コラム

プロテストアートからミームまで、SNS時代の「政治とグラフィック」を検証

プロテストアートからミームまで、SNS時代の「政治とグラフィック」を検証

テキスト
後藤美波(CINRA.NET編集部)

(メイン画像:2017年ロサンゼルスのウィメンズ・マーチの様子 Women's March Los Angeles 2017, credit Lindsey Lawrence)

スクリーンを飛び出したスリー・ビルボード

『第90回アカデミー賞』で主演女優賞、助演男優賞を受賞した映画『スリー・ビルボード』は、最愛の娘が無残に殺された事件の捜査に進展がないことに憤った母親が、警察に抗議するために町はずれの道路に3枚の巨大な広告看板を設置する、というのが物語の始まりだった。

赤地に黒い文字で「レイプされて死んだ」「逮捕はまだ?」「ウィロビー署長、どういうこと?」と記された3枚の看板。これがきっかけとなって思いもよらない事態に発展していくというあらすじだ。

今年2月、これを模した3枚の看板がロンドンに登場した。3台のトラックに掲示された赤い看板には「71人が死亡」「逮捕はまだ?」「どういうこと?」と書かれている。

これはイギリス国内で第2次世界大戦後、火災では最悪の死者数を出したロンドンの公営住宅グレンフェル・タワーの火災への警察や政府の対応を批判するもの。看板を載せたトラックは国会議事堂やセント・ポール大聖堂などの前を通過しながらロンドン市内を巡った。

今年2月には高校での乱射事件で17人の犠牲者を出したアメリカ・フロリダ州で、全米ライフル協会(NRA)から献金を受け取っているマルコ・ルビオ上院議員を糾弾する3枚の赤い看板が登場。「学校で虐殺された」「銃規制はまだ?」「マルコ・ルビオ、どういうこと?」と記されている。

これらの看板はどちらもアクティビスト団体らによって設置され、海外の主要メディアでこぞって取り上げられるなど注目を集め、街で看板を見かけた人々がSNSにアップすることでさらに拡散された。

映画の世界だけでなく、こうしたグラフィックのイメージは、視覚言語として見る者にメッセージを力強く訴え、議論を喚起する手段となる。

SNS時代、政治的なグラフィックイメージの伝播の仕方にも変化

古くから市民運動や政治運動には、メッセージをアピールする媒体としてプラカードやポスターなど、様々なグラフィックが取り入られてきた。それは近年の「ウォール街を占拠せよ」運動やドナルド・トランプとヒラリー・クリントンが争った米大統領選、ワシントンD.C.に50万人もの人々が集った2017年の「ウィメンズ・マーチ」、そして日本の首相官邸前・国会議事堂前での抗議デモにも通じることだが、インターネットやSNSでの情報発信が当たり前になった現代は、そのイメージの使われ方や伝播の仕方もさらに変化している。日本でも官邸前や国会前で大規模なデモが行なわれる時にグラフィックデザイナーらが自作のプラカードをネットプリントで配布する、というのは今ではよく目にする光景だ。

2017年ワシントンD.C.のウィメンズ・マーチで掲げられた様々なプラカード Women's march Washington DC January 2017, credit Chris Wiliams Zoeica Images
2017年ワシントンD.C.のウィメンズ・マーチで掲げられた様々なプラカード Women's march Washington DC January 2017, credit Chris Wiliams Zoeica Images

Pニュージランドの首都ウェリントンでのウィメンズ・マーチの様子Women's March, Wellington, NZ, credit Andy McArthur
ニュージランドの首都ウェリントンでのウィメンズ・マーチの様子Women's March, Wellington, NZ, credit Andy McArthur

こうした社会情勢が動乱の時代にある現代におけるグラフィックと政治の関わりを探る展覧会が、3月28日からイギリス・ロンドンのデザインミュージアムで開催される。

ここ10年間の「政治とグラフィック」を検証する『Hope to Nope』展

『Hope to Nope: Graphics and Politics 2008-18』と題されたこの展覧会では、リーマンショックの起きた2008年から2018年までの10年間にフォーカス。オバマ政権やアラブの春、「オキュパイ」運動、メキシコ湾原油流出事故、シャルリー・エブド襲撃事件、ブレグジット、トランプ政権といった事象を例に、グラフィックデザインが人々の意見の形成や議論喚起、アクティビズムの推進において果たしてきた役割を検証する。

イギリスのEU離脱を問う国民投票で、残留を訴えるグラフィック Remain campaign, credit Britain Stronger In Europe
イギリスのEU離脱を問う国民投票で、残留を訴えるグラフィック Remain campaign, credit Britain Stronger In Europe

「ウォール街を占拠せよ」運動の様子、「We are the 99%」は運動のスローガンとなった Occupy Wall Street, credit Jason Lester
「ウォール街を占拠せよ」運動の様子、「We are the 99%」は運動のスローガンとなった Occupy Wall Street, credit Jason Lester

また同時にFacebookやTwitterといったSNSの普及がおよぼす作用についても考察。ハッシュタグやミーム(meme)は、政治的なメッセージを持つグラフィックの生まれ方や波及の仕方に対して今や無視できない影響力を持っている。オバマの時代からトランプの時代まで、テクノロジーとグラフィックデザインが、権力者および社会的に無視されてきた人たちの武器となってどのように行使されてきたのかを探るのが、この展覧会の目的だ。

展覧会タイトルの『Hope to Nope』は、2008年の米大統領選時にオバマを支持するストリートアーティストの「OBEY」ことシェパード・フェアリーが、オバマの肖像と「HOPE」の字を描いて自主的に制作し、後に公式イメージに採用されたビジュアルと、2016年の米大統領選時にこのビジュアルをパロディーしてトランプの肖像と「NOPE」の字を描いて作られた反トランプのイメージを表している。

「国際女性デー」で掲げられた反トランプのプラカード International Women's Day credit Steve Rapport
「国際女性デー」で掲げられた反トランプのプラカード International Women's Day credit Steve Rapport

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イベント情報

『Hope to Nope: Graphics and Politics 2008-18』

2018年3月28日(水)~8月12日(日)
会場:イギリス ロンドン デザインミュージアム

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