綾野剛×常田大希 変化を恐れず、自らの聖域を大切に温める

『新聞記者』(2019年)でも知られる藤井道人監督の最新作『ヤクザと家族 The Family』は、「ヤクザ」という疑似家族的なモチーフを通して、時代の変化を、人間の「居場所」を問う作品だ。ヤクザという裏の世界にしか居場所を見出すことができなかったひとりの青年の人生と、彼の「家族」の人生が、1999年、2005年、2019年という20年間にわたる時間の流れ、そこにある残酷とも言える時代の変化と共に、悲しく、激しく、美しく、刻まれている。社会が変わり、街が変わり、法が変わり、テクノロジーが変わり、人が変わっていく。

「もっと便利にしなければ」「もっとキレイにしなければ」と様相を変えていく世界の中で、手のひらから零れ落ちてしまいそうなものをすくい上げるように、この映画は汚れにまみれ、暴力にまみれながら、しかし、たしかにそこにあった温もりを描いている。

本作で、主役の山本賢治役を務めた綾野剛と、主題歌“FAMILIA”を書き下ろしたmillennium paradeの常田大希の対談を実施。プライベートでも交流があるというふたりに、お互いに対するシンパシーの在り処や、本作『ヤクザと家族 The Family』からふたりはなにを見出したのか、語り合ってもらった。

「変化」を恐れない。お互いがシンパシーを感じる姿勢

―おふたりはプライベートでも交流があるほどの関係だそうですが、お互い、どういったところに魅力やシンパシーを感じていますか?

綾野:かわいいじゃないですか?

常田:どこが?(笑)

綾野:(笑)

常田:くくく……(笑)。(綾野の紙コップを見て)あれ、コーヒー飲めないんじゃないの?

綾野:甘くすれば飲めるよ。

常田:かわいいなあ(笑)。

左から:綾野剛、常田大希

―ものすごくかわいがり合っていますね(笑)。

綾野:初めて会ったとき、初めてな気がしなかった。波長が合ったというか、ずっと知っている人のような感じがしたんです。いろんなことを一緒にやっていきたいと思えるし、お互いの能力を認めたうえで、さらに能力を引き出し合い続けることができると思えるんです。

綾野剛(あやの ごう)
俳優。1982年1月26日生まれ。2003年俳優デビュー。2011年NHK朝の連続テレビ小説『カーネーション』で人気を博す。主演映画『ヤクザと家族 The Family』が1月29日に公開。そのほか、4月2日に主演作『ホムンクルス』が日本限定で劇場公開、その後、Netflixで全世界配信の予定。
あらすじ:ヤクザという生き方を選んだ男・山本とその「家族・ファミリー」の1999年、2005年、2019年という3つの時代にわたる物語。ヤクザの世界で男をあげていく山本賢治(綾野剛)が、移り変わる社会の中で「組織=ファミリー」と「愛する家族」の間で揺れ動く。

綾野:僕はSrv.Vinciの頃から(常田)大希のことは知っていて、勝手にラジオで曲を流させてもらったりしていたんです。そのあと、King Gnuの1stアルバム(2017年『Tokyo Rendez-Vous』)が出たときには、名前が変わっても深層にあるものは変わっていないなと思いました。でも、2nd(2019年『Sympa』)からは逆に、大きく変化していくことを恐れていないと感じたし、そして3rd(2020年『CEREMONY』)は、その変化がよりダイレクトになっていった。バンドって、よく「1stアルバムが偉大だ」と言われがちじゃないですか。

King Gnuの1stアルバム『Tokyo Rendez-Vous』を聴く(Apple Musicはこちら

―そうですね。

綾野:1stと2ndが出て、3rdが出た頃には「やっぱり、このバンドの最高傑作は1stか2ndだよね」と言われる。アーティストにとってマイナスだと思うんです。アーティストが変化していくことをどれだけ受け手側が楽しめるかということが大事だと思う。

そういう意味で、King Gnuは軽やかに変化し続けているバンドです。そうやって変化していく姿をずっと見ていたので、僕が勝手に大希に親近感を抱いていたのかもしれない。それに、単純に一緒にいてハッとさせられることがいっぱいあります。

King Gnuの2ndアルバム『Sympa』を聴く(Apple Musicはこちら

King Gnuの3rdアルバム『CEREMONY』を聴く(Apple Musicはこちら

―常田さんから見て、綾野さんはどのような存在ですか?

