崎山蒼志が自らを俯瞰して語る 18歳のリアル、思い描く40歳の自分

崎山蒼志のメジャー1stアルバム『find fuse in youth』は、かなり特殊なフォルムを持ったアルバムだ。「再定義シリーズ」と称し、崎山以外のアレンジャーと演奏者が集って過去曲をリメイクした3曲の先行配信シングル“Samidare”“Heaven”“Undulation”が収録されると同時に、“waterfall in me”や“目を閉じて、失せるから。”“Repeat”など、奇妙な歪さとポップさをはらんだ、アレンジまで崎山自身の手による楽曲が並列に配置されている(それらは『ヘヴンリィ・パンク:アダージョ』期の七尾旅人を思わせるようでもある)。

様々な指向の楽曲がざっくばらんに並んだ印象のある本作。音楽性にバラつきがあるのは前作『並む踊り』(2019年)も同じだが、『find fuse in youth』には、『並む踊り』のような通底する一貫性があるというよりは、様々な実験の成果を、意図的にバラバラなまま配置している印象すらある。正直、かなり不思議な作品だ。一体、崎山蒼志は本作を作るにあたって、どんなビジョンを描いていたのだろう?――そんな大きな疑問を抱えながら今回、単独リモート取材に臨んだのだが……話を聞くと、やはり崎山蒼志はとてつもなく面白かった!

作品の奥に散りばめられた時代や人類への思いから、数多のリファレンスの存在、そしてこの先の活動の展望まで、常に未来を向きながら、同時に、大切な何かを思い出し続ける崎山蒼志の現在地を存分に語ってもらうインタビューとなった。読んで、改めて、この天才に出会ってほしい。

崎山蒼志(さきやま そうし)
2002年生まれ静岡県浜松市在住。現在、テレビドラマや映画主題歌、CM楽曲などを手がけるだけではなく、独自の言語表現で文芸界からも注目を浴びている。2021年1月27日にアルバム『find fuse in youth』でメジャーデビュー。2月からは東名阪の3箇所で行われるツアー『崎山蒼志 TOUR 2021 「find fuse in you(th)』」が開催予定。

メジャーデビュー作でありながら、変化作であり実験作。『find fuse in youth』はポップさの提示と、やりたいことの追求で二極化している

―最初にこんなことを言うのはなんですけど、『find fuse in youth』はこのアルバムが礎となった先に、崎山さんがどんな音楽を作っていくのかがすごく気になる作品だと思いました。そのくらい、変化作であり実験作であるというか。

崎山:たしかに、そうですね。今回は本当に挑戦作って感じです。先行配信でリリースした3曲を含めて計6曲、自分以外のアレンジャーの方と一緒にやった曲があるんですけど、その反対側にある自分の内省を表現したり、挑戦的にやる曲も入れたい気持ちがあったので。そういう意味で、内容が二極化しているアルバムだと思います。

―二極化というのは、たしかに。前作の『並む踊り』は、君島大空さんや諭吉佳作/menさん、長谷川白紙さんが参加されつつも、すごく統一感のある作品だったと思うんです。

崎山蒼志“むげん・ (with 諭吉佳作/men)”を聴く(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く) / 関連記事:崎山蒼志と諭吉佳作/men、見つめ合う2つの才能 その特異な実態(記事を読む

―でも『find fuse in youth』はある意味、分裂気味な作品と言えますよね。

崎山:そうですね。まずアルバムの前にこれまでに反響をいただいていた曲を先行配信で出そうという話があって。でもそれらは中学生の頃に作った曲で、そこにはあくまで中学生のときのバイブスがあって、そのままでは、今の僕にはできないなと思ったんですよね。

―「再定義シリーズ」として配信リリースされた“Samidare”“Heaven”“Undulation”の3曲ですよね。崎山さんにとって「中学生のときのバイブス」というのは、どういうものですか?

