普段は見られないライブ現場の裏側。学生たちが紡いだ自らの未来

11月21日、配信ライブイベント『As Future As One』が開催された。FAITH、YAJICO GIRL、NakamuraEmi、ユアネスの4組が出演したこのイベントは、ライブ制作についての技術・知識を専門的に学んでいる日本工学院八王子専門学校 コンサート・イベント科 24期の学生たちが中心となって作り上げたもの。

新型コロナウイルスの影響で音楽・エンターテイメント業界に未だ厳しい状況が続くなかで、将来ライブスタッフとして働くことを目指す若者たちが、「今の音楽・エンターテイメントの世界を助ける」「将来を明るいものにする」という目的のもと、スペースシャワー、J-WAVE、CINRAの3団体が共同で立ち上げた「UNITED FOR MUSIC」プロジェクトが全面的に協力する形で、このイベントは開催に至った。

11月21日、14時から約3時間にわたって開催された本イベント、ライブのPA・照明・舞台・制作などは全て学生スタッフの手によって行われた。各アーティストのパフォーマンスと、学生スタッフによるアーティストへのインタビューは事前収録が行われたのだが、筆者はFAITHとNakamuraEmiのライブ収録とインタビュー収録が行われている現場を見学させてもらうことができた。その事前収録の様子も交えながら、このコロナ禍に、音楽を愛し、ライブを愛する若者たちがどのように「今」を乗り越え、そして「未来」を作ろうとしたのか、その様子を振り返りたい。

普段は見られないライブ現場の裏側。技術者として血肉化されたプロフェッショナリズム

11月6日の正午頃、FAITHとNakamuraEmiのライブ収録が行われる日本工学院八王子専門学校の片柳記念ホールに向かうと、揃いのスタッフジャンパーを着た学生たちが忙しそうに動きまわっている。会場の受付には、しっかりと検温と消毒用アルコールスプレーも用意されていた。新型コロナウイルス感染予防対策については一般社団法人コンサートプロモーターズ協会のガイドラインに沿って万全に行われている。

日本工学院八王子専門学校の学生たち。一人ひとり検温中

ホールの中に入ると、既にFAITHの楽器・マイクセッティングが行われており、「○○の音くださーい!」などの声も飛び交っている。そういう様子を見るにつけて、ライブ作りとは、アーティストやスタッフ間において、如何に繊細なコミュニケーションが必要なのかと実感させられる。音や色や光という、簡単には言語化できないものを他者と一緒にイメージを擦り合わせながら、理想の空間を作りだそうとすることの困難さ。

片柳記念ホールで仕込み中

アーティストが求める音や照明の細かなニュアンスに対してどう応えるのか。スタッフ間でも、簡潔な言葉でどのように目指す景色を共有していくのか……。きっと、どれだけ事前にミーティングをしても、いざ現場で合わせようと思えば、少なからず齟齬も出てくることだろう。こうしてライブ制作の裏側を見ることで、如何に難しいことを彼らがやろうとしているのか、実感させられる。

思えば、このコロナ禍以降、筆者も配信ライブを見る機会が多くなったが、見るたびにハッとさせられるのは、照明やカメラなど、いわば「裏方」と呼ばれる人たちの技術力の高さだった。アーティストの世界観を理解したうえで、映像作品としても完成度の高いライブを作り上げていく彼らの音楽や機材に対する理解度の高さ、その奥にある経験値、知識、テクニック、とっさの反射神経……そうした技術者として血肉化されたプロフェッショナリズムが、私たちがずっと楽しみ続けてきた「音楽ライブ」というエンターテイメントを作り上げているのだ。

「私たちなりに、音楽業界を支えていきたい」。学生たちが『As Future As One』という言葉に込めた想い

この日、学生スタッフのひとりであるコンサート・イベント科コンサート制作コースの髙久真帆に話を聞くことができた。彼女は、ライブ制作の現場の難しさをこう語る。

髙久:大変なのは、イベントの企画・制作側が考えていることと、テクニカルスタッフさんたちが考えていることの違いに直面したときです。双方の意見の上手い具合に取り入れることに苦労することはありますね。でも、目的は「皆さんにライブを楽しんでいただきたい」という一点なので、そこは上手く話し合いをしながら進めています。

