トリプルファイヤー、THCら出演、笑いとアート、狂気に溢れた夜

FOLKSのブレーン、岩ヰフミトがソロ初ライブで見せた活動の片鱗

7月20日、音楽アプリ「Eggs」とCINRAの共同主催による無料音楽イベント『exPoP!!!!!』がTSUTAYA O-nestにて開催された。

トップバッターは、北海道を拠点に活動する4ピースバンド、FOLKSのフロントマン・岩井郁人のソロ名義「岩ヰフミト」。この日はソロ名義での初ライブだったが、音楽の持つ土着性を重要視し続けてきた岩ヰらしく、同じく北海道で活動するシンセとドラムのサポートメンバーを迎えた3人編成でステージに登場。

岩ヰフミト
岩ヰフミト

パーソナルな歌を響かせることに焦点を置いたシングル曲“メリーゴールド~白~”、The Weekndあたりとも共振するモダンなエレクトロソウルの名曲“星が降る夜に”、ダビーでドープな音響を響かせる前半から壮大なバラードへと展開していく“1095”など、ロック、フォーク、エレクトロと、雑食的に音楽ジャンルを横断する岩ヰらしい、深く華やかな楽曲群を披露した。

岩ヰフミト

聴覚と視覚による二重の快楽。sui sui duckが提示した「ヤバいアート」

続いて登場したのは、2015年に結成された6ピースバンド、sui sui duck。「6ピース」といっても、メンバーのうち一人は「アートディレクター(VJ)」。去年、アルバムをリリースし、そのボーダレスな感性と音楽性の高さで大きな注目を集めたyahyelもメンバーにVJを擁するが、ネットを通して動画で新曲を発表し、同時に、ライブ現場での魅せ方にも重きを置く今の世代にとって、「音楽とは映像表現も含めたアートである」というのが当たり前の認識なのだろう。

sui sui duck
sui sui duck

実際、映像効果と、ステージ上でバンドが奏でるエレクトロやR&Bを昇華したダンサブルなサウンドが相乗効果を起こしながら生み出されるフロアの景色は唯一無二。音と照明が織りなす二重の快楽は、「現実」や「日常」なんていうものを遥かに凌駕していたと言っていい。

The Velvet Undergroundがアンディ・ウォーホルの「FACTORY」で演奏していた1960年代から続く「ヤバいアート」としての音楽の在り方を、sui sui duckは受け継ぎ、刷新している。そう感じさせる、極めて刺激的な30分だった。

sui sui duck

洗練か野性か――ロックバンド・YOUR ROMANCEのアグレッシブな魅力

3番手は、ツインボーカルを擁する4ピースバンド、YOUR ROMANCE。彼らのサウンドを形容する際に、「都会的なシンセポップ」というような文言をよく見かけるのだが、筆者がこの日のパフォーマンスを観て感じたのは、「洗練されたポップ」というよりむしろ、アーシーでアグレッシブな「ロックバンド」としてのYOUR ROMANCEの魅力だった。

左から:inui(Vo,Gt)、Shinji(Vo,Syn,Gt)
左から:inui(Vo,Gt)、Shinji(Vo,Syn,Gt)

1曲目“Kids”でフロアを昂揚感に満ちた空間へと誘い、続く“Run”ではそのサウンドをよりダイナミックに展開。うねりながら響くギター、ツインボーカルによる流麗なハーモニーは、The Byrdsのような、60年代のフォークロックやガレージロックを感じさせる。

“The Way”や“We're Lonely After All”では、80年代ニューロマンティクス的ポップネスも披露したが、最後、ストレートなロックチューン“Rock 'n' Roll & Tambourine”の爆発的なパフォーマンスを観るにつけ、やはりYOUR ROMANCEの最大の魅力は、その圧倒的にロックな野性味にあるのだと認識させられた。

YOUR ROMANCE
YOUR ROMANCE

知的なヒップホップでクールにアゲたTOKYO HEALTH CLUB

続いては、多摩美術大学の同級生で結成された3MC+1DJのヒップホップクルー、TOKYO HEALTH CLUB(以下、THC)。このクルーのDJであるTSUBAMEはインターネットレーベル「OMAKE CLUB」の主宰者でもあり、4月に開催された『exPoP!!!!! Vol.96』に出演したJABBA DA HUTT FOOTBALL CLUB(以下、JBHFC)も同レーベルから作品をリリースしている。

TOKYO HEALTH CLUB
TOKYO HEALTH CLUB

THCとJBHFCに通じるのは90~00年代の国内音楽シーンに対するオマージュや引用の豊かさ。しかし大きく異なる点は、RIP SLYMEやKICK THE CAN CREWなどメインストリーム寄りのアクトに通じるポップなJBHFCに比べ、THCはスチャダラパーなどに通じる内省とメロウネスを強く孕んでいるところ。

気持ちがぶちアガるというよりも、ひとりで聴くと一層、じんわりと染み込んでくるような繊細なグラデーションを持ったトラックとリリックが印象的だ。この日のセットリストも、“未知との遭遇”“ASA”の流れに始まり、“オシャレ”“TAXI”“supermarket”で締める、次第に熱量を上げていくもので、曲を経るごとに沸々とたぎっていくようなパフォーマンスが魅力的だった。

TOKYO HEALTH CLUB

面白さと背中合わせの狂気。トリプルファイヤーのライブで巻き起こる「笑い」の正体は?