崎山:簡単に言ってしまうと、閉塞感があるというか、外界との繋がりがない感じ。語弊があるかもしれないけど、狭い世界で生きている感じがあるなと思います。

崎山蒼志“Undulation”を聴く(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く

崎山:そもそも、常に新しいことをやっていきたい気持ちが強いほうではあるのですが、「アレンジャーの方と一緒にやってみたらどうでしょうか?」ということになったんです。それだったら、今の僕でも出せるかもしれないと思って。そういう形で挑戦したシングルとして、“Samidare”“Heaven”“Undulation”の3曲がありました。そこから、「アルバムを作ろう」となっていったんですよね。

「『変わっている声』だなと思います」――J-POP / J-ROCKに歩み寄ったアレンジを取り入れて逆説的に浮き彫りになった、崎山蒼志の声と歌詞の絶対性

―崎山さんって、世の中の多くの人がその存在を知った頃にはもう、「借りものではない、自分だけの言葉で世界を語ることができる人なんだ」という印象があって。そのくらい崎山さんの音楽は、メロディやリズム、言葉が崎山さんの筋肉と強く結びついている印象があるんです。だからこそ、他の人の手が加わるというのは、大きな出来事だと思うんですよね。かつての自作曲を他の方がアレンジされるというのは、ご自身としてはどういった印象がありましたか?

崎山:以前、君島さんに“潜水”をアレンジしてもらったことはありましたけど、そのときは君島さんが昔から僕の曲を聴いてくれていたり、自分の感覚やピントに合わせてくれた感じだったかもしれません。

崎山蒼志“潜水 (with 君島大空)”を聴く(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く) / 関連記事:崎山蒼志と君島大空、2人の謎を相互に解体。しかし謎は謎のまま(記事を読む

崎山:今回、その3曲をアレンジャーの方々に頼んで、いざデモをいただいたときは「こんな感じになるんや!」というのが第一印象でした。やっぱりこの3曲は、当時の心境やバイブス的にも、弾き語りの感じが自分にはしっくりきていたんですけど、「こっちを出してみても面白いかも」とも思いました。結構、ポップになっていると思うんです、“Undulation”は特に。

―そうですよね。

崎山:こんなこと言うのはなんですけど、「崎山蒼志は意外とキャッチーな曲を書いているんじゃないか説」があって(笑)。

―ははは(笑)。

崎山:だから、アレンジがJ-POP的、J-ROCK的になると、自ずとポップなものになるんですよね。でも、光が射しすぎないように、華やかになりすぎないようにしたいなと思って、そこはアレンジャーさんと話しました。中学生の頃のバイブスは活かしたかったというか、そもそもこの3曲は決して明るい曲ではないので。

―シングル3曲のなかで、最初にレコーディングしたのは“Samidare”でしたか?

崎山:そうですね。まず宗本(康兵)さんにアレンジしてもらって、話し合いながら練っていき、そのうえでレコーディングに臨みました。レコーディング自体は「いっせーのーで」で宗本さんのデモをもとに録ったんですけど、マーティさんや石若さんがいろんなアレンジをしてくれて、改めて、「すごい方々なんだな」と思いました。

崎山蒼志“Samidare”を聴く(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く) / レコーディングに参加したマーティ・ホロベック(Ba)はSMTKやムジカ・ピッコリーノをはじめとするさまざまなプロジェクトで活躍、石若駿(Dr)は「君島大空 合奏形態」やmillennium parade、くるりなどでのプレイで知られる

―きっと、他の演奏者やアレンジャーの方と交わることで見えてくる崎山蒼志自身というのもあると思うのですが、改めて、自分はどんな音楽家なのだと思いましたか?

崎山:やっぱり、僕の声と歌詞があるからこそ、このアレンジになったのかな、とは思いました。

―ご自身の声をどのように受け止めていますか?

