多様化するEDMの現在。マーティン・ギャリックスらから考察する

『フジロック』に出演するEDM界のトップランナー、マーティン・ギャリックス

EDM界を代表する若き大物プロデューサー / DJ、マーティン・ギャリックスがこの夏、『FUJI ROCK FESTIVAL』(以下、『フジロック』)に出演する。『ULTRA JAPAN』や『EDC JAPAN』といったダンスミュージック系のフェスでの来日歴はあるが、『フジロック』のようなオールジャンルなフェスへの出演は初だ。デュア・リパ、ビービー・レクサ、トロイ・シヴァン、カリードといったシンガーとのコラボレーションをはじめとして、ポップミュージックシーンへも大きな影響を誇る。

マーティン・ギャリックス<br>オランダ出身のDJ / トラックメーカー / プロデューサー。1996年5月生まれ、現在23歳。8歳の頃からギターを習得し作詞作曲をスタート。2014年3月に米マイアミで開催された世界最大級のダンスミュージックフェスティバル『Ultra Music Festival』では史上最年少の19歳でヘッドライナーを務め、同年9月に日本で初開催された『ULTRA JAPAN』で初来日。2016年、英国発の世界最大級のダンスミュージックメディア『DJ MAG』が発表した世界の人気DJランキングで堂々の1位を獲得し、史上最年少の受賞という新記録を樹立した。『FUJI ROCK FESTIVAL '19』への出演を目前に控えるなか、ベストアルバム『The Martin Garrix Experience』をリリースした。
マーティン・ギャリックス
オランダ出身のDJ / トラックメーカー / プロデューサー。1996年5月生まれ、現在23歳。8歳の頃からギターを習得し作詞作曲をスタート。2014年3月に米マイアミで開催された世界最大級のダンスミュージックフェスティバル『Ultra Music Festival』では史上最年少の19歳でヘッドライナーを務め、同年9月に日本で初開催された『ULTRA JAPAN』で初来日。2016年、英国発の世界最大級のダンスミュージックメディア『DJ MAG』が発表した世界の人気DJランキングで堂々の1位を獲得し、史上最年少の受賞という新記録を樹立した。『FUJI ROCK FESTIVAL '19』への出演を目前に控えるなか、ベストアルバム『The Martin Garrix Experience』をリリースした。

2010年代を通じて爆発的に巨大なシーンを形成したEDM。「エレクトロニック・ダンス・ミュージック」というあまりにも漠然とした名称や、シーンの拡大や流行の移り変わりによって細分化し続けるサウンドもあいまって、その全体像をつかむことは非常に難しい。

とはいえ、クラブやレイブを中心としたダンスミュージックとは一線を画すひとつの特徴が挙げられる。「ビルドアップ→ドロップ」というキャッチーな構成だ。ハウスやテクノでは、シンプルなパターンの繰り返しが徐々に高揚感をつくりだしていく。音の微妙な抜き差しやちょっとしたパターンの変化が快楽のキーなのだ。

対してEDMは、派手なシンセのメロディーやリズムで高揚感を煽り(ビルドアップ)、一気に楽曲を急展開する(ドロップ)ことで、オーディエンスを沸かせる。わかりやすく盛り上がると同時に、奇抜な展開や複雑なリズムチェンジをたやすく楽曲に盛り込める創意工夫が試されるフォーマットとして、この「ビルドアップ→ドロップ」という構成はオーディエンスからもプロデューサーからも人気を集めた。

2013年にリリースされたマーティン最初期のヒット曲“Animals”は、ケバケバしく派手なシンセサイザーのリフが強烈なビルドアップと、重低音を過度に強調したドロップのギャップが鮮烈な印象を残す。コココ……と奇妙な音色で奏でられるリフとヘビーなキックドラムだけが鳴り響くドロップのインパクトは絶大だ。

マーティンが手がけるサウンドは主に、EDMのなかでも「ビッグルーム」と呼ばれるものだ。「ドンドンドンドン」という四つ打ちのリズムを基本として、シンプルで耳に残りやすいメロディーときらびやかなシンセを使った、まさに大会場に映えるサウンドが特徴。もともと巨大フェスの浸透とともに拡大し、野外やスタジアム規模のロケーションで最大限の効果を発揮するジャンルであるだけに、『フジロック』でのパフォーマンスは彼の音楽、そしてEDMに触れる絶好の機会ともいえる。

「ロック+ダンスミュージック」の系譜で捉えるEDM

長い時間をかけて身体にグルーヴを染み込ませていくのではなく、特徴的な構成で高揚感を演出するEDMは、ある意味でダンスミュージックをラウドロックのように機能させることに成功したといえる。もともと、ロックとダンスサウンドの融合は、セカンド・サマー・オブ・ラブ、ビッグビート、エレクトロクラッシュ、ニューレイブ等々、脈々と試みられてきた。EDMもこうした「ロック+ダンス」の流れを汲んでいる。

実際、ドープな低音で知られたダブステップのサウンドをケレン味あふれるものに一変させ、一気にメインストリームに押し上げたのが、もともとハードコア / エモバンドで活躍していたSkrillexだったのは極めて象徴的だ。

ロックの側からもEDMへのアプローチは数多く、「Fueled by Ramen」はその台風の目だ。Twenty One PilotsやONE OK ROCKといった人気バンドが契約するこのレーベルでは、ヒップホップやEDMのエレクトロニックなサウンドをロックと組み合わせた新しい音楽を提示して人気を博している。あるいはラップロックの代表的なバンド、Rage Against the Machineの元ギタリストであるトム・モレロは、2018年にリリースした初のソロアルバム(『The Atlas Underground』)で、自身のギタープレイとEDMの融合を試みた。

