コラム

『マッドマックス 怒りのデス・ロード』 時代を先取りした画期的作品

『マッドマックス 怒りのデス・ロード』 時代を先取りした画期的作品

テキスト
小野寺系
編集:後藤美波(CINRA.NET編集部)

女性たちの「逃走」は、やがて「闘争」に反転する

女性たちが逃走する姿は、本作公開の2年前、大ヒットしたディズニーアニメーション『アナと雪の女王』(2013年)を代表するシーンにも似ている。女王エルサは、自分に課された重圧や責任から逃れ、自分らしく生きようと“Let It Go(なるようになれ)”と歌いながら雪山へ一人登ってゆく。これが、とくに女性の大きな支持を受けたのは、「与えられた役割から解放されてどこかへ行ってしまいたい」という願望を、ひとときだけ叶えてくれるという爆発的なカタルシスがあるためではないか。

一時期、日本のSNSにおいて、「女性だけの街があったらいいのに」というつぶやきが反響を呼んだこともあった。もし女性しか住んでいなければ、痴漢にも遭わないし、夜道を警戒しなくても済むし、差別的な出来事や格差をこれ以上味わわなくていいというのである。もちろん、これは現実的には難しい話だが、社会における女性の生きづらさを端的に表す言葉だとして、多くの女性の共感を集めた。それは、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』における女たちの逃走に、非常に近い状況といえよう。このつぶやきに対して、男性と見られる大勢のアカウントの猛反発があったことも含めてである。

『マッドマックス 怒りのデス・ロード』 ©2015 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』 ©2015 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED

本作は、男くさいテイストを逆に利用することで、女性に襲いかかる現実を、生々しさをもって表現することに成功している。そして、その「逃走」は、劇中で「闘争」へと反転する。このダイナミックな考え方の変化が、そのまま大地を行くトレーラーの姿となって大迫力の映像で表現されるのだ。

ミラー監督は、本作の女性描写について、フェミニズムを扱う劇作家イヴ・エンスラーの助言を得ているという。一部の人々から、とかく「自由な表現を萎縮させる」と目の敵にされるフェミニズムやポリティカルコレクトネスだが、本作ではそれらが機能した結果、現実とのつながりが強固になることで、とてつもなく面白いものになっていることがわかるはずだ。

シャーリーズ・セロンが体現したフュリオサの戦う姿と苦悩。マックスは戦いに「肩を貸す」キャラクターに

地位を捨て、命をかけて女たちを救おうとするフュリオサを演じたのは、スター俳優シャーリーズ・セロン。国際的なモデルとして活躍するような美貌を誇りながら、役によって体重をコントロールし、映画によって見た目が大きく変わることもある。本作では、短髪で片腕が無く、頭部の半分を黒くペイントするというワイルドな容貌で、マックスと同様にアクションをこなす姿が印象的だ。それは、過酷な環境のなかで戦い抜く女性の姿を体現するものだ。

セロンはジェンダー問題にも関心が高く、近年、『タリーと私の秘密の時間』(2018年)、『スキャンダル』(2019年)、そして『オールド・ガード』(2020年)など、自身がプロデュースを務める主演作で、女性の生きづらさについての問題を扱っている。そんな彼女だからこそ、性別にとらわれない姿を見せながら、同時に女性としての苦悩を見事に表現するというはなれ業を達成し得たのではないだろうか。

『マッドマックス 怒りのデス・ロード』 ©2015 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』 ©2015 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED

そして、フュリオサの存在感にやや圧倒されているのが、『ダークナイト ライジング』『ヴェノム』のトム・ハーディ演じる、本作のマックスだ。マックスは、自分が逃げるためにフュリオサたちを利用するが、ニコラス・ホルト演じるウォーボーイのニュークスとともに、次第に彼女たちの戦いに積極的に加勢するようになっていく。

かつてメル・ギブソンが演じたマックスは、2作目、3作目となるに従って、伝説のヒーローそのものへと近づいていった。ギブソンはのちに映画監督となり、男性ヒーローという題材を、自身の作品で描き続けるようになっていく。その一方でギブソンは、DV疑惑や人種差別発言などを理由に、俳優としてハリウッドで活動するのが難しい状況にも追い込まれている。このような出来事は、本作の生まれ変わったマックス像に小さくない影響を及ぼしているはずである。

『マッドマックス 怒りのデス・ロード』 ©2015 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』 ©2015 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED

現代的な女性の苦難を描く本作において、男性ヒーローが女性たちを救うような英雄物語というのは、果たして成立するだろうか。その伝説はいつか、イモータン・ジョーのように汚れてしまうのではないか。本作のマックスは、先頭に立って伝説になるような男ではない。フュリオサの射撃のため、かがんで肩を貸すという本作の一場面が象徴するように、彼はただ彼女の戦いをサポートし、恋愛や地位なども望まず、去っていく存在なのだ。

本作は、やはり男の映画でもある。現代における「真の男」。それは、本作のマックスのように、何の見返りも期待せず、女性の戦いに肩を貸せる男なのではないだろうか。

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作品情報

『マッドマックス 怒りのデス・ロード』

2020年9月12日(土)21:00~フジテレビ系で放送
監督:ジョージ・ミラー
脚本:ジョージ・ミラー、ブレンダン・マッカーシー、ニコ・ラソウリス
出演:
トム・ハーディ
シャーリーズ・セロン
ニコラス・ホルト
ヒュー・キース=バーン
ロージー・ハンティントン=ホワイトリー
ライリー・キーオ
アビー・リー
コートニー・イートン
ネイサン・ジョーンズ
ゾーイ・クラビッツ

リリース情報

『マッドマックス 怒りのデス・ロード』
『マッドマックス 怒りのデス・ロード』

ダウンロード販売中、デジタルレンタル中
Blu-ray2,619円(税込)
DVD1,571円(税込)
ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
©2015 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED

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