崎山:聴きづらいなあって思います(笑)。

―(笑)。

崎山:でも、だんだんと声も変わっていっているんです。多くの人に知っていただいた頃(2018年、『日村がゆく』に出演した頃)は、変声期の最後くらいだったんですけど、その頃に比べると最近はちょっと落ち着いてきたというか。でも、そうやって自分の声が変わってきたことも含めて、今までの声の総体を見たときに、「変わっている声」だなと思います。自分では「へえ~」って感じなんですけど(笑)。

―へえ~、ですか(笑)。

崎山:はい(笑)。

アルバムに色濃く滲む、行き場のない「怒り」。打ち込みの楽曲にある身体性について

―“回転”が2020年の4月に公開されましたけど、この曲も大濱健悟さんを編曲に迎えて、本作に収録されていますね。“回転”はコロナ禍ゆえに生まれた曲だったと思うのですが、このアルバム全体に、コロナの影響はどのくらい反映されていると思いますか?

崎山:結構あると思います。“waterfall in me”っていう曲とか、“目を閉じて、失せるから。”って曲は、家に長くいたからできた感じがあるんです。最後の“find fuse in youth”もそうですね。この曲の最初のメロディが浮かんだときの「いろんなことがあるけど、自然は穏やかですね」って感覚がこの曲の原風景に繫がっていたので、家の中にいたことの影響は大きいです。特に自分でアレンジまでやった曲に関しては、自分が住んでいる実家にも影響を受けた曲たちって感じがします。

崎山蒼志“回転”を聴く(Apple Musicはこちら

―“waterfall in me”や“目を閉じて、失せるから。”は打ち込みの楽曲ですけど、これらの曲から、僕はすごく「怒り」を感じたんです。それは歌詞から読み取れるものでもあるんですけど、崎山さんご自身としては、このアルバムに「怒り」という感情はどのくらいあると思いますか?

崎山:中学生ならではの憤りや閉塞感は“Heaven”とかに出ていると思うんですけど、それとは違う今の自分の怒りは、その2曲には相当入っている気がします。

崎山蒼志“Heaven”を聴く(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く

崎山:もちろん、まずは「こんな音楽を作ってみたい」からはじまるし、“目を閉じて、失せるから。”は自分でも何を言っているのかわからない曲なんですけど、ただ、衝動と、どこに対して発すればいいのかわからない怒りはたしかにあるような気がします。

―こうした打ち込みの曲は、恐らくギターで作られる曲とは違う筋肉が使われているのではないかと感じます。

崎山:そうですね、ギターで作る曲とは違う筋肉の感覚なんですけど、たしかに身体性はある気がしていて。“waterfall in me”も“目を閉じて、失せるから。”も、もととなるものはiPadでGarageBand(iPhoneなどAppleのデバイスにインストールされている音楽制作ソフトウェア)をいじったりながら作ったんですけど、作っているときは、家の中を動き回りながら打ち込んだりしたんです。それはすごく感覚的なことだし、歌も、思いついたまま歌っちゃったりしたので。こういう曲も、自分にとってすごく身体性のある曲たちですね。

―こうしたトラックメイクの曲のリファレンスとしては、どんな存在がありますか?

崎山:“waterfall in me”に関しては、JPEGMAFIAさんですね。2019年に『All My Heroes Are Cornballs』ってアルバムが出たんですけど、2020年から自分の中でJPEGMAFIAが来すぎちゃって。この曲は、崎山蒼志流のJPEGMAFIA解釈というか、“BALD!”って去年出た曲のイメージもありました。

あと、JPEGMAFIAさんの歌詞の書き方って、どんどんと場面が変わっていくんです。内面を観察するような歌詞じゃなくて、コピペしていくような歌詞なんです。意見や怒りや皮肉が、現象というか、目の前で起こっていることとして歌われている、みたいな……そういうことを自分でもやってみたいなと思いました。

―なるほど。「コピペ的な歌詞」というのは、面白いですね。

崎山:あと“waterfall in me”は、『サピエンス全史』っていう有名な本にも影響を受けていますね(正式名称は『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』。2016年、河出書房新社刊)。音楽の友達とか、学校の面白い先生とかが読んでいたので、僕も読んでみようと思ったんですけど。

『find fuse in youth』には、崎山自身がこれまでの人生を振り返るパーソナルな視点と、人類の歴史に対する眼差しが共存している

―どんな本なんですか?

