特集 PR

映画『空気人形』是枝裕和監督インタビュー

映画『空気人形』是枝裕和監督インタビュー

インタビュー・テキスト
杉浦太一
撮影:小林宏彰
2009/09/18

街中を歩くと、無数の人とすれ違う。その中で、その人にはその人の幸せや悩みがあって・・・なんていちいち考えてたら、その途方もない情報量の多さに、たちまち都会から逃げ出したくなってしまう……。それでも、孤独な一人ひとりが実は誰かと深くつながっていて、そのつながりで自分の命が生かされているという実感ができたら、なんて幸せなことだろう。

『誰も知らない』でカンヌ国際映画祭で最優秀男優賞を受賞し、名実ともに国民的映画監督となった是枝裕和監督が挑んだ新作『空気人形』。同映画祭の「ある視点」部門に出品された本作は、ある男の性欲の対象として使われていた「人形」に生命が宿った時に生まれた物語だ。甘く切ないファンタジーでありながらも、今を生きるぼくたちに深い問いを投げかける名作となっている。劇場公開を直前に控えた是枝監督に、作品についての想いを伺った。

※一部ネタバレが含まれますのでご注意ください

息を吹き込むっていうところが一番コミュニケーションになっていて、だからエロいんです。

―『空気人形』、素晴らしい作品でした。この作品は監督の中でも長年あたためていらしたそうですが、制作に至った経緯を教えてください。

是枝監督(以下、是枝):この作品の原作となった20ページほどの短篇マンガがあって、それを読んだ時に、いつか映画にしたいな、って思ったんです。空気でふくらませたビニールの人形に生命が宿って、その女性がビデオ屋で働いている途中、釘に身体をひっかけて人形の「皮」に穴が空いてしまうんですね。それを店員の男の子が見つけて、空気人形であったことに驚きながらも「大変だ!」と空気を吹き込んでいく。そのシーンがものすごくエロティックで、これは面白い作品がつくれるんじゃないかと思いました。

映画『空気人形』是枝裕和監督インタビュー

―たしかにあのシーンは、実際に行為をしているわけではないのに、他のどのセックスシーンよりも、エロティックでした。他人の息を吹き込まれて生きる、というところに表面的なエロさではなく、もっと深いエロさがあったというか……。

是枝:あそこが一番エロくないとダメな映画なんです。それまでのヒデオ(板尾創路)とのセックスシーンは、ヒデオだけのもので、自己完結している。息を吹き込むっていうところが一番コミュニケーションになっていて、だからエロいんです。

―なるほど。その「コミュニケーション」というキーワードが、この映画の中でも大きなものとして描かれていたように思います。

映画『空気人形』是枝裕和監督インタビュー

是枝:空気人形の彼女が人間になっていく過程で、他人の息で生きていくようになる。それまでは自分でポンプを使って空気を入れていたのに、他人に息を吹き込まれることで満たされていくっていうのが、とても大きな体験だったわけです。他人によって満たされる人形と、他者を必要としなくなっている人間(空気人形と暮らす男性・ヒデオ)を、対比的に描けるといいなと思いました。

―その延命するため(空気を入れるため)のポンプを自分で捨てた後の彼女の表情が、とても豊かだったのも印象的でした。

是枝:彼女にしてみれば、ポンプを捨てないということは、永遠が保証されてしまって、同じことが何度も繰り返されるということなんですよね。ポンプを捨てたことで全てのことが1回限りの体験になるから、実はそのことがすごく楽しいわけですよ。全てのものは初めてであり、最後である。それって素敵なことだと思うんです。

Page 1
  • 1
  • 2
次へ

イベント情報

『空気人形』

9月26日(土)よりシネマライズ、新宿バルト9,他、全国順次ロードショー
出演:
ペ・ドゥナ
ARATA
板尾創路
オダギリジョー
ほか

プロフィール

是枝裕和

1962年、東京生まれ。87年に早稲田大学第一文学部文芸学科卒業後、テレビマンユニオンに参加。主にドキュメンタリー番組を演出し、現在に至る。95年、初監督した映画『幻の光』が第52回ヴェネツィア国際映画祭で金のオゼッラ賞等を受賞。2作目の『ワンダフルライフ』(98)は、各国で高い評価を受け、世界30ヶ国、全米200館での公開と、日本のインディペンデント映画としては異例のヒットとなった。04年、監督4作目の『誰も知らない』がカンヌ国際映画祭にて映画祭史上最年少の最優秀男優賞(柳楽優弥)を受賞し、話題を呼ぶ。その他、時代劇に挑戦した『花よりもなほ』(06)、自身の実体験を反映させたホームドラマ『歩いても 歩いても』(08)、初のドキュメンタリー映画『大丈夫であるように−Cocco終らない旅』(08)など、精力的に活動を行なっている。

SPECIAL PR 特集

もっと見る

BACKNUMBER PR 注目のバックナンバー

もっと見る

PICKUP VIDEO 動画これだけは

『悲しみに、こんにちは』予告編

映画『悲しみに、こんにちは』予告編。両親の死によって、都会から田舎の伯父伯母のもとに引き取られることになった少女・フリダ。スペイン・カタルーニャで過ごす彼女の、きらめくようなひと夏の様子が、新鋭監督による瑞々しい感性によって描かれています。映画批評サイト「ロッテン・トマト」100%Fresh獲得も納得の一作です。(久野)

  1. 『デザインあ展』が科学未来館で開催。体験型作品も多数の会場内をレポート 1

    『デザインあ展』が科学未来館で開催。体験型作品も多数の会場内をレポート

  2. 吉岡里帆主演『健康で文化的な最低限度の生活』 生活保護描く新ドラマ 2

    吉岡里帆主演『健康で文化的な最低限度の生活』 生活保護描く新ドラマ

  3. ドラマ『恋のツキ』に安藤政信&欅坂46・今泉佑唯が出演 恋物語をかき乱す 3

    ドラマ『恋のツキ』に安藤政信&欅坂46・今泉佑唯が出演 恋物語をかき乱す

  4. ケンドリック・ラマーの黒塗り広告が突如、霞ヶ関駅&国会議事堂前駅に出現 4

    ケンドリック・ラマーの黒塗り広告が突如、霞ヶ関駅&国会議事堂前駅に出現

  5. 夏帆「ドッキドキ」 TOWA TEI「SRATM」新曲“ダキタイム”PVに出演 5

    夏帆「ドッキドキ」 TOWA TEI「SRATM」新曲“ダキタイム”PVに出演

  6. SNSでイラストの支持を集めた雪下まゆが語る、作風への葛藤 6

    SNSでイラストの支持を集めた雪下まゆが語る、作風への葛藤

  7. アニメキャラ100の名言が新宿地下を占拠 『Netflix “アニ名言”ジャック』 7

    アニメキャラ100の名言が新宿地下を占拠 『Netflix “アニ名言”ジャック』

  8. 『華氏451度』『一九八四年』などSF作がTシャツに 早川書房×トーハン企画 8

    『華氏451度』『一九八四年』などSF作がTシャツに 早川書房×トーハン企画

  9. 細田守が語る、映画『未来のミライ』で描きたかった現代の家族像 9

    細田守が語る、映画『未来のミライ』で描きたかった現代の家族像