髙久真帆

また彼女は、今回のイベントタイトルである『As Future As One』という言葉についてこう語る。

髙久:コロナの影響で、私たちが将来目指しているライブスタッフさんたちがそう簡単にお仕事ができない状況になってしまったし、私たち学生も、実習としてのライブ制作などが何もできない状況になってしまって。でも、そんな状況でも私たちなりにできることを探したいし、私たちなりに、音楽業界を支えていきたいなと思って。「ライブ制作を通して未来を支えていきたい」という想いを込めて、「ひとつの未来」という意味の『As Future As One』という言葉をタイトルにしました。

『As Future As One』ロゴ

髙久は現在、コンサート制作コースで、ライブの企画から当日の運営までのひと通りのことを学んでいるという。彼女は初めて行ったONE OK ROCKのライブで、アーティストがライブに懸ける想いの強さを感じ、現在は自分でもライブ制作に携わりたいと、様々なノウハウを学んでいる。来年には、インディーズバンドを招集し、新宿のライブハウスで自身主催のライブイベントを開催する予定だそう。

髙久:昔から音楽が好きで、ライブを観るのも好きだったので、「音楽業界で働きたい」というのは、幼い頃からの夢でもありました。特に、ライブ制作は自分のやりたいことなんです。ライブじゃないと伝わらないアーティストの想いがあると思うし、私自身、ライブの臨場感を味わうのが好きで、ライブは数ある音楽の楽しみの中でも一番好きな楽しみなんですよね。

普段、ライブを観ていて特に感じるのは、アーティストの意図を組み取ってライブを作り上げているスタッフさんのすごさなんです。私は演者側ではなく、スタッフとして、感動や楽しみを届けられる人になりたいと思っています。あくまでも演者を「支える」側になりたいし、アーティストの魅力を伝えていく側でありたいし、将来、お客さんが新しい音楽を見つけるきっかけを作りたいと思っています。

音楽の世界を志したとき、何もミュージシャンの道を選ぶことだけが、その道の答えではない。髙久のように、あくまでもミュージシャンを「支える」立場として、音楽を世の中の人たちに伝えていきたいと思う人たちもいる。そして先にも書いたように、そういう人たちがいるからこそ、この世界に音楽は巡っていくのだ。

繊細なコミュニケーションが積み重ねられ、作り上げられた現場

話をライブ収録現場に戻すと、本番前は楽器のチェックやモニターチェックはもちろん、曲と曲の繋げ方や、ステージ上でのアーティストの動きなども、アーティストと学生スタッフたちがやり取りを重ねながら、綿密に調整していく。

アーティストに「あの曲のBメロの○○~♪っていうフレーズの部分、もう1回お願いします」と言われれば、すぐに反応して、その部分と同じ照明や音響をもう1度用意する。曲や歌詞に対する理解が必要な仕事だ。あるいは曲から曲へと移る瞬間や、MCから曲に入っていく瞬間。それは、観ている側にとっては美しく自然と流れているように見えている光景であっても、実はそれを作り出す側は、その繋ぎ目を細部までしっかりと見つめ、何度も繰り返し調整しながら、繊細な手つきで曲や言葉を繋いでいる。そんな、数多の繊細な動きの連鎖によって、ひとつのライブ空間は生まれているのだ。

レイ キャスナー(FAITH)

また印象的だったのは、FAITHのサウンドチェック時に、ギタリストのヤジマレイが、現場の学生スタッフ達に「僕らは皆さんと同世代なので、気軽に、楽しく、ライブを作っていけたらと思っています!」と呼びかけたこと。こうやって現場の士気を上げていく姿に、若いながらFAITHのバンドとしての懐の大きさを感じた。平均年齢20歳のFAITHのメンバーにとって、この日のライブはすべてを同世代と作り上げるという点で、普段のライブとは違った感慨を得るものだったのかもしれない。