崎山:ユヴァル・ノア・ハラリという人が書いたホモサピエンスの歴史を書いた本なんですけど、すごく感化されました。といっても、まだ下巻の途中なんですけどね。上巻をちゃんと読み過ぎちゃって。

―その本を読んで、どんなことを感じましたか?

崎山:「ああ、そうなんだ」って(笑)。

―(笑)。

崎山:その本は、人類の歴史を振り返って「人間は虚構を共有できるから進化できたんだ」って論を唱えているんです。その本の中では、通貨や宗教を「虚構」としてぶった切っているんですけど、虚構を信じて共有できてきたから、人々はここまで進化できてきたって話をしていて。

崎山蒼志“waterfall in me”を聴く(Apple Musicはこちら

崎山:でも、よりよくしようとすればするほど、どんどんと悪くなってしまう部分もあるじゃないですか。たとえば、人間社会だけが便利になって、自然が破壊されてしまうとか。

―なるほど。先ほど、“find fuse in youth”の話でもチラッと出てきましたけど、動物や自然という「人間ではないもの」を見る視点というのは、今作に大きく影響を与えているのでしょうか。

崎山:そうかもしれないです。“waterfall in me”は滝のように雨が降った日に作った曲で、そういう景色と、行き場のない、どうしようもない怒りみたいなものが合致した感じなんですけど、“find fuse in youth”はもっと穏やかな、実家の2階の窓から見える自然って感じなんです。窓の外に青空が広がっていて、野原があって、湖があって……みたいな、自分の中の原風景に繋がるものがあって書いた曲なんです。

―崎山さんが作品のタイトルに「youth」という言葉を冠していたことに驚いたんですよ。「若さ」というものは、世間からのイメージとして崎山さんに張り付けられるものが強かった分、崎山さんは自らそれを表現はしていないと感じていたので。

崎山:僕は今18歳で、もうすぐ19歳になるんですけど、もうR18の作品も見ることができるし、大人になっていく歳なんですよね。そういう意味で、今回のアルバムはこれまでの自分を振り返るような内容にもなっていると思います。「これまでの自分を振り返りつつ……」っていう感じというか。ジャケットも、自分が今まで持っていたもの、連れてきたものを瓶に入れているんです。

TOKYO MXにて放送された崎山蒼志のメジャーデビュー直前特集映像。『find fuse in youth』のジャケット制作の様子とともに、『Youth/Picnic』のジャケットも同映像内で確認できる

中学3年のときの崎山蒼志が作った『Youth/Picnic』というアルバムの存在。そこにある、もう取り戻せない感覚と「5月」の感じ

―そうなんですね。

崎山:あと、中学3年生のときに『Youth/Picnic』ってアルバムを作ったことがあって。母のパソコンに入っているだけのアルバムなんですけど、そのときは中3で、今は高3で、3年生の学年になるとこういう気持ちになるのかな、とも思います。

―卒業というか、節目の年になるとってことですよね。その『Youth/Picnic』というアルバムは、ご自分で聴き返したりもするんですか?

崎山:はい。最近も聴いたんですけど、「あれ? なんかいいなあ」と思いますね(笑)。“Youth-picnic”という曲があって、それが最後に入っているんですけど、「あれ!? 意外といいぞ!?」と思うんですよ。「本当はこれなんじゃないか?」「この感じが僕なんじゃないか?」と思ったりもします。でも、あの感じは今の僕にはもうできないんですよね。

―その『Youth/Picnic』というアルバムは、音楽的にはどういう感じなんですか?

