
vol.235 マジック・ジョーダン(2009/07/21)
突然、平仮名の「ぬ」が書けなくなる。「ね」に似た形だったはずと頭が覚えているものの、どこに線を足せばイイのかとか伸ばせばイイのかとか考えるだけで、本来の「ぬ」はなかなか近づいてこない。「あ」みたいに最初の線って要るっけと、「あ」と「ね」が混ざり合って、これはこれで新しい平仮名かもしれないと、落としどころの無い興奮に襲われていく。
例えば、書き終えた「殺」という字をじっと見ていて、こいつはどうやら4つのブロックに分かれている字のようだけれども、その組み合わせは正しかったのだろうかと疑問に思った途端、その4つを独立させて観察を始めてしまうことがある。「木」が「メ」を支える事の真意、「又」の上のアレは中に「、」を入れて「凡」のほうが何だかヤバイことのように見えるんじゃないか、などなど、「殺」を解体させて、どうすれば「コロす」を具象化させられると考えこむと、現状の「殺」の組み合わせを戻してみても、それは何だか本質を捉えていない気がして、無性に納得がいかなくなるのである。
死んだキング・オブ・ポップはマイケル・ジョーダンなのかマジック・ジャクソンなのかマイケル・ジョンソンなのかマイケル・ジャクソンなのかマジック・ジョーダンなのかマジック・ジョンソンなのか、どうにも分からなくなってしまったのだ。白昼、下高井戸を歩いているときのことだった。この中に正解はあるだろうし、バスケ選手と陸上選手が紛れ込んでいることも分かっている。問題は、どれがキング・オブ・ポップか、である。「マイケル・ジャクソン」が有力なのだが、「マジック・ジャクソン」も可能性を残す。でもテカテカの衣装で「ドンマイケル」とニッコリ手を広げていた芸人がいたよな、だから「マジック」ではないな。「マイケル何とか」だろう。「ジャクソン」か「ジョンソン」か「ジョーダン」か。決まってる、「マイケル・ジャクソン」に決まってる。が。ここにきて「ドンマイケル」の彼って、あれはキング・オブ・ポップを真似てるって前提だったんだっけと、頼みの判断材料に疑問が生じる。どうしよう、どうやって選択肢を絞っていこう。そうだ、みんな彼の事を「マイコー」って呼んでたじゃないか。「マジック」をどう変えても「マイコー」にはならない。マジックなら「マージー」だ。マージーなら、同じダンスの達人でも、あの、オッサンだ、マツケンサンバの。これにて「マイケル」を確定。
その次はどうだ。「ジャクソン」か「ジョンソン」か。ジャネットだ、あいつがいるじゃんか。妹のジャネットといえば、ジャクソンだ。「ジャネット・ジョーダン」なんて聞いたことないぜ、笑っちまう。ならば、キング・オブ・ポップは「マイケル・ジャクソン」であろうと、商店街を抜ききる直前に答えを見つけ出す。
折角だからと、「マジック・ジョーダン」って誰だっけ、「マイケル・ジョンソン」って誰だっけ、「マジック・ジョーダン」ってそもそもいたっけ、と各々の特定を急ぐ。急ぐ必要は一切ないんだけども。バスケ選手、陸上選手、あと何だ、プロサーファーとでもしておこうか、F1でもいいか。「ぬ」といい「殺」といい「キング・オブ・ポップ」といい、頭ん中で固定されているデータがこちらの制止を振り切ってどんどん外へ出ていってしまう。マジック・ジョーダンっているのか? 尋ねておきながら、別に答えは要らない。