にいるじゃないですか。

―はい、そうですね。

Chamicot:でも、本来的にオルタナティブな人は無理やり集団に入ろうとしても歪んでいくじゃないですか。結果、そういう人はパンクして壊れちゃうか、ロックンロールを始めるかに分かれると思ってて(笑)。

Chamicot

―二択(笑)。置き場所のない気持ちや大多数に入れない声の受け皿になってきたのが、そもそものロックですもんね。

Chamicot:そうそう。だから、Anjuにも私にもロックンロールがあってよかったなって思います。それにAnjuは音楽のボキャブラリーも歌のレパートリーも多いから、ボーカルに適任で。曲を作っていても、毎回面白いなって思います。

―ChamicotさんがOasisやThe Smiths、The Stone Rosesに衝撃を受けたのはどういう部分だったんですか。

Chamicot:私もAnjuと一緒で、人と同じことをやるのに馴染めない人間だったんですよ。体育祭実行委員会に所属したり、部活の部長をやったりしてみたんですけど、絶対に浮くんです。群れのトップに立つ人間ではなくて、どうしたって浮いてしまうから言うことが強く見えるだけだったんでしょうね。だから居心地が悪くて(笑)。で、浮いている人の言うことが強かったら、それはそれで人は後についてきちゃうもので。それを見て、また「集団」に居心地の悪さを感じるっていう……。

だから自分が音楽を聴く時は、人と一緒に盛り上がるものとは真逆のものを求めていた気がします。群れから離れていく音楽というか。それこそOasisに強烈に感じたことですけど、自分のアイデンティティを持ったまま、ここを抜け出してどこかに行きたいっていう漠然とした想い……そこがガツンときましたね。

―生まれや階級、アイデンティティがそのまま音楽に反映されていくというか。

Chamicot:比較するのもどうかとは思うけど、私はずっと転勤族で、故郷がなかったんですよ。(Oasis)本人からしたら階級や生まれでカテゴライズされるなんて嫌だっただろうけど、私からすれば、自分の生まれがあって、そこから生まれるマインド、アイデンティティがあるっていうことすら羨ましかった。……まあ私は、「どこにいても居心地が悪い」っていうことを早めに受け入れてたほうだとは思うんですけど。

Yuka
Riku
Kanako

たとえば高校球児に「腕の限界まで投げろ」とか平気で言っちゃう大人がいるじゃないですか。でも、他人が勝手に生き方を強制するなよって思うんです。(Chamicot)

Anju:Chamicotは「浮くのを受け入れてた」って言ってましたけど、私個人は、どこにいても居心地が悪いのが辛かったタイプなんですよ。だから、髪の毛を無理やり伸ばして、意識して女の子らしい格好をして……いろんな雑誌を読んで、「この格好をしておけば普通になれるんだ」って研究してたんです。今思えば、普通になれるっていう言葉自体がバカらしいんですけど……。

でも高校でステレオガールを組んで、歌い始めた途端「この子(Anju)はステレオガールの人だ」みたいになったんですよ。それで、どんなに普通にしようとしても無理なら、外に向けて自分を表現するほうが合ってると思えたんです。バンドで歌い始めてから、そう考えられるようになったというか、諦めがついたっていうか(笑)。

―何をしても浮いちゃう自分が「個性」になると思えたのが、バンドであり歌だった。

Anju:そうです、そうです。希望に思えたんですよ。バンドを始めるまでは、ちゃんと型にハマった人になろうと思っちゃってたんですけど。本当にバンドがあってよかったなって感じですよね。

―人の本能ではあるんでしょうけど、集団になった途端、違う思想の人間を面白がるんじゃなく拒絶する反応が先に出やすいところがありますよね。でも、音楽や表現は浮いた個性が武器になる場所だし、誰にも寛容なもので。だから音楽をはじめとする芸術は人と人を繋げると思うし、人が生きていく上で必要不可欠なものだと思うんですけど。

Anju:そうなんでしょうね。自分の場合は、それが音楽だったし、歌とバンドだったんです。気の合う友達とバンドを組めてよかった。

―“I Don't Play Baseball”は、野球を「みんなでやること」の喩えにしているタイトルも含めて、今まで話してくれたことがハッキリ出ている曲だと思ったんですが。気だるいサウンドとリズムの上で、最後の最後に<命かけ今燃やす / わけないじゃん>という猛毒が飛び出すところも強烈で。

Chamicot:ははははは。本当にそうです(笑)。散々<ふりきって / 命かけ今燃やすの>って繰り返した最後に、<命かけ今燃やす / わけないじゃん>っていう……はい嘘でしたー、みたいな歌です(笑)。野球を頑張っている人の意志やスポーツそのものを貶すわけじゃなくて。野球の場合は特に外野がうるさいじゃないですか。

―球場でヤジを飛ばしてるおっさん、みたいな話? 個人に対して勝手な価値観を押し付けることが多いっていう話?