FAITHライブ風景。背景のセットも学生たちがこの日のために用意した

FAITH関連で驚きだったのは、ライブパフォーマンス収録後に行われたインタビュー収録に学生スタッフとして同席していた木村琴美が、実はFAITHと同郷出身で、メンバーの何人かと出身中学が同じだったということ。その事実が発覚したインタビュー収録後、「どこかで見たことあると思った!」と驚くFAITHメンバーの顔がとてもよかった。常に「長野県伊那市出身のFAITHです」と自己紹介するくらい地元を大切にする彼らだからこそ、尚更の驚きだっただろう。

FAITHのインタビュー収録模様。右から2番目が木村

この日、FAITHのステージでは照明スタッフを務めた木村は、FAITHが自身の学校でライブをすると知ったとき、真っ先に「自分が照明をやりたい!」と手を挙げたという。かつて、同じ場所で同じ空気を吸っていたもの同士が、幾年かの月日を経た今、演者と裏方として、同じライブ空間を作り上げた。しかもライブが終わったあと、FAITHメンバーはその事実を知るという……本当に奇跡的な、美しい再会の瞬間だった。

またインタビューで印象的だったのは、NakamuraEmiのインタビュー収録に同席していた学生スタッフの中野紫音が、「初めて買ったCDは?」という質問に対して、「CD買ったことがない」と答えていたこと。音楽はストリーミングサービスで聴くことが大半で、初めて買った音楽ソフトといえば、乃木坂46のライブDVDだったという。

NakamuraEmiインタビュー風景。一番右が中野

「CDを買ったことがない」ということに、現在30代の筆者としては世代の違いを強く実感させられるところだが、しかし、音楽の受け取り方が変わったからといって、音楽への愛情に変化があるということでもない。今を生きる若者たちは、今を生きる若者としての切実さでもって音楽やエンターテイメントを欲しているし、だからこそ、彼らは今、ライブ制作のノウハウを学んでいる。形は変われど普遍的なものはあるし、時代が変わるのと同時に更新されていくものもあるが、「音楽」や「ライブ」というエンターテイメントはまさに、そんな普遍性と革新性を同時に内包しているものなのだと思う。

『As Future As One』配信本番

そして配信本番となる11月21日、筆者は自宅で『As Future As One』を視聴していたが、見事な配信ライブイベントだったと思う。生放送と収録映像を組み合わせた作りで、生の温かさと収録の完成度の高さが織り交ざっていた。

学生が生で司会進行を行い、ライブは事前に収録した動画が放送された

ライブ前のオープニング映像なども、学生の手によって作られたという。また、SNS連動企画としてアーティストのサイン入りチェキをプレゼントするなど、イベントの存在を広めつつ、視聴者にしっかりとサービスをしようとするスタンスもよかったし、視聴自体はチケットもいらず無料だが、YouTubeの投げ銭機能「スーパーチャット」を通して、新型コロナウイルスの影響によって仕事を失ったライブエンタメ従事者のための支援基金「Music Cross Aid」への寄付を募るところは、YouTubeというツールや「配信ライブ」というフォーマットを活かしたやり方だった。

そして肝心のライブパフォーマンスは、パソコンの画面で見ていても、見事にアーティストの世界を伝えてくれる演出が施されていた。それぞれのアーティストの個性に合わせて考え抜かれたであろう、ステージ演出。トップバッターを飾ったFAITHは、その華やかでポップな音楽性と人生観の滲む歌詞世界に合わせた、煌びやかでスケールの大きな演出が素晴らしかったし、続くYAJICO GIRLは、その色気のあるソウルフルな世界観に寄り添うように、一本のライブの中でグラデーションを描くような照明演出に、スタッフの音楽に対する理解を感じさせた。

FAITH(放送動画より)
YAJICO GIRL(放送動画より)

3番手のNakamuraEmiは、その突き刺すような力強いグルーヴ感をしっかりと捉えながら、NakamuraEmi自身の自然体な美しさがより一層引き立つような演出で、“YAMABIKO”演奏時にチャット上で「おーおーおー」という合唱が起こった場面はとても感動的だった。

NakamuraEmi(放送動画より)

そしてトリを飾ったユアネスは、緩急のある曲の流れに寄り添ったうえで、その抒情的な楽曲を生み出す繊細な音と声の質感が、とても丁寧に捉えられて伝わってきた。

ユアネス(放送動画より)