常田:King Gnuの変化を言ってくれましたけど、「変化」と言ったら、(綾野も)役者として、今回の『ヤクザと家族 The Family』もそうだし、最近出ているドラマもそうですけど、ジャンルや主演助演を問わず、本当にいろんな役をやるじゃないですか。もし、俺が役者をやるんだとしたら、こういうスタンスでやりたいなって思えるような役者感がある人ですね。

常田大希(つねた だいき)
バンド「King Gnu」 のメンバーとして活動するほか、音楽だけでなく映像やビジュアル、空間演出などトータルなクリエイティブを行うコレクティブであるPERIMETRON及び、海外に向けた活動を志向する音楽プロジェクトmillennium paradeとして活動。2月10日、millennium paradeの1stアルバム『THE MILLENNIUM PARADE』をリリースする。

常田:……普段の感じを見ていると、かわいいおじさんなんですけど(笑)。

綾野:(笑)

メジャーとアンダーグラウンド。日本と海外。「越境」の表現者たち

―(笑)。先ほど、綾野さんは常田さんを「近い存在」とおっしゃっていましたけど、端から見ていても、おふたりに漂う空気感は似ているような気がして。たとえば、おふたり共、オーバーグラウンドとアンダーグラウンドを越境できる存在感がある表現者だと思うんです。そういう部分は、似ているところなのかなと。

常田:うん、うん。

綾野:そうかもしれないですね。そもそも、「天才」って創作できないんですよね。「天才」を創ることは。でも、「才能」は創作することができる。僕は、役者を始めた当初から自分には才能がないと思っているから、とにかく才能を自分で創っていくしかなかった。

そのなかで、いろんなジャンル、いろんな世界をシェアするっていうことが自分にとって生命線だった。ゴールデンタイムのドラマもやるし、深夜ドラマもやるし、メジャー映画の主役もやるし、もっと作家性の強いものや、単館系の作品もやる。ごく稀だけど、舞台もやる。

そうやって、いろんな世界をシェアしていくことを、自分がまず誰よりも実践していく。そして、そこで得たものをまた違う人とシェアしていく。そういうシェアの意識は、昔からずっとあったように思います。

常田:シェアって、「与える」だけじゃなくて相互的な話だと思うけど、俺にとって、特にmillennium paradeはそれに近い感覚でやっているものだと思う。俺も綾野さんも、今でこそメジャーな位置にいますけど、そこだけの価値観で生きているわけではないし、いろんなジャンルがあったり、いろんな人がいるなかで成り立っているものだから。

綾野:millennium paradeはサンクチュアリだよね、大希にとって。

常田:そうだね、聖域。数字も気にしないし、一般的にわかりやすいバンドサウンドである必要もない……そういう腹の括り方をしている場所。やっぱり、自分がやっていることを、自分が一番かっこいいと思いたいじゃない?

俺はそもそも持っている音楽的な語法がJ-POP的なアプローチとは違うし、出てきたバックボーンも違うけど、そういうなかでもmillennium paradeは、自分が一番かっこいいと思う価値観だけで形成されているかな。

millennium parade“Philip”MV

綾野:2018年に中国で『破陣子』(ドン・ティエンイー監督、綾野剛主演)という映画に出演したのですが、中国で撮影をしていた時期に、ずっと僕を支えてくれたのがKing GnuやSrv.Vinciの音楽だったんです。『破陣子』のヒロイン役だったソン・ジアも“Vinyl”が気に入って、ずっと聴いていて。

常田:嬉しい。

King Gnu“Vinyl”MV

綾野:King Gnuが作る作品も、ちゃんと世界に届いている。日本のアーティストたちは素晴らしいものをたくさん作っているし、日本の俳優も上手い人が多いから、世界でも闘える。この先、世界で闘う勇気を持てる人がどれほど増えてくるか、そういうことをどれほど考えてサポートするかっていうことが大事だと思うんだけど。

―日本の作家や作品を世界にどう提示していくのかという話だと思うのですが、そういったことは、綾野さんはよく考えられますか?

