ドレイク、サニーデイ、callmeらの「プレイリスト」を使う新表現

ストリーミングの普及によって起きる「マーケティングの変化」よりも大事なことがある

Spotify、Apple Music、LINE MUSICなど、日本でもいよいよストリーミングが普及のフェーズに入りつつある音楽シーン。そこで起こっているのは、単なる音楽業界のビジネスモデルの変化だけではない。音楽の届け方やパッケージングのあり方が再構築されてきている。「プレイリスト文化」の勃興が起こっている。

特にSpotifyでは、数多くのプレイリストが公開され、次々と更新されている。よくあるジャンルやカテゴリーに基づくセレクトだけではない。「集中したいとき」や「ドライブしているとき」などリスナーの状況に合わせたもの。アルゴリズムを用い、ユーザーの好みの楽曲をリコメンドするもの。メディアと連携し、チェックすべき新曲を紹介したり特集ごとにセレクトしたもの。もしくは様々なユーザーが自発的に作っているオススメ曲の一覧。それら全てがリスナーにとっての新しい音楽との出会いのきっかけになる。多くの識者が「曲を広めていくためには、プレイリストがこれまで以上に大事な役割を担う」と声を揃える。

でも、それはあくまで、マーケティングやプロモーションの話。言ってしまえば、そこまで大事なことじゃない。もっと重要なのは、それによってアーティストの表現がどう変わっていくのか。それによって、音楽自体の内実にどんな可能性が生まれるか、だ。

ドレイクが昨年発表した、重要な試みを振り返る

よく言われるように、誰もが好きな曲をピックアップして並べることができるプレイリスト文化の勃興によって「アルバムというフォーマットは解体され、意味を失う」のだろうか。

筆者は、その答えはノーだと思っている。むしろ、今起こっているのは「アルバムの再定義」だ。アーティストにとっても、自分自身の楽曲集を「アルバム」として届けるのか、「プレイリスト」として届けるのか、その選択が可能になっている。新しい音楽の届け方の可能性が生まれている。

たとえばドレイクは2017年3月に新作『More Life』を「アルバム」ではなく「プレイリスト」として発表した。プロデューサーのNineteen85は「Drakeは常に周りに目を向けているんだ。常に周りが音楽的に何をやっているかをアンテナを張っていて、新しい音楽やアーティストを世界に紹介する気持ちが強いんだ。そういう意味で『プレイリスト』と呼んでいる」(Playatuner記事より)と説明した。

おそらく当時は「アルバムじゃなくてプレイリスト」と言われても「?」と思う人がほとんどだっただろう。筆者もそうだった。しかしそこから1年と少しが経ち、Nineteen85が語っていた内容が少しずつ腑に落ちるようになってきている。ドレイクが意図した「アルバム」と「プレイリスト」の区別、両者の違いに少しずつリアリティが生まれてきている。

ドレイク『More Life』(Apple Musicはこちらから

ドレイクの意図した「プレイリスト」とは、Nineteen85が言うように「新しい音楽やアーティストを世に紹介するためにコンパイルした」ものだ。他者を紹介し、ポップミュージックの文脈を提示する。そこに自分の音楽を交わらせる。『More Life』はジャンルも地域もバラバラな音楽性の曲が集まり、多くの気鋭のアーティストがフィーチャリングされ、アフリカなど様々な地域で起こっている新しいポップミュージックの潮流が参照されていた。

これに対しての「アルバム」とは「自分の作品性を構築し提示するためにコンパイルした」もの。すなわち、楽曲の連なりによってアーティスト自身が発信するひとつのまとまった世界観やテーマ、ストーリーを表現した、従来だったら「コンセプトアルバム」と言われていた類のものだ。そこにおいては曲数の多さや分数の長さはあまり関係しない。カニエ・ウェストが新作『ye』を7曲入りの「アルバム」として発表したのもその象徴と言っていいだろう。つまり、そこにはクローズドな「アルバム」とオープンな「プレイリスト」という対称性がある。

日本でも「プレイリスト」を使った新たな表現が生まれている

日本でも、この意図を汲んだ表現を行っているアーティストが登場している。たとえば小袋成彬はデビューアルバム『分離派の夏』の発表に先駆けて、Apple Musicでプレイリスト『分離派の冬』を公開。テーマは「自身の音楽人生を彩ってきた楽曲」で、RadioheadやThe Flaming Lipsなどに加え、かつての所属ユニットN.O.R.K.の楽曲や宇多田ヒカルとのコラボ“ともだち with 小袋成彬”も収録されていた。アルバム『分離派の夏』も自身の半生をテーマにした一枚なので、両者は同じモチーフをそれぞれ別のやり方で表現したものと位置付けられる。

サニーデイ・サービスのやっていることも刺激的だ。今年3月にアルバム『the CITY』を発表した彼らは、5月からリミックスアルバムの制作過程をリアルタイムで更新しシェアしていくプロジェクトをスタート。それをプレイリスト『the SEA』と名付けた。6月26日に完成した『the SEA』の全18曲はKASHIFやCRZKNYなど多彩な面々がアルバム『the CITY』の収録曲を解体しゼロから再構築したもの。ここにもやはりクローズドな「アルバム」とオープンな「プレイリスト」の対称性がある。

7月4日には、クリエイティブユニット・callmeが「プレイリストアルバム」と銘打った『Please call me! - 20152018- 』を発表する。2015年3月にシングル『To shine』でデビューを果たし、「完全セルフプロデュース」をコンセプトにRUUNA、KOUMI、MIMORIの3人のメンバー自身が作詞、作曲、振り付けなどを行ってきたcallme。同作にはこれまでの3年間に発表してきた『Who is callme?』『This is callme』という2枚のアルバム、そして6枚のシングルからセレクトされた楽曲が収録されている。

callmeが提示する「プレイリストアルバム」とは何か? プレス向けの資料には「限りなくベストに近いプレイリスト・アルバム」とある。正直、これだけでは単なる言葉遊び、ストリーミング配信の時代における「ベスト盤」の言い換えにしかすぎない、と思える。しかし、『Please call me! - 20152018-』のリリースに合わせて公開されたSpotify上のプレイリスト『callme Maybe ~遊びに行こうよ~』と合わせて聴くと、すごく興味深いことが伝わってくる。

callme『Please call me! - 20152018- 』(Apple Musicはこちらから

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「プレイリスト」は、自らの「文脈」を正しく発信できる場となる

メンバー自身のキュレーションによるこのプレイリストには、PRETTYMUCH“Would You Mind”、イジー・ビズ“White Tiger”、チート・コーズ“No Promises feat. Demi Lovato”など、2017年から2018年にかけてのグローバルなシーンを賑わせているポップソングが選曲されている。そこにcallmeの楽曲が挟まれる形で並んでいる。

これを聴いていると、callmeのアルバムだけを聴くだけでは気付きにくいサウンドの「文脈」が見えてくる。それはたとえばブルーノ・マーズが象徴するような、ニュージャックスウィングやネオソウルから連なる2010年代後半のR&Bシーン。たとえばThe Chainsmokersが象徴するような、EDM以降トロピカルハウスを経てU2やColdplay的なエモーションに接続しつつあるエレクトロポップのシーン。そのあたりの動きがcallmeのトラックメイキングの参照軸にあることが伝わってくる。

そしてプレイリストのなかで最も多くフィーチャーされているのがケラーニ。昨年にリリースしたデビューアルバム『SweetSexySavage』をヒットさせた新世代R&Bシンガーだ。もともとグループPoplyfeのシンガーとして人気番組『America's Got Talent』で見出され、グループを離れた後にソロで頭角を現した彼女も「文脈」を巧みに示すことで評価を集めてきたアーティストである。エイコンのヒット曲“Don't Matter”を引用しボブ・マーリーをサンプリングした代表曲“Undercover”が象徴的だ。

そして、そういうところから、この「プレイリストアルバム」の裏側にある意図が伝わってくる。そもそもcallmeは、仙台発のガールズユニットDorothy Little Happyの派生ユニットとしてスタートしたグループだ。つまり今回の企画自体にも、彼女たちの出自が示す「2010年代の女性アイドルシーン」という文脈を切り離し、海外のポップミュージックとの同時代性という文脈を新たに付与する狙いが読みとけるわけである。

従来の音楽シーンにおいては、そういうことをするのはプロデューサーやトラックメイカー、DJの仕事だった。しかしストリーミングサービスが普及しプレイリスト文化が勃興していることで、メンバー自身も選曲で「文脈を示す」ということが可能になっている。「プレイリスト」という枠から新しい表現や発信の可能性が生まれている。とても興味深い。

リリース情報
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『Please callme! -20152018-』

2018年7月4日(水)配信
※イベント会場限定盤は2018年7月18日(水)より発売
1. Confession
2. In my dream
3. I’m alone
4. Way I am
5. Hello No Buddy
6. Precious
7. Sing along
8. My affection
9. All I need
10. It’s own way
11. Hello No Buddy(Aiobahn remix)
12. I’m alone(有機酸 remix)
13. In my dream(Chocoholic remix)

プロフィール
callme
callme (こーるみー)

RUUNA、MIMORI、KOUMIの3人組ガールズポップユニット。作詞作曲、ダンス振付、英語など、それぞれの得意分野を活かし楽曲やパフォーマンスをセルフプロデュースするクリエイティブユニットとして活躍。リーダーのRUUNA、ダンスを得意とするKOUMI、作曲を得意とするMIMORIの3人が一体となったクオリティーの高いダンスと、鬼才トラックメーカーRumb(残響レコードからアルバムをリリース)とコラボレーションする楽曲の創造性溢れるパフォーマンスが魅力。海外からの注目も高く、2018年7月8日にはフランスで行われる『Japan Expo』への出演が決定している。



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