古川日出男×後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)対談

古川日出男×後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)対談(前編)

古川日出男×後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION) 対談(前編)

古川日出男×後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION) 対談(前編)

インタビュー・テキスト:金子厚武 撮影:田中一人

ここからは小説でも音楽でもフィクションの重要性を掴み直す時代が来るって直感があった。(後藤)

『南無ロックンロール二十一部経』
『南無ロックンロール二十一部経』

後藤:震災以降ドキュメンタリー作品がたくさん世の中に出ましたけど、震災から1年半ぐらい経ったときに、そろそろフィクションがドキュメントを超えないと更新されていかないというか、ここからは小説でも音楽でもフィクションの重要性を掴み直す時代が来るって直感があったんです。

古川:フィクションっていうのは、小説で言うと想像する力だと思うんですよ。結局2011年以降って、みんな想像力を悪い方に使っちゃって、すごくきつくなってたんだけど、今度は想像力をいい風に、楽しい風に使うことによって、初めて輝かしい方向に船を漕いでいけるのかなって。

後藤:だから、どう「言い換える」かってことだと思うんですよ。『南無』の中でもずっと出てきますけど。

―「パラフレーズ」という言葉が頻繁に登場しますよね。

後藤:そう、悲惨な状況にただ抗うだけでは響かなくて、そこにはパラフレーズが必要で。もっと的確な例え話に言い換えることで、スパンと別の意識やイメージを脳に挿入してあげないと、情報が満ち溢れて視点が数多く存在する時代の中では埋もれてしまうんだと思います。だから、100冊のドキュメントを読むより、1冊の小説の方が何かを刷新する力や可能性があるんじゃないかって気がするんですよね。例えば、エルヴィス・プレスリーがロックンロールで世界を変えたように、たった1曲、たった1節のメロディーが、誰かの意識をガラっと変えることがあるかもしれない。

古川日出男×後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION) 対談(前編)

古川:震災の後、後藤さんは「音楽に何ができるのか」って言われたと思うし、文学の方でも「文学で何ができるのか」って言われて。僕は、直接社会を変えるなんておこがましいことはできないけど、でも、読者の意識だったら変えられる。結局、そうやって一人ひとりが変わることで、最終的に社会が変っていくんだと思いますね。「どっちに行け」とは言わないけれども、まっとうにノイズリダクションできるフィルターを与えることで、自分で判断できるようになる。それが音楽とか小説の役目なのかなって気がするんですよね。

 

震災が起きた2011年にオウムの逃亡犯が自首してきたっていうのがすごく象徴的で、「オウムは終わってない」ってようやくみんなが気がついたんですよね。(古川)

後藤:今もう一回『聖家族』(古川が2008年に発表した大作小説)を読み返したいんです。というのも最近、東北の民話を読み始めて気がついたんですけど、古川さんの小説の中にもいっぱい挿入されていて。古川さんはたぶん、まったく無意識にあれだけの大きな物語を作ったんだと思うんですけど、震災の何年も前にどうしてあんな丸ごと東北の小説を書いたんだろうって思うと、今となってはちょっと恐ろしいなって。

古川:今の民話の話はすごく大事で、民話ってその共同体のむき出しの想像力じゃないですか? 時代を経て、その一番コアな部分だけが残ったものだから、歴史そのものより民話って重要な気がしますよ。震災前に東北6県のあれだけ分厚い小説を書いたのは、自分でも予言的な行動だなって思いますけど、そういうことってあるんですよね。後藤さんだって、震災が起きて一気に動いたと思われているかもしれないけど、“転がる岩、君に朝が降る”(2008年発表)とか“新世紀のラブソング”(2009年発表)とかは、動くための準備をしてたような気がします。

後藤:そうなんですよね。例えば、僕は震災の3日か4日前ぐらいに、山口県にある原子力発電所の建設予定地を見に行ってるんです。震災直前のツアーでも、せっせと六ヶ所村や軍艦島、辺野古にも行ったりして、自分たちがどこかに押し付けているエネルギーや基地の問題と自分との距離を考えていたときに、東日本大震災が起きたんです。その前にも、僕らの世代ってどうしてこんなに「ロスト」って言われ続けなきゃいけないんだろう、社会の構造に問題があるのに、誰も怒らないのはなぜだろうという歌を作ったりもしました。どうしても震災がひとつの大きなモニュメントになってしまいますが、問題がただ露わになっただけなんだなと思います。

古川:だからある意味で震災は、いいきっかけだったんですよね。あれがなかったら、我々は無理に問題に触れようとはしなかっただろうし、一旦直視して、その上でみんなそれぞれの行動を考えなくちゃいけないってことになった。あれはひどいことだし、悲しいことだし、許しがたいことだけど、全面的に否定すべきことではない。喜ばしいことではまったくないけど、肯定すべきところもあると捉えれば、身をすくませなくても済むなって、2年以上経ってみれば思いますね。

古川日出男×後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION) 対談(前編)

後藤:『南無』を読んでもう一度突きつけられるものがあって、特に最後の章は本当にドキドキしたっていうか、もう「わななく」っていうか、恐怖にも近いものがありました。あれは古川さんとして書かれてますけど、「これはもしかしたら僕かもしれない」っていう恐怖を感じながら読みました。自分の歌にもありますけど、新世紀ってまだ全然実感としてないというか、ずっと同じところにいる感覚なんです。

