コラム

10月15日、今年の『New York Film Festival』(以下、『NYFF』)が幕を閉じた。『トロント国際映画祭』や『サンダンス映画祭』よりも長い歴史を持ち、今年で55回目の開催となった同映画祭。昨年の主要25作品からは『ムーンライト』や『パターソン』、『20センチュリー・ウーマン』『マンチェスター・バイ・ザ・シー』ほか、10作以上が日本でも劇場公開されるなど、のちのオスカー候補作はもちろん、未来の注目作を見つけるのに毎年うってつけの機会となっている。

オープニングにリチャード・リンクレイター監督の『Last Flag Flying』、センターピースにトッド・ヘインズ監督の『Wonderstruck』、クロージングにウディ・アレン監督の『Wonder Wheel』と、華やかなラインナップが出揃った今年の『NYFF』。すでに日本での公開が決定している作品から、まだまだ知名度の低いダークホースまで、期待作を紹介したいと思う。

『NYFF』のオフィシャルトレイラー。「FILM LIVES HERE」とのメッセージに始まり、今年の上映作品のシーンが鮮やかにつながれている。

JRとアニエス・ヴァルダが監督した『カンヌ』最優秀ドキュメンタリー

今年の『NYFF』の特徴のひとつとして、すでに他の映画祭で上映を終えた作品が数多くラインナップしたという点がある。「メインスレート」と呼ばれる主要作品群の中には今年の『カンヌ国際映画祭』から、パルムドールを受賞した『BPM (Beats Per Minute)/120 battements par minute』、グランプリ受賞の『The Square』、最優秀ドキュメンタリー賞受賞の『Faces Places/Visages villages』が上映された。

『BPM (Beats Per Minute)/120 battements par minute』
『BPM (Beats Per Minute)/120 battements par minute』

中でも映画祭のプレビュー、レビュー記事で名前をよく見かけたのが『Faces Places/Visages villages』。同作はジャック・ドゥミの妻で今年88歳になる映画監督のアニエス・ヴァルダと、34歳のフランス人アーティスト・JRの共同監督作。2人がフランスの田舎を旅しながら、市井の人々と共に作品を作る様を映したロードムービー風のドキュメンタリーだ。ニューヨーク・タイムズは1966年の『NYFF』におけるヴァルダの発言(「映画においてはあらゆることが可能です」)を引用しつつ、同作についてこのように評価した。

89歳のヴァルダが帰ってきた。『NYFF』と同じように、アートとしての映画へのほとんど神聖な信念を維持した『Faces Places』という作品と共に。

同作は2018年にアップリンクの配給で公開予定。

『Faces Places/Visages villages』
『Faces Places/Visages villages』

男性同士の愛を描く今年1番の注目株『Call Me by Your Name』

今回、筆者が『NYFF』についてリサーチする中で最も多く目にした作品名がある。『Call Me by Your Name』である。

『Call Me by Your Name』

『ミラノ、愛に生きる』のルカ・グァダニーノ監督による同作は1988年のイタリアを舞台にした映画。17歳の青年・エリオが親の仕事の都合で訪れた避暑地で、彼の父親のアシスタントであるアメリカの学者・オリヴァーと出会い、恋に落ちていくというあらすじだ。今年1月に開催された『サンダンス映画祭』では「Heartbreaker」と称されたり、オスカー前哨戦と名高い『トロント国際映画祭』では観客賞3位を受賞したりと、現在世界の映画界を席巻中。『NYFF』や同時期に開催された『London Film Festival』でも評判をあつめ、作品への評価を確たるものにした。

『NYFF』で開催されたディスカッションの様子。キャスト・監督が登壇し、和やかな雰囲気だ。

10月19日には、ニューヨークで開催される自主映画の祭典『ゴッサムインディペンデント映画賞』作品賞へのノミネートも発表され、その勢いは増してゆくばかり。10月16日にアップされたVANITY FAIRの記事には「オスカーへの全ての道は開けているよ、ベイビー!」と威勢よく記された。

米国での上映権はソニー・ピクチャーズ・クラシックスが獲得しており、11月24日からの劇場公開が決定済み。なお、グァダニーノ監督は現在、同作の続編製作にも意欲をみせている。日本も熱狂の渦に早く巻き込まれたいところだ。

『Call Me by Your Name』予告編。スフィアン・スティーヴンスの楽曲が使用されている。

Netflixが超高額で権利購入。『ゲット・アウト』ブラムも大ファンの黒人女性監督作

『Call Me by Your Name』と同じく、今年の『サンダンス』で高評価を得た作品がもうひとつ『NYFF』にラインナップしている。『Mudbound』だ。

『Mudbound』

こちらは黒人女性監督、ディー・リースによる作品。第二次世界大戦後にミシシッピの田舎町に戻った2人の男性が、農場で働きながら、戦争のトラウマや人種差別などの困難に立ち向かう姿を描いている。1,250万ドルという超高額でNetflixが権利を購入している点からもその注目度が窺える同作。(今年の『サンダンス』後、Netflixが購入した作品の金額は300万ドル~800万ドル程度。)日本でも11月17日から『マッドバウンド 哀しき友情』の邦題で配信が開始する。

