『ストレンジャー・シングス』4は、いまを苦しむ若者に、癒えない傷を抱く大人に手を差し伸べる

メイン画像:Netflix © 2022

※本記事は『ストレンジャー・シングス 未知の世界』シーズン4・前編のネタバレを含みます

4つの物語が同時に進行した、シーズン4前編をおさらい

世界中で1か月ものあいだ待ち望まれた『ストレンジャー・シングス 未知の世界』シーズン4の後編が7月1日、ついに配信された。前編では7話をかけ、かつてないスケールで物語が展開されていたぶん、後編の2話で話がまとまるのか懸念していたが、それは杞憂だったようだ。2話で4時間という映画のような厚みで描かれる後編は、前編で大きく広げた風呂敷を巧みに畳みつつ、シリーズのファンが求める要素がすべて詰まった見事な幕引きだった。これまでにないほどに壮大で恐ろしいシーズン4は、後編を以ってこれまでにないほどに感動的で美しいシーズンへと昇華した。

シーズン4では2部構成をはじめとしてさまざまな新しい試みが取り入れられている。本シーズンではホーキンスで起こる怪死事件を基軸としながらも、別の場所を舞台とした4つの物語が同時に進行していくという点もその一つだ。シリーズを重ねるごとに増える登場人物全員に見どころを持たせるという点でこの試みは見事に成功しており、街や国を越え展開されることで物語の厚みが幾重にも増している。前編のラストでついに混ざり始めたこの4つの物語についておさらいしていこう(前編記事:『ストレンジャー・シングス』は、子どもたちのホラーから本格ホラーへ。愛にあふれたシーズン4前半)。

1.ホーキンス編

スターコートモールの惨劇から6か月、再び賑わいを取り戻し始めたホーキンスで不可解な怪死事件が発生。ホーキンスに残るダスティンたちはその現場に居合わせたD&Dクラブのリーダー、エディに話を聞き、それが裏側の世界の魔術師ヴェクナの仕業であることを突き止める。人の心に入り込むヴェクナが狙うのはトラウマを抱えた若者ばかりで、ついには義兄ビリーの死に罪悪感を覚えるマックスまでもがターゲットとなってしまう。

2.研究所編

能力を失い、バイヤーズ家と共に越してきたカリフォルニアのハイスクールへ転入するも、そこで酷いいじめを受けるエル。ホーキンスから遊びに来たマイクの前で暴力事件を起こしたエルは警察に逮捕され、オーエンズ博士に身柄を引き渡される。博士から仲間に危険が迫っていると伝えられた彼女は力を取り戻すために政府の研究所に向かうが、そこで待ち受けていたのはかつて彼女を苦しめていたブレンナー博士だった。エルはブレンナー博士に言われるがまま、力を取り戻すために封印した昔の記憶と対峙することに。

3.カリフォルニア編

カリフォルニアの田舎町レノーラ・ヒルズに越したバイヤーズ家の元を訪れたマイク。最高の夏を過ごすはずがエルは連れ去られ、オーエンズ博士の仲間からホーキンスに危機が迫っていることを知らされる。家を軍に襲撃されたマイク、ウィル、ジョナサンはエルが命を狙われていることを伝えるため、ピザ屋のアーガイルが運転する車で研究所の居場所を探し出そうと奮起する。

4.ロシア編

ウィルらの母ジョイスの元にロシアから差出人不明の小包が届いた。そこにはホッパーが生きているというメッセージと電話番号が記されており、書かれた番号に電話するとエンゾという人物からホッパーを助けるために金を持ってアラスカに飛べと指示を受ける。一方でロシアの監獄で過酷な労働を課せられていたホッパーはユーリの協力のもと何とか脱獄。ジョイスはマレーと共にアラスカへ飛び、指示通りユーリという男に金を渡すが、ユーリの裏切りにより一向は窮地に立たされる。

大人の手を離れ成長しゆく子どもたちの物語であり、子どもたちを遠くから見守る親の物語でもある

シーズン4はシリーズ史上最悪のヴィラン、ヴェクナの登場により、ファンタジー要素の強い子どもたちのホラーから『エルム街の悪夢』(1984年 / ウェス・クレイヴン監督)を思わせる本格的なホラーへと変貌を遂げた。その作風の変化と同様に、本シーズンでは子どもたちが大人たちの手を離れ、さまざまな困難や逆境を乗り越えながら成長してゆく様が描かれる。劇中で描かれる登場人物たちの痛みや恐怖は、現実世界で思春期を迎えた子どもたちの前に立ちはだかり、そして大人になった我々がかつて苦しめられたさまざまな葛藤とリンクする。

例えばトラウマを抱き、自分の殻に閉じ籠ろうとするマックス。自分の道を行きたいと願いながらも、親の言うことに従ってしまうエル。人気者になろうとして、これまでの仲間と距離を置いてしまったルーカス。そして自らのアイデンティティに苦しみ、秘めた想いを押し殺すウィル。

自分の人生を振り返ってみれば彼らと似たような思いをしたことは幾度だってあるはずだ。幾重にも襲いかかる苦悩に何度も苦水を飲まされながら、ときに勇気を振り絞り、ときに誰かに支えられながら人は大人になっていく。いまを苦しむ若者に、忘れられない傷を抱く大人に、ヴェクナや裏側の世界、孤独な環境に立ち向かう彼らを通して今シーズンは優しく手を差し伸べてくれる。

そしてシーズン4の大きな特徴は、いままで共に苦悩を乗り越えてきた大人と完全に別行動であるという点だ。ジョイスはマレーと共に囚われの身となったホッパーを救出するためロシアに向かう。本シーズンは上述の通り4つのストーリーが同時に展開されていくが、前編ではロシア編のみ本筋であるヴェクナとの闘いに重なることなく進められていく。それが後編の終盤で思わぬ形で交差する。彼らは直接的に子どもたちに加勢するのではなく、子どもたちの知らないところで「この行動がきっと彼らの役に立つだろう」とただ信じて動くのだ。

親はいつまでも子どもたちの側にいられるわけではない。やがて成長し親元を離れていく。いつかは自分たちの支えを必要としなくなる子どもたち。だが姿は見えなくとも親は子を想い、離れていても心を共にすることはできる。劇中には暴力をふるう親や自分の価値観を押し付ける親も登場しており、必ずしも子を想う親ばかりではないということはつくり手も承知の上だろう。だが子どものために陰ながら必死で闘うジョイスやホッパーたちの姿に、あって欲しいと願う親の姿を映し出しているのではないだろうか。本作は成長しゆく子どもたちの物語であり、そんな子どもたちを遠くから見守る親の物語でもある。

リバイバルヒットしたケイト・ブッシュはじめ、劇中で大きな役割を果たす音楽

もちろんシーズン4の見どころは物語だけではない。劇中でこれまで以上に大きな役割を果たしている音楽にも注目が集まっている。前編のハイライトとも言える第4話、マックスが仲間のもとへ疾走するシーンで使用されたケイト・ブッシュの“Running Up That Hill”(1985年)は前編配信時にイギリスやオーストラリアでチャート1位となるなど大きな話題となった。だが音楽が際立っているという意味では後編にある演奏シーンも負けてはいない。シーズン4で初登場するキャラクター、エディの最大の見せ場でもあるそのシーンで流れる楽曲はその異様な絵面も相まってインパクトは抜群だ。

恐らくこちらも“Running Up That Hill”と同様、本作を機にリバイバルヒットすることだろう。物語としてはかつてない程に苦しい本シーズンだが、世代でなくとも懐かしさと親しみやすさを覚える絶妙な楽曲が作品を彩るおかげか、不思議と重くなりすぎることはない。

作品に厚みを持たせたキャスト陣の数々の名演も見逃せない。本作の立役者となったエル役のミリー・ボビー・ブラウンをはじめとして、トラウマに苦しむマックス役のセイディー・シンクや、ウィルの繊細な内面を過不足なく表現したノア・シュナップなど、本作と共に育ってきたキャスト陣のキャリアハイとも言える演技には心を揺さぶる説得力があった。また新キャストながらレギュラー陣に負けず劣らずの存在感を示し、魅力たっぷりにキャラクターを演じたヘンリー役のジェイミー・キャンベル・バウアーとエディ役のジョセフ・クインにも触れておきたい。

最終章への橋渡しとなると同時に、これまでの物語に深みを持たせる内容となったシーズン4。エルの過去と敵の正体、その目的が明かされ、それらを踏まえてこれまでのおさらいもしたくなる、実に見事な続編だった。物語はさらに加速しながら終局へと向かう。最終章となるシーズン5は2024年公開予定だ。

作品情報
Netflixシリーズ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』シーズン4

第1部は2022年5月27日より独占配信中
第2部は2022年7月1日より独占配信中


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