
「世界観」ってなんだろう? millstonesインタビュー
- インタビュー・テキスト
- 柴那典
「世界観」という言葉がある。音楽やアートなどのクリエイターの表現について語るときには、とても便利に使える言葉。「あの人の作品は世界観がいいのよね」、てな具合に。でも、実のところ「世界観」ってなんだろう? そんなことを考えるきっかけになったのが、ボーカロイドクリエイターであるmillstonesのアルバム『セカイカタログ』に触れたことだった。
これまで同人のフィールドで作品を発表し、今回リリースされるアルバムが初の全国流通盤となるmillstones。彼は1つの楽曲を作るために、その背景となる世界、そこで暮らす人々の話を、まるで一篇の短編小説を作るかのように用意するのだという。一つひとつの楽曲が物語であり、それが集まったアルバムであるから、今回の作品は「図書館」がコンセプトになっているのだという。「世界観」そのものが、表現と切り離せないほど密接に関係しているのだ。
エレクトロニカやドラムンベース、ダブステップなどを取り入れた先鋭的な音楽性を見せながら、ボカロPの中でも他になかなか類を見ない制作スタイルをとる彼。そのルーツから、クリエイターとして目指す場所まで、語ってもらった。
もともと自分の曲作りは、最初に世界観を用意するところから始まるんです。
―まず、「図書館」というコンセプトでアルバムを作るというアイデアは、どんな風に生まれてきたんでしょうか?
millstones:もともと自分の曲作りは、最初に世界観を用意するところから始まるんです。だからまず、その世界観の中で展開する物語を歌詞に落とし込むというのが前提としてあって。で、今回のアルバムは、私が同人で最初のCDを作ってから今までの全ての曲からピックアップした作品なので、まったく統一感のない世界観を1枚のCDに収める理由を作らなきゃいけなかった。なので、1曲1曲を1冊の本に見立てて、物語がたくさん集まる場所として「図書館」というコンセプトが出てきたんです。
―今回のアルバムを作るにあたってコンセプトを考えたわけではなく、そもそもmillstonesさんにとっては、曲を作るということが物語を作るということだった。
millstones:そうですね。だから、しっくりくるアルバムのコンセプトはこれしかなかったんです。
―そもそも、そういう一つひとつに世界観を作り込むような楽曲の作り方になったのはどういう理由で?
millstones:まず前提として、私はずっとインスト曲を作ってきたんです。趣味のレベルでそれをずっとやってきて、2008年頃にボーカロイドの曲を作るようになった。その時点で歌詞を書くのがまず初体験だったんですね。でも、特に言いたいことがあるわけじゃなくて。
―「そもそも歌詞って何だ?」ってことですよね。自分が歌う前提ではないし。
millstones:そうですね。ボカロを通じて何か自分の中にある言葉を発信していこうっていう気持ちはそんなになかったんですよ。
―かといってキャラクターソングでもなかった。
millstones:はい。その頃は「初音ミクが歌うための曲」があふれていたし、そのブームに私も乗ってみようと思ったんですけど、どうもしっくりこなくて。で、そういう中、2009年の5月にsasakure.UKさんが“ハロー、プラネット。”という曲を公開されまして。
―ニコ動では300万再生されている人気曲ですね。
millstones:この曲を聴いて、こういう世界観の、動画としても楽しめるし、物語としても楽しめるし、音楽としても楽しめる、そういう総合的なエンターテイメントとしてボカロを使っていくのが面白いと思いました。それで、最初に世界観を考えてから歌詞に落とし込むというやり方でやっていこうと考え始めたんです。
リリース情報

- millstones
『セカイカタログ』(CD+DVD) -
2013年9月18日発売
価格:2,800円(税込)
UMA-1024/10251. entrance 2. セカイカタログ feat. 初音ミク
3. 五月少女 feat. 初音ミク [ver1.3]
4. キップル・インダストリー feat. 初音ミク [ver1.4]
5. 計画都市 feat. 初音ミク [ver3.1]
6. 可能世界のロンド feat. 初音ミク [ver1.3]
7. 黄昏ホリック feat. GUMI [ver1.2]
8. 未来紀元歴元年 feat. GUMI [ver2.1]
9. Altered Sky feat. IA [ver1.2]
10. The Embedded Blue feat. IA [ver1.2]
11. Lounge in Blue
12. クロライドに没む feat. 初音ミク
13. カガリビト feat. 初音ミク [ver2.4]
14. バイバイ、ブラックワールド feat. 初音ミク [ver1.1]
15. exit
16. セカイカタログ feat. 初音ミク (tilt-six Good choice!! Remix)[bonus track]
[DVD]
1. 可能世界のロンド feat. 初音ミク
2. セカイカタログ feat. 初音ミク
3. クロライドに沈む feat. 初音ミクv 4. キップル・インダストリー feat. 初音ミク
プロフィール
- millstones(みるすとーんず)
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ドラムンベースからダブステップ、2ステップといったダンスミュージックベースのサウンドが持ち味ながら、時には民族音楽調の楽曲も手がけるなど幅広い音楽性を持ち合わせ、作品の世界観にあわせて巧みに組み合わせるVOCALOIDクリエイター。2010年にそれまでの活動を総括した初めての自主制作アルバム『黄昏ホリック』をリリース。2011年には「ファンタジー」をコンセプトに作り上げられたコンセプト・アルバム『バイバイ、ブラックワールド』を自主制作にてリリースし、2012年には3枚目となるアルバム『青の研究』を発表。現在は自身のアーティスト活動のほか、他アーティストとのコラボレーション、楽曲提供やリミックスをはじめ、セガ社のPSPゲーム「セブンスドラゴン2020」にて古代祐三氏のBGMアレンジに参加するなど、多岐にわたって精力的に活動中。