日韓ドラマ『私の夫と結婚して』プロデューサーが語るアジア発コンテンツの未来、佐藤健起用の裏側

『匿名の恋人たち』(小栗旬、ハン・ヒョジュ)、『初恋DOGs』(清原果耶、成田凌、ナ・イヌ)、『ソウルメイト』(磯村勇斗、オク・テギョン)など、日韓の俳優・スタッフがタッグを組むドラマが次々と誕生している。

国境を越えて物語を紡ぐ新しい潮流のなかで、2024年に韓国版、2025年に日本版が制作されたドラマ『私の夫と結婚して』は、韓国版・日本版ともに大きなヒットを記録し、その完成度とスピード感で注目を集めた。

日本版のプロデューサーをつとめたのが、JAYURO PICTURES ENTERTAINMENT INC.代表取締役のチョン・ジェウォン氏。『あの夏、僕たちが好きだったソナへ』の制作でも知られるチョン氏は、同社の東京支社を設立するなど、日韓共作に力を注いでいる。

なぜいま、日韓共作なのか。そして、異なる文化や制作システムのあいだで、どのように作品は生まれているのか。チョン氏へのインタビューを通して、単なるリメイクを超えた「新しい日韓ドラマ」制作への想いや、新しい文化の可能性が見えてきた。

ドラマ『私の夫と結婚して』が日韓で大ヒット。突破口となったのは佐藤健のキャスティング

—『私の夫と結婚して』は韓国版・日本版ともに大ヒットしました。韓国版が2024年1〜2月に現地で放送され、日本版が2025年6月に配信スタートと、日本版の完成が早かった印象です。当初から韓国版を日本でリメイクする計画があったのでしょうか。

チョン・ジェウォン(以下、チョン):じつは、リメイクとして日本版を作ったのではないのです。私は企画の初期から関わっていたわけではありませんが、もともと『私の夫と結婚して』は、韓国の制作会社スタジオドラゴン社内で「日韓で同時に、リメイクではなくそれぞれ違うかたちで制作する」という前提で立ち上げられたと聞いています。

実際に遂行されていくなかで、韓国版の企画がスムーズに進んだことで先行し、パク・ミニョンさんやナ・イヌさんの出演が決定。NetflixやDisneyと組んできたCJ ENM(スタジオドラゴンの母体)がAmazonと組むのは初めてで、それも話題を呼び、女性を中心にヒットしました。ジェットコースターのようにスリリングでスピード感あるストーリーに、多くの女性が熱狂したのです。

—なるほど。同時進行の予定が、結果的に日本版が後発となったのですね。

チョン:そうです。韓国版放送後、スタジオドラゴンから日本版制作の依頼が弊社に来ました。具体的な話があったのは2024年5月ごろで、韓国版終了から数か月後でした。日韓のキャストとスタッフがタッグを組むドラマといえば、小栗旬さんとハン・ヒョジュさんが主演の『匿名の恋人たち』のような大型作品が動いていた時期。そんななか、日本の制作会社とも協業経験がある私たちに「共同制作をやってもらえませんか」と声がかかったのです。

ただ、韓国でヒットした直後に同じタイトルのドラマを日本で撮るのは非常に難しい。しかも、5月に話を聞いて「11〜12月にクランクインしたい」という、通常ではあり得ないスケジュールでの依頼でした。でも、日韓双方でやってきた自分の経験から、それぞれの国の長所はつかんでいるつもりだったので、無謀かもしれないけど「やってみせよう」と決断しました。脚本を進め、キャスティングを急ぎました。

—当時、キャスティングがまだ決まっていなかったのでしょうか。

チョン:まったく白紙の状態でした。約5ヶ月後にクランクインなんて、普通は無理です。Amazon Japanとしても、韓国でヒットした作品を日本でまたやるわけだから、何かメリットがないと意味がありません。