綾野:もちろん、僕が中国の映画で主演をしたように、個人で海外に出ていくことは刺激的だし魅力的なことではあったけど、それだけでは退屈だなと思います。この先は、僕たちが出て行くのではなく、日本に海外の人たちを呼び込めるようにならないとダメですね。

綾野:たとえば、日本のドラマだって、中国で見られている。中国に行っても僕は「サクラ、サクラ」って言われますから(綾野が主演を務めたドラマ『コウノドリ』の主人公、鴻鳥サクラのこと)。熱心に日本の作品を見てくれているんだと考えると、もっと「国際」を意識して作品を作らないといけない。日本の作品も世界に波及しているし、それがいいものであればあるほど、海外から日本に人が入ってくるようにもなる。そういうことは起こりえると思うんです。「日本で仕事をしたい」と思うクリエイターたちを呼び込んでいくようなことが、今後は重要だなと思います。

時代の変化ではなく、あくまで人間の感情が描かれる。映画『ヤクザと家族』

―今回、綾野さんが主演されて、常田さんがmillennium paradeとして主題歌を務められた映画『ヤクザと家族 The Family』には、「ヤクザ」というモチーフを通して、1990年代から現代に至るまでの時代の変化、社会の在り方の変化が色濃く描かれていると思うんです。この時代の変化は、きっと今生きている、ある一定以上の世代の人たちが実感しているものでもあるのかなと思いました。この映画に刻まれている「変化」というものを、おふたりはどのように受け止めましたか?

綾野:「この映画にとって変化とは?」と訊かれたら、この作品の事実を示した記号だと思います。

―記号、ですか。

綾野:この映画に出ている僕たちがやるべきことは、あくまでこの作品のなかの事実を作ることであり、この作品のなかで許されるリアリティーを追求しなければいけない、ということだけ。実際に起きている、現代のリアリティーを組み込もうという意識は、僕らにはあまりないんです。

―時事的な部分というのは、あまり意識しないようにしている?

綾野:映画の題材としては1992年に「暴力団対策法」(正式には「暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律」)ができて、この国のヤクザがどのような立場になっていったのかということを扱っている。暴対法以前のヤクザを描く場面はヤクザの抗争を描き、そのあと、ヤクザが退廃していく姿までを描いている。

この映画の背後にある歴史的な事実っていうのは、調べればたくさん出てくると思います。でも、そういうことを僕ら俳優がそこまで詳しく知る必要もない。この映画は1999年、2005年、2019年と時系列で描かれていくけど、1999年に生きている人間を生きるとき、2019年のことなんて考えてない。

生きる側としては、あくまでも、「自分たちの世界で『今』なにが起きているか」ということだけを考えている。「歴史を追っていく」だけでは映画にはならない。それだったらドキュメントがいい。本物の映像を見せたほうが、圧倒的に説得力がある。

―なるほど。

綾野:これは、映画です。特に俳優である自分は、映画のなかで起きる、すごくミニマムな世界の事実を探していくことが大事だと思います。結局、人間は事実を受け止めて生きていくしかない。僕らの世代だったら、たとえば1999年には2000年問題があったり、ノストラダムスの予言で世の中が騒がしかったりしたし、2020年はコロナの年であり、本当はオリンピックの年になるはずだった。現実にはいろんなことがある。僕らは事実として起こったことを受け止めて生きていくしかない。それと同じように、映画には「映画の中の事実」がある。僕ら俳優は、それを受け止めることしかできないんです。

―では、常田さんは、この映画における変化をどのように受け止めましたか?

常田:俺は、最初の時代があって、その次の時代があって……って流れていくなかで、ビジュアルや色彩感、カメラワークも含めて、「こうやって時代の経過を映すんだな」と思って。若いときの心情も、それから時間を経て歳を取り衰退していくときの心情も、一つひとつのカメラワークに「そういう見せ方をするんだ」と驚かされるというか。

音楽でも、もちろん構成を意識したりはするけど、そういう作為的なもの以前に、自分が作った歌は、「自分の想いを見せているだけ」っていう感じなんです。それは、今回の“FAMILIA”もそうだし、これまでの曲もそうだし。そういう意味で、この『ヤクザと家族 The Family』は、映画作品としてのクリエイティブの精度の高さを感じました。

『ヤクザと家族 The Family』場面写真 ©2021『ヤクザと家族 The Family』製作委員会
millennium parade“FAMILIA”MV

常田:あと、この映画は「家族」を描いているじゃないですか。俺は、この映画は「ヤクザ映画」というよりも「家族映画」だと思ったし、そういう意味で、エンターテイメント作品として一番大きな題材を描いていると思う。要は、「愛」っていう。

この映画を「ヤクザの繁栄と衰退を描いた映画」と伝えるだけでは言葉が足りないというか、本来、この映画はすごく王道な映画だと思いました。『ヤクザと家族』というタイトルではあるけど、普遍的で、人間的なものの根幹にあるものを描いていると思う。

綾野:この映画は、CGや爆破があるわけでもない、スケールの大きな映像表現がある映画ではないけど、感情のスケールが大きい映画。

『ヤクザと家族 The Family』場面写真 ©2021『ヤクザと家族 The Family』製作委員会

―おふたりがおっしゃるように、本作は非常に映画的な時間の流れを有している作品だと思うのですが、綾野さんがおっしゃる「映画としての事実」が、なぜ我々が生きるこの現実の中に必要なのだと思いますか?

