芸術、自然、食。日本を代表する国際演劇都市・静岡の楽しみ方

東京から東海道新幹線でおよそ1時間。世界遺産・富士山にも近い静岡市は、日本を代表する演劇の街。世界的演出家・宮城聰が芸術総監督を務める静岡県舞台芸術センター(以下SPAC)による活動のほか、毎年4月下旬〜5月上旬には『ふじのくに⇄せかい演劇祭』『ストレンジシード静岡』など、さまざまな芸術関連イベントが開催されています。

今回はそんな5月上旬の静岡を訪れ、芸術祭をとおして見えてきたローカルな街の魅力を紹介。芸術、自然、食、生活が絶妙なバランスで成り立った静岡の街、そして人々は、たった一度の訪問だけでは味わい尽くせないくらい、ディープな魅力が見え隠れするものでした。

※本記事は『HereNow』にて過去に掲載された記事です。

セントラルパーク『駿府城公園』で、世界レベルの野外劇にふれる

静岡市は、人口68万人のほどの温暖な気候と豊かな自然に恵まれた都市。中心部には歴史・文化を感じる町並みが広がり、ローカルの食材を使った飲食店、古着屋や雑貨屋など、落ち着いた雰囲気を感じるお店が並びます。

静岡駅から徒歩で約10分、お城の跡地につくられた『駿府城公園』は、静岡市民にとってのセントラルパークであり憩いの場所。城門や石垣などが残る18.09haの広い敷地内には、芝生や広場のほか日本庭園などもあり、年中をとおしてさまざまイベントが開催されています。

そして毎年4月下旬から5月上旬にかけて、この公園は『ふじのくに⇄せかい演劇祭』のメイン会場、そして関連プログラムである『ストレンジシード静岡』の一ステージに変わります。

『ふじのくに⇄せかい演劇祭』とは、世界的演出家・宮城聰が芸術総監督を務めるSPAC-静岡県舞台芸術センター(以下SPAC)が主催する演劇祭。

毎年、世界中の超一流から気鋭の若手まで、さまざまな演出家、劇団の作品を招聘し、約2週間にわたって上演するのが特徴です(2021年は、コロナウイルスの影響により日本国内の作品のみで実施)。

『ふじのくに⇄せかい演劇祭』のメイン会場である『駿府城公園』では、毎年の開催にあわせて、特設の野外劇場がつくられます。2021年は、公園内に水を張った巨大ステージがつくられ、芸術総監督・宮城聰によるギリシャ悲劇『アンティゴネ』が上演されていました。

『ふじのくに⇄せかい演劇祭』、そしてSPACの芸術総監督を務める宮城聰の作品は、世界最高峰の演劇祭『アヴィニヨン演劇祭』に何度も招聘されており、『アンティゴネ』は、その演劇祭の2017年のオープニングを飾りました。その後ニューヨークでも上演され、米国版『TIME』誌が選ぶ2019年の演劇公演ベストテン第6位にも選出されています

古典の戯曲を、ポリリズムを多用したパーカッシブな音楽劇として生まれ変わらせる宮城の舞台。彼の手にかかれば、2500年前のギリシャ悲劇は、現代的なスペクタクルに変身します。水を張り巡らせた舞台の上で、水しぶきを上げながら熱演をする俳優たち。公園に生い茂る樹木を借景に利用した舞台美術。その世界に圧倒された観客は、100分の舞台が終わると惜しみない拍手を送っていました。

また『ストレンジシード静岡』は、日本全国から集った、演劇、ダンス、メディアアートといったさまざまなジャンルのアーティストたちが、静岡市内の街なかでパフォーマンスを披露するプログラム。

駿府城公園では、食器や調理器具などの日用品を使ったオリジナル楽器を演奏するユニット「kajii」が、子どもたちが集まる芝生広場でパフォーマンス。普段見慣れた日用品による不思議な音楽に、子どもたちは目を丸くしながら、歓声をあげていました。

そんな珍しいロケーションでのパフォーマンスに、公園を管理する清掃員の方々も、落ち葉をかき集めながら気になっている様子……。あれ、でもちょっと様子が変!? じつは、彼らもパフォーマーの一員なのです。

現代美術作家の村上慧さんによる作品『清掃員たち』は、市民が清掃員のコスプレをしながら、実際にゴミを拾ったり、銅像を掃除したりというパフォーマンス。

気づかなければうっかり通り過ぎてしまいますが、一度気づいてしまうと、その「おかしさ」が気になってしかたない。油断していると、いつの間にかパフォーマンスに巻き込まれてしまっている。まさに「ストレンジ」なプログラムが、『ストレンジシード静岡』では繰り広げられています。