崎山:何というか……「5月」って感じですかね。新緑の季節から夏にかけてのような音源というか。音源といっても、ビデオカメラで撮った音声をMP3にして母が並べただけのものなんですけどね(笑)。でも、『Youth/Picnic』にはジャケットもちゃんとあるんです。

中学校のとき美術部だったんですけど、美術室でモネの絵を模写した厚紙をCDが入るようにして。それも写真に撮って、今回のジャケットの瓶の中に入れています。今回のアルバムの最後の“find fuse in youth”は、その『Youth/Picnic』という昔のアルバムに近いバイブスがあると思いますね。

崎山蒼志“find fuse in youth”を聴く(Apple Musicはこちら

―“find fuse in youth”は、バラバラな楽曲が並び、怒りも深く沁み込んでいるアルバムの最後に、救いというわけではないですけど、美しい着地点を描いていますよね。

崎山:そうですね。じわ~っと終わる感じというか、包んでくれるような曲だと思います。急に大きなフィールドに出たような感覚というか。

崎山蒼志の楽曲世界を下支えする俯瞰的な自己認識と、豊かな感受性について

―ここまで挙げてもらったほかに、本作のリファレンスになっているような作品や存在はありますか?

崎山:曲ごとに違うんです。さっき言いそびれましたけど、“目を閉じて、失せるから。”はチャーリーXCXみたいな、ハイパーポップみたいなことをやりたかったというのがありました。

崎山蒼志“目を閉じて、失せるから。”を聴く(Apple Musicはこちら

崎山:あとはやっぱり怒りというか……何とも言えない、どこに向ければいいのかわからない怒りですね。あと、「影響を受けた」と言うと怒られちゃいそうなんですけど、moreruっていう平均年齢20歳くらいのすごいハードコアバンドがいて。怒りが溜まりまくっちゃった人たちみたいなバンドで、そのメンバーの夢咲みちるさんという方の書く詩が素晴らしいんです。あとは、『エヴァ』とか。

―『新世紀エヴァンゲリオン』、お好きですか?

崎山:好きです。自分の音楽のモチーフにするのは表層のイメージというか、あくまでも自分の中の『エヴァ』の景色みたいなものをイメージして曲を作ることがあって、“目を閉じて、失せるから。”はそういう曲ですね。

“ただいまと言えば”は映画(2020年に公開された池田エライザ監督作品『夏、至るころ』)のために書いたんですけど、同い年くらいの方々の将来の不安とか、「自分って何なんだろう?」というような、内面的なものを観察するように書きました。

崎山蒼志“ただいまと言えば”を聴く(Apple Musicはこちら

―「自分とは何だろう?」って、崎山さんは考えますか?

崎山:考えます。考えるんですけど、今は、「生まれちゃったねえ~。こんにちは~」って感じです(笑)。「生まれました。今、存在しています」っていう、ただそれだけ。自分に対して、自分自身ではそんな感じです。

―「在る」ということを受け入れるのみ、というか。

崎山:そうですね。あと、“そのままどこか”は周りの人たちと「恋の曲を書いてみたら面白いんじゃないか」って話になって、書いてみました。あんまり歌詞を読んでも、恋の感じはしないかもしれないんですけど。この曲は、ストリングスを宗本さんが入れてくださって。

崎山蒼志“そのままどこか”を聴く(Apple Musicはこちら

―そう、ストリングスがすごく美しい曲ですよね。

崎山:この曲は、10月くらいの、夕方が寒くなってきたころの金木犀のような感じを出したかったんです。吸い込む空気が冷たくなっていって、でも恋があって……そういうイメージというか。

高校が終わった夕暮れの頃に、自転車に乗りながら聴いていたBoy Pabloの“Sick Feeling”って曲をイメージしてて。結果として全然違いますけどね。あと、Rex Orange Countyとか、ああいう青春な感じ。そういうものに影響を受けているかもしれないです。影響を受けつつ、違うものになっていると思うんですけど。

―「原風景」という言葉もよく使われますけど、崎山さんは、ご自身の音楽を言葉にするときに、季節感や情景を美しく語られますよね。そういったものから音楽の着想を得ることは多いですか?

崎山:多いです。時間や季節感、見えているもの、温度……そういうものに影響は受けますね。

「いろんな音楽を作りたいです。で、40歳くらいになったら出家したいんですよね(笑)」

―最初にも言ったように、今回のアルバムはすごく変化作であり実験作という認識なんですけど、今回のタイミングで、前作『並む踊り』で辿り着いた場所からより発展させていく道も崎山さんにはあったんじゃないかと思うんです。でも、今作はどちらかというと『並む踊り』とは別の軸で作ってみたっていう作品ですよね。

崎山:うん、うん、そうですね。

崎山蒼志“感丘 (with 長谷川白紙)”を聴く(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く) / 関連記事:崎山蒼志と長谷川白紙のメール問答 交感する戯れのような言葉たち(記事を読む

―今後、『並む踊り』の先にあるものを作りたいという気持ちは、今の崎山さんにはどれくらいありますか?

