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『ヒットの崩壊』の柴那典が考察。2017年ポップカルチャーの要

『ヒットの崩壊』の柴那典が考察。2017年ポップカルチャーの要

edda
テキスト
柴那典
編集:山元翔一、飯嶋藍子
2017/07/03
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Suchmosと『けものフレンズ』から見える2017年の日本のポップカルチャー

Suchmosと『けものフレンズ』を対比させることから、今の日本のポップカルチャーを巡る状況が見えてくるのではないだろうか。そんな考えがふと頭をよぎった。

もちろん、関連性は全くない。一方はバンドで、一方はアニメだ。わかりやすい共通点は、共に2017年の上半期を代表するヒット作だというくらい。そんなテーマで無理やり括るには乱暴にすぎる。でも、Suchmosのアルバム『THE KIDS』、特にリード曲となった“A.G.I.T.”と、『けものフレンズ』の主題歌“ようこそジャパリパークへ”を繰り返し聴いていると、徐々に浮かび上がってくるものがある。

Suchmosが指し示す「今、ここ」という場所

いろんな点で全く違う曲なのだけれど、実はこの2曲には共通点がある。それは、ともに「場所」をモチーフにしているということ。

“A.G.I.T.”は「アジト」のことだ。洗練された音楽性のイメージが強いSuchmosだが、その芯の部分には反骨精神がある。Nirvanaに衝撃を受けた思春期を過ごし、生き様やファッションまで含めて今の時代のロックスターを体現しようと本気の思いを貫いてきたボーカリストYONCEが、そういうバンドのスタンスを引っ張っている。

そして彼らが強く打ち出しているのが、地元の横浜や茅ヶ崎という土地、そしてそこで連れ立って育った仲間同士の関係性だ。“A.G.I.T.”=「アジト」というのもその象徴となる言葉だろう。

つまり、Suchmosは“A.G.I.T.”で「今、ここ」という場所を指し示していると言える。

『けものフレンズ』の世界から見える「ここではない、どこか」

一方、“ようこそジャパリパークへ”は、タイトル通り『けものフレンズ』の舞台・ジャパリパークをモチーフにした曲だ。そこで迷子になった少女「かばん」が、サーバルキャットの「サーバル」など、神秘の物質の力で動物が擬人化した「アニマルガール」たちと冒険を繰り広げるというのが物語のあらすじである。

大石昌良が作詞作曲を手掛けた主題歌は、Bメロの<けものは居ても のけものは居ない>という一節がキーフレーズになっている。アニメでも、それぞれの種族の特徴を持った多様なキャラクターたちがそれぞれの違いをゆるく認め合って協力しあう「優しい世界」の様子が描かれる。つまり、『けものフレンズ』という作品の芯の部分には博愛主義が根付いていて、この曲はその象徴とも言えるわけだ。

そして、公式サイトによると、ジャパリパークとは「この世界のどこかにつくられた超巨大総合動物園」。キャラクターの愛らしさだけでなく、その背後にあるどこか人類滅亡後の廃墟に生まれたユートピアを匂わせるような謎めいた世界の描写も、この作品の魅力のひとつとなっている。

つまり“ようこそジャパリパークへ”が指し示す場所は、「ここではない、どこか」ということになる。

Yogee New WavesからKOHHまで。現在進行形でセンスを培いながらリアルを歌う「今、ここ」の音楽

「今、ここ」と「ここではない、どこか」。

ふたつの曲が指し示す「場所」を巡るその対称性は、Suchmosと『けものフレンズ』だけでなく、さまざまなカルチャーに表れている。いい / 悪い、好き / 嫌いではなく、そのどちらを志向しているかという観点で、いろんな作品を分けることができる。ざっくり言えば「リアル」と「ファンタジー」。「説得力」と「想像力」。そのどちらに立脚し、どちらを描こうとしているかという違いだ。

2017年の日本の音楽シーンを見渡して目に入るいろんな動きも、その視点から語ることができる。

たとえば、Yogee New Wavesが5月にリリースしたアルバム『WAVES』も、2017年上半期の音楽シーンを代表すると言っていいだろう。「都会におけるPOPの進化」をテーマに活動してきた彼らが鳴らすのはメロウでドリーミーなポップソングだが、その視点はあくまで「東京という街」に根付いている。Suchmosもそうだが、彼らやcero、never young beach、WONKなどのバンドは、ジャンルや音楽性というよりも、その視点とセンスを共有して繋がり合っているような感じがしている。