街と旅人をつなげる、泊まれるレトロな純喫茶『ヒトヤ堂』

じつは『ヒトヤ堂』は、ゲストハウスも併設した、日本でも珍しい「泊まれる純喫茶」。

バックパッカーとして世界各国のゲストハウスを訪ね歩いた共同オーナーの一人、村松佐友紀さんが、地元静岡にも旅人とローカルの人々が交流できるゲストハウスをつくりたいと考え、2018年に友人たちとオープンしました。

「ぽっぽ、ぽっぽ」

かわいらしい声で鳴くレトロな鳩時計と、コーヒーの優しい香りが出迎えてくれるこのお店。アンティークの家具、年代物のタイプライター、ベトナムでつくられたかわいらしい人形など、センスの良い品々が並ぶ店内はリラックスできる心地良い雰囲気。

共同オーナーの一人、村松さんが、サイフォンコーヒーを淹れなからお話をしてくれました。

村松:ゲストハウスをつくろうと決めたとき、旅行者だけが集う施設にはしたくなくて。地元の人々も出入りしていて、旅行者と自然に混じり合うような、そんな「場」のイメージが明確にあったんです。

そこでたまたま見つけたこの物件が、もともと古い喫茶店だったこともあり、1Fの喫茶店を残したまま、2Fでゲストハウスをやろうと決めました。

1Fの喫茶店の奥のスペースが、ゲストハウスのロビーになっており、宿泊者は、1階の喫茶店を通って、上の階にあるゲストルームへと向かう。街と地続きの雰囲気で宿泊することができるんです。

静岡にある富士山静岡空港には、台湾や韓国、中国の各都市を結ぶ国際線が発着陸しており、コロナ以前には、『ヒトヤ堂』にも多くの外国人旅行客が宿泊していました。コーヒーやスイーツを楽しむローカルの人々と、海外からの旅行者が混ざり合う、「のりしろ」のような場所となりました。

村松:特に、台湾、韓国などの近隣諸国からのお客さまは、日本に何度も来られている方が多いですね。東京や京都などの有名な都市にはすでに足を運んでおり、日本のローカルな街を旅したいというニーズから静岡を選ばれているようです。静岡には富士山もあるし、海の幸や山の幸にも恵まれている。静岡のグルメを楽しむために、週末にふらっと海外から遊びに来る方も多いんですよ。

『ヒトヤ堂』では、レンタサイクルも提供しています。静岡の街の雰囲気を肌で感じながら、市内各所で行われる演劇祭を楽しむために、ぜひ予約をおすすめします。

街中のありとあらゆる場所でパフォーマンスが

『ふじのくに⇄せかい演劇祭』の開催期間中、関連プログラムである『ストレンジシード静岡』のパフォーマンスは、『駿府城公園』だけでなく、市街地のさまざまな場所で行われています。

ふだんはお固いイメージの静岡市役所も、この時期だけはパフォーミングアーツの舞台に早変わり。ある日曜日の午後には、市役所前の大階段を観客席に見立て、ベテランメディアアーティストの明和電機が、自作の楽器を使ったパフォーマンスを繰り広げていました。

また、同じく市役所の敷地内にある鏡池の前では、東京を拠点に活動する若手劇団「ロロ」による、大きなディスプレイを使ったオンライン演劇を上演。

市役所から徒歩10分程度の静岡市民文化会館前の広場では、モデルとしても活躍するダンサー、ホナガヨウコの振付による、市民が参加したコンテンポラリーダンスを上演していました。

静岡市出身の漫画家であり、フェスティバルの参加アーティストが次々と出演する生配信YouTubeラジオ企画「ずらラジオ」のホストを務める『ふじのくに⇄せかい演劇祭』にも生配信YouTubeラジオ「ずらラジオ」のホストとして参加する、しりあがり寿さんは、静岡の演劇祭の魅力をこう語ります。

しりあがり:劇場のステージで見る演劇作品と、芝生の上や街中で見る演劇作品では、まったく雰囲気が異なりますよね。静岡の演劇祭の魅力って、世界でも最高峰の演劇作品から、親近感あふれるパフォーマンスまで、さまざまな作品が独特のロケーションで見られることなんです。休日のピクニックやショッピングのついでにパフォーミングアーツを楽しむこともできますからね。