崎山:次ももっと内省的な作品を作りたい気持ちもあります。自分をもっと突き詰めて、研ぎ澄ませていきたい。『いつかみた国』とか『並む踊り』は「やっぱり、こういうのが僕だな」って部分もありますし。今作『find fuse in youth』の要素も含めて、いつか統一感のある一番いいアルバムを作れたらなと思っていますね。

―他に、この先やってみたいことはありますか?

崎山:バンドをやりたいって気持ちはやっぱりあって。でも、ヒップホップクルーみたいなこともやりたいし、トラックも作りたい。もちろん、自分の内面に向き合った、穏やかで統一感のあるアルバムも作りたい。お名前を挙げるのも恐縮ですけど、ブレイク・ミルズやローラ・マーリングのような作品を作りたいっていう気持ちもあります。

そういう、この先やりたいことの片鱗は、このアルバムに散りばめることができたのかなって思うんですけどね。いろんな音楽を作りたいです。で、40歳くらいになったら出家したいんですよね(笑)。臨済宗で、禅をやりたいなって気持ちがあって。

崎山蒼志が仏教に心を惹かれる理由と、2020年を経て一層強まる自然回帰的な欲求

―禅ですか。

崎山:NHKの『こころの時代』(正式名称は『こころの時代~宗教・人生~』)という番組があるんですけど、そこで、岐阜県の正眼寺というお寺の住職の山川宗玄さんのインタビューを見て、すごく感銘を受けちゃって。もともと仏教に興味があったんですけど、そのインタビューを見ていると、「禅を組んだときは自分もいなくなって、宇宙に解き放たれたような気持ちになる」というようなことをおっしゃっていたり、一つひとつのお話が魅力的だったんです。

禅って、実際にやったことがないので何とも言えないですし、学ぼうと思ったら相当厳しいでしょうし不安なんですけど、でも禅を学びたい。正眼短期大学(岐阜県にある「禅・人間学科」のある短大)に入学したいとすら思います(笑)。

―崎山さんが仏教に興味があるというのは、すごく興味深いです。僕も知識不足で全然語れないですけど、禅って、視覚的なものというイメージがあります。「目を瞑った先に何を見るのか?」っていう。

崎山:そうですよね。僕もまだ勉強中なんですけど、仏教って因果論もあるし、それをすべて否定してしまうようなところもあって。「因果論、ないですよ」と「因果論、ありますよ」が同時にある感じが好きですね。何でもありなんだなって。興味深いです。

2020年12月実施の配信ライブ『オンラインの60分』の会場となった神奈川県・川崎市にある平等山法田寺より

崎山:禅もそうだし、とにかく40歳を超えるくらいの頃に、今とは違うことをやりたいって気持ちがあります。海外に行っちゃったりするのもいいなと思いますね。今思いつくのは、カナダで暮らすか、禅かって感じです。やっぱり、これも自然が大きくて、「ネイチャーに暮らしたい」って気持ちがあるんだと思います。理想なんですけど。

―なぜカナダなんですか?