ユアネスのフロントマン・黒川侑司は学生時代に、今回の学生スタッフたちと同じようにライブ制作を学んでいたらしく(専攻はPAコース)、インタビュー時に語った、「アーティストサイドは、カメラを回している方や、音を出してくれる方、照明をやってくれる方がいないと何もできないに等しいんです。なので、裏方と表方で上下差はないと僕は思うし、アーティストはそういう人たちに助けられて、少しずつ上に行くんだと思います。厳しい業界かもしれないけど、裏方の人たちに助けられているアーティストは世の中に大量にいるし、皆さんのことをきっと待っていると思います」という言葉は、アーティストからの言葉として、また学生スタッフの先輩からの言葉として、心に残るものだった。

日頃は授業で使っている学校内のホールの空間を特別なものにするために、様々なアイデアを駆使しながら、アーティストの世界観を捉え、拡張させ、視聴者に伝えていく。今の時代、多くの人たちがライブに飢えていたであろう。ライブチャットでは、「この時期にライブを配信してくれてありがとう」と、学生スタッフたちに感謝の言葉を送るアーティストのファンたちの姿も見受けられた。

まだまだ世間に不安は残り続けている状況ではあるが、それでも、この『As Future As One』というイベントは、若者たちがこの状況を真っ向から受け止めたうえで、未来への1歩を踏み出すための、貴重な試みだったのだと思う。この配信イベントを収録現場から取材させてもらった筆者自身、現場で動きまわる学生スタッフの姿に救われるような、気を引き締めさせられるような思いだった。

最後に、先にコメントを引用した学生スタッフ髙久のとても印象に残った言葉を記しておく。

髙久:やっぱり、ライブがなかなかできない状況だし、自分が音楽業界で働くことができるのか、今も不安ではあるんですけど、コロナが収まったときに皆さんが一番楽しみにしているのは、エンタメだと思うんです。そのとき、ちゃんと自分が音楽業界で働けているように、今できることをやっておきたいし、今の状況だからこそ生まれる新しい音楽の楽しみ方にもアプローチしながら、ライブを作っていけたらいいなと思っています。

よりよい未来で出会うために、そこにエンターテイメントがちゃんとあってくれるように。学生スタッフたちは、この時代に対して、アーティストや音楽そのものに対して、そして、自分たちの未来に対してもしっかりと向き合いながら、「ライブ」というエンターテイメント空間を見事に作り上げていた。

番組情報
スペースシャワーTV
『“As Future As One” with UNITED FOR MUSIC』

初回放送:1月20日(水)23:00~23:30

日本工学院八王子専門学校コンサート・イベント科24期が主催した配信イベント“As Future As One”。スペースシャワーTVも参加する音楽サポートプロジェクト「UNITED FOR MUSIC」が全面協力をして行われた本イベントには、NakamuraEmi、FAITH、YAJICO GIRL、ユアネスの4組が出演し、ライブを披露した。スペースシャワーTVでは、音楽・エンターテインメントの世界を目指す学生たちの手によって作り上げたこの配信イベントの模様をお届けします。

イベント情報
『日本工学院八王子専門学校 コンサート・イベント科 presents“As Future As One” with UNITED FOR MUSIC Supported by CINRA.NET / SPACE SHOWER TV / J-WAVE』

2020年11月21日(土)14:00からSPACE SHOWER TVのYouTube公式チャンネルで配信

出演:
NakamuraEmi
FAITH
YAJICO GIRL
ユアネス
料金:無料



フィードバック 0

新たな発見や感動を得ることはできましたか?

  • HOME
  • Music
  • 普段は見られないライブ現場の裏側。学生たちが紡いだ自らの未来

Special Feature

coe──未来世代のちいさな声から兆しをつくる

ダイバーシティーやインクルージョンという言葉が浸透し、SDGsなど社会課題の解決を目指す取り組みが進む。しかし、個人のちいさな声はどうしても取りこぼされてしまいがちだ。いまこの瞬間も、たくさんの子どもや若者たちが真剣な悩みやコンプレックス、生きづらさを抱えながら、毎日を生きている。

記事一覧へ

JOB