『Mudbound』予告編

同性愛者であることを公言しているディー・リースは、『ゲット・アウト』の製作を務めたジェイソン・ブラムと共に、黒人レズビアンカップルが主人公のホラー映画を製作中。リースの大ファンだというブラムは『サンダンス』での『Mudbound』上映時、涙を浮かべながらその想いを伝えたのだという。日本でも彼女がスターになる日は近い。

女優グレタ・ガーウィグによる初監督作『Lady Bird』も大好評

一方で、日本ではブレイク前夜のリースと対照的に、すでに知名度のある一人の女性が『NYFF』で初監督作を上映したことにも注目したい。グレタ・ガーウィグによる『Lady Bird』である。

『Lady Bird』

ノア・バームバック監督の『フランシス・ハ』やマイク・ミルズ監督の『20センチュリー・ウーマン』では女優としてスポットライトを浴びたグレタ・ガーウィグ。彼女が初めての監督作で描くのは、自身の故郷・サクラメントの物語だ。

「カリフォルニアの快楽主義について語る人は誰も、サクラメントでクリスマスを過ごしたことはありません」という引用文から幕を開ける同作の主人公は、カトリック系の高校に通い、ニューヨークなど、東海岸への進学を夢みる17歳。そんな主人公・通称「Lady Bird」を、『ブルックリン』のシアーシャ・ローナンが演じるほか、『Call Me by Your Name』で主演を務めたティモシー・シャラメも同作に出演している。

『NYFF』での上映後にはVillage VoiceのライターにSNS上で「めちゃくちゃ良い。度肝を抜かれた」と絶賛されたり、「『Lady Bird』へのスタンディングオべーションは続く」と称された記事(VANITY FAIR)がアップされたりと反響を呼んだ。海外サイトではガーウィグが演者にエリック・ロメールの映画を鑑賞するよう勧めたり、セットに自らでプレイリストを用意して臨んでいたりしたことも明かされている。

『Lady Bird』予告編

不倫相手のキム・ミニと共に絶賛を受けたホン・サンスの2作

今回の『NYFF』では、アジアの監督による作品群も選出。日本からは『散歩する侵略者』の黒沢清監督、韓国からはホン・サンスが2つの新作を出品した。

エリック・ロメールやジャン=リュック・ゴダール、ルイス・ブニュエルやフランソワ・トリュフォーを引き合いに出されるなど、映画ファンの心をがっちり掴んでいるホン・サンス。Netflixで過去作の配信が始まり、日本での知名度も高まっている。

『On the Beach at Night Alone』

今回ニューヨークで上映されたのは、2016年製作の『On the Beach at Night Alone』と、今年の『カンヌ国際映画祭』でコンペティション部門に出品された2017年製作の『The Day After』。

ホン・サンスとの不倫関係でも知られるキム・ミニが両作に出演しており、今年2月の『ベルリン国際映画祭』では、『On the Beach at Night Alone』で韓国人初の女優賞を受賞。『NYFF』のレビューでは「キム・ミニはジョン・カサヴェテスの映画におけるジーナ・ローランズを思い出させる(The New Yorker)」と、またしても名監督を引き合いに出されながらの絶賛を受けた。

『NYFF』のディレクターズトークに出演したホン・サンス。

なお、今年の『カンヌ』でホン・サンスは、イザベル・ユペールとキム・ミニが出演する2017年製作の映画『La Caméra de Claire』も発表している。

待ちきれないあなたへ 今すぐ観られる『NYFF』関連作

ここまで『NYFF』のラインナップから、上映が待ち望まれる作品ばかりを紹介してきたが、すぐに日本で観られる作品もある。「バームバックが不幸な場所へ帰ってきた(The Forward)」など、興味深いレビューを得たノア・バームバックの新作『マイヤーウィッツ家の人々(改訂版)』が10月13日からNetflixで配信中。また同映画祭の関連作、例えば『The Florida Project』が好評を得たショーン・ベイカーによる過去作『タンジェリン』もNetflixで配信されている。『Mudbound』の監督、ディー・リースによる半自伝的作品『Pariah』はTSUTAYAの動画サイト・TSUTAYA DISCASにて『アリーケの詩』の邦題で配信中だ。注目作の日本公開に待ちくたびれている方は、この機会に予習・復習の時間を設けてみてはいかがだろう。

『The Florida Project』。『Call Me By Your Name』と共に『ゴッサムインディペンデント映画賞』作品賞にノミネートされている。
『The Florida Project』。『Call Me By Your Name』と共に『ゴッサムインディペンデント映画賞』作品賞にノミネートされている。

いよいよオスカー候補作が出揃ってきた秋シーズン。今年、映画界からの祝福を受けるのはどの作品だろうか?

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