綾野:エンターテイメントは、不急ではあっても不要ではないからです。僕らはそこに対して確信を持って作っています。結局、カメラの歴史って、ダゲレオタイプという技術が生まれた頃から数えても180年ほどで、動画の歴史なんてもっと短いわけです。じゃあ、180年前の人がなにをしたかったかと言うと、視覚化されなかったものを視覚化したかったんです。

大希は「愛」と言ってましたが愛って見えないものじゃない? 音楽だって見えないもので。そういう見えないものを閉じ込めたり、残したりするために自分たちは作品を作っている。それは本来、世界を切り取る残酷な行為でもあるけど、少なからず「美しいものを残したい」、そして「それを届けたい」という気持ちから物語は生まれている。その根底にあるものは、180年前の時代だろうが2021年だろうが変わらない。だから、どれだけ大変なことがあったって、みんなが心の密となりながら、映画を作ったり、ライブをしたり、ミュージックビデオを作ったりしているんですよね。

さっき、大希にとってmillennium paradeは聖域だっていう話をしたけど、そういう意味では、自分にとっての聖域と言えるものを持ち得て、その聖域で活動していくことをみんなやっているんだと思う。僕自身、この映画は自分の聖域だと思いを込めて創作しました。僕にとっては映画っていうジャンルそのものが聖域なのです。

作品情報
『ヤクザと家族 The Family』

2021年公開1月29日(金)から公開

監督・脚本:藤井道人
音楽:岩代太郎
主題歌:millennium parade“FAMILIA”
出演:
綾野剛
尾野真千子
北村有起哉
市原隼人
磯村勇斗
菅田俊
康すおん
二ノ宮隆太郎
駿河太郎
岩松了
豊原功補
寺島しのぶ
舘ひろし
配給:スターサンズ / KADOKAWA

リリース情報
millennium parade
『THE MILLENNIUM PARADE』(CD)

2021年2月10日(水)発売
価格:3,300円(税込)
BVCL-1136

1. Hyakki Yagyō
2. Fly with me(Netflix Original『攻殻機動隊 SAC_2045』主題歌)
3. Bon Dance
4. Trepanation
5. Deadbody
6. Plankton
7. lost and found(『DIOR and RIMOWA』コレクションムービーテーマ音楽)
8. matsuri no ato
9. 2992(NHKスペシャル『2030 未来への分岐点』テーマ音楽)
10. TOKYO CHAOTIC!!!
11. Philip(『adidas CASUAL Collection 2020 Fall/Winter』)
12. Fireworks and Flying Sparks
13. The Coffin
14. FAMILIA(綾野剛主演映画『ヤクザと家族 The Family』主題歌)

[Blu-ray](完全生産限定盤・初回生産限定盤のみ)
millennium parade Live 2019@新木場Studio Coastから4曲(Fly with me, Slumberland, Plankton, lost and found)&ミュージックビデオを収録。

プロフィール
綾野剛 (あやの ごう)

俳優。1982年1月26日生まれ。2003年俳優デビュー。2011年NHK朝の連続テレビ小説『カーネーション』で人気を博す。主演映画『そこのみにて光輝く』が『第38回モントリオール世界映画祭』にて「最優秀監督賞」を受賞、『2015年米国アカデミー賞外国語部門』の日本代表作品にも選出され、『第88回キネマ旬報ベスト・テン』『第69回毎日映画コンクール』など数々の映画賞で「主演男優賞」を受賞している。2021年、主演映画『ヤクザと家族 The Family』が、1月29日に公開。そのほか、4月2日に主演作『ホムンクルス』が日本限定で劇場公開、その後、Netflixで全世界配信の予定。

常田大希 (つねた だいき)

バンド「King Gnu」のメンバーとして活動するほか、音楽だけでなく映像やビジュアル、空間演出などトータルなクリエイティブを行うコレクティブであるPERIMETRON及び、海外に向けた活動を志向する音楽プロジェクトmillennium paradeとして活動。2021年2月10日、millennium paradeの1stアルバム『THE MILLENNIUM PARADE』をリリースする。



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