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『クリエイターのヒミツ基地』 Volume13 松井龍哉(ロボットデザイナー)

鉄腕アトム、鉄人28号、ドラえもん…子どもたちを熱狂させてきたのは、いつの時代もロボットでした。多くの男の子が憧れるであろう職業・ロボットデザイナーとして第一線で活躍を続け、グッドデザイン賞やiFデザイン賞など数多くの賞を獲得し続けているのが、フラワー・ロボティクス株式会社の代表を務める松井龍哉さんです。では、松井さんはどのようにロボットデザイナーとしての道を切り開いてきたのでしょうか? そのヒミツに迫ります。

テキスト・橋本倫史
撮影:CINRA編集部

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松井龍哉
1969年東京都生まれ。'01年、フラワー・ロボティクス社を設立し、フラワーガールをコンセプトとしたロボット「Posy」や、マネキン型ロボット「Palette」など、オリジナリティ溢れるロボットを数多く手掛け、グッドデザイン賞、iFデザイン賞などを受賞している。

松井龍哉

少年時代の憧れは、大工さん

きっかけは、小学4年生の時に行われた実家の改装工事でした。自分の部屋づくりという大役を任された松井少年は、大工さんから簡単な図面の描きかたを教えてもらい、「設計の真似事」に没頭します。図面を描いて説明すれば、それを大工さんが実現させてくれる―感激した松井少年は、「大工さんになりたい」と夢見るようになりました。

小さい頃から、図画工作が好きな子どもだった松井さん。「僕らの世代はラジコンで遊んだり、ラジオを作ってみたりというのは普通のことでした。ロボットにも小さい頃から興味を持っていて、はじめはロボットを作りたいのなら科学者になればいいと思っていたんですが、科学者に会ったことがなかったのでいまいち実感が湧かなくて。そんな時に出会ったのが大工さんで、この職業ならロボットを作れるかな、と思っていたんです」

そんな松井さんが「デザイナー」という言葉に出会ったのは12歳の時、NHK教育テレビで放送されていた「日曜美術館」という番組がきっかけでした。それからの10年は、美術科のある高校に進学し、大学ではデザイン学科を選択、デザインの知識をインプットする日々を過ごします。卒業後は丹下健三・都市・建築設計研究所に勤め、32歳で独立するまでの10年の間に「社会とデザインの関わりを肌で感じた」と言います。その過程で「22世紀の人が振り返ったときに意味のあるデザインをしたい」と考えるようになった松井さんが辿り着いたのが、ロボットというテーマでした。

マネキン型ロボット「Palette」

21世紀のプロダクトのキーワードは「花」

松井さんが最初にロボットをデザインしたのは、研究所に勤めていた時のこと。その後も何体かのデザインを手掛けていくなかで、松井さんのロボットがニューヨーク近代美術館の特別企画展に出品されるという転機が訪れます。展示されたのは、最適な歩行原理を調べる目的で作られた、機能に重点が置かれた実験用ロボットでした。美術館でその佇まいや雰囲気が受け入れられたという事実を知り、松井さんはロボットデザインというジャンルの新たな可能性を感じたといいます。

そして、手応えをつかんでいた松井さんにこんな考えが浮かびます。「ちょうどその頃、ニューヨークの街角でiMacを見かけたんです。まさに花のような存在感を感じました。その時ふと花って、人間の心にうるおいを与えるとか、本来それが自然界で持つ機能とは別の機能を持っていると気づきました。そしてNYで花を見ているうちに、21世紀のプロダクトは機能一辺倒の発想じゃなくて、『花』がキーワードになるんじゃないかと思ったんですね。それですぐに『フラワー・ロボティクス』という会社名を思いついて、独立を決めただけでなく、その場で会社のドメインまで取ってしまいました」

会社を立ち上げる際、最初にどんなロボットを作るか? 喧々諤々の議論を経て出した結論は、「人を幸せにするロボット」でした。では、人はどんな時に幸せだと感じるのだろう?―その疑問を解明するため、「笑顔のリサーチ」なる調査に出かけた松井さんたちは、教会の結婚式に辿り着きます。実に1カ月(!)ものあいだ見知らぬ人の結婚式に通い続け、見知らぬ人たちの結婚を祝福し続けるなかで松井さんが注目したのは、花をまきながら花嫁を先導する役目を果たす、フラワーガールでした。

「最初は皆、新婦の笑顔に惹かれていたんですが、毎週通っているうちにフラワーガールが気になり始めたんです。フラワーガールが自分の役目を果たしているときに、フラワーガールの母親が見せる笑顔というのが、最高の笑顔に見えた。これくらい自然な笑顔を生み出せるロボットを作りたいと思ったんですね」―こうしてフラワーガールをコンセプトに、フラワー・ロボティクス最初のロボット「Posy」が誕生することになります。

「Posyは今でもスケジュールがいっぱいで、先日もサントリーホールでのお芝居に呼ばれました。Posyが演じたのは、音楽が存在しない惑星からやってきた生命体という役で。Posyがサントリーホールのパイプオルガンの音色に触れて、舞台に登場したときは感無量でした。普段は、実際に使われる現場もイメージしてロボットをデザインするんですが、Posyに関しては特別に何かができるわけじゃない分、僕自身も把握できない広がりかたをしていますね。 ああいう仕事は一生に何度も出来ないんじゃないかと思います」

ロボットが当たり前にある世界をデザインする

フラワー・ロボティクスを起業した松井さんには、ひとつの野望がありました。それまではあくまで研究対象だったロボットを製品化することです。「製品化」―このように文字にすると簡単そうに見えますが、研究と製品化の間には
相当高いハードルがあったそう。

「1台だけ作るんなら、3人か4人で頑張れば何とかなるんですよ。でも、同じ物を100台作るというのは全く次元の違う設計なんです。車を作るのと同じで、何百時間の耐久テストをして、安全基準をクリアし、生産ラインを組み立て販売店に渡していく。そのビジネスモデルを作るのが一番大変でした」

そうした困難が立ちはだかりつつも、フラワー・ロボティクスの歩みとして大きかったのが、「Palette」と名付けられたマネキン型ロボットが、「デザイン界のオスカー賞」と称されるiFデザイン賞をロボットとして初めて受賞したことでした。この賞が与えられるのは、あくまで工業製品。つまり、松井さんが制作したロボットが実験的な作品ではなく、社会に流通している製品として認められたということです。松井さんは受賞した時のことを「明確に時代が変わった瞬間」と振り返っていました。

会社を起業して、今年で10年。次の10年、あるいは20年に向けて、松井さんが目標としているデザインとはいったい何でしょうか?

「パソコンは今や誰でも持ってますけど、それもここ20年ぐらいの話ですよね。ロボットも、今は『ロボットがそこにいることに価値がある』と思われてますけど、どんどん『ロボットがいるのが当たり前』になっていくと思うんです。そうすると、ロボットと一緒に何をするかだとか、そこで生まれてくる新しい価値が大事になってくる。ロボットが当たり前にある世界をデザインしようと思っています」

Posy
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