Chamicot:たとえば……高校球児に「腕の限界まで投げろ」とか平気で言っちゃう大人がいるじゃないですか。「自分の身を犠牲にするのは美しい」「仲間と同じように命をかけろ」みたいな考え方。でも、他人が勝手に生き方を強制するなよって思うんです。ここでは野球をたとえにしてるけど、すべてにおいて大衆化する必要はないんですよ。自分がどうするかってことだけでいいのに。

―この歌は、「みんな」っていう雑な主語に頼ってきた世の中に対する猛毒でもあると思うし、同時に、古い価値観におさらばしようともがいている今に対するポップネスも感じられるとも思います。洒脱なリズムもいいですよね。

Chamicot:嬉しいです。やっと、世の中のいろんな人が大衆から抜け出ることができるようになってきてるじゃないですか。人と人は違うんだっていうことに立ち返り始めてる。そういうご時世をリアルに見ているから書けた曲かもしれないですね。

Anju:“I Don't Play Baseball”は特に、個でいることの楽しさも大変さも入ってる歌ですね。やっぱり大衆でいることは楽だから、そこから抜け出すのはとても大変なことだと思うんです。だけど「みんなの一部」じゃなく自分自身でいられたら一番最高で……いろんな意味で、オルタナティブな感覚が入ってる曲。ただ、オルタナティブとは言っても、音楽にはメインストリームもオルタナティブもない時代のような気もするんですよ。

―そうですね。むしろ線を引かない意識が重要だと思います。

Anju:だからこそ、個でいることをそれぞれが求めていったほうがいいと思うんです。<ふりきって / 命かけ今燃やす / わけないじゃん>っていうのは、「みんな」っていう言葉に甘えて楽できるわけないじゃんっていう意味にもなってくるのかなって。「みんなで野球する楽しい歌だと思ってたろ?」って最後に言って、後ろから刺すみたいな(笑)。タチの悪い歌ですね、ふふふ。

―大衆に馴染めなかったご自身だからこそ「みんな」とか大多数に対する不信感、毒が出てくるのか、あるいは、自分が自分でいることを真っ直ぐに追い求めていくと世界の型と摩擦が起きちゃうなあっていう感覚なのか、何が自分を歌わせているんだと思いますか。

Anju:なんか……日本の人って特に「スーパースター」への憧れが根強いなと思っていて。カリスマ性や型破りな部分、唯一無二性にこだわり過ぎてる感じがする。それをまとめると「自分らしく生きる人になりたい」みたいな部分への憧れだと思うんですよ。

誰かになりたいって思ってても、その人にはなれない。憧れをエネルギーにすればするほど、自分の人生が霞んでいっちゃうんですよね。(Anju)

―日本にはどうしても、前ならえが美しいとされてきた国民性がありますしね。その裏返しとしての、型破りさへの憧れというか。

Anju:そうそう。でも私たちがカッコいいと思ってきた海外のバンドは、ただただ「ここを抜け出してどこかへ行くんだ」っていう夢が体現されているだけなのがよかったんです。私は「普通はこうだ」みたいな考え方とか、「みんなはこうしてる」とか、あるいは「自分らしさとは」みたいな型があること自体が苦しかったから。誰かの生き方に憧れてる時点で、一生主人公になれないなって思ったんですよ。誰かになりたいって思ってても、その人にはなれない。憧れをエネルギーにすればするほど、自分の人生が霞んでいっちゃうんですよね。自分は自分になりたかっただけなので。

だから私は、ステレオガールがワンマンバンドじゃないところが好きなんです。歌ってるからすごいとか、曲を書いてるからすごいとか、それだけじゃない。その「自分なりのやり方」がそれぞれに許されるから、バンドっていいんです。

―ファッション誌を研究しても納得できる自分になれなかった人だからこそ言えることだとも思います。

Anju:そうなんですよねえ~。どんなに普通になりたくても全然しっくりこなかったんで(笑)。たとえば今は、昔よりも「バンド一本」みたいな生き方をしない人も増えたじゃないですか。働きながら週末だけバンドをやるとか。ライブをしないで、自分の部屋で音楽を作って配信だけするとか。自分のやり方を見つけやすい時代だなって思うので。そうなるとより一層、いわゆるスーパースター像とか憧れを追い過ぎなくてよくなると思うんです。私はバンドがいいなって思いますけど、でも、音楽や表現の形を人それぞれに選べるのが素敵だなって。

―もうひとつの選択肢っていう、本来の言葉の意味通りの「オルタナティブ」が輝き始めていますよね。じゃあ、その中でふたりがバンドを選ぶのはどうしてなんだと思います?