古川:時間的な事実としてミレニアムを迎えただけっていうね。せっかく旧世紀から新世紀になれるチャンスだったのに、自分らの意識としての新世紀を開幕させてなかったわけです。でも、“マシンガンと形容詞”(『ランドマーク』収録)の歌詞もそうですけど、僕らぐらいですよ、今頃「21世紀そろそろ開けます」って言ってるの(笑)。

後藤:20世紀のエンジンはもう止まっているのに、まだ慣性の法則で車輪は動いていて、減速しながらもかろうじて前に進んでる。それを見てみんな、20世紀のエンジンがまだ健在だと信じているんですよね。別のエンジンが絶対必要なのに。『南無』からは「20世紀をもう一度ちゃんと終わらせよう」っていうエネルギーが伝わってきて、その問題をもう一度目の前に突き付けられました。直接的に言えば、『南無』が題材にしている「オウムって何だったんだ」っていうのも、結局何もなかったことにされようとしていて、たった一人の狂気によってめちゃくちゃなことが起きたってストーリーで社会は片付けたい。

古川:でも、本当はそうじゃないですよね。それこそ民話みたいなもので、あの時代の日本人という共同体の中の無意識に、何か問題があったからもたらされたグロテスクなストーリーだと思うんですよ。そこをみんな無視してしまっている。でも、震災が起きた2011年の12月31日にオウムの逃亡犯の一人が自首してきたっていうのがすごく象徴的で、あっという間に翌年6月に菊地直子も捕まって、やっぱり「オウムは終わってない」ってようやくみんなが気がついたんですよね。オウムに関しては、後藤さんたちより自分の世代の方が責任というか、共犯感覚がありますよ。だから、それをフィクションというより、パーソナルなところまで落とし込んで、むき出しにやらないとダメだなって。自分もわななくくらい、書きながら気が狂うかもしれないところまでいけば、落とし前をつけるための扉を開けるかもしれないという気がしたんですよね。

『古川日出男 × 後藤正文 トーク&ライブセッション』

CINRA.STOREで『南無ロックンロール二十一部経』をご購入いただいた方を抽選で『古川日出男 × 後藤正文 トーク&ライブセッション』にご招待致します。

2013年7月21日(日)17:30スタート予定
会場:東京都 青山 某所
定員:100名(当選者のみ入場可、座席有・自由席)
料金:入場無料(2ドリンク制)
※ご入場時にドリンク代(1,000円)をいただきます

応募に関する詳細はコチラまで

古川日出男『南無ロックンロール二十一部経』
古川日出男
『南無ロックンロール二十一部経』

2013年5月15日発売
価格:2,520円(税込)
単行本:576ページ
出版社:河出書房新社
サイズ:46版(単行本)

『南無ロックンロール二十一部経』刊行記念『古川日出男×柴田元幸トークショー』

2013年5月16日(木)OPEN 18:00 / START 18:30
会場:東京都 東京堂神田神保町店6階東京堂ホール

イベントの詳細はコチラまで

古川日出男『南無ロックンロール二十一部経』
ASIAN KUNG-FU GENERATION
『ランドマーク』通常盤(CD)

2012年9月12日発売
価格:3,059円(税込)
KSCL-2122

1. All right part2
2. N2
3. 1.2.3.4.5.6. Baby
4. AとZ
5. 大洋航路
6. バイシクルレース
7. それでは、また明日
8. 1980
9. マシンガンと形容詞
10. レールロード
11. 踵で愛を打ち鳴らせ
12. アネモネの咲く春に

V.A.
『ASIAN KUNG-FU GENERATION presents NANO-MUGEN COMPILATION 2013』(CD)

2013年6月5日発売
価格:2,520円(税込)
KSCL-2246

Gotch『The Long Goodbye』
Gotch
『The Long Goodbye』(アナログ7inch)

2013年4月20日発売
価格:1,000円(税込)
ODEP-003

1. The Long Goodbye
2. The Long Goodbye (P's O-parts Remix)Remixed by PUNPEE
※ダウンロードコード付き

The Long Goodbye / 後藤正文 | only in dreams

『ASIAN KUNG-FU GENERATION presents NANO-MUGEN CIRCUIT 2013』

2013年6月14日(金)OPEN 17:30 / START 18:30
会場:京都府 京都 KBS ホール

2013年6月15日(土)OPEN 17:30 / START 18:30
会場:京都府 京都 KBS ホール

2013年6月17日(月)OPEN 17:30 / START 18:30
会場:愛媛県 松山市総合コミュニティセンター

2013年6月19日(水)OPEN 17:30 / START 18:30
会場:熊本県 熊本 DRUM Be-9 V1

2013年6月24日(月)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:新潟県 新潟 LOTS

2013年6月26日(水)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:宮城県 仙台 Rensa

2013年6月28日(金)OPEN 17:30 / START 18:30
会場:東京都 水道橋 TOKYO DOME CITY HALL

NANO-MUGEN FES.

ASIAN KUNG-FU GENERATION デビュー10周年記念ライブ『ファン感謝祭』

2013年9月14日(土)OPEN 15:00 / START 17:00
会場:神奈川県 横浜スタジアム

ASIAN KUNG-FU GENERATION デビュー10周年記念ライブ『オールスター感謝祭』

2013年9月15日(日)OPEN 15:00 / START 17:00
会場:神奈川県 横浜スタジアム

10周年記念ライブ開催決定!! 横浜スタジアム 2days | ASIAN KUNG-FU GENERATION



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