ちなみに日本のロックバンドに目を向けても、EDM的なサウンドを柔軟に取り入れるバンドが最近数多くあらわれている。もともとフェス向けのサウンドとして四つ打ちのダンスロックがゼロ年代末から人気を博していたところに、新しいダンスミュージックの文法がジャストフィットしたというところだろうか。ONE OK ROCKのみならず、UVERworldやMrs. GREEN APPLE、女王蜂といったバンドの近作では、EDM以後のサウンドが洗練されたかたちで入り込んでいる。

2010年代型ポップスとEDM以後の世界

こうしたEDM特有の構成は、ポップミュージックにも応用された。たとえば、The ChainsmokersがHalseyをフィーチャーして放った2016年のヒット“Closer”は、EDM的構成をポップソングに見事に落とし込み、新しいスタンダードをつくった。日本でいうサビにあたる一番おいしい歌メロをビルドアップにあて、ドロップではビートを中心におき、声をあたかも楽器のように配置してしまう。ビートと歌を平等に聴かせるポップスのあり方が開拓されたのだ。

マーティンもプロデューサーとしてポップミュージックでの世界で引っ張りだこ。そのことは、最初に紹介した彼のコラボレーション歴を辿ってみるだけでも一目瞭然だ。加えてこうしたコラボレーションは、EDMの様式をポップミュージックに導入していくのみならず、EDMが2010年代後半に迎えたピークを過ぎて以来、さらなる変化や多様化を遂げていることを示すバロメーターにもなっている。

たとえばラッパーのMacklemoreとFall Out Boyのパトリック・スタンプをフィーチャーした“Summer Days”は、ドラムとベースのリズム隊が醸すディスコ寄りのフィーリングに、フレンチエレクトロを思わせる過激なリフが組み合わさった1曲。カリードをボーカルに招いた“Ocean”は、EDM的構成を下敷きにしつつ、高揚感を出しすぎないチルな雰囲気でカリードの歌声を聴かせるバラード。

こうしたいわば「脱EDM」の流れは、カルヴィン・ハリスの2017年作『Funk Wav Bounces: Vol. 1』がひとつの潮目だった。以降、「いよいよEDMの本格的な終わりか?」という声さえしばしば聞かれたが、むしろEDMシーンの多様化が促進されたと言ったほうがよいだろう。ドロップの快楽を追及する者もあれば、ハウシーなグルーヴを再び取り入れる者、あるいは自分のルーツであるレイブやハードコアに回帰する者。仮にバズワードとしてのEDMは終わったとしても、その土壌が育んだ音楽は未だ健在で、進化を続けている。

ロックとの融合、ポップシーンへの影響……というように、EDMによって開拓された新たな音楽のかたちは、今後もしばらく静かな影響を与えていくものと思われる。2010年代も終わりを迎えようとする今、この時代が生んだジャンルを振り返りつつ未来を見据えるきっかけとして、『フジロック』でのマーティンのパフォーマンスはぜひチェックしてみてほしい。

マーティン・ギャリックス『The Martin Garrix Experience』を聴く(Apple Musicはこちら
リリース情報
マーティン・ギャリックス
『The Martin Garrix Experience』(CD)

2019年7月10日(水)発売
価格:2,376円(税込)
SICP-6128

1. Summer Days feat. Macklemore & Patrick Stump of Fall Out Boy
2. No Sleep feat. Bonn
3. High On Life feat. Bonn
4. In The Name Of Love(Martin Garrix & Bebe Rexha)
5. There for You(Martin Garrix & Troye Sivan)
6. Ocean feat. Khalid
7. Scared To Be Lonely
8. Waiting For Tomorrow feat. Mike Shinoda(Martin Garrix & Pierce Fulton)
9. So Far Away feat. Jamie Scott & Romy Dya(Martin Garrix & David Guetta)
10. Together(Martin Garrix & Matisse & Sadko)
11. Forever(Martin Garrix & Matisse & Sadko)
12. Mistaken feat. Alex Aris(Martin Garrix & Matisse & Sadko)
13. Byte(Martin Garrix & Brooks)
14. Burn Out feat. Dewain Whitmore(Martin Garrix & Justin Mylo)
15. Pizza
16. Breach(Walk Alone)(Martin Garrix & Blinders)
17. Latency(Martin Garrix & Dyro)
18. Game Over(Martin Garrix & Loopers9
19. Yottabyte
20. Glitch(Martin Garrix & Julian Jordan)
21. Dreamer feat. Mike Yung *CD限定ボーナス・トラック

プロフィール
マーティン・ギャリックス
マーティン・ギャリックス

オランダ出身のDJ / トラックメーカー / プロデューサー。1996年5月生まれ、現在23歳。8歳の頃からギターを習得し作詞作曲をスタート、2004年に開催されたアテネオリンピックで演奏する人気DJティエストのパフォーマンスを見て衝撃を受け、以降自身でDJやトラックメイキング、楽曲のプロデュースを行う。16歳で大手ダンス・レーベル<スピニン・レコーズ>と契約。2014年3月に米マイアミで開催された世界最大級のダンス・ミュージック・フェスティバル<Ultra Music Festival>では史上最年少の19歳でヘッドライナーを務め、同年9月に日本で初開催されたの世界人気DJランキングで、二年連続1位を獲得。2018年2月、韓国の平昌五輪スタジアムで開催された第23回冬季五輪平昌大会閉会式でパフォーマンスを行い、DJとしてはティエスト、カイゴに続きオリンピックでパフォーマンスした3人目のアーティストとなった。2018年5月に開催された<EDC Japan 2018>に出演し、同フェス2年連続でメイン・ステージに登場。



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