「バンド」から「個」へ? バンドの活動休止発表が相次ぐ中、解散を選んだandymoriの試み

昨年末から今年の頭にかけて、相次いだバンドの活動休止発表

昨年末から今年の頭にかけて、バンドの活動休止発表が相次いだ。ART-SCHOOL、the telephones、The SALOVERS、SEBASTIAN Xと、個人的にも大好きなバンドが多く含まれていたので、とても寂しい。もちろん、年末年始という区切りの時期に、大きな変化を迎えるバンドが多いのは今に始まったことではないし、「必ず戻ってきます」とコメントしたART-SCHOOLと、「青春のひと時もそろそろ終わりが来たようです」とコメントしたThe SALOVERSとでは、「休止」の意味合いがまったく違うように、各バンドにはそれぞれの事情があり、これらをひとまとめに語ることはできない。

しかし、上記の4バンドがすべてメジャーのレコード会社から作品を発表しているバンドであることも踏まえれば、音楽業界が目まぐるしく変化している中、一定以上の規模感でバンド活動を継続させることが決して楽ではないということを、改めて感じずにはいられない。「解散」ではなく「休止」が増えているのは、「解散」という言葉が含むネガティブなイメージを避けるためでもあると思うが、「本当は続けたいけれど、止まらざるを得ない」というケースが増えていることの表れでもあるだろう(繰り返すが、その理由はバンドによってさまざまであり、「業界の変化」とは直接的には関係ないことも多いわけだが)。

バンドという形態から自由になった、andymori・小山田壮平の試み

そう考えると、昨年10月の日本武道館公演をもって解散の道を選び、12月には小山田壮平を中心に自主レーベル「Sparkling Records」を設立したandymoriのあり方は、非常に際立って見える。小山田はレーベルの立ち上げに際して、「公園で遊ぶ子どもが『次なにして遊ぶ?』と言うような感覚で自由に音楽や表現ができる場所になればいいなと思っています。もちろんただ遊ぶんじゃなくて、真剣に」とブログに記しているが、ここにはレコード会社や事務所だけではなく、一度バンドという形態からも自由になってみようという提案が含まれているように思う。その証拠に、ホームページのアーティスト欄には、小山田をはじめ、岡山健二と後藤大樹というandymoriの新旧メンバーや、Gateballersの濱野夏椰らが個人名でクレジットされ、それぞれがソロで活動しつつも、小山田は長澤知之と共にALとしてもライブをするなど、各自が様々な形態で活動しているのだ。

思えば、こういった「個」を重視したあり方は、近年各方面で見受けられるようになっていた。例えば、ceroや森は生きているなどに代表される、いわゆる「東京インディー」(この呼称の是非はひとまず置いておきます)の界隈においては、各バンドのメンバーが一ミュージシャンとして他のアーティストのライブや作品に参加をするということが日常的に行われていて、片想いとザ・なつやすみバンドのメンバーで、ceroのサポートも務めるMC.sirafuはその代表例と言える。そして、近年はこうしたインディーシーンの良質なミュージシャンをフックアップする役割も担っているASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文は、ソロでの活動において、仲間のミュージシャンを積極的に起用。かつて後藤はCINRAのインタビューにおいて、「自分の周りにいる才能あるミュージシャンにちゃんとお金を引っ張ってくることによって、その人たちが音楽を作りやすくなれば、いいものがたくさん生まれる」という趣旨のことを語ってくれたが、この後藤の考え方は、「Sparkling Records」が目指すものとも通じる部分があるように思う。

弾き語りイベント『オリオンと夜の虹』と若手バンドに見る、「うた」のあり方

1月23日、小山田と石崎ひゅーい、谷口貴洋、藤田竜史(hotal light hill’s band)という親交の深い四人によって、渋谷La.mamaで開催された弾き語りイベント『オリオンと夜の虹』を見に行ってきた。リラックスした雰囲気の中(とはいえ、会場はパンパンで、おそらくは後ろの人にも見えるように、出演者はみんな立って演奏した)、それぞれに素晴らしい歌声を聴かせてくれたのだが、中でも印象的だったのが、四人が「うた」を共有しているように感じられたこと。実際に、この日は藤田がandymoriの“カウボーイの歌”を、小山田は藤田と共作したという曲を歌い、最後は四人でandymoriの“1984”や、小山田と谷口が共作したという曲などを、文字通り「みんなのうた」であるかのように披露していた。「バンド」という枠組みはなくとも、「うた」を共有することで、この四人は繋がっている。そんなことが感じられたのだ。

こんな風に書くと、「じゃあ、もうバンドに固執することは時代遅れなの?」という突っ込みが入りそうだが、もちろん、言いたいのはそういうことではない。ここまで書いてきたことは、ある程度キャリアを重ねたミュージシャンの活動の仕方についてであり、将来有望な若手バンドが今も続々と現れているのは、非常に心強いことだ。特に近年はオーディションやコンテストによって新しい才能を発掘しようとする動きが見られるが、そういった中からも、「うた」の力を感じさせるバンドの台頭が目につく。例えば、『RO69JACK』と『MASH FIGHT』でグランプリを獲得し、1月に『silver lining』でメジャーデビューを果たしたLAMP IN TERRENは、やわらかい高音の男性ボーカルが目立つ今のギターロックシーンの中にあって、やや野太い、男くさいボーカルが印象的。また、『RO69JACK』と『Day Dream Believer』でグランプリを獲得し、3月に初のシングル『未来飛行機』を発表する赤色のグリッターも、やはり表情豊かな「うた」が魅力のバンドである。



LAMP IN TERRENの松本大はインタビューで「僕はそもそも曲を自分のものだけにはしたくなくて、誰かのものになって初めて音楽だと言えると思う」と語っている。『オリオンと夜の虹』も示していたように、活動の形態が「バンド」や「ソロ」という枠を超えて多様化して行く中にあっても、その中心には共有される「うた」がある。そしてそれはいつの時代も変わることなく、冬の夜空に浮かぶオリオン座のように、誰かにとっての道標となるのだろう。

イベント情報
『オリオンと夜の虹』

2015年1月23日(金)
会場:東京都 渋谷 La.mama
出演
小山田壮平
藤田竜史(hotal light hill's band)
石崎ひゅーい
谷口貴洋

プロフィール
金子厚武 (かねこ あつたけ)

1979年生まれ、音楽ライター。ロックを中心に、洋邦・メジャー/インディ問わず、様々な媒体で執筆中。



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