崎山:カナダって、大きな湖があったり、個人的にグッとくるポイントがあって。あとMen I Trustってバンドとか、アンディ・シャウフという方とか僕の好きなアーティストが多くて。彼らの音楽にも、自然って大きい感じがして、自然に囲まれた場所に家を建てて録音しているような人に憧れるんです。これも、あくまで理想なんですけどね。

―お話を聞いていると、改めて、人間以外の「自然」というものが、やはり崎山さんの音楽にとってこの先も大きな影響源やモチーフとなっていきそうですね。

崎山:うん、そうかもしれないです。

崎山蒼志“鳥になり海を渡る”を聴く(Apple Musicはこちら

―でも今作を聴いても思うんですけど、どれだけ自然回帰的な作風を突き詰めていったとしても、崎山さんは「人間」という存在を否定しないような気がします。人類に対する嫌悪には陥らず、さっきの「生まれました。存在しています」というような、人間に対しての根源的かつ肯定的な感覚を、作品の中に刻み続けていくんだろうなって。

崎山:ああ、そうかもしれないです。やっぱり、人は好きですからね。

「僕が生まれたのは2002年なんですけど、『2002年』みたいなイメージで作りました」

―ちなみに、今作には「死」のイメージを感じさせる歌詞も随所に出てきたような気がしたのですが、そういうものは、今作に刻まれているといえますか?

崎山:それは、ありますね。たとえば“Repeat”は、因果論みたいなものをイメージして書いた曲で。この曲を書いたのは去年の4月だったんですけど、その頃に、有名な方がコロナの影響で何人か亡くなってしまったり、ヨーロッパでも有名な方が亡くなったっていうニュースを見たりして、人と人の出会いとか、愛とか……そういうことを考えていくうちに、<また会えるから>って言葉も出てきて、曲になりましたね。宇宙が終わっても、また宇宙が始まっていくようなイメージというか……。

崎山蒼志“Repeat”を聴く(Apple Musicはこちら

崎山:そう考えると、ちょっと怖い曲なんですよね。「今日は何回目だろうね?」みたいな。2021年1月16日(この取材が行われた日)も、覚えていないけど、本当は何回かあって……みたいな。そういうテーマの曲です。別に、心から自分がそう思っているわけではないんですけど。あと、音楽的には、僕が生まれたのは2002年なんですけど、「2002年」みたいなイメージで作りました。今っぽいものでは全然ないというか。

―面白い。“Repeat”もそうですけど、僕、今作の中で崎山さんの作った打ち込みの楽曲を聴いたときに、七尾旅人さんの『ヘヴンリィ・パンク:アダージョ』という2002年にリリースされたアルバムを思い出していたんです。

崎山:ああ、『ヘヴンリィ・パンク:アダージョ』からサウンドのイメージは、無意識的にですけど、あると思いますね。

―2002年は崎山さんが生まれた年なんですよね。自分が生まれた時代の音楽をイメージして作品を作ろうとするというのは、すごく不思議な現象ですよね。

崎山:そうなんですよね。NUMBER GIRLとかもそうですけど、2000年くらいの頃の音楽は好きになることが多かったです。自分は意識もなかった頃ですけど、あの頃の時代の空気が好きというか、目がいきがちなんですよね。2000年くらいの頃って文化も空気もすごく独特だと思います。なので、イメージしてしまうというか。

崎山蒼志“花火”を聴く(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く

仏教に心を惹かれ、人類の足跡に触れた崎山蒼志が今、手を伸ばす先

―漠然とした質問ですけど、自分が生まれてから20年弱の時間について考えたり、あるいは『サピエンス全史』のような本を通して、人類の歴史をもっと遡って考えたときに、人間って、よくなっていると思いますか?

崎山:たぶん、地球からしたらよくないですよね。自然とか、お猿さんとか、人間以外の生態系にとってはよくないことをしてしまっていると思います。でも、人と人とのつながりは本当に本当に、いいものだと思うし……。

『サピエンス全史』を読んで、「人間って酷いよなあ」っていう気持ちにもなるんですけど、上巻を読み終えたときに不思議とストンって腑に落ちる感じで。別に、人間も悪いことをしようと思ってやっているわけじゃないし、こう「なってしまった」というか。動物を家畜化してきたことも、悪いことをしようと思ってやってきたことではないんですよね。『サピエンス全史』的には、人は頭がよくて、宗教や通貨のような虚構を共有し合ったから、そういうことになったって感じなんですけど。

―音楽は虚構にあてはまりますかね?