穴場のピクニックスポット『静岡県舞台芸術公園』で茶摘み体験

静岡が日本を代表する演劇の街である理由は、街なかの演劇祭や劇場だけでなく、中心部から少し離れた『静岡県舞台芸術公園』にも隠されています。

静岡市の中心部から車でおよそ20分。太平洋に面する丘陵地・日本平の中腹に突如現れる『静岡県舞台芸術公園』は、野外劇場「有度」や、屋内ホール「楕円堂」、稽古場棟「BOXシアター」のほか、関係者のための宿泊施設なども備えた、舞台芸術関係者なら誰もが憧れる、舞台芸術のための公園。建造物の設計は、すべて世界的建築家・磯崎新が手掛けており、建築ファンも必見の建築群となっています。

この公園には、劇場で作品が上演される際に多くの観客が訪れますが、ローカルの人々にとっては、穴場のハイキング・ピクニックスポットとしても知られています。

ハイキング・ピクニックスポットとしての見どころは、なんといっても富士山を借景に広がるお茶畑。晴れた日には、日本でも有数のお茶の名産地として知られる静岡ならではの新緑の絶景が広がります。

そして『ふじのくに⇄せかい演劇祭』では、関連プログラムとして野外劇場「有度」の舞台裏ツアーとあわせて、新緑の静岡ならではのお茶摘み体験プログラムも開催。

台湾の高雄出身で、大学時代から静岡で生活を送っているというKayoさんも、今年このイベントに参加した一人でした。

Kayo:静岡には何年も暮らしていますが、お茶摘みははじめての体験でした。新緑の茶畑に囲まれて眺める富士山の景色は絶景で、リラックスした気持ちになりました。舞台芸術公園にも、街のなかにも、静岡は、いたるところに芸術と自然があふれていることを実感できます。

100年の空間で味わう地酒『大村バー』

最後に、静岡の夜を楽しむために外すことのできないローカルの名店を紹介します。

軒先の大きな赤い提灯が印象的な『大村バー』は、創業105年の老舗酒場。焼き鳥や刺身などの日本料理を低価格で提供するこのお店は、静岡の酔客なら知らない人はいない有名店。多い日には、開店前に30人あまりの行列ができることもあります。

三代目店主であり料理長でもある大村涼太さんに話を聞くと、お店のこだわりは「誰でも気軽に楽しめる」こと。

大村:うちのお店は大衆店だから、安い値段で誰もが気軽に楽しめることをモットーとしています。演劇祭のお客さんも来てくれますし、舞台の出演者・スタッフの打ち上げなどにもよく使っていただいていますよ。

日本酒ならぜひ、静岡の地酒「磯自慢」を味わってほしいです。静岡の地酒は甘くて飲みやすいのが特徴で、2008年に行われた『洞爺湖サミット』でも各国の首脳が「磯自慢」の爽やかな風味を楽しんでいましたよ。

そんなお店のなかを見回すと、「バー」の由来となっている一枚板のカウンターテーブルのほか、年季の入った振り子時計など、気になるものがたくさん。とくに目を惹くのが店内奥に突如現れる「池」です。

大村:じつは60年前にいまの建物を建築する際、当時庭にあった本物の池ごと建物内に取り込んでしまったそうなんです。いまの建築基準法では絶対にできないだろうけど、当時ならではの豪快なアイデアですね。

そんなエピソードを語りながら焼き鳥を焼く大村さん。このカウンターのなかで、彼は静岡の人々とともに語らいながら、何十年もの時間を過ごしてきたのです。

ダイナミックなパフォーミングアーツに酔い、地酒のまろやかな旨味に感動する。芸術、自然、食、を堪能した静岡の一日は、そうやって更けていきました。

駿府城公園
住所:静岡市葵区駿府城公園1-1
ウェブサイト: https://sumpu-castlepark.com/

ヒトヤ堂
営業時間:7:30~18:00(カフェ)、チェックイン15:00 チェックアウト11:00(ゲストハウス)
住所:静岡県静岡市葵区七間町16-8
ウェブサイト:https://hitoyado.com/

静岡県舞台芸術公園
住所:静岡市駿河区平沢100-1
ウェブサイト:https://spac.or.jp/about/shizuoka-performing-arts-park

大村バー
開館時間:平日16:30~22:00 日・祝日15:30~21:30
休館日:木曜
住所:静岡県静岡市葵区人宿町1-5-8
ウェブサイト:http://ohmura-bar.com/
『ふじのくに⇄せかい演劇祭 2021』
2021年4月24日(土)~5月5日(水・祝)
会場:駿府城公園、静岡県舞台芸術公園、ほか

上演作品
『野外劇 三文オペラ』(演出:ジョルジオ・バルベリオ・コルセッティ)『おちょこの傘持つメリー・ポピンズ』(演出:宮城聰)『アンティゴネ』(演出:宮城聰)『ストレンジシード静岡』(関連プログラム)


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