そして、この日のトリを飾ったのは、近年では吉田靖直(Vo)のテレビ出演も話題の4ピースバンド、トリプルファイヤー。走ったりつんのめったり、全く整合性を感じさせないくせに、その実、すさまじくソリッドでファンキーなバンドアンサンブルは、まるで傑作『Trout Mask Replica』(1969年)の頃のCaptain Beefheartのよう。

トリプルファイヤー
トリプルファイヤー

そして、叫びであり呟きでもあるような吉田の言葉は、どうしようもない無力さ、無気力さ、やるせなさ、無常観……そういった、人が社会を生きるうえで「それ言っちゃあ、おしまいよ」と、なんとなく「なかったこと」にしている真理のど真ん中を突いてくる。

吉田靖直
吉田靖直

この日のステージ、やはり吉田のキャラクター性の強さは圧倒的で、歌詞においてもMCにおいても、吉田の一言一言に会場から笑いが起こる。確かに、ステージ上での吉田のパフォーマンスは面白いのだが、本当のところ、吉田の言葉は「笑える」というよりはもはや、「笑わなきゃやっていられない」というレベルで人の「業」のど真ん中を突いてくる。

なんというか、意味がないようで、意味がありすぎるのだ。そしてそれを完全無欠のバンドサウンドとともに鳴らすから、このバンドは怖い。

トリプルファイヤー

ちなみに、この日の『exPoP!!!!!』は、なんと99回目。次回、記念すべき100回目の『exPoP!!!!!』は日比谷野外音楽堂で盛大に開催されるというが、その前の99回目を、トリプルファイヤーの狂気的とも言えるライブで締めるというのもまた、ハードコアな音楽カルチャーを世に紹介してきたライブハウス、O-nestを舞台に、一筋縄ではいかないアーティストを呼び続けてきた『exPoP!!!!!』らしかった。

イベント情報
『Eggs×CINRA presents exPoP!!!!! volume99』

2017年7月20日(木)
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-nest
出演:
sui sui duck
TOKYO HEALTH CLUB
トリプルファイヤー
岩ヰフミト
YOUR ROMANCE

『exPoP!!!!! vol.100』

2017年8月20日(日)
会場:東京都 日比谷野外音楽堂
出演:
相対性理論
Yogee New Waves
クリス・コーエン
シャムキャッツ
YOOKs
料金:無料(2ドリンク別)

プロフィール
岩ヰフミト
岩ヰフミト (いわいふみと)

FOLKS 岩井郁人(ボーカル/コンポーザー)、ソロ活動名「岩ヰフミト」。2010年、Galileo Galileiのメンバーとしてメジャーデビュー。2014年に「FOLKS」を結成し、全国主要フェスに出演。その後、「FOLKS RECORD」を立ち上げ、ソロ活動として「まちのうた」プロジェクトを発足する。楽曲提供や高校訪問をはじめ、台湾、ニューヨークと活動の場を広げ、今年の春には世界5大ファッションショーである「東京コレクション」のモデルとしてデビューするなど、型にとらわれない活動を行なっている。

sui sui duck (すい すい だっく)

2015年結成。見覚えあるあの黄色いアヒル。2016年4月からライブ活動をスタート。同年12月に自主制作EP『RUN』『WALK』をリリース。EAGLESとDaft Punk を敬愛するボーカル・コンポーザー渋谷を含む5人のプレーヤーとアートディレクター(VJ)高橋をメンバーに擁す6人組。渋谷が放つ楽曲からインスパイアされたアート・ファッション・ビデオなどをクリエイティブチームがコンセプチュアルに体現。音楽を中心にライフスタイルを提唱するプロジェクト集団でもある。

YOUR ROMANCE (ゆあ ろまんす)

2014年結成、ツインボーカルのロックバンド。これまでに配信限定シングル『ANIMALS』(2015年)、ミニアルバム『BUSINESS』(2015年)、「RECORD STORE DAY」において2枚の7inchシングル(2015年、2016年)、1stアルバム『9dimensions』(2016年)、バンド・PAELLASとのSplit EP 『lute』(2016年)をリリース。2016年7月には初ワンマンライブを渋谷O-nestで行った。

TOKYO HEALTH CLUB (とうきょう へるす くらぶ)

TSUBAME(DJ,BEATMAKER)、JYAJIE(MC)、DULLBOY(MC)、SIKK-O(MC)からなる多摩美術大学の同級生で結成された 3MC 1DJのHIP HOPグループ。2010年に活動を開始。2016年自主レーベル「OMAKE CLUB」から「Manhattan Records(LEXINGTON)」へ移籍し、同年6月に3rdアルバム『IBRATION』をリリース。2017年4月にリリースされたシングル『supermarket』は、テレビ東京系『モヤモヤさまぁ~ず 2』エンディングテーマになり、5月17日にミニアルバム『MICHITONOSOGU』をリリースした。現在は音楽だけではなく、さまざまな角度から注目を浴びるアーティストとなっている。

トリプルファイヤー

2006年結成、2010年に現在の編成となる。「高田馬場のJOY DIVISION」「だらしない54-71」などと呼ぶ人もいる。ソリッドなビートに等身大の歌詞をのせていてかっこいい。人気がある。メンバーはみな性格が良く、友達が多い。



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