Chamicot:人間それぞれが個人として自立していってる時代ですけど、自立すれば自立するほど、人のことも認められるようになっていくと思うんですよ。個が弱いからこそ人のことを認められなくて、人を傷つけてしまうんですよね。ステレオガールは、私とAnju以外も、かなり我が強いんですよ。だけどお互いに認め合ってるからバンドが成り立ってるのであって、「認め合う」っていうことができるから、バンドがやりたいんだと思います。

―逆に言うと、自分を認めてくれる場所をやっと作れたということでもありますか。

Chamicot:そうなんだと思います。だって個が自立していくことと、人と人が認め合うことは矛盾しないじゃないですか。今、人と人の軋轢が増えているのは、「個が自立していってるから」ではないと思うんですよ。その逆で、自分は自分であるっていうことをちゃんと自分で認識できていないから、他を認められない人が多いだけなんだと思いますね。

Anju:そうだよね。似た人が5人集まってるとか、私とかが言ったことに頷くだけの人が集まってるとか、それだけだったらバンドじゃなくていいんですよ。違う個性の人がそのままでいられて、自分も自分のままでいられて、違う個性が混ざって面白いものになっていくから、バンドがいいんです。

―もちろん、いろんな形のバンドロマンがあるとは思うんですよ。だけどどうであれ、音が重なって曲になってる時点で、お互いを認めて存在させ合っているっていうことや、他者がいるから自分がいるっていうことを表現していることになりますよね。

Chamicot:ああー、自分が自分のまま存在できる場所としてバンドを捉えてるのかもしれないですね、ほんとに。

Anju:たとえばメンバーが全員同じ系統の音楽を聴いてるバンドもいるけど、うちの場合はインタビューでルーツを聞かれても、インタビュアーさんが困った顔をするくらい全員バラバラなんですよ(笑)。どこに行ってもベースはドーンって歪んで出るし、ギターも高いところをファーッと飛んでいくし、ChamicotはChamicotで、UKをはじめとしていろんなところから影響を受けた曲を書くし……お節介な人に「そんなバラバラでええんか」って言われることもあるんですけど、「超うるせえな」って思うんですよねえ。

―はははははは。

Anju:なんかね、いろんなことに「超うるせえな」って思っちゃうんですよねえ。ふふふふ。

―ステージ上でのAnjuさんって目が笑っていないし、ブチキレて暴発する瞬間があるじゃないですか。なおかつ今作の楽曲には、“春眠”をはじめとして、静けさや穏やかな死を連想させる歌が多いと感じて。今「うるせえな」とおっしゃったように、自分の中の静けさを守るために世界を睨んでるような感覚もあるんですか。

Anju:あー。うまく言えないんですけど……でも、高校生の頃から外野が増えれば増えるほど楽しくなってたタイプなんです。アウェーほど燃えてたし、むしろ人をポカーンとさせて置いてけぼりにするくらい、自分たちの好きにやることが気持ちよかったんですよね。だから、何かに対してカウンターを打ってやろうとか、攻撃してやろうとか、そういう感じは別にないかもしれない。とにかく自分たちは自分たちの素直なままでいたいだけで。真っ当に、自分の好きなことをしたいだけなんです。

Anju:でも今言われて思いましたけど……強いて言えば、人を勝手に攻撃する人や、人を勝手にカテゴライズする人に対して、「それ本当にどうでもいいです」っていうカウンター打ってる感覚はあるかも。流行りものとか、トレンドとか、どうでもいいので。……まあ、「ほっとけ」ってことですよね!(笑)

ステレオガール『Pink Fog』を聴く(Apple Musicはこちら

リリース情報
ステレオガール
『Pink Fog』(CD)

2020年6月3日(水)発売
価格:2,200円(税込)
UXCL-226

1. Intro
2. 春眠
3. I Don't Play Baseball
4. GIMME A RADIO
5. Walking Through The River
6. おやすみグッドナイト
7. ルー
8. サバクを見に行こう
9. ランドリー、銀色の日

プロフィール
ステレオガール

2014年、高校の軽音部にて結成。2018年より本格的な活動をスタートし、同年6月にリリースした『ベイビー、ぼくらはL.S.D.』が話題を呼ぶ。10代アーティスト限定の『未確認フェスティバル』では準ブランプリを獲得し、2019年3月にアメリカ・テキサス州オースティンで開催された『SXSW 2019 Japan Nite』に出演。2020年6月3日に初のフルアルバム『Pink Fog』をリリースした。



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