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地域雑誌『谷中・根津・千駄木』インタビュー

地域雑誌『谷中・根津・千駄木』インタビュー

インタビュー・構成
松本香織
2008/08/01

1984年、東京の下町に住む20代後半の主婦たちが季刊の地域雑誌を創刊した。それがミニコミの金字塔として名高い地域雑誌『谷中・根津・千駄木』だ。創刊時からのスタッフである仰木ひろみさん、山崎範子さん、森まゆみさんらは、古くから土地に住む人を訪ねて町の歴史を書き起こし、誌面を通じて多くの人にその魅力を伝え、町をめぐる数多くの運動にかかわった。同誌が扱うエリアは、その誌名からいつしか「谷根千(やねせん)」と呼ばれるようになっていく。このような功績を持つ同誌が、2009年春号をもって幕を閉じる。なぜ終刊を決めたのか。スタッフの仰木ひろみさんに話を聞いた。

『谷根千』を作りながら、家庭のこともやっていたから、ぐちゃぐちゃ。でも楽しかった。

―そもそも、どのような動機から地域雑誌『谷中・根津・千駄木』(以下『谷根千』)を創刊したのですか?

仰木:谷中・根津・千駄木あたりの歴史って、何も書き残されていなかったんですね。学校の周年行事で作るような記念誌には、その学校の歴史しか書かれていないんです。自分たちが子どもを育てている町なのに、「この町、どんな町なの?」と思っても、「今」があるだけでしょう? それでは面白くないから、みんなの代わりに「団子坂には、なぜ団子という名前がついているの?」といった疑問を長く住んでいる人に聞きに行って、それを雑誌にした、そんな感じだと思うんです。

地域雑誌『谷中・根津・千駄木』インタビュー

古い方からお話を伺うと、やっぱり町の様子が見えてくるんです。最初のころ取材に行った材木屋さんのおばあちゃんは、あの当時95歳くらいだったかな、明治25年生まれなんですけど、「昔は新宿の山から木を伐りだしていてね」「初めてガス灯がついたときは、みんな『明るいね』って言ったのよ」なんて話してくれました。その方は100歳すぎて亡くなったんですが、最後に住んだのは、外から電話をかけるとお湯が沸くというマンションだったんですって。時の流れはすごいな、と思ってね。生きている人から少し前のことを聞くだけでも、こんなに面白い。50年前どんな店があったか、電車が通っていたときはどんなだったか。それを知っている人に聞いて書き留めておくことが、自分たちのやりたいことだったんです。

―それが結果として町を活性化することにつながりましたね。

仰木:『谷根千』を読んでみんなが「町っておもしろいかも」と思い始めたのは確かですが、私たちには町おこしをする気はまったくありませんでした。今では町を何とかしてほしい人が駆け込んでくるような場所になって、反対運動も一緒にやっているし、「町づくり団体」みたいに言われていますけど、きっとそういう方面で核になる人たちが、今までいなかったんでしょう。町会組織は、「町をこういうふうにしていきたい」という相談に乗る場所でもなかったのかな、と思うし。私たちも相談には乗れないけど、それを書き起こしてみんなに読んでもらうことはできる。不忍池の地下駐車場問題や富士見坂から見える景観の問題、そういう大きな問題はできるだけ書いて、みんなに知らせるようにして。別にこの地域にこだわっていなかったら、もっと一般的なことをやってもいいわけだけれども、どうして私たちが「地域」にこだわるのか、今はそれを考えないといけないな、と思っています。

―仰木さんを含む創刊メンバーはみんな主婦ですが、家庭との両立はたいへんだったのでは?

仰木:そうですね。私はこの仕事を始めてから3人子どもを産んだんですけど、スタッフの子ども10人のうち2人が病気になって、隔離病棟に入院……ということもあったんですよ。その隣の部屋で「私たち、何やっているのかしらね」と言いながら仕事して。今は私たちも「谷根千工房」という有限会社になっていますけど、広報や人事のような部署に分かれているわけではないですから、原稿の小さな直しも、雑誌の配達も、お客さんの応対も、すべてをローテーションでやらなければいけない。その間に保護者会に行ったり、病気の子どもを迎えに行ったり、予防注射を受けさせたりといった用事も入っていたから、ぐちゃぐちゃでした。でもきっと、楽しかったからやってきたんでしょう。

―昔3人、今は1人増えて4人と、谷根千工房は少人数ですよね。一人ひとりの負荷が高そうに見えます。

仰木:昔は徹夜をよくしましたね。今はもうあんまり続かないし、夜に仕事してもいいことはないから、あまりしませんけど、昔はそれが楽しかったんです。保育園から子どもを連れ帰って、ご飯を食べさせてお風呂に入れて寝かせたら、また事務所へ。それで中島みゆきやテレサ・テンのカセットテープをかけながら仕事をしていました。電話がかかってこないので、はかどるんですよね。

―1984年の創刊当時と今では、雑誌の作り方もずいぶん変わったのではないですか?

仰木:『谷根千』を始めたころは原稿用紙に書いた字を写植の人に打ってもらって、それを確認して直してもらってから台紙に貼り、お化粧と称して絵を描いて印刷屋さんに持っていく……という感じ。電算写植の時代になると、ワープロで打った原稿をフロッピーに入れて持っていく。今はメールでいってしまうでしょう? それがラクな半面、最初から活字っぽくなっていると、何となく素通りしてしまったりして、「疑う」ということをしなくなる。昔は広告なんて、全部手で貼っていたんですよ。そういうことをしなくてよくなった半面、おままごとというか、砂いじりみたいな楽しみがなくなったのかな、なんて。

―写植で打った間違いを手書きで直したり、引き出し線を入れて説明を加えたりというのは、『谷根千』独特の見せ方でしたよね。

仰木:それはケガの功名なんです(笑)。本当はいけないと自分たちは思っていたけれど、最後に分かったことを、どうしても書かずにはいられなくて。ふつうはそういうことをしないから、その手書きの部分にみんなの目が引き寄せられて、おもしろがってくれていたというか……。でも、自分たちで絵や罫を加えたりするのは、すごく楽しみな作業でもありました。

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書籍情報

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プロフィール

仰木ひろみ(おおぎ ひろみ)

1956年東京都文京区生まれ。1984年より友人3人と地域雑誌『谷中・根津・千駄木』を創刊。サントリー地域文化賞、NTTタウン誌大賞などを受賞。旧東京音楽学校奏楽堂のパイプオルガン復元、東京駅・上野駅の保存、不忍池の地下駐車場問題などにも参加。現在は、「NPO法人文京歴史的建物の活用を考える会」で千駄木「旧安田楠雄邸庭園」公開のための活動を行っている。

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