そこで必要だったのが パワーキャスティングです。その突破口となったのが、主人公の鈴木亘を演じた佐藤健さんだったのです。

—佐藤健さんの起用はどのように決まったのですか。

チョン:短期間でのキャスティングは困難でしたが、佐藤さんの参加が大きな転機となりました。通常 主演クラスは出演を検討する際に全話分の脚本を求めますが、当時はまだ完成していなかった。佐藤さんも『グラスハート』のプロデュースやポストプロダクションに集中していた時期で負担も大きかったと思います。それでも「海外にも挑戦したい」「韓国コンテンツに興味がある」という意欲があったのか、オファーを受けてくれました。

ただ、1番の決め手は監督だと思います。『ザ・グローリー』『秘密の森』のアン・ギルホ監督が日本版を手がけるということで、「アン監督とやりたい」という声が非常に強かった。佐藤さんもその熱望があったのだと思います。いま振り返っても奇跡的でした。

—監督への信頼、チョンさんの説得、そして日本発で世界に挑みたいという思いが重なったのですね。

チョン:私の力というより、情熱と熱意を信じてもらえたのだと思います。日本と韓国で30年積み重ねた人脈と経験の集大成であるかのように、多くの方たちが協力・サポートしてくれました。

リメイクではなく、「新しい日韓ドラマ」を目指した。『私の夫と結婚して』ヒットの理由とは?

—結果的に日本でも大ヒットしました。成功の要因は何でしょうか。

チョン:はっきり言えるのは、演出の力です。アン監督はプロデューサーとしての経験もあるベテランで、現場も熟知している。日本の視聴者が感動できる作品にすることを最優先にしつつ、海外に配信する際には「韓国版とどう違うのか」が問われます。そこに細心の注意を払いました。

じつは、監督は原作の電子コミックは読んでいましたが、韓国ドラマ版はあえて観ていないんです。韓国版が復讐ものだったのに対し、日本版はラブストーリーとして設計されました。復讐要素はあっても、核となるのは「愛」です。

チョン:小芝風花さん、佐藤健さん、横山裕さん、白石聖さん。4人が演じたキャラクターが韓国版と一番異なるのは、「主人公たちのような場面にぶつかったとき、勇気を出して正直に気持ちを伝えたら、人生は変わるはず」というテーマが丁寧に描かれている点です。韓国版はジェットコースターのような展開の復讐劇で、復讐を遂げるためには時には悪いことも辞さない。一方で、日本版は悪役の夫にもかわいそうだと感じさせるシーンがあります。

つまり「韓国ドラマのリメイク」ではなく、日韓それぞれの良さが 融合した「新しい日韓ドラマ」というジャンルが生まれた。「日本の俳優が出ているけれど、いつもの日本のドラマとはちょっと違う」「韓国ドラマはたくさん見てきたけれど、これまでの韓国ドラマとはどこか異なる」。そんな化学反応が生まれたのだと思います。

—韓国版を再解釈して日本に最適化したのではなく、まったく別の作品として作られたのですね。

チョン:そうです。日本の視聴者が韓国ドラマに惹かれるのは、ファンタジーやコメディが多く、現実からちょっと離れた世界を楽しむことができるからだと思います。でも、『私の夫と結婚して』の日本版では、最初から「ファンタジーだけでなく、日本のドラマならではのリアリティを盛り込んでいこう」と決めていました。

実際に恋をかなえようとするときに直面するあらゆる場面で、どうすれば本当の気持ちをちゃんと伝えられるのか。あるときは反省をしたり、あるときは相手を尊重したりという人生のリアルを描きました。最後まで見れば、白石聖さん演じる悪女役の江坂麗奈が違う環境で別の出会いや選択をしたらどうなったか……など、「考えさせる余韻」がある。そこが韓国版とは決定的に違ったと思います。

リアリティ重視の日本とファンタジー要素を取り入れた韓国。ドラマを特徴づける制作環境の違い

—グローバルでも9位以内にランクインしました。これは「日本的なリアリティを盛り込んだ日本のドラマ」が海外にも響いた結果でしょうか。

チョン:明確な理由はわかりませんが、日本の俳優の演技力は確かです。監督も話していましたが、トップレベルの俳優は徹底的に準備をして現場にやってきます。加えて撮影中に段取りが変わり、予定以上に時間がかかっても、監督が熱意をもって伝えると、俳優たちは信頼して最後まで全力で応えてくれる。さらに指示に従って見せてくれる演技力と、バリエーションを出せる力量が突出している、と賞賛していました。

—文化によって演技も異なるのですね。韓国ドラマと日本ドラマ、それぞれどのような特徴があるのでしょう?