ヒップホップも、基本的には「今、ここ」の表現だ。ラッパーは生まれ育った街をレペゼンし、目の前の現実をもとにリリックを綴る。そういうタイプの音楽が支持を広げている。一昨年から続く番組『フリースタイルダンジョン』の人気は一般層まで広がってきたが、シーンの中にいる人間は全員「フリースタイルだけがヒップホップじゃない」ということを自覚しているし、単なるブームとしてMCバトルが消費されてしまうことの危惧を共有している。そういう意味では、SKY-HIからKOHH、ゆるふわギャングまで多様化が進む今は少しずつシーンの底上げと拡大が続いている状況と言える。

amazarashiを始めとする「ここではない、どこか」の夢想の音楽

一方、バンドやシンガーソングライターのシーンにおいては「ここではない、どこか」を夢想する想像力を働かせるようなアーティストの表現も変わらず支持を集めている。初のベスト盤『メッセージボトル』を今年3月にリリースしたamazarashiが代表的だが、期待すべきニューカマーも登場してきている。

たとえば、5月にファーストアルバム『ミカヅキの航海』をリリースした酸欠少女さユり。RADWIMPSの野田洋次郎が楽曲提供した“フラレガイガール”や、アニメ / ドラマ『クズの本懐』主題歌となった“平行線”などで知名度を高めてきた彼女の曲は、その名の通り思春期特有の息苦しさをベースに持っている。アルバムのリード曲“birthday song”はその象徴だ。

また、今年に入って大きく支持を拡大しているのが、「神様、僕は気づいてしまった」(以下「神僕」)。メンバーの名前以外のプロフィールはほぼ不明。匿名性を保つためにメンバー全員覆面をかぶり素顔を見せないことを貫いている4人組のバンドだ。2016年11月に始動したバンドは、ドラマ『あなたのことはそれほど』主題歌に起用されたメジャーデビューシングル“CQCQ”が5月にリリースされ、一躍ブレイクの途上にある。

思春期的な心理とファンタジーが交差するeddaの表現

5月にシングル『半魚人』を地元福岡限定でリリースした女性シンガーeddaも期待を集める存在だ。やわらかく儚い歌声の持ち主である彼女も、「ここではない、どこか」を夢想する表現を繰り広げている。

<ここから連れ出してよ 早く><エラ呼吸じゃもう 苦しいの>という歌詞の言葉が印象的なこの曲には、悲哀に満ちたマーメイドの思いが描かれている。

初の全国流通盤となるミニアルバム『さんかく扉のむこうがわ』を7月19日にリリースすることを発表した彼女は、同作の1曲目に収録される“不老不死”のPVを先日公開した。

<私というバケモノが 生まれ落ち>というフレーズが耳をつかむこの曲は、不老不死の主人公から見える世界と、死による安らぎを願う思いを歌った一曲。PVではドールファッションモデルの橋本ルルが起用され、耽美的な色彩感の映像もあいまってダークファンタジーな楽曲の世界観を彩っている。

さユりや神僕やeddaに共通するのは、目の前の現実と違う異世界への憧れを描く表現が、どこか思春期的な内面性と結びついていること。周囲との関係性によってセンスを培うのではなく、自分の内奥に潜り込むことで想像力を駆動する。そういう10代を過ごしてきた記憶と経験が、作品の根っこにある。簡単に言えば、それが「内省的」ということなのだと思う。

「今、ここ」というリアルに立脚した説得力によって駆動される表現と、「ここではない、どこか」というファンタジーを夢みる想像力によって突き動かされる表現。

2017年上半期、そしてここ数年の音楽シーンの動きを振り返って見えてくるのは、そういう象徴的な対比なのではないかと思っている。

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リリース情報

edda『さんかく扉のむこうがわ』
edda
『さんかく扉のむこうがわ』(CD)

2017年7月19日(水)発売
価格:1,620円(税込)
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1. 不老不死
2. 半魚人
3. エッセンシャルパレード
4. ベルベット
5. はちゃめちゃアイランド

プロフィール

edda
edda(えっだ)

1992年、福岡県出身。音楽塾ヴォイスにて軸となる音楽性を形成。世の中に埋もれているあらゆる感情や声達を人々に伝えたいという想いから、「物語を語り継ぐ」という意味を持つ言葉「edda(エッダ)」をアーティスト名に2017年より活動を開始。音楽による表現だけに留まらず、イラストやジオラマなどを創作することで、独自の世界観を追求。5月31日に地元・福岡限定となるシングル『半魚人』を自主レーベル・Erzahler RECORDSよりリリース。

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