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伝統と蔑視の狭間で生きるアート 誰も知らない本当のフラメンコ

伝統と蔑視の狭間で生きるアート 誰も知らない本当のフラメンコ

インタビュー・テキスト
萩原雄太
2013/09/17

「フラメンコ」と聞いて、あなたは何を思い浮かべるだろうか? 『カルメン』のような真っ赤なドレスとメランコリックなギター? もしくはカルチャースクールで行われる中高年向けのフラメンコ教室? そんな、日本人にとってベタベタすぎる「フラメンコ観」を覆すかもしれないイベントが新宿文化センターで10月に開催される『flamenco festival in Tokyo』だ。

世界的な振付家・ピナ・バウシュは熱心にフラメンコの公演に足を運び、イギリスのロックバンド・Museのマシュー・ベラミーはかつてスペインでフラメンコギターを学んでいた。チック・コリアはフラメンコギタリストのパコ・デ・ルシアとの共演を果たしており、ビョークもフラメンコ系ギタリストとのコラボを行っている。世界中のさまざまなクリエイターをも魅了するフラメンコの世界。本場スペインの最先端で活躍するフラメンコダンサーやカンパニーが日本に結集するこのフェスティバルを見れば、フラメンコが民俗舞踊としてだけではなく、コンテンポラリーアートとしての可能性と実力を秘めていることに気がつくだろう。フラメンコ発祥の地であるスペイン・アンダルシアに在住のフラメンコジャーナリスト、志風恭子さんに、アートとしてのフラメンコの魅力を尋ねてみた。

[メイン画像]ベレン・マジャ『Trasmin』より ©Antonio Varonkov

トランスナショナルなアンダルシアの文化に、ジプシーの影響が加わって成立したフラメンコ

現在ではスペインを代表する文化と言われるフラメンコだが、その歴史は意外に古いものではない。今からおよそ200年前、18世紀末にアンダルシア地方で発祥したといわれるフラメンコ。まず、この発祥から振り返ろう。

スペインの最南端に位置するアンダルシア地方は、地中海を挟んでアフリカ大陸と向かい合った場所にある。長い間、南北アメリカ大陸との交通の拠点となってきたこと、8世紀から15世紀にかけて、およそ800年あまりにわたってイスラム王朝による支配が行われてきたことなどが背景となって、ヨーロッパでありながら、さまざまな文化が入り混じる独特の土地だ。このトランスナショナルなアンダルシアの文化に、移動型民族のロマ人(ジプシー)たちの影響が加わって成立したとされるのがフラメンコだ。

とは言っても、もともと大衆芸能として発祥したことから、その起源について定かではなく、当時の文献もほとんど残されていない。しかし、近年の研究結果から18世紀当時にアンダルシア地方で流行していたポピュラーミュージックと、ロマ人のカルチャーが融合してフラメンコが生まれたという説が有力になっている。フラメンコジャーナリストであり、スペインの大学でフラメンコ研究にも勤しんでいる志風さんはこう解説する。

志風:フラメンコの始まりにはさまざまな説がありますが、私が最も信頼しているのはお祭りで楽しむために参加者が順番で歌い踊り始めたという説です。今でも、ジプシーの結婚式や洗礼式などでは、そのようにみんなでフラメンコを楽しむ習慣が残っています。

『flamenco festival in Tokyo』フライヤービジュアル写真 ©Flamenco Festival
『flamenco festival in Tokyo』
フライヤービジュアル写真 ©Flamenco Festival

こうして生まれたフラメンコは19世紀には酒場やカフェなどで上演される芸能として進化していき、20世紀に入ると劇場での公演も一般化。徐々にスペインを代表する芸能としての地位を築いていった。しかし、当のスペイン人にとっては、フラメンコをスペインの代名詞と認めたがらない人もいるようだ。


志風:スペイン人の中には「フラメンコはロマ人のもの」という意識の人も多いんです。また、「フラメンコだけではなく、スペインではオペラもバレエもある」と反発したがる人もいます。日本人にとっての「フジヤマゲイシャ」のようなものでしょうか。

『flamenco festival in Tokyo』に出演予定のベレン・マジャ ©Luis Castilla
『flamenco festival in Tokyo』に出演予定の
ベレン・マジャ ©Luis Castilla

一口にスペインといっても、フラメンコがポピュラーなのはアンダルシア地方を中心とする南スペインの地域。特にバルセロナなどの北部地域に暮らすスペイン人には、上記のような反感を抱く者も少なからずいるようだ。しかし、そうはいっても世界中に輸出され、スペインの文化を発信するとともに、多額の外貨を稼ぎ出すフラメンコは、スペインという国にとっても大きな存在。国賓がスペインにやってきた際にはフラメンコ鑑賞会の場が設けられることもあるように、フラメンコがスペインという国と不可分なものであることに変わりはない。


志風:スペインにおける闘牛が、日本にとっての相撲のようなものだと考えると、フラメンコは日本における歌舞伎に近いのかもしれません。コアなファンがいるというところも似ていると思います。ただし、歌舞伎には今でこそ伝統芸能としての権威がありますが、フラメンコは権威とは離れている。もっと大衆に近い身近な存在ですね。

伝統ある芸能ではあるが、あくまでも大衆的な娯楽。そのような位置付けでフラメンコはスペイン人に愛されている。

志風:また、フラメンコは古い演目をレパートリーとしてずっと上演することはありません。今上演されているものでも、最も古い舞台作品は1970年代ごろに生まれたもの。さまざまなダンサーが新作を生み出し、フラメンコという文化の可能性を広げているんです。

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イベント情報

『flamenco festival in Tokyo』

2013年10月12日(土)〜10月14日(月・祝)
会場:東京都 新宿文化センター 大ホール

べレン・マジャ&マヌエル・リニャン
『Trasmin トラスミン』
2013年10月12日(土)14:00開演

イスラエル・ガルバン
『La Edad De Oro 黄金時代』
2013年10月13日(日)14:00開演

ロシオ・モリーナ舞踊団
『Danzaora ダンサオーラ』
2013年10月14日(月・祝)14:00開演

料金:
各公演 S席10,000円 A席8,500円 3演目セット券(S席)28,000円
※3演目セット券は、チケットスペースにて電話予約のみ取扱い

プロフィール

志風恭子(しかぜ きょうこ)

1986年アントニオ・ガデスでフラメンコと出会い、87年よりスペイン在住。フラメンコ専門紙『パセオ・フラメンコ』通信員をつとめ、CD解説、公演プログラム、旅行ガイド等に執筆。通訳としても多くの来日公演にも携わる。また日本人フラメンコ・アーティストのスペイン公演をプロデュース。セビージャ大学大学院フラメンコ学修士。

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