チョン:同じラブコメでも、日本の「ラブコメ」と韓国の「ロマンティックコメディ」は微妙に違います。どちらが良いかではなく、それぞれの良さがある。

韓国のドラマでは、主人公達が苦境に遭遇した際に、現実ではできないことを空想して解決策を探る。一方、日本ではリアリティを重視します。その背景には、現実的なストーリーを大事にしたいという思いがあると同時に、システム的な制約もあるのではないかと思います。日本における地上波放送では、スポンサーを中心とした体制のもと、法令・倫理・社内ルール等の観点から慎重な対応が重視されることが多く、セリフや演出ひとつにも配慮が及ぶ傾向があります。一方、韓国の地上波放送では同様の枠組みはあるものの、比較的柔軟な演出や言葉遣いが許容される場面が多い印象です。

限られた枠のなかで制作される日本のドラマは、韓国の視聴者から「演劇の舞台を映像化したようだ」という感想を聞くこともあります。ロケ地や撮影範囲に制限があるし、予算を抑えるために照明など演出面も抑えた作りになっています。映像的な華やかさは控えめですが、むしろ演劇のように俳優の芝居でリアリティを積み重ねるスタイルです。ただ、そのスタイルが1990年代からあまり変わっていないことが気になっています。

日本はマンガやアニメでは想像力が豊かなのに、実写やテレビの世界では表現が制約されてしまうのは、こうした要因があるからかもしれません。

—資金や制作体制の違いも大きいのですね。

チョン:そうです。韓国では制作会社と局が長年出資を分担し、責任を背負って牽引してきました 。赤字を出せば会社が傾く。命がけです。以前は視聴率を見ながら台本を変えることもよくありました。良く言えば、臨機応変(笑)。

日本は照明やスタッフの人員は少ないですが、その制限があるからこそ、演劇のような芝居のなかでリアリティが生まれています。韓国はファンタジーの要素を含んだ面白さ重視で漫画的、日本はリアリティの深さが魅力です。

リメイクの需要が減り、共作の時代に。日韓の架け橋となる人材を育成し続けることが急務

—日韓共同制作の歴史を振り返ると、TBSとMBC(韓国の地上波放送局)が企画した2002年の『friends』が象徴的です。

チョン:当時は大ニュースでしたね。企画自体に感動して涙が出そうでした。日本と韓国って地理的にも文化的にも隣人ですし、親しみを感じる反面、対立することもあったりするじゃないですか。『friends』は、2002年のサッカーワールドカップ日韓共催を前に企画された、初の日韓共同ドラマ。深田恭子さんとウォンビンさんの共演に感激しました。土井裕泰さんとハン・チョルスさんという日韓2人の監督が演出を担当したのも斬新でしたね。

その後も、妻夫木聡さんとハ・ジョンウさんが主演した映画『ノーボーイズ,ノークライ』など日韓共作はいろいろありましたが、興行の面で成功した作品はそれほど多くありません。

映画『ノーボーイズ,ノークライ予告編』

—日本と韓国のドラマでの協業といえば、「リメイク」という手法もあります。『家政婦のミタ』がチェ・ジウさん主演で『怪しい家政婦』として韓国でリメイクされたり、『梨泰院クラス』を『六本木クラス』としてリメイクしたり、といった事例も話題となりました。