崎山:音楽はフィジカルなものだと思います。信仰もフィジカルなのかもしれないけど……。でも、お猿さんとか、人間以外の生き物も、音楽には反応するかもしれないじゃないですか。それなら、音楽は虚構ではないと思います。

―『サピエンス全史』のお話とか、禅のお話とか、崎山さんが求めているものが徐々に言語化されていく感じが刺激的な取材でした。最後にまた漠然とした質問ですけど、崎山さんがそういったものに興味を持ったり、調べたりしようとするのは、何を求めてのことなんでしょうね?

崎山:ああ……簡略的な言い方になってしまいますけど、「答え」を探したくてって感じはありますね。どうやって生きていけばいいのか、自分の存在のこととか、「ここ」がどこで、「あれ」がなんなのか……そういうことを知りたい。そういうところが、自分にはあるんだと思います。

崎山蒼志『find fuse in youth』を聴く(Apple Musicはこちら

リリース情報
崎山蒼志
『find fuse in youth』LIMITED EDITION(CD+DVD)

2021年1月27日(水)発売
価格:5,500円(税込)
SRCL-11653/4
※紙ジャケット仕様、20ページ詩集型ブックレット付属

[CD]
1. Undulation (album ver.)
2. Heaven
3. 鳥になり海を渡る
4. 花火
5. そのままどこか
6. waterfall in me
7. 目を閉じて、失せるから。
8. Samidare
9. 回転
10. 観察 (interlude)
11. ただいまと言えば
12. Repeat
13. find fuse in youth

[DVD]
・“Samidare”MUSIC VIDEO
・“Heaven”MUSIC VIDEO
・“Undulation”MUSIC VIDEO
・「“五月雨” THE FIRST TAKE」
・「“夏至” THE FIRST TAKE」
・「“踊り” Live at 2019.11.10 Kanda Myojin Hall」
・「“柔らかな心地” Live at 2019.11.10 Kanda Myojin Hall」
・「“むげん・” Live at 2019.11.10 Kanda Myojin Hall(Guest act:長谷川白紙、諭吉佳作/men)」

崎山蒼志
『find fuse in youth』NORMAL EDITION(CD)

2021年1月27日(水)発売
価格:3,300円(税込)
SRCL-11655

1. Undulation (album ver.)
2. Heaven
3. 鳥になり海を渡る
4. 花火
5. そのままどこか
6. waterfall in me
7. 目を閉じて、失せるから。
8. Samidare
9. 回転
10. 観察 (interlude)
11. ただいまと言えば
12. Repeat
13. find fuse in youth

イベント情報
『崎山蒼志 TOUR 2021「find fuse in you(th)」』

2021年2月23日(火・祝)全2公演
会場:愛知県 名古屋CLUB QUATTRO

2021年2月27日(土)全2公演
会場:大阪府 心斎橋 BIGCAT

2021年3月21日(日)全2公演
会場:東京都 恵比寿 LIQUIDROOM

料金:各公演前売3,500円(ドリンク代)

プロフィール
崎山蒼志
崎山蒼志 (さきやま そうし)

2002年生まれ静岡県浜松市在住。2018年5月インターネット番組の出演をきっかけに世に知られることになる。現在、テレビドラマや映画主題歌、CM楽曲などを手がけるだけではなく、独自の言語表現で文芸界からも注目を浴びている。また『FUJI ROCK FESTIVAL』『SUMMER SONIC』『RISING SUN ROCK FESTIVAL』など、大型フェスからのオファーも多い。2018年7月、“夏至”と“五月雨”を配信リリース、12月5日には1stアルバム『いつかみた国』を発表した。合わせて地元浜松からスタートする全国5公演の単独ツアーも発表し、即日全公演完売となった。2019年5月には自身初となるホール公演『とおとうみの国』を浜松市浜北文化センター大ホールで実施、10月に2ndアルバム『並む踊り』を発売し全国10公演のリリースツアー『並む踊りたち』を開催。2021年1月27日にアルバム『find fuse in youth』でメジャーデビュー。2月からは東名阪の3箇所で行われるツアー『崎山蒼志 TOUR 2021「find fuse in you(th)』」が開催予定。



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