チョン:かつては日本の作品を韓国でリメイクする流れが主でしたが、リメイクの方向が韓国から日本へと逆転しました。現在は双方でリメイクの需要は減り、日韓どちらも新しいかたちを模索しています。

日本で大ヒットし、その後日本の地上波ドラマでリメイクされた『梨泰院クラス』

—そこでチョンさんは、リメイクではない「日韓共作」に展望を持っているのですね。いまの韓国ドラマは「世界」をターゲットにしていますが、チョンさんがドラマ制作において具体的に意識しているのはどの地域ですか。

チョン:中東、アメリカ、ヨーロッパなど多くの地域で韓流ドラマが観られていますが、数字で見れば、これまでもいまも、日本と中国が最大のマーケットです。

ただ、ドラマ業界は政治の波にも大きな影響を受けます。私は2012年にはアミューズと共同でミュージカルの企画から制作までおこない、渋谷で上演しました。その後、複数の放送・芸能関連企業および当社が出資し、日韓ドラマやスポーツ交流、映画事業などを展開しようとしたのです。しかし、当時の政治情勢の変化により日韓関係が変化し、その流れは止まりました。

2011年までは日韓ドラマファンドもできるくらい両国の共同コンテンツ企画は活性化していましたが、そこで中断。その空白を中国がうまく利用し、「高いギャラを払う」と多くの韓国人クリエイターを招き入れたのです。3〜4年の間に多くの人が中国に渡りましたが、THAAD問題(※)を機に頓挫してしまいました。結果として、現地で実際に成功した韓国人はほとんどいませんでした。

※THAAD問題:2016年にアメリカが韓国に高高度ミサイル防衛システム(THAAD=Terminal High Altitude Area Defense)を配備したことに中国が強く反発し、韓国への観光・文化交流・経済取引を制限した一連の外交摩擦。この影響で、中国国内での韓国ドラマ・映画の配信や韓国芸能人の活動が一時的に大きく制限された。

一方、日本・韓国との関係が冷え込むなかでも、韓国の制作会社は数億円単位の投資を続けてきました。でも海外セールスやPPL(劇中広告)で回収できなければ会社がもたない。そんななか、2016年に韓国にNetflixが参入し、新たな資金が入るようになりました。

日韓の政治的な問題で、13年もの時間を失いましたが、ようやくいま、良い関係が戻りつつあります。現在現場で直面している問題は、日本語と韓国語の両方を使いこなす人材が激減していることです。バイリンガルで現場経験が5年以上ある制作プロデューサーや企画プロデューサーなどは 、両国合わせても5〜10人に満たないと思います。人材育成は急務です。日韓の架け橋になれる人は、現場でしか育たないと思います。だからこそ、共同制作を続ける意味がある。私が日韓企画を進める理由は、そこにあります。

—おっしゃる通り、共同制作には言語の壁がつきまといます。AIも進化していますが、コミュニケーションの問題に変化はありましたか。

チョン:たしかに準備段階での資料のやり取りなどでは、AI翻訳を入れれば8割は伝わります。それがなかった頃は、すべて人の手による翻訳が必要で、お金も時間もかかっていました。

しかし、現場はAIの通訳では回りません。日韓のスタッフそれぞれがプライドを持ってやっている。日韓の違いが衝突しすることもありますが、それはAIでは解決できないのです。もっとも大事なのは、お互いへのリスペクトです。

現場でぶつかる具体的な例を挙げると、制作費の違いによる撮影環境の問題があります。日本と韓国では、制作費の規模も桁が違う。日本では地上波ドラマ1話あたりの制作費が3,000〜7,000万円程度ですが、韓国は安くても7,000〜8,000万円、1.2〜1.5億円クラスも珍しくありませんでした。ある日本の現場を見学したときには、撮影スタッフ5人と照明スタッフ4人でしたが、韓国では、だいたい撮影が10人で照明は8人。単純な比較はできませんが、制作費や体制の差は明らかです。さらに、 撮影機材のレンタル費用は日本のほうが高く、韓国から機材を搬入しようとしても、一時輸入扱いになってコストや手続きの面で難しい。

もう一つの課題は、東京でのロケ許可です。特に夜間撮影が難しく、渋谷では撮影不許可のエリアが大半を占めています。韓国ではKOCCA(韓国コンテンツ振興院:映画以外のコンテンツ産業を支援する機関)や自治体の支援、ロケインセンティブ制度が整っており、飲食やガソリン代を地方自治体が補助することもあります。フィルムコミッション(自治体やその関連団体によるロケ誘致の取り組み)は日本が先行して始めましたが、それを積極的に活用したのは釜山。韓国は国家戦略として進めています。

撮影許可が出るまでのスピードも違い、韓国では2日でできることが日本では1週間以上かかることもある。企画段階からお互いの国の制度を理解し、スケジュールを組むことが必要です。

こうした違いがあるからこそ、相手の国の文化や情緒に対して好奇心と敬意をもてる人でなければ、共同制作は難しいんです。AIがどれほど発達しても、人間の感情は翻訳できません。10年、20年経ってもそれは変わらない。もしAIがそれを超えてしまったら、人生は面白くないですよね(笑)。

日本と韓国、さらに中国の若者たちが集まり、新しい作品を作る。それがいまの夢です

—ここで、チョンさんご自身についておうかがいします。日本ドラマに出会ったきっかけは?

チョン:1995年に留学のため来日してから日本ドラマに本格的に触れました。韓国では1991年から商業映画現場で演出部の仕事をしていて1994年には助監督をしながらフランス留学を考えていましたが、日本の映画を見る機会があったんです。当時は日本の作品は韓国で正式に輸入されていなかったのですが、アメリカに留学した先輩が、黒澤明、溝口健二、小津安二郎の映画を見せてくれました 。『東京物語』『大人の見る繪本 生れてはみたけれど』などで小津に惹かれるようになり、日本に興味を持ちました。日本が好きなまわりの先輩たちは、日本は出版文化も成熟し、世界の情報が集まる国だから、海外のカルチャーに触れることができると教えてくれました 。

その後、1997年に日大芸術学部の大学院に進み、2009年に帰国して制作会社を作りました。十数年間は韓国をメインに、日韓を行き来していましたが、昨年から日本にオフィスを構え、東京で長期滞在するようになりました。ちなみに、日本のドラマは1990年代後半の『ラブ ジェネレーション』や『ロングバケーション』、『ビーチボーイズ』も大好きで、いまでも当時手に入れたビデオで時々見ています。だから、まだ家にはビデオデッキがあるんですよ(笑)。

—昨年から東京の韓国コンテンツ振興院のサポートを受けて、オフィスを構えていますね。

チョン:はい、昨年11月に設立された「KOCCA CKL TOKYO」という施設に入居しています。国(韓国)が運営する、日韓コンテンツ交流及び共同制作などで実績を出してきている会社のバックアップを目的とした施設です。公募に受かり、ありがたくここにオフィスを構えていま す。ドラマの衣装合わせや台本打ち合わせをするスペースもあり、日本の制作会社の方たちにも「うらやましい」と言われています。

—日韓共作を一緒にやりたいという依頼もたくさん来るのでは。

チョン:問い合わせは非常に多いです。韓国と手をつないで世界に出たいという日本の方もたくさん来ます。一方で、日本とタッグを組みたい韓国の方も多い。そこには、韓国の映像業界がコロナ禍以降回復できていないという事情もあります。

じつは、韓国の映像業界、特に映画界は大変な状況です。ドラマの制作本数が半分以下に落ちて、恐らくいま がどん底です。その原因の一つは、俳優のギャラが高騰したこと。トップレベルの俳優だと、特殊な場合もありますが1話あたり約5,000万円ぐらいまで上がっていて、これ以上無理ではないかという声も出ています。

さらに、スタッフの人件費上昇という問題もあります。人件費が高くなるうえに、労働環境の法改正によって制作コストも上昇し、労働時間が制限されたことでさらに 人件費が上がり、制作費は1.5倍に上がってしまう。若手が低予算で作ろうとしてもなかなか撮れなくなってしまっています。

このように、韓国ではコンテンツバブルの揺り戻しで、増えた技術スタッフのなかには、コロナ禍以降仕事がなくなって、やりたくてもやれない人が増えています。一方、日本はNetflixなどが動き始めて、良いスタッフはみんなそこと契約しており、できるスタッフが足りない のが常識になっています。

でも、これはチャンスではないかと、私は考えています。 韓国の映像コンテンツ業界が今大変ではあっても、韓国には優秀なクリエイターたちと高度なスキルを持つ技術スタッフが沢山います。20年以上築いてきた韓国の映像コンテンツ制作能力はすぐ失われるものではないと私は確信しています。

なので、韓国にいる優秀なスタッフは報酬などの面で日本に招くのは大変ですが、調整して日本に来てもらうよう交渉しています。いま韓国のクリエイターや技術スタッフに日本で一緒にやろうと口説いているところです。

—最後に、今後の展望を教えてください。

チョン:台湾、香港、ベトナム、インドネシアなど、韓国ドラマに関心を持ってくれる国や地域がたくさんあります。なので、アジアを舞台にした世界に向けたミステリー、コメディそして、アクションなどの様々なジャンルのコンテンツへの投資から企画制作まで関わっていきたいです。

世界はIP(知的財産)の競争力が問われる時代です。ハリウッドでさえ素材不足。アジアでIPをリードしてきたのは日本、そして韓国です。私がいま注目しているのは、日本の小説です。日本の小説は長い文学的な歴史を持っています。日本の優れた小説を原作として日韓の俳優陣が主演の、舞台は日本をメイン舞台にした作品を準備しており、2026年の後半にクランクインする予定です。

さらに、来年後半に全世界リリースされる、チ・チャンウクさんと今田美桜さんが主演の『メリーベリーラブ(仮題)』という日韓共同制作ドラマの制作プロダクションを現在進めています。

チョン:『私の夫と結婚して』のように、日韓が混じり合うことで新しいものが生まれる。ビジネスだけでなく、文化の融合による創造。日本と韓国、さらに中国の若者たちが集まり、新しい作品を作る。それが長い時間抱いてきた私の夢である「日中韓三国文化連帯」です。

過去には政治的事情で頓挫した計画もありましたが、いまこそ関係改善の好機です。私はもうすぐ60歳になりますが、30年間積み重ねた日韓の経験を活かし、次の世代に橋渡しをしたいと考えています。日本と組んで作品を作れるようになったいま、謙虚に、そして情熱をもって挑み続けたいと思います。

INFORMATION
株式会社ジャユロ・ピクチャーズエンタテイメント

設立:2024年7月9日

【実績】
ドラマ・映画制作
・映画『あの夏、僕たちが好きだったソナへ』
・映画『セミの鳴き声:CICADA

日韓合作ドラマ制作
・ドラマ『私の夫と結婚して』

ミュージカルの企画・制作
・『千番目の男』
・『アメージング・コリア』
など
プロフィール
チョン・ジェウォン

ソウル生まれ。慶熙(キョンヒ)大学校卒業後、1995年に来日したのち、日本大学大学院映像芸術研究科 映画専攻修士を修了。2015年に韓国でJAYURO PICTURES INC.を設立し、映画やドラマ、ミュージカルなどエンターテインメント性の高い作品の企画・制作を数多く手がける。2024年に韓国コンテンツ振興院KOCCAによる公募にて、K-コンテンツの企画、および制作能力と独自のIPを保有していることから1位の評価を受け、東京支社JAYURO PICTURES ENTERTAINMENT INC.を設立。『あの夏、僕たちが好きだったソナへ』で第29回釜山国際映画祭 パノラマ部門 公式招待、『私の夫と結婚して』でAmazonプライム グローバルランク9位、Amazonプライム ジャパン オリジナル